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誰も最初に口を開かなかった。

スマホすら妙に協調して黙り込み、まるでグループチャットの「撤回」ボタンを押した後、現実までフリーズしたみたい。

私たち三人は、こうしてわけわかんなく集まって、誰一人「帰る」と言い出さない…。

だって、挨拶もなしに去るなんて失礼すぎるよね、たとえ現実で全然知り合いじゃなくても。

ゲームなら一緒にダンジョン潜った仲なのに、それでも…逃げ出したくてたまらない…。

こっそりスマートウォッチをチラ見したら、16:23。

時間は進むのに、私たちは動かない。

あの楽器店、20時に閉まるのに、今まだ歌舞伎町に閉じ込められてる…まさか、マジで秋葉原まで歩く気?

だから、口を開こうとした。

でも、現実にはチャット枠もなければ、チームチャンネルも、「/follow」コマンドもない。

ゲームなら私はタンク、挑発スキル全振りで、最前線でダメージを食い止めて、仲間が火力を出す隙を作る。

現実の私は?

空気そのもの、「理解不能な存在」、ソーシャル画面で灰色のID。

それでも、チームのリーダーとして、パーティの要として、覚悟を決めなきゃいけない気がして、勇気を振り絞って顔を上げた…

って、二人とも私をガン見してる!? うわ! この絶妙なシンクロ何!?

撤退すべき? 各々帰宅? アイコンタクト成功? テレパシー成立?

なのに…二人ともついてきた。

空気読めてなさすぎだろ!

§

本当は、二人を嫌いじゃない。

むしろ、この三人パーティの中で、私のコミュ障レベル、ブロンズ帯まで降格したんじゃないかって疑い始めてる。

でも、朝ご飯から今まで、私の口は「食事」以外の機能が完全にスリープモード…やっぱ私のコミュ障ランク、少なくともプラチナ帯だ。

こんなの、アンロックする価値ない実績なのに。

突然、街角から音楽が響き、沈黙をぶち破った。

右側のスロット店の脇、小さな広場に人だかりができてる。

ストリートライブだ…見たい…めっちゃ見たい…

でも、人多すぎ…人混みに突っ込む想像だけで首の後ろがゾワゾワする…。

その時、ポケットのスマホがブルッと震えた。

[青空]:これ、YourTubeでバズってるあのギタリスト!

[潮鳴り]:うそ! あの姫の名曲、『rain purple』のタッピングハーモニクス版弾いてる!

[鳥の詩]:待って…これ、彼女の新アルバムの曲じゃない?

[青空]:!

[潮鳴り]:!

[鳥の詩]:!

三台のスマホが同時に光り、画面に「!」が整列。

これが私たちの「現実の交流」モード…?

音楽が共鳴点みたいだけど、すぐにまた沈黙。さっきのメッセージ、誤爆だったみたいに気まずい。

コミュ障だって、共有したいことくらいあるよね、きっと。

§

秋葉原。

二人が自らついてきたのか、強制したつもりはないんだけど。

私が立ち止まるたび、二人とも無意識に一歩踏み出しちゃって…。

そんな感じで、なんか見えない引力に引っ張られるみたいに、電車に乗って、降りて、電気街の楽器店前に立ってた。

三人の視線がチラチラ絡み合い、三人の靴先が揃って店の方を向く…身体が理性より先に選択しちゃってる。

最初に足を止めたのは[青空]。

彼女の目は壁に掛かったKeytarにガッツリ吸い寄せられ、目を閉じて、指先が空で軽やかに踊る。まるで頭の中の旋律を虚空で奏でてるみたい。

楽器できるんだ…あの指使い…クラシック?

次は[潮鳴り]。

壁のエレキギターやベースを一瞥して首を振ったのに、コーナーのドラムセットに吸い寄せられるみたいに近づく。

ドラムスティックを持つ姿、自然すぎ。ドラム面に浮かぶ指の角度、びっくりするくらい正確。

絶対ドラマーの動き…でも、右手の人差し指のタコ…あれ、ベースの弦でできたやつだよね?

私たち三人、楽器店で妙な三角形の陣形を作っちゃった。

誰も喋らないのに、まるで何十フレーズも交換したみたいな空気。

バンド組めたらいいな…なんて、頭にポッと浮かんだけど…私の声、彼女たちの頭に届くかな。

§

店員視点:

この三人、店内に20分近く突っ立ってる…。

試奏もしない、質問もしない、ただ「立ってる」。

メガネの女はKeytarに「エア演奏」。

ショートカットの子はドラムに「エアビート」。

ギター背負ったやつに至っては…完全にコスプレ彫刻じゃん?

万引きの下見? パフォーマンスアート? それとも…新種のコミュ障団建?

店長が目で「行って話しかけろ」って圧かけてくるけど…

助けて、この空気、絶対割り込めないって!

お願い…何か買うか、さっさと出てって…。

この精神的ダメージ、時給じゃカバーしきれねえよ…。

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