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私はゲーム内で72時間も隠れ続けた。

恥ずかしいけど、逃げるのは…まあ、効果的だった…。

連続ログイン報酬や限定スキンのことを考えなければ、「終末地」シリーズの月イチ装備を逃しても、復刻まで2年待てばいいだけ…。

でも最悪なのは、遥か彼方、あの悪魔が私の最愛の「ファロヴィアの初見」スキンを剥ぎ取ったこと…!

その後、彼女はプライベートチャットに最後通牒を残した:

[遥か彼方]:土曜の午後2時、東京歌舞伎町。来なかったら、このスキンを染料に分解するからな。

[遥か彼方]:ついでに、お前の隠し金庫の場所、知ってるぞ。

このゲーム、自由度が高すぎるのが恨めしい!

PVPでPVE装備を触らない暗黙のルールはあるけど、システム上、課金アイテム以外は何でも奪える…。

「ファロヴィアの初見」はダンジョン最速クリア限定スキンなのに…。

だから、土曜の朝、私は神奈川のホームで立ち尽くし、機械的にクレーンゲームにコインを投じた。

鉄の爪がギター型のキーホルダーを掴んだ…これ、いい兆候…だよね?

§

迷子になった!

スマホのナビを何度も確認したのに、背中は汗でびっしょり。

歌舞伎町の喧騒が波のように押し寄せ、外国人観光客の笑い声、店の呼び込み、ストリートパフォーマンスのドラム音が耳を殴る。

「Excuse me…」金髪のバックパッカーにぶつかりそうになり、ビクッと飛び退いたら、今度は執事服のチラシ配りに当たりそうに。

「こちらのお嬢様、ぜひ当店へ…」

慌てて振り向いたら、後頭部が「ゴン!」と電柱に直撃。痛みで涙が滲んだけど、少なくとも視線を合わせずに済んだ。

最悪なのは、ギターバッグの紐が肩に食い込んで痛いこと。

別に持ってくる必要なかったのに、秋葉原の楽器店に欲しかった特調リバーブペダルがあって、関東全域で東京本店にしかないって…。

§

スマホが急に震え、投げ出しそうになった。

[遥か彼方]:お前、どこだ?スキンいらねぇの?

震える手で返信する。

[鳥の詩]:あ、あああ…ごめんなさい、迷…迷子になって…。どこにいるか、ちょっと、わ、わからなくて…でも、でっかい恐竜の頭が見えて、霧とか噴いてる…。

返信が速攻で来た。

[遥か彼方]:住所送っただろ。すっぽかしたら、スキンを染料に分解するからな。

[鳥の詩]:ご、ごめんなさい、でも本当に迷子で…。

[遥か彼方]:は?ゲームのマップは完璧に覚えてるくせに、現実じゃ迷う?このポンコツ、どんな服着てんだよ。俺が直々に探してやる。

[鳥の詩]:え、私…全身黒で、ギター背負って…。

「ギター?それ、防爆シールドじゃね?」

耳元でハスキーな女の声が炸裂し、ミントタバコとウイスキーの匂いが混じる。

ガチガチに固まりながら振り返ると、鋲付きレザージャケットのショートカットの女がニヤッと笑ってる。

いきなり頭をガシッと掴まれ、ゴツゴツした手のひらの熱にゾッとした。

「チッ、一米五のチビ、ゲームじゃ速く走るくせに。」

彼女が顔を近づけてクンクン嗅いでくる。「目尻に涙?さっき電柱に頭ぶつけたの、お前だろ!」

「鳥の詩、だろ?ついてこい。」

返事する前に、手首を万力みたいにガッチリ掴まれた。

3つの路地を抜け、彼女は地下ライブハウスの木のドアをドカッと蹴り開けた。

§

薄暗い照明の下、カウンターに2人の女の子が縮こまってる。

左のベージュのニットカーディガンの子は、スマホを必死に連打中。私のポケットのスマホが同時に震え、ギルドグループを確認すると:

[潮鳴り]:助けて、オフライン対決で本物のヤクザに遭遇した!

右の姫カットロングの子は、メニューで顔を隠し、怯えた目だけ覗かせてる。膝の上には『ベース:入門から挫折まで』って本が震えてる。

[青空]:あんたのせいよ!なんで彼女を怒らせたの!もう終わりよ、私たち…。

私もスマホを取り出す。

[鳥の詩]:ど、どうしよう…私、スキン、ほ、ほんと欲しいんだけど…。

[潮鳴り]:このゲームバカ!?スキンより命でしょ!?

ここからどうやって合理的に逃げて、遥か彼方にスキンを返してもらおうか考えてる時、スマホがまた震えた。

[遥か彼方]:お前ら、俺がギルドグループにいるの知ってるよな?

彼女がサングラスを外し、目尻のホクロを見せる。「自己紹介、誉田十三子、ゲームID:遥か彼方。」

[遥か彼方]:さて、最初に誰が相手する?

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