3.夏の始まり
「幽霊って信じる?」
そんなくだらない会話が懐かしい。
「信じてないよ。怖いもん」
そう。今でも信じてないけど、見えたらいいのに。
友達のナツと交わした、高校の時の会話。
私の名前はハル。
ハルとナツなんてバカバカしいけど、私たちは高校で出会って直ぐに友達になった。
2人で軽音部に入って夢中で練習して。
遊びもバイトも一生懸命やった。
部活にバイトに学校を少々と忙し過ぎたけど、そのほとんどをナツと一緒に過ごした。
「今日、ナツがね」
家で家族にする会話の始りは、いつもナツとの会話や面白かったこと。
もうウチの家族だって会ったこと無いのに「ナツ」って呼んでた。
だけど、ナツは突然いなくなった。
事故か病気か、先生が詳しい部分を伏せていたから分からないけど、急にいなくなった。でも「もう会えない」ってことだけは嫌でも分かった。
その頃の記憶は曖昧だけど、他人ごとのように冷静に所々を覚えている自分もいる。
ただただショックが大き過ぎて、淡々と学校と毎日の生活を続けていた気がする。
そうやってやり過ごすしか、心を守る術が無かったのかもしれない。
そうして高校を卒業し大学に入るため、私は明日この街を離れる。
私は今、ナツと急なお別れになるなんて思わなかった日の前日に、一緒に行った海でナツを探している。
いや、「探す」というお別れの儀式を行いに海に来た。
ナツは幽霊を信じていた。
怖い話が大好きだけど優しい彼女は、怖がりな私にはあまり怖くない話を聞かせてくれた。
ナツは「幽霊になる方法を知っている」とも言っていた。もし死んだら幽霊になって会いに来てくれる、なんてふざけて話をしたこともある。
それでもいい。
ナツの幽霊なら、今でも会いたい。
「ナツ、どこに行ったの?」
「ナツ、早く出て来てよ!」
「ずっと。今でも会いたいよ」
「いつになったら出て来るんだよ!」
その時、小さいけどハッキリとナツの声で
「最初から」
って聞こえた。
私の前で、いつものスラッとした感じで立って、肩までの髪の毛を触りながら微笑んでいる、ナツの姿が朧気に浮かんだ。
お気に入りのベースケースを肩に掛けて、好きだったブルーハワイとかいうかき氷のせいで、青くなった舌を私に見せ、ピースした手の甲をこっちに見せて笑っている、ナツの姿が見えた。
そうか。
ナツは「最初から」私の隣に出て来ていたんだ。
冬の砂浜に星を散りばめた、涙の跡が2つ。
ただそれだけが、私と隣にいるけど、ずっと見ることの叶わなかった友達の存在を証明していた。
そして、散りばめられた星たちが、再会の熱気と共に消えていく。
最後の夏は今、過ぎ去ろうとしている。




