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エンディング

(最終ラウンドを終え、一つの結論にたどり着いたスタジオには、これまでの激しい対立が嘘のような、穏やかで、満ち足りた空気が流れていた。四人の賢者たちは、互いの顔を見合わせ、そこには敵意ではなく、長い旅路を共にした戦友への、静かな敬意が浮かんでいる)


あすか:(目にうっすらと涙を浮かべている。しかし、その声は、震えながらも、確かな喜びに満ちている)「皆様…ありがとうございました。私は今、言葉にできないほどの感動に、打ち震えています」


あすか:(ゆっくりとスタジオを歩き、視聴者に語りかけるように)「対立から始まった、この『歴史バトルロワイヤル』。実利か、道徳か。管理か、自主性か。スキルか、精神か…。決して交わることのないと思われた、数多の思想。しかし、皆様は、その違いを乗り越え、互いの知恵を編み上げ、現代に生きる私たちへ、一つの、あまりに美しく、そして力強い『答え』を示してくださいました。

幼児期に、人間性の『根』を深く、広く張る。学童期に、徳と実利の、たくましい『幹』を育てる。そして青年期に、社会という大空へ、自らの『志』という名の枝葉を伸ばしていく…。一本の、雄大な大樹の物語。これこそが、時空を超えた知性が紡ぎ出した、究極の教育メソッドです」


あすか:(四人の賢者たちに、深く、深く、頭を下げる)「この素晴らしい提言を、私たち現代人への、最高の贈り物として、確かに、受け取りました。…それでは、皆様。名残惜しくはありますが、お別れの時間が、近づいてまいりました。この長い対談を終えられた、今のお気持ちと、そして、未来を生きる私たちへの、最後のメッセージを、お一人ずつ、いただけますでしょうか。では、フランクリンさんから、お願いします」


フランクリン:(いつものように、軽く笑ってみせるが、その目には、珍しく真摯な光が宿っている)「ふむ。いやはや、実に骨の折れる会議だった。私の時代には、これほど意見の違う人間と、徹夜で議論することなど、まずなかったからな。特に、あの熱血漢のサムライ殿には、何度、寿命を縮めさせられたことか」


(松陰の方を見て、肩をすくめる)


吉田松陰:「フん。貴様のその、人を食ったような態度にも、何度、刀に手をかけそうになったか分からんぞ」(憎まれ口を叩きながらも、その口元は、わずかに緩んでいる)


フランクリン:「ハハハ!だが、実に、実りのある時間だった。正直に言おう。私は、徳や志といった、目に見えぬものを、どこか軽んじていた。だが、孔子先生やミスター松陰の話を聞き、それらが、人間社会という、複雑な機械を動かすための、見えざる『潤滑油』であり、あるいは『燃料』なのだということを、少しだけ、理解できたように思う」


フランクリン:(視聴者に向かって、人差し指を立てる)「だが、最後にこれだけは言っておく。我々は、最高の『計画書』を作った。だが、計画だけでは、一銭の価値もない!重要なのは『実行』だ!明日から、いや、この番組を見終えた、この瞬間から、君たちが、何を学び、どう行動するか。全ては、そこにかかっている!Good plan is not enough, action is everything!覚えておきたまえよ」


あすか:「行動こそが全て…。ありがとうございます。では、モンテッソーリ先生、お願いします」


マリア・モンテッソーリ:(その表情は、終始変わらなかった冷静さの中に、母のような、温かい慈愛が満ちている)「私は、この場で、様々な時代の、偉大な男性たちの教育論に触れることができ、大変、光栄でした。皆様の理論は、力強く、壮大で、国を動かすためのものでした。それに比べれば、私の理論は、あまりに小さく、ささやかに思えるかもしれません。目の前の、たった一人の子どもに寄り添うこと。その子の、小さな手の、かすかな動きに、全神経を集中させること。それだけですから。

ですが、この対談を通じて、確信いたしました。その、一人ひとりの子どもたちの内に秘められた、無限の可能性こそが、この世界を動かす、最も根源的なエネルギーなのだと。皆様、どうか、忘れないでください。あなた方の足元にいる、その小さな一人ひとりを、一人の人間として、尊重し、その力を信じてあげてください。未来は、政治家や学者が作るものではありません。未来とは、今、あなた方の前で、無心に遊んでいる、あの子どもたち自身なのですから」


あすか:「未来は、子どもたち自身…。胸に刻みます。ありがとうございます。…孔子先生。お願いします」


孔子:(その佇まいは、まるで、全ての時代の、全ての人々の営みを見守ってきた、大樹そのもののようだ)「『学びて時に之を習う、亦説よろこばしからずや』。…まさしく、この言葉の通りでしたな。異なる時代の、異なる知に触れ、己の教えを、改めて見つめ直す。これほどの喜びはありません。フランクリン殿の合理の才、モンテッソーリ殿の慈愛の眼、そして、松陰殿の燃えるがごとき義の心。どれもが、私の学びとなりました。

