六
交渉?そんなの、私の命を奪うようなものじゃん…。
コンビニだって深夜にしか行けないし、会計はセルフレジ一択。
デリバリーの注文はいつも「ドア前に置いて、ノックしないで」ってメモ。
「ありがとう」すらアプリで打つだけ…。
中学のあの事件以来、現実での人間との会話は完全に諦めた。
神奈川からここまでの電車、ずっとデスブラックメタルを聴きながら、隅っこに縮こまって、捨てられた荷物みたいだった。
なんでリアルで人と話さなきゃいけないの?ゲームなら全部、もっと簡単なのに…。
そう思うと、悔しさが急に込み上げ、涙がポロポロ溢れる。
「あ…また、泣いてる…?」
ゴスお姉さんが呆然とし、唇ピアスの口元がピクッと動く。
彼女がため息をつき、優しい手で私の頬を撫で、涙を拭ってくれる。
「十三子…」彼女が誉田をギロッと睨む。「この子のメンタル、これっぽっちしかないのに。今日、別に代役が必要なわけでもないでしょ?なんで子供泣かせて喜ぶの?」
ギターの音がピタッと止まる。
私の指が弦の上で固まり、誉田のピックも宙に浮く。
「はぁ…」誉田が急に髪をガシガシ掻く。「からかっただけだよ。毎日PvPばっかで退屈だったんだ…」
「なら、ギター練習しろよ。」ゴスお姉さんがベースのヘッドで彼女の腰をツン。
「やだ!」誉田が唇を尖らせる。「さっき弾いたじゃん。それに、最初から決まってたろ…」
言葉が途切れた瞬間、ゴスお姉さんがサキュバスのような笑みを浮かべる。
彼女が誉田にスッと近づき、黒いリップが照明で妖しく光る。まるで魂を奪う妖精みたい。
「ふ~ん、わかった…」彼女の吐息が誉田の耳を撫でる。「十三子、実は…」
次の瞬間、みんなの目が点になる中…
彼女が誉田の唇にガツンとキスした。
§
グループチャットが爆発。
ポケットのスマホが狂ったように震え、服に花火が詰まってるみたい。
[潮鳴り]:マジ?さっき「レズじゃない」って言ったの誰だよ!?
[潮鳴り]:今日の体験、歌舞伎町の動画みたい…。
[青空]:めっちゃ興奮した!
だって、そのキス、10秒も続いたんだから…。
離れた時、ゴスお姉さんの黒リップが誉田の口元に曖昧な跡を残し、炭のペンで殴り書きした落書きみたい。
「て…!」誉田の耳が血が滴りそうなほど赤くなり、虎牙が下唇をガリッと噛む。目がちょっとボーッとしてる。
ゴスお姉さんが舌先で唇ピアスをチロッと舐め、勝ち誇った悪魔の笑み。
「もう何年も知り合いなのに…」
彼女が誉田の熱い耳たぶをツンッと突く。
「どうしてキスされただけでフリーズする小猫ちゃんなの?」
[潮鳴り]がグループにゆっくり打ち込む:姉貴たち、判明した!私たち、ただの彼女たちのプレイの一部だった!
[潮鳴り]:今、逃げても間に合う?(添付:さっき盗撮した誉田の赤面ドアップ)
[青空]:保存済み
[鳥の詩]:……(入力中)
その時の誉田十三子、目に見えて黒化してる。
「だから、レズじゃないって言っただろ!」
§
ゴスお姉さんが、結局、誉田十三子にパソコンを開かせた。
私のスマートウォッチがブルッと震え、画面に通知が2つ飛び出す:
【システム:[遥か彼方]があなたのアイテムを返却しました…】
【追加メッセージ:(なかゆびをたてる)(^_^)(なかゆびをたてる)】
「ほら、この1万円も受け取れよ。」彼女が私たち3人に札を押し付け、もう片手で誉田の腰を抱く。「精神的ダメージの賠償ってことで~」
誉田の顔、まだ真っ赤。首根っこ掴まれた野猫みたいで、さっきの威勢はゼロ。
「ついでに、初めまして、黒澤初音です。」ゴスお姉さんが手を振って、ついでに誉田をチラッとからかう。
「また会おうね、かわいい子たち!」
ライブハウスのドアが「バン!」と閉まり、鈍い音が響く。
私たち3人は歌舞伎町の路地で迷子、巣を見失ったモグラみたい。
彼女たちを見やるけど、視線は絶対合わせない…。
ベージュのニットカーディガンの子、たぶん[潮鳴り]、顔を服に埋めようとしてる。
姫カットに丸メガネ、たぶん[青空]、靴紐への興味は消えて、今度は服のボタンをいじり始めてる…。
15分経過。
私たち、現代アートの彫刻みたいにその場に固まり、指だけがスマホ画面で狂ったように連打:
[鳥の詩]:あの…
[青空]:えっと…
[潮鳴り]:実は…
3つのメッセージが同時にグループに上がり、同時にお互い撤回。
さらに5分経過。
[潮鳴り]のニットがほぼ妊婦服みたいに伸び、頭が全部服の中、まるでパフォーマンスアート…。
[青空]はボタンをいじりすぎて飛ばしちゃって、焦って探してる…。
私…ギターバッグの紐が肩に食い込んで、死ぬほど痛い。
まさか、みんなコミュ障…?