1.贄人形
私の家には不思議な雛人形がある。
それは「古くからある由緒正しい」とか「この雛人形を所有した持ち主はみんな※※」とかの怪奇な物ではなく、普通の販売店で買った量産品だ。
だから、特に怪しい曰くなどはない。
だが、あの雛人形には願いを叶える不思議な力があると、私は確信している。
その雛人形は、毎年、桃の節句前に押し入れから出て来て、入学式の前には元の場所にしまわれていた。
私は物心つく頃、雛人形に「早くお金持ちでカッコいい人と結婚出来ますように」とお願いをした。
こんなの幼い子供の頃なら良くあることだと思う。確か小学校3〜4年のことだった。
その次の年に雛人形を出した時、お内裏様の左手が無くなっていた。
一体ずつ並べるような雛人形ではなく、ガラスケースにお内裏様とお雛様が入って並んでいる形式のものだったので、無くなるなんて考えにくかったが「しまう時にケースをぶつけて、どこかに落ちて無くなったのかな?」なんて家族で言っていた。
そして、時が経って高1になった私は、社会人のイケメン男性とデキ婚することになった。
彼の両親に私を紹介する頃には、もうお腹の子供は大きくなり過ぎて産むしかなかった。しかし、どちらの親にも特に反対されず、すんなりと結婚することができた。
翌年、産まれて来た男の子には左手が無かった。
出産前のエコー写真ではそんな欠損など無く、産まれて来る直前に切られたかのような切り口だったが、不思議なことに切り口からは血が全然出ていなかった。
小学校3〜4年の頃に願いが叶わなかった私は、お内裏様の左手が無くなっていた年に「人気者になってテレビに出たい」と願った。
次の年、お内裏様の顔からは目玉が無くなっていた。
母は気味悪がって、もうあの雛人形を押し入れから出すことは無かった。
左手のない息子が産まれて1年後の定期検診で、息子の両目が見えていないかもしれないと病院で告げられた。
お内裏様の左手が無くなり願いが叶い、目玉が無くなった方の願いも叶っている。
私は子供が産まれてからの各イベントや日常をビデオに撮り、テレビ局に送っていた。
それが元で「子育て高校生」として県内で注目され、ローカル放送や地方雑誌にたまに出る、ローカルタレントの卵、的な人気者となった。
あの雛人形は私の願いを叶えてくれた。
叶えてはくれたが、私は恐らく、息子は来年この世に居ないと思っている。
小学校の頃、両親は雛人形を押し入れから出さなくなったが、私は雛人形が毎年どうなるか見たかったので、押し入れにいる雛人形を毎年こっそりと1人で出していた。
目玉が無くなった次の年、私は雛人形に「歌手になりたい」とお願いした。
次の年になり、雛人形を押し入れから出すと、お内裏様からは頭が無くなっていた。
不思議に思った私はその年、願い事をしなかった。
次の年、お内裏様は左手と頭が無かったが変わりは無かった。
次の願い事で何が起こるか知りたかった私は「皆からカワイイって言われたい」とお願いした。
次の年、ガラスケースからお内裏様は居なくなっていた。
お願いをするとお内裏様に変化があるのは分かったが、もうお内裏様は居なくなってしまったので、その年からはもう1人でお雛様を出すことはヤメた。
あれから時を経て、私は人気者になり、県内では有名なミュージシャンのプロデュースで来年、歌を出すことも決まっている。
今はもうテレビの出演料などで、私自身が稼いでいるし、県内ならどこに行っても「カワイイ!」って皆に言ってもらえる。
それでも、私は不安だった。
だから「お金持ちでカッコいい人と結婚出来た」その年に、実家からあの雛人形を私の家に持って来た。
私はお雛様に「お内裏様を元に戻して欲しい」とお願いした。
次の年、今度はお雛様の左手が無くなっていたが、お内裏様は元のようにガラスケースに鎮座していた。
「あぁ、これでまたお願いをすることが出来る」と、私は安心することが出来た。
この雛人形は私の願いを叶えるだけで、私に悪い影響を与えることは無く、本当に家宝のような存在だ。
ただ一つ残念な点があるとすれば、今、私のお腹の中の来年産まれてくる女の子が、不憫に思えて仕方がない。




