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#001 広報担当は突然に

ルクタ暦2025年ソルナーの月1日(水)09:00


 ウルオール図書館。それは、国境を越え人々の主義や主張をも超え、全ての資料を保管し次世代へと繋いでいく人類の英知が集いし共同保存図書館。

 私は今日、憧れのウルオール図書館に配属された。難関の司書資格を取って、ついに!!と思ったのは束の間。なぜか、私に下された辞令は『広報担当』だった。


「『広報担当』ですか????????」


 いや、本当に謎だった。だって、ウルオール図書館だよ??????一般の図書館と違って、年に4回しか一般公開してない、特殊な図書館だよ??????それなのに、広報????ナンデ????????


「うん。君は広報担当ね。じゃ、頑張って。詳しいことは、分館1階の右手の廊下を突き当たったところに広報室があるから」

「え、あの……」


 今まで聞いたこともない場所へ行けと言われて、動揺が心の中を走る。まごまごしているうちに、館長は近くに置いていたカバンを持つ。


「それじゃ、頑張ってね~」

「かんちょぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?まって、待ってください!!もうちょっと説明を!!」

「いや、僕もう学会行かないとだから。ごめんねー」

「そんなぁぁぁぁぁあ」


 爽やかな笑顔を残して、館長は学会へ向かった。おみやげに美味しいお菓子がなかったら許さない……!!心の中で、怨嗟の声を挙げつつ分館へ向かっていると、他の先輩職員の声がした。咄嗟に廊下の柱に隠れる。


「ここってさー、仕事が楽でいいよなー。一般公開日はやばいけど、それ以外はサボれるし」

「だよなー。真面目に、古い資料を補修したりとか編纂してるやつらって、何が楽しいんだろうな?」


 隠れた柱の陰で唇を噛む。悔しかった。真面目な先輩方の努力や熱意があって、初めてウルオール図書館は人類の共同保存図書館足りえるのに。その重要性が分かっていない職員がいることに腹が立った。同時に、広報室が出来そうなことを思いつく。


「意気込んだものの、ここは……」


 私は、無事に広報室に辿り着いていた。しかし、目の前に広がる光景は、とてもではないが仕事が出来る環境とは思えなかった。

 元々は、広々として使い勝手の良かったであろう部屋と机は、いつの時代の物か分からない図書館のチラシで埋まり、床にも同じく紙の山を形成している。僅かに見える床には、なぜか寝袋が置かれていた。寝袋があるあたり以外は、蜘蛛の巣や酷く埃にまみれていた。


「なんで、寝袋????」

「あー、やっと来たんだ新人ちゃん。これで、俺もここから解放されるわー」


 駆けられた声に振り替えると、そこにはチャラそうな男性がいた。


「初めまして。私は__」

「そういうのは要らないよ。もう会わないし」

「へ?」

「俺の役目は、君がくるまでここにいること。だから、君が来た時点でお役御免ってわけ」

「仕事の引継ぎなんk「引継ぎとかも何もないよー。ここ、名ばかりの部署だし。てわけで、お疲れー」」


 そういうと、先輩と思しき人物は、床に置いていた寝袋と私物だったらしい本を取り上げると私の前から去っていった。

 思わず、ポカーンとして後姿を見送ってしまった。我に返ったのは、先輩を完全に見失ってしまった後だった。


「……仕方ない。とりあえず、ここを片付けないと」


 私は、足の踏み場のない部屋の中を何とか移動して窓を開ける。長く開閉されていなかったらしい窓は、何度か力任せに押してようやく開いた。苦労してまた部屋の中を移動し、各種掃除道具を発掘する。バケツ・モップ・雑巾・ホウキ。どうしてか、掃除に必要な物は一揃いあった。

 発掘した掃除道具たちを、いったん廊下に出す。まずは、床に散乱している書類や昔の広報誌を整理しなくては。このあたりの物も、共同保存図書館ゆえに、そのあたりの作業をしている司書に渡さなくてはいけない。


「これ、ひとりでやれって正気の沙汰じゃないよ……」


 ボヤきつつも手を動かす。本当に一人でやらないといけないなら、手を動かさない限り永遠に終わらない。廊下に出した掃除道具たちの横に、広報誌と官報、図書館内で配布されていたチラシに分けてどんどんと積んでいく。


ルクタ暦2025年ソルナーの月1日(水)21:00


 気が付くと、太陽はとっくに月と交代していた。今日は満月らしい。明かりがなくても、薄暗さに慣れた目には、月光でも十分だったらしい。


「ああ、初日から残業なんて……。先が思いやられるにもほどがあるよ!!」


 怒りに任せて、バケツの中に雑巾を叩き込む。目の前には、月光を受けてつやつやと光る床板があった。あれほど蜘蛛の巣と埃にまみれていたとは思えない。力任せにしないと開かなかった窓も、今は丁寧に油をさしたおかげで、すんなりと開閉ができる。

 私は、チラッと廊下を見る。……そして、すぐに見なかったことにした。そこには、美しくなった広報室とは裏腹に、埃まみれのチラシやその他諸々を一時避難させたせいで汚れた廊下があった。


「はぁ……」


 思いっきりため息をつきながら、私はバケツを持って廊下へと出る。そして、廊下に出した埃まみれの机や椅子のそばへと行く。そして、猛然とホウキを机と椅子にかける。


「もおぉぉぉぉぉ!!新人配属されたてでこんなことってある!?!?しんっじらんない!!館長のバカ―!!せめて、私と同じ新人でもいいからもう一人か二人くらい人手寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」


 本当に、心から。雑巾を握りしめて、初日の心弾む配属初日がこんなことになった怨嗟を全力でぶつけていく。今なら、とても強いと噂の各国騎士団長だって呪えそうだ。そして、自分に軽く身体強化魔法をかけて一気に磨き上げた机と椅子を広報室の中へと戻す。そのときに、自分が使いやすい配置にするのだって忘れない。

 こんなに苦労して、そこそこ広い部屋とそこにあった備品もきれいにしたのだ。これくらいしたって罰は当たらないと思う。


ルクタ暦2025年ソルナーの月2日(土)02:00


 ようやく、部屋の中の配置がいい感じに決まった。もちろん、途中で配置に悩んだから、気分転換を兼ねて盛大に汚してしまった廊下もきちんと掃除をした。静かな図書館別館で、私の音だけが響いていたのは、なんだかさみしいような気もした。

 が!!そんなセンチメンタルな気分に浸っていたら睡眠時間は減る一方なので、そんな睡眠の足しにもならない感情はごみ捨てと同時に捨てた。私は、今は掃除の修羅となっていたのだ。


「ふ~……。見違えたねぇ。これ、一日で私一人でやったとか、偉すぎんか??」


 やっと、椅子に腰を下ろして一息つく。それまで、怒りというテンションバフがかかっていたのか、椅子に座ったとたん眠気が襲い掛かってくる。なんとか、眠気に抗おうとするも抵抗むなしく、私の意識は優しい闇の中へと落ちていったのだった。

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