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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
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わたしのせい

「よかったじゃん?なんで暗い顔してんだよ。おまえはあいつが忌になるのに気がついて、しかもそれをくいとめた。めでたしめでたし、百点!最高! だろ?」

アイがコーラをガブガブ飲んでポテトチップを食べながら笑っていた。新しくかった豹柄のスニーカーを満足そうに眺めている。

夜中の二時、訓練のはじまりを待っている。毛利邸の後ろにそびえる笠山の展望台から二人は海を眺めていた。

「わたしだって馬鹿じゃない……」

野奈は自分のせいで忌になったのだ。

自分と関係があるからだ。

言いようのない悔しさが体中を這い回っていた。

「ああ?」

「野奈も毛利神社のことも……全部わたしたちがいるから」

何者かに振り回されている。

誰かわからない何者かに。

それがあの透明人間かはわからない。

柊木省吾の件、毛利神社の件、野奈の件……もしかしたら雪山も、もっと前の事件ももしかしたら……?

「だとしてもよ」

「おまえは忌になった来田を戻せたんだ。次に忌になったやつも、同じように一緒に地獄までダイヴしてちゃちゃっと連れて帰ってこいや。そんでもって、あたしが他の連中を食わねえようにこの火でサポートしてだな……」

「いつもできるわけじゃない。それにあれは……」

わたしの力じゃない。

最後の最後に、野奈が這い上がってきたからだ。

自分の意思で、生きることを選んだ。

「助けたわけじゃない」

「そうかよ、わけわかんねえやつだな……」

哀は適当に流して海を眺める。

「この山は展望には低すぎるな……毛利が火山活動でできたって言ってけどあれは無人島なのか。光が全然みえねえな……」

哀は思考放棄してそんなことを言った。

「……」

鈴凛は朝焼けで明るくなりはじめた海に浮かぶ島々を眺めた。

以前毛利就一郎が言っていた。この笠山もあの海に浮かぶ島々ももとは火山だったのだ。

地下のマグマでつながっている。

本当は全て繋がっている?

鈴凛はふとそんなことを考えてみる。

「考えてもわからねえこともあるだろ。何もわかんねえんだからよ。あんま考えんな。また薬中になるぞ」

哀は諦めろよと言ったふうに肩をすくめた。

「そうだけど……」

何もわからないことを利用されているのではないか。

鈴凛は考えることを放棄してきた。

毎日忙しいし、頑張っても答えがわかるわけじゃない。

「でも……」


でも思考放棄も恐ろしいことなのではないか。

飛鳥の言葉が返ってくる。


わからないことをわからないままにするな


「わたしはどこから……自分の現在地をみつけたらいいんだろう……」

蛙介が周りに振り回されてばかりだと言った。

本当はもっとひどいのだ。

「なにもわからない……馬鹿だから……?」

自分は馬鹿みたいに、誰かの上で踊らされている。

その掌のまわりで人々は殺されているのだ。

「もし誰かがわたしの周りの人たちを次々に忌にして楽しんでいるのなら−−」

鈴凛はぽつりと思い付いたことをつぶやいた。

「陵王か?」

「わからないけど……透明人間はつきわ湖公園地で野奈に何か食べさせたようにもみえた。それこそ飴みたいな……」

「もしかして、それ、ココがやってた薬か? じゃあ蛙介が言ってたみたいに、忌は誰か……いや陵王が意図的に忌をつくってるってことか? まてよ? じゃあ陵王とアメリカがグルか」

哀は飛び起きた。

「よし、じゃあ間狸衣を縛り上げて……でもあいつほんと下っ端だからなあ。何も知らないだろうな。マリオってやつのことを信じ切ってるんだよな。百合おしのくせに……なんでオッサンに騙されてんだか」

