表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

私はソファに固まり、ギターのネックを指でギュッと握り、指の関節が白くなる。

怀いたギターは、本来なら一番慣れ親しんだものなのに、今は別れたばかりの恋人みたいに異様に遠い。

音響ケーブルが乱暴に出力ジャックに突っ込まれ、電流のノイズが針のように耳に刺さり、「ブーン!」と耳障りな音が響く。

[青空]と[潮鳴り]が対面に座り、背筋をピンと伸ばしてる。まるで先生に罰を受けた小学生みたい。

「弾けよ。」誉田十三子が煙草をくわえ、声がモゴモゴしてる。

私は動かない。

「弾けって。」彼女が目を細める。「まさか、緊張してんの?こんなんじゃギタリストになれねえぞ。」

道理はわかる…でも、私、いつも一人で、ヘッドホンつけて、部屋にこもって、自分だけのために弾いてきた。

「チッ、いいよ。」

彼女が急に立ち上がり、ちょっとイラついた感じで、壁にかかったFly V型のエレキギターをガサッと外す。「よく見てな。」

そのギター、Sonjackのアメリカ製、漆黒のボディで、ネックには傷だらけの跡。まるで戦場をくぐり抜けた武器みたい。

「お前の派手なのとは違うよ。」彼女がニヤッと笑い、ピックで弦を軽く擦る…

「铮——!」

最初の音が炸裂した瞬間、部屋の空気が全部吸い取られたみたい。

彼女の右手は暴走ピストンみたいに動く。ダウンピッキング、ミュート、ピッキングハーモニクス、riffの連射が弾丸の如く飛び出す。

ブリッジが耐えきれず金属の軋み音を上げるけど、彼女の表情はバターを切るみたいに余裕。

ゴスお姉さんがまた口笛を吹く。「お、十三子、酒飲んで悪態つくだけかと思ってたよ。」

「うるせえ。」誉田は顔も上げず、指がフレットボードを飛び回る。「お前も来いよ。」

「いいね~」ゴスお姉さんが軽やかに壁からヘッドレスベースを外す。「私のベイビー、日産の手工PSE、君たちよりずっと優しいよ~」

ベースが入った瞬間、低音が胸にドンと重い拳を叩き込む。

§

二人が左右に立ち、まるで門番の像みたいに出口をガッチリ塞いでる。

私…まだギターを抱えたまま、動けない。

誉田の視線が私の手に落ち、口角がちょっと上がる。「どうした?手取り足取り教えるか?」

彼女の口調は落ち着いて、笑みさえ浮かべてるけど、猛獣に睨まれたウサギみたいに、息まで慎重になる。

視界の端で、[潮鳴り]がスマホを狂ったように連打、親指が画面で火花散らす勢い。たぶんグループで「助けて」連投してる。

[青空]はうつむいて、靴紐に異常な興味があるフリ、指が神経質に紐をクルクル巻いてる。

助けて、逃げられない。

私は深呼吸して、震える指をようやく弦に置く…

誰もいなけりゃいいのに。

眩しいステージライトも、プロ仕様の音響の圧迫感も、チラチラする視線もなければ…

6畳半の部屋に縮こまって、ノイズキャンセリングヘッドホンで、自分だけのために弾く。

学校行かなくていい、社交なんかしなくていい、コンビニの「温めますか?」で脳がフリーズすることもなく…

ゲームに浸って、仮想世界で無敵の「大物」になって、ギルドチャットで好き勝手喋るだけでいい…

§

突然、指先に微かな震えが走る。

手が…勝手に動いてる。

反応する前に、指が本能でコードのルート音を押さえた。

ピックが弦を擦り、低いブーンという響き…

「ブーン——」

その音が鍵みたいに、何かの扉をガチャッと開ける。

筋肉の記憶が全てを乗っ取る。フィンガリング、ピッキング、ビブラート…動きが自分の手じゃないみたいに滑らか。

何千回も一人で練習したフレーズが、今、指先から溢れ出す。

怖くて死にそうなのに、指が勝手に弾き始めた。

誉田の眉がピクッと上がり、ゴスお姉さんの唇ピアスが照明でチラッと光る。

[潮鳴り]のスマホが「パタッ」と床に落ち、[青空]がついに顔を上げる…

私はただ、自分の手が脳を裏切って弾き続けるのを見つめるだけ…

「ハハハ!」誉田が突然、ニコチンのザラつくハスキーな笑い声を上げる。「おもしれえ!ただの気取ったお嬢様かと思ってたのに…」

彼女のピックが弦で火花を散らし、私の即興フレーズにピタッと合わせる。

「このコンビネーション!」彼女が首を振って煙草を吐き出し、虎牙が危ない光を放つ。「悪くねえな。」

ゴスお姉さんのベース音が寄り添うように入り、温かい香水と甘ったるい電子タバコの霧が漂う。

彼女が身を寄せ、唇ピアスが私の耳を擦る——

「聞いて、小娘。」彼女の声は低く、ベースラインは心臓の鼓動みたいに安定。「十三子、誰も褒めたことねえよ…」

指がネックを滑り、暗い川みたいなウォーキングベースを弾く。

「…彼女の機嫌がいい今、交渉しな。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