十
午前3時17分。
ライブハウスの観客はとっくに去り、ストリートライブのギタリストも楽屋に戻らず、誉田と黒澤に軽く手を振ってギターを抱え、正門を押し開け、東京の濃い夜に溶け込む。
私たち3人は、夕方と同じくソファに丸まり、店のWi-Fiとエアコンに頼り、姿勢もほぼ変わらず。
「今夜はここに泊まりな。」黒澤初音が鍵の束を投げ、金属の鎖が弧を描く。「帰りたいならいつでもどうぞ、ドアも閉めなくていいよ。」
彼女が急に振り返り、冷蔵庫に大きなXを描き、半分冗談半分本気の口調。「でも、未成年が酒に手を出したら…殺すよ~」と言い終え、拗ねる誉田十三子を引っ張って去り、静寂が残る。
この光景…修学旅行の夜話みたい、ただ騒がしさは少なく、慎重な暗黙の了解が多い。
ソファベッドに目をやる――[青空]は端で丸まり、高貴なラグドール猫のよう、優雅にあくびをし、毛毯で髪の毛一本も出さず繭になる。[潮鳴り]は真ん中で固まり、初めて家を出た子犬のよう、毛毯を引っ張るのに慌てふためき、勢いで飛ばしそう。
「あっ!」
[青空]が突然小さく叫び、スマホを取り出し、指が画面を飛ぶように叩く:
[青空]:お、お前…手、どこに置いてる!?
[潮鳴り]:ごめん!ごめん!本当にごめん!毛毯引いただけ、変な気は絶対ない!
彼女たちのメッセージ見て、額を押さえる――この会話、どんどん少女漫画展開?
本当は私も混ざりたいけど、ソファベッドは狭く、加わったらもっと気まずい。
結局、そっと休憩室を出て、ライブハウスを一人ぶらつく。
スタッフ室と休憩室は壁一枚隔て、廊下を通ると薄暗いバーカウンターエリア、さらに進むと…闇に静かな舞台、黙る巨人のよう。
知らぬ間に足が勝手に動き、舞台の中央へ。
周囲の闇が潮のように押し寄せ、息が詰まる――中学の卒業式と同じ感覚。
記憶が鮮明に蘇る。担任が断れない笑顔で:「山葉さん、ギターよく持ってくるよね…卒業式の演奏、任せたよ。」
クラスリーダーが横で:「クラスで楽器できるの君だけ、貢献すべきでしょ?」
一番耳障りだったのは後ろの囁き:「ギター習うなんて目立つためでしょ?気取って、気持ち悪い。」
だから東京を離れ、神奈川に引っ越した――誰も知らない場所で静かにいたかった。
§
舞台の防音を確認し、バックパックからギターをゆっくり取り出し、指先でケーブルをつなぐ。
アンプを最低にし、弦の振動がちょうど聞こえる、いつもの私だけの密閉空間が形作られる。
ギターを弾くのは誰かを喜ばせるためじゃなく、自分が生き延びるため。
人の約束は脆く、どんな絆も腐るけど、24フレットの指板は嘘をつかず、弦の振動はいつも正直――指が正しい位置なら、欲しい音が出る。この確実さはどんな慰めより効く。
ギターを胸に抱き、感情を指先から弦に流し、細かなメロディに。
世界に居場所がなくても、このギターと一緒に奈落へ行ける。
「…辛いんだよね、心?」
突然の声に体が震え、ギターの弦が不協和音を鳴らす。
振り返ると、[青空]が舞台の影に立ち、毛毯を半分握る。
「君…」声が喉に詰まり、完璧な文が出ない。
彼女は袖のボタンをもじもじ擦り、頭を下げ、声が小さくなる。「実は…私、二人きりなら普通に話せる。でも人が多いと…ミュートボタン押されたみたい、何も言えない。」
同類だ…。
心がホッとし、肩の力が抜ける。
[青空]がためらいながら半歩進み、舞台の常夜灯がメガネ越しの目をキラキラ照らす。「君…私と同い年くらい?さっき舞台に立ってた時の表情…辛そうだった。」
言いすぎたと気づき、慌てて手を振る、顔も赤い。「わざと観察したんじゃない!ただ…目に入っただけ…」
私が答える前に、彼女は舞台を降り、隅のキーボードを引き出す――ケーブル接続、電源、チューニング、千百回繰り返したような流れる動き。
準備を終え、彼女が私を見上げ、指が鍵盤の上で震える。「試してみる…一緒に演奏?」
彼女の緊張した姿に頷こうとした瞬間、鋭い視線。
「バン!」
休憩室のドアが開き、[潮鳴り]が立つ、ニットカーディガンの裾がドアノブに引っかかる。
彼女の目はスキャナーみたい、私と[青空]を行き来、顔に「裏切り者…また私抜きで組んだ?」と書いてある。
彼女のムスッとした顔見て、笑ってしまう――オンラインでもオフラインでも、私たち3人、すでに本物のチームだね。