どしゃぶりの公園
鈴凛は宇多の街をめちゃくちゃに走り回っていた。
鈴凛は八咫烏の気配を感じなくなった。
「もうおってこない……」
近くにあった公園に入って、ブランコに座る。
雨がふってきた。
「これってただのわがままなのかな……」
ジタバタしている。
鈴凛は自分でもそれがわかった。
「本当はただ死にたくないだけなのかな……わたし……」
鈴凛は独り言を言って項垂れた。
「もうわかんない……」
雨が降ってきた。
「なんかいろいろ疲れたな……」
「……」
鈴凛は携帯で時間を確認する。
「もうすぐ交差点で交通事故の発生する時間……」
雨の音が強くなってくる。
「……行かなきゃ」
行きたくない。
まだ行きたくない。
交通事故に遭いに行きたくない。
「八咫烏の人たちが待っている……みんなに迷惑かかっちゃう」
立ち上がったものの足が動かない。
「未来妃を……周馬を守らなきゃ……」
「……」
行きたくない。
未来妃を周馬を守るために、行かなきゃいけないのに。
じぶんのクズさが嫌になる。
「……もうやだ……」
公園のベンチに座ったまま泣いていた。
本当のわたしって何?
これって言い訳を探している?ここにいる言い訳を……
何もかも嫌だ。自分の生まれも、これから周馬や未来妃との時間を失ってしまうことも。
自分自身も何もかも嫌だ。
自分の足元に穢レが見えた。
「……!」
こんなこと、考えるのも危険だーー。
「何やってんだよ」
傘がさされた。
「!」
気配に気づかないほどに、泣いていたのだろうか。
「周馬−−」
「どうした?」
「なんでも……ない……」
鈴凛は顔をぬぐって顔を背けた。
「毛利と喧嘩でもしたのか」
「……ほっといて」
「……」
「わたしたちは別れたんだから」
「何かあったんだろ」
「なんでもない」
「なんでもなくないだろ」
「!」
周馬は鈴凛の肩をつかんで、無理矢理目をあわさせた。
「……」
「やめ……て」
「……」
雨の中冷たい視線が降りてくる。
わたしは最低だ。
その瞬間思った。
ずっとこうしていてほしいなんて。
「……!」
この人に話したい。この人を誰にも取られたくない。誰にも渡したくない。
このままずっと一緒にいたい。それ以上欲しいことなんてないのに。
わたしの秘密を背負わせてしまいたい—
「!」
鈴凛も思わずその腕をつかんでしまう。
「……!」
すると周馬が鈴凛を抱きしめた。
「……周馬」
わたしの叫びを聞いてほしい。知って欲しい。
誰にも伝わらなくても。
この世界で周馬にだけに知ってほしい。
恐ろしい声が聞こえた。
美しい瞳が鈴凛を見ていた。
戦姫になんてなりきりたくない−−。このまま周馬と逃げてしまいたい−−。
いつまでも、いつまでも源鈴凛でいたい。
「なんで泣いてる」
鈴凛は迷ったが、小さく本当のことを言った。
「自分で自分がわからなくなって」
「わたしって何なんだろうって」
「……」
周馬は黙って先を促した。
鈴凛は迷ったがやんわりと戦姫のことに触れない程度に話したい衝動が抑えられなかった。
「お父さんの……秘密を知ってしまって……」
「……おまえの死んだお父さんか」
「わたしが思い描いていた優しいお父さんと、愛してくれないひどいお母さんっていうわたしの認識は違うんじゃないかって……」
「わたしが思っていたことは前提から何もかも違ってて……」
「それをもとにできてたわたしの人格って、いったい何だったんだろうって」
周馬はもう一度抱きしめてくれた。
「……」
鈴凛はポケットから取り出して、古い写真をみせた。
「わたしはお母さんの子じゃなくて、この人の子かもしれない」
「……!」
周馬は驚いた顔をした。
「わたし……」
鈴凛は言うのを迷ったが、今日は嘘をつきたくなかった。
「わたし……咲をむかし階段から突き落としたの……3歳か4歳のころ。可愛くて愛される妹が憎かったのか……昔すぎて、もう自分でもよくわからない……」
「だからもっと嫌われたと思ってた」
「でも、わたしはそもそもお母さんの子じゃなかったのかも。別の女の人の子かもしれない」
「だったら嫌われてあたりまえだよ」
「自分の子じゃない子が、自分の子を突き落としたら、許せるわけない」
「……」
「なんでお母さんがわたしを育てることになったのかもわからない」
「この人昔ずっとお父さんと一緒だったって。同じ学校で親戚の人が言っていた。この人との間に子どもがいて……それがわたしかも……お母さんは無理矢理自分の子じゃない子を育てさせられたのか持って。それなら何で育てたのって?」
「知りたいんだな」
「……」
「どうやったらそれがわかる」
「阿木の親戚のおじちゃん……」
「場所わかるのか」
「おばあちゃん……美鈴おばあちゃんの実家……」
「たて」
「え……?」
「乗れよ」
「え」
「いくぞ」
「え……?」
「今から」
今から鈴凛は死ぬ予定だった。
駅前の交差点へ行かなければならない。
「……!」
「でも周馬」
鈴凛は何かがうずうずとする。
「いま……から」
「今から」
周馬があっさり言うと、雨が止んだ。
「……」
「まだ電車あるだろ。宇多駅に−−」
「だめ!! 宇多駅前は……ちょっと……だめで」
「じゃあもう一つ先までチャリだな。それかもう少し先までチャリでもいい」
「……一緒にきてくれるの?」
虹がでている。
周馬と行きたい。
「ああ」
八咫烏の人たちに迷惑がかかる。
でも、行きたい。まだ、死にたくない。
「これは……重大な……間違いかも」
鈴凛は周馬の手をとって震える声で言った。
「なんで?」
怖い。計画をだめにしたらどうなってしまうんだろう。
まだ死にたくない。また死にたくない。まだ知らないといけないことがある。
周馬と知りたい。
周馬と自分を知りたい。
でもそれは周馬に迷惑をかけるかもしれない。
毛利就一郎は果てしなく怒るだろう。
「迷惑かけちゃ」
「迷惑じゃない」
「間違いかも」
「間違ってもいいじゃん」
「!」
「いこう」
「俺が」
「おまえのことが知りたいから」
周馬は鈴凛の手をとった。




