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最終ラウンド:究極の提言~国づくりは人づくり~

(ラウンド3が終わり、スタジオには一種の静寂が訪れている。それは、AIという巨大な存在を前に、人類の知性が試されているかのような、緊張感をはらんだ沈黙だった。あすかが、ゆっくりと口を開く。その声は、これまでのどのラウンドよりも、真摯で、重い響きを持っていた)


あすか:「皆様、ありがとうございました。『AI時代の教育』を巡る議論、それは、私たち現代人が抱える不安と希望、そのものを映し出しているようでした」


あすか:(演台から一歩前に出て、対談者たちの中心に歩み寄る)「第一の問いは『何を教えるべきか』でした。フランクリンさんは『実利』を、孔子先生は『道徳』を、モンテッソーリ先生は『自己形成』を、そして松陰先生は『志』を、それぞれの魂の言葉で語られました。

第二の問いは『どう育てるべきか』。そこでは、『管理』と『自主性』が激しく火花を散らしました。厳格な規律と師弟の絆か、あるいは、科学的な観察と計算された自由か。

そして、第三の問いは『未来にどう向き合うか』。AIという未知の存在を前に、スキル、精神、倫理、そして原体験の重要性が、浮き彫りになりました。



(対談者一人ひとりの目を見つめながら、少し悲しげに微笑む)


あすか:「ですが、皆様…このままでは、我々は、4つのあまりに強力で、しかし、それぞれが全く違う方角を指し示す『コンパス』を手にしたまま、この未来という名の荒野で、ただ途方に暮れるだけになってしまいます。それでは、何も解決しません。何も、始まらないのです。

そこで、皆様に、最後にして、最も困難な、お願いがあります。もし、皆様が、この『歴史バトルロワイヤル』の場で、たった一つの『教育大綱』を、現代日本のために、共に創り上げるとしたら…それは、どのようなものになりますか?皆様の偉大な思想を、どう組み合わせ、何を優先し、そして、何を諦めますか?」


(『諦める』という言葉に、四者の表情が険しくなる。それは、自らの信念の根幹を揺さぶる、究極の問いだった)


吉田松陰:「諦める、だと…?小娘、何を言うか!この俺の『志』の教育は、何ものにも代えがたい、この国の柱となるべきものだ!諦めるなど、断じてありえん!」


フランクリン:「まあ、そう熱くなるな、ミスター松陰。だが、お嬢さんの言うことも、もっともだ。我々四人の意見を全て盛り込んだ教育など、様々な料理を一つの鍋で煮込んだ、得体の知れないシチューのようなものになるだろう。それでは、誰も食べられん」


孔子:「ふむ…。確かに、これまで我々は、自らの教えの正しさを説くことに重きを置いてきた。しかし、国を救うという大義の前には、時には、互いの知恵を合わせることも必要でありましょうな」


マリア・モンテッソーリ:「ええ。それぞれが、自分の理論の壁の中に閉じこもっていては、新しいものは生まれませんわ。対話を通じて、より高次の結論へと至ること。それこそ、私たちが子どもたちに示すべき、知性の使い方ではないでしょうか」


あすか:「皆様…!では…!」


フランクリン:(議論の突破口を開くように、現実的な提案をする)「よろしい。では、私から一つ、提案しよう。何も、全てを同時に教える必要はないのではないかね?人間の成長には、段階ステージというものがある。そのステージごとに、我々の教育の、重点を置くべき部分を変えていく、というのはどうだろうか。いわば、教育の『分業』だ」


(フランクリンの『分業』という言葉に、他の三者も「ほう」と興味を示す)


マリア・モンテッソーリ:「人生のステージ…!それは、素晴らしい視点ですわ、フランクリン!まさに、私が説く『発達段階』の考え方そのものです。でしたら、まず、人生の最初のステージ…『幼児期』は、私の理論に任せていただけませんこと?」


マリア・モンテッソーリ:「この時期の子どもは、理屈や道徳を教え込むには、あまりに未分化な存在です。まず必要なのは、先ほども申し上げた通り、五感をフルに使う、豊かな原体験です。好奇心の種を蒔き、自分は愛されている、世界は信頼できる場所なのだ、という絶対的な『自己肯定感』の土壌を育む。AI時代に必要となる、全ての人間性の根は、この時期にしか育めません。これに、ご異論はございませんでしょう?」


(モンテッソーリの言葉に、他の三者は顔を見合わせる)


