七
誰も最初に口を開かなかった。
スマホすら妙に協調して黙り込み、まるでグループチャットの「撤回」ボタンを押した後、現実までフリーズしたみたい。
私たち三人は、こうしてわけわかんなく集まって、誰一人「帰る」と言い出さない…。
だって、挨拶もなしに去るなんて失礼すぎるよね、たとえ現実で全然知り合いじゃなくても。
ゲームなら一緒にダンジョン潜った仲なのに、それでも…逃げ出したくてたまらない…。
こっそりスマートウォッチをチラ見したら、16:23。
時間は進むのに、私たちは動かない。
あの楽器店、20時に閉まるのに、今まだ歌舞伎町に閉じ込められてる…まさか、マジで秋葉原まで歩く気?
だから、口を開こうとした。
でも、現実にはチャット枠もなければ、チームチャンネルも、「/follow」コマンドもない。
ゲームなら私はタンク、挑発スキル全振りで、最前線でダメージを食い止めて、仲間が火力を出す隙を作る。
現実の私は?
空気そのもの、「理解不能な存在」、ソーシャル画面で灰色のID。
それでも、チームのリーダーとして、パーティの要として、覚悟を決めなきゃいけない気がして、勇気を振り絞って顔を上げた…
って、二人とも私をガン見してる!? うわ! この絶妙なシンクロ何!?
撤退すべき? 各々帰宅? アイコンタクト成功? テレパシー成立?
なのに…二人ともついてきた。
空気読めてなさすぎだろ!
§
本当は、二人を嫌いじゃない。
むしろ、この三人パーティの中で、私のコミュ障レベル、ブロンズ帯まで降格したんじゃないかって疑い始めてる。
でも、朝ご飯から今まで、私の口は「食事」以外の機能が完全にスリープモード…やっぱ私のコミュ障ランク、少なくともプラチナ帯だ。
こんなの、アンロックする価値ない実績なのに。
突然、街角から音楽が響き、沈黙をぶち破った。
右側のスロット店の脇、小さな広場に人だかりができてる。
ストリートライブだ…見たい…めっちゃ見たい…
でも、人多すぎ…人混みに突っ込む想像だけで首の後ろがゾワゾワする…。
その時、ポケットのスマホがブルッと震えた。
[青空]:これ、YourTubeでバズってるあのギタリスト!
[潮鳴り]:うそ! あの姫の名曲、『rain purple』のタッピングハーモニクス版弾いてる!
[鳥の詩]:待って…これ、彼女の新アルバムの曲じゃない?
[青空]:!
[潮鳴り]:!
[鳥の詩]:!
三台のスマホが同時に光り、画面に「!」が整列。
これが私たちの「現実の交流」モード…?
音楽が共鳴点みたいだけど、すぐにまた沈黙。さっきのメッセージ、誤爆だったみたいに気まずい。
コミュ障だって、共有したいことくらいあるよね、きっと。
§
秋葉原。
二人が自らついてきたのか、強制したつもりはないんだけど。
私が立ち止まるたび、二人とも無意識に一歩踏み出しちゃって…。
そんな感じで、なんか見えない引力に引っ張られるみたいに、電車に乗って、降りて、電気街の楽器店前に立ってた。
三人の視線がチラチラ絡み合い、三人の靴先が揃って店の方を向く…身体が理性より先に選択しちゃってる。
最初に足を止めたのは[青空]。
彼女の目は壁に掛かったKeytarにガッツリ吸い寄せられ、目を閉じて、指先が空で軽やかに踊る。まるで頭の中の旋律を虚空で奏でてるみたい。
楽器できるんだ…あの指使い…クラシック?
次は[潮鳴り]。
壁のエレキギターやベースを一瞥して首を振ったのに、コーナーのドラムセットに吸い寄せられるみたいに近づく。
ドラムスティックを持つ姿、自然すぎ。ドラム面に浮かぶ指の角度、びっくりするくらい正確。
絶対ドラマーの動き…でも、右手の人差し指のタコ…あれ、ベースの弦でできたやつだよね?
私たち三人、楽器店で妙な三角形の陣形を作っちゃった。
誰も喋らないのに、まるで何十フレーズも交換したみたいな空気。
バンド組めたらいいな…なんて、頭にポッと浮かんだけど…私の声、彼女たちの頭に届くかな。
§
店員視点:
この三人、店内に20分近く突っ立ってる…。
試奏もしない、質問もしない、ただ「立ってる」。
メガネの女はKeytarに「エア演奏」。
ショートカットの子はドラムに「エアビート」。
ギター背負ったやつに至っては…完全にコスプレ彫刻じゃん?
万引きの下見? パフォーマンスアート? それとも…新種のコミュ障団建?
店長が目で「行って話しかけろ」って圧かけてくるけど…
助けて、この空気、絶対割り込めないって!
お願い…何か買うか、さっさと出てって…。
この精神的ダメージ、時給じゃカバーしきれねえよ…。