「わからないね」

「わかっていて、できることがひとつだけあるでしょう」

毛利就一郎を先頭に八咫烏のメンバーがやってくる。

毛利就一郎以外、重くるしい表情だった。

「なんだよ、揃いも揃って……」

「……」

「この街を出ましょう」

毛利就一郎が真顔で言った。

鈴凛は心臓がドクンとした。

少しだけ風がふいて、伸びてしまった鈴凛の長い髪を巻き上げていった。

「この街にはもういられない」

佳鹿が首を横にふる。

「え……いられねえつったって……」

哀が突然のことにびっくりしてポテチの袋を落とす。

「連続して事件が起きすぎているわ」

佳鹿が言った。

「おまえら……何……勝手に決めてんだよ……」

「上からも、離れるように要請がきてしまいました」

間狸衣が言った。

「上って誰だよ?照日じゃねえんだろ?」

「……IUの上層部です」

「おいおいおい、ちょいまて。おまえら八咫烏は戦姫の下僕だろ。勝手に決めてんじゃねえよ」

「……実務レベルでIU全体の決定権があるのは素戔嗚様よ」

「あの人が−−?」

鈴凛は体がから力がぬけた。

蟻音は重苦しい顔をして何も言わなかった。

「連続で忌の発生が三度もこの宇多でおこってる。それに……日本で穢レを抑えているはずなのに規格外の忌が発生しすぎなのよねい。新人戦姫が戦っていいものじゃないわよ……あんなもの」

佳鹿が肩をすくめた。

「でも一番はきっとつきわ湖公園地に陵王が現れたことっすね」

蛙介が言った。

「……」

毛利就一郎が鈴凛の正面にきて顔を突き出した。

「百姫様もお気づきでしょう?」

「……」

「陵王は百姫様の正体を知って」

「……!」

「この街にいるんですよ」

「……!!」

「でも……どうして……」

鈴凛は震える声でそう言うしかなかった。

「拘式谷で百姫様は人間の時に陵王と会っています」

翔嶺が小さく言った。

「陵王がこの街にいて……鈴凛が百姫だと知っているとしたら、じゃあなんで、グサっとふいをついて、駅前とかで刺しにこないんだよ? なんで戦姫のあたしらを殺しにこねえんだよ?おかしいだろ」

「それはわかりませんが……とにかく」

「百姫様の周辺人物に影響が及んでいることは事実でしょう」

鈴凛は懸念していたことを毛利就一郎はつらつらと述べている。

「まてまて!でも、こいつが照日と青春の約束をだな……」

哀は宇多での生活を気に入ってきたのか、全力で嫌がっていた。

「おい、鈴凛、黙ってねえで、なんかいいかえせよ」

鈴凛は何も言葉がでてこなかった。

嫌だという気持ちと、そうするべきだという理性が戦っている。

「さすがに、あれを見て、お友達を犠牲がでないと思うほど馬鹿じゃないですよね?」

「……!」

周馬や未来妃から離れる。

それが一番安全。

それはわかっている。

だけど鈴凛はそれが、どれほど自分の人生をつまらなくするかわかっていた。

「わたし……」

一同が黙った。

「あたしはてめえのクソ話術にゃだまされねえぜ!! 近くにいるから守れるって話もあるだろうが!下僕のくせに勝手に決めやがって、ガキじゃねんだぞ」

哀が怒り狂って毛利就一郎のむなぐらを掴む。

わたしたちは戦姫だ。だが結局は何もわからない子どもで、大人の顔をした彼らの決定に従うしかない。

「おやおや……まさか……煌姫様が抵抗されるとは」

「あたしは今、くそ学校が楽しいから引っ越すなんて、ぜってー、嫌だ。だが断る!!」

「……」

「だいたいてめえら、八咫烏っていう下僕の身分をわきまえろ。だいたいあたしらは戦姫。半分神だぞ。それにとんでもねえ大変な仕事をしてんだ。どこに住むかくらいーー」

「他の戦姫はそんな我儘言っておられませんよ? 全てをかけて与えられた領地を守っているんです」

「あいつらは、もう自分の人生終わった、隠居ババアだろ」

「なんてひどい……」

間狸衣が小さく感想を述べる。

「戦姫の修羅の対価、それは高天原でのお姫様待遇ですよ。高天原で散々、お姫様扱いしてもらえてるんでしょう?」

毛利就一郎が意地悪く笑う。

「鈴凛!おまえもこのくそ猿に言い返せ!こいつら調子のってんぞ!」

哀は鈴凛をゆさゆさとゆすった。

それでも、自分のせいで未来妃や周馬を失ったら?

野奈みたいに忌にしてしまったら?

また助けられる保証はどこにもない。

自分に絶対助ける自信があるのか?