孔子:「なるほど…。人が、人を愛し、思いやる『仁』の心の、まさに『芽生え』の時期ですな。その芽を、無理に引き抜かず、温かく見守る。結構です。同意いたしましょう」


吉田松陰:「うむ。いかなる屈強な木も、最初はか弱き双葉から始まる。その魂の土壌を、豊かに耕すということか。よかろう」


フランクリン:「将来、大きく育つための、最も重要な『初期投資』というわけだ。合理的だ。賛成しよう」


あすか:(驚きと喜びで、声が上ずる)「なんと…!皆様の意見が、初めて、一つになりました…!では、まず第一段階は、モンテッソーリ先生の教育で、人間性の根を育む…。では、その次の『学童期』は、どういたしましょう?」


孔子:「その段階は、私と…意外かもしれませぬが、フランクリン殿の、出番でしょうな」


フランクリン:「ほう、私と先生が、ですか?光栄ですな」


孔子:「ええ。人間性の土台ができた子どもたちに、次は何が必要か。それは、社会で他者と共存していくための、共通の『ルール』と『スキル』です。まず、私が説く『礼』…すなわち、挨拶や言葉遣い、読み書き計算といった、全ての学問の基礎となる『型』を、徹底して身につけさせます。共同体の一員としての、規律と責任感を教えるのです」


フランクリン:「そして、それと同時に、私の言う『実学』の基礎も教える。自分のお小遣いをどう管理するか、といった『経済観念』。自分の時間をどう使うか、という『自己管理』の初歩。そして、社会がどういう仕組みで動いているのか、という現実的な知識だ。孔子先生の『徳』というOSの上に、私の『実利』というアプリケーションを乗せる、と言えば、分かりやすいかな?」


吉田松陰:「徳と実利を、同時にだと…?それは、矛盾しないのか?」


孔子:「矛盾しませぬ。私がこれまで語ってきた通り、『徳なき実利は暴走する』。そして、この議論を通じて、私も学ばせていただいた。『実利なき徳は、あまりに無力である』ということも。この二つは、車の両輪なのです。この学童期に、その両輪を、バランスよく育てることが肝要ですな」


(孔子とフランクリンが、互いを認め、静かに頷き合う。かつて対立した二つの思想が、見事に融合した瞬間だった)


あすか:「車の、両輪…。素晴らしいです。では、最後の段階、『青年期』は…やはり、松陰先生ですね?」


吉田松陰:(これまでになく、落ち着いた、しかし、内に秘めた熱量は変わらぬまま、力強く頷く)「うむ。人間性の根を張り、徳と実利のたくましい幹を育てた若者たち。だが、それだけでは、まだただの立派な『木』に過ぎん。最後に問わねばならんことがある。『お前は、その大空に向かって、一体、何の枝を伸ばしたいのか』と。

青年期とは、己の全てを懸けて成し遂げたい『志』を、自らの魂に問う時期だ。モンテッソーリ殿が育んだ好奇心を、孔子先生が授けた徳を、フランクリン殿が教えた実利の力を、一体、この社会のために、この国のために、どう使うのか。その問いと、本気で向き合わせる。ある者は役人となり、ある者は商人となり、ある者は学者となるだろう。道は違えど、その根底に『公のために生きる』という、熱き志さえあれば、その者は、どこにあっても、必ず国を支える、かけがえのない人材となる!」


あすか:(感動に、声が震える)「…見えました。皆様、私には、一本の、雄大な大樹の姿が見えます…

まず、幼児期に、モンテッソーリ先生の教育で、大地に深く、広く、人間性という名の『根』を張る。次に、学童期に、孔子先生の『徳』と、フランクリンさんの『実利』によって、風雪に耐えうる、たくましい『幹』を育てる。そして最後に、青年期に、松陰先生の教えで、社会という大空に向かって、自らの『志』という名の、枝葉を力強く伸ばしていく…!

そして、この大樹こそが、AIという、時に激しい嵐が吹き荒れる未来においても、決して倒れることのない、我々人間の、教育の理想の姿なのではないでしょうか!」


(あすかの言葉に、四人の賢者は、もはや反論することなく、静かに、そして、深く頷く。彼らの表情には、長きにわたる戦いを終えた、戦士のような、晴れやかな満足感が浮かんでいた)


孔子:「ふむ。見事な大樹ですな。これならば、いかなる時代が来ようとも、人々は道を見失いますまい」


フランクリン:「なるほど。悪くない結論だ。これなら、十分、投資の価値はあるだろう」


マリア・モンテッソーリ:「ええ。全ての子どもたちが、自分らしい、美しい花を咲かせられそうですわ」


吉田松陰:「うむ。この大樹が、天を覆うほどに育てば、我が国は、きっと安泰であろうな…」


あすか:(目に涙を浮かべながら、深く、深く、頭を下げる)「皆様…時空を超えた、偉大な知性の融合、誠に、ありがとうございました。これこそが、我々が探し求めていた、『究極の提言』です」


(スタジオには、万雷の拍手のような、温かい光が満ち溢れる。BGMが、感動的なクライマックスへと達する)

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