時代は、変わるでしょう。技術も、社会の形も、人の暮らしも。しかし、決して変わらぬものもある。親が子を思う心。子が親を敬う心。友と、信じ合う心。そして、より良い世を願う、人の心。私が説いた『仁』とは、その、人間が、人間であるための、根幹です。

これから先、あなた方が、どんなに複雑な問題に直面し、道に迷うことがあろうとも…どうか、その、温かい心の原点に、立ち返ることを忘れないでください。全ての答えは、難解な書物の中にあるのではありません。あなた自身の、その胸の内にあるのですから」


あすか:「胸の内にある、仁の心…。ありがとうございます。…それでは、最後に。松陰先生、お願いします」


吉田松陰:(立ち上がり、両の拳を、テーブルの上に置く。その目は、まっすぐに、カメラの奥にいる、未来の若者たちを見据えている)「俺は、もう、この世の者ではない。この議論がどうあろうと、俺の人生が、二十九の若さで終わったという事実は、変わらん。そして、俺が夢見た、新しい日本の姿を、この目で見ることも、もはや叶わん。だから、これは、遺言として聞け。

この国の未来は、そなたたち、今を生きる者たちの、その双肩に、確かにかかっておる。俺のように、短い人生を、嵐のように駆け抜ける必要はない。もっと、賢く、したたかに、生き延びよ。

だが、これだけは、忘れるな。そなたたちは、一体、何のために生きているのか。その命を、一体、何に燃やしたいのか。それを、一日たりとも、問わずに生きるな。安楽な暮らしに、決して、魂を売り渡すな。たとえ、誰に笑われようと、たとえ、孤独であろうと、己が信じる『誠』の道を、ただ、まっすぐに、歩み続けてほしい…頼んだぞ」


(松陰、言い終えると、深く、深く、頭を下げた。それは、未来への、祈りそのものだった)


あすか:(涙をこらえながら、声を振り絞る)「…皆様…その、魂の言葉、確かに、受け取りました。本当に、本当に、ありがとうございました。…クロノス、ゲートを開いてください。賢者たちを、元の時代へ」


(あすかの声に応じ、スタジオに、再び光り輝く『スターゲート』が出現する。登場の時とは違い、その光は、静かで、穏やかだ)


あすか:「それでは、フランクリンさんから…」


フランクリン:「では、お先に。さらばだ、皆さん。実に愉快な時間だった。また、どこかの酒場で会おうじゃないか」


(あすかにウィンクを残し、軽やかな足取りで、ゲートの中へと消えていく)


あすか:「モンテッソーリ先生…」


マリア・モンテッソーリ:「さようなら。世界中の子どもたちに、幸あれ」


(深く、淑やかに一礼し、静かに光の中へと歩みを進める)


あすか:「松陰先生…」


吉田松陰:(何も言わず、ただ、もう一度だけ、視聴者の方を、力強く見つめる。その瞳が「後は頼んだぞ」と語っている。そして、翻るように背を向け、迷いなくゲートへと向かう)


あすか:「そして、孔子先生…」


孔子:(ゆっくりと立ち上がり、スタジオ全体を、そして、あすかの顔を、慈しむように見渡す)「良き、集いであった。…さらばだ」


(最後に、満足げな、穏やかな笑みを浮かべ、その姿は、ゆっくりと光の中に溶けていった)


(ゲートが静かに閉じ、スタジオには、あすか一人だけが残される。先ほどまでの熱狂が嘘のような、荘厳な静寂。BGMが、静かなピアノの独奏に変わる)


あすか:(一人、静かに涙を流している。やがて、その涙を拭い、決意を秘めた表情で、再びカメラに向き直る)「彼らは、去っていきました。それぞれの時代へ、それぞれの物語の中へ…。しかし、その言葉は、彼らが、この場所で、共に紡ぎ出した、あの『大樹の物語』は、決して消えることはありません。私たちの心の中に、未来への、希望の種として、確かに、植え付けられたのですから。

もちろん、今日、生まれた結論が、唯一の、絶対的な正解ではないのかもしれません。ですが、大切なのは、答えそのものではないのです。大切なのは、この議論をきっかけに、あなた自身が『教育とは何か』を、真剣に考え始めること。あなた自身の、あるいは、あなたの子どもたちの、心の中にある『大樹』を、これから、どう育てていくのかを、考え始めることなのです。

あなたの心に、最も深く、根を下ろしたのは、誰の言葉でしたか?歴史の声は、いつも、あなたに語りかけています。物語は、まだ、始まったばかりです」


(あすか、深く、静かに、一礼する。その姿に、エンドロールの文字が、ゆっくりと重なっていく。画面は、ゆっくりと暗転し、静かなピアノの音だけが、余韻として残る)

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