「わたし……」

「百姫様は異論はないようです。みんなで引越しますよ。この街の方々にはもうかなり玉手匣を使いすぎていますし」

「でも、引っ越すってどこにだよ」

「僕の大学、三重なんてどうです? それか広大な土地がある北海道でも。忌討伐に便利そうじゃないですか?それか沖縄の島とか」

「却下。田舎すぎるとタイムリーに物が手に入らないよ」

鯆多丸が言った。

「あたしは引っ越さねえぞ」

哀はまだ怒っている。

「おまえもなんか言えよ!」

鈴凛は否定したいが、言葉がでてこない。

野奈のことが頭にこびりついていた。

「もしあれが周馬や未来妃だったら」

あの時、野奈が自分で登ってきてくれなかったら?

「あいつらは心を病んでないだろ」

「哀だって、ユカちゃんが心配だから東京においてきたんでしょ?」

鈴凛はずっとわかっていたことを言った。

八咫烏のメンバーも哀も急に静かになる。

「それは……」

哀が何も言えなくなってしまう。

「それは……でもそんな急に言われても!! 荷物はまとめてねえし……」

「ご安心を」

「引っ越すのはわたしたちだけです」

「は……?」

「あなた方二人には、さくっと死んでもらいます」

「はあ?!」

「源鈴凛と黒井哀には社会的に死んでもらうだけです」

「偽装死かよ」

「おまかせください。完璧なプランを練りますから」

毛利就一郎は目をキラキラ輝かせていた。

「おふたりの華々しい最後ですから、ちゃんとしたものに」

「おまえなんか喜んでねえ?」

「二人同時に消さないといけいないし、やっぱり事故死ですかね……こないだのことで百姫様については難病の伏線はってありますから……病死ってのも……あ、あのダッチワイフどこにしまったかな……」

毛利就一郎が楽しげに考えた。

「……」

「鈴凛ちゃん……本当にいいの?」

蟻音が遠慮がちにやっと口を開いた。

「わたしのわがままでみんなをもし忌にしてしまったらって考えたら」

「いなくなったほうがいいですよね?」

毛利就一郎が続きを言った。

「いなくなったほうが……」

「残された人たちは?」

蟻音が小さく嫌味を込めたように言った。

「突然の死だって、人を傷つける」

「……!」

「未来妃ちゃんは−−、君の近くにいる人はーー?」

「……」

「それに……源鈴凛はただの名前じゃない」

「!」

「鈴凛ちゃんは鈴凛ちゃんだよ」

蟻音がそう言うと、鈴凛は涙が溢れそうになった。

「……」

拘式と翔嶺はだまって静かにしている。

「はぁ……蟻音さん……」

毛利就一郎がふるふると首を横に振る。

「この人は、そもそも自分であの美東橋から死のうとしてたんですよ? 本来あの時、源鈴凛は死んだんです。それに親友が自殺したより突然死んだというのは、彼女にとってはマシなニュースでしょう? 百姫様は文句が言える立場じゃないと思いますね……」

毛利就一郎が邪悪に笑っていた。

「青春の日々は大切なものだよ、彼女が長く生きねばならないのなら尚更」

「でも反対なのは蟻音さんだけのようです」

「……」

「日取りなんですけど、8月、つまり来月はどうですか」

毛利就一郎は手帳をぱらぱらめくっている。

「ら……来月?!」

哀が頓狂な声をあげる。

「善は急げでしょ」

「善じゃねえだろ!」

「いいですね?」

毛利就一郎が鈴凛に向き直った。

「……わかり……ました……」

「本当にいいのか?わかってんのか、あいつらともう会えないんだぞ」

毛利就一郎の言いなりになんてなりたくない。

でも鈴凛は勢いがなければ、誰かに決めてもらわなければ決断ができないのも事実だと思った。

「そんなに簡単に決めていいのか?」

「楽しくて楽しくて……」

「でも」

「哀だってそうしたでしょ」

「ゆかちゃんを東京に置いてきた」

「それって大切だからでしょ?」

わたしより大人だから−−

「……!」

「わたしは大切なものを守ってない。大切なのに守ろうとしていない」

鈴凛は泣いていた。

「……」

哀の表情が歪んで何かを堪えていた。

「あれだけしつこくこだわっていたのにいいのか」

拘式は最後に小さく言った。

みんなが無事に大人になってほしい。それぞれが生きてほしい。死んでほしくない。

それが当然の選択だ。



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