友達なんかじゃない
「お……おい……」
「ひい……!!」
間狸衣が尻餅をつく。
「おいおいおい……」
一人、また一人とお菓子の城に吸い込まれるように人々が入っていく。
「このままじゃ全員クッキーにされて食われちまうぞ」
館はそれにあわせてじわじわと巨大化していく。
「こっちにまで現実改変してくるなんて厄介ね」
「中にはいってやっつけてくるしか……」
「いくな!食われる!」
アイも鈴凛も何人も引き止めるが、みな入っていってしまう。
「でも、中にはいって、なんとかしないとこのままじゃ……」
「おまえがいけ」
拘式が鈴凛をみる。
「え?!」
「おまえは不死身だろ」
「え、いや……でも」
クッキーにはあまりなりたくなかったし、食べられるのも嫌だった。
「でもあたしの右手はもうこんなだし!」
哀がクッキーになってしまった手首から先を必死に守りながら走っていた。
そうこう騒いでいると、ばんっと音がした。
「わあ!」
「なんだ」
ビスケットとチョコレートの扉ががしゃんとくずれて、おおきなブーツの足が飛び出してくる。
「わ!」
次に透明のキャンディできた窓を突き破って、巨大な白い手が出てきた。
可愛らしいふりふりの衣装をつけた巨大な腕と足が館のドアと窓からはみ出している。
太さは人間を五人くらいたばねたほどある。
「まさか……食って……中で巨大化したのか」
お菓子の城が揺れて動き出す。
ぐらぐらと地面が揺れて、建物が地面から剥ぎ取られた。
「うそ……でしょ」
巨大な影が伸びてくる。
お菓子の家というよりもはや巨大な城とも言えるほどの大きさから手足が生えて立っていた。
「くそでかいな……」
−−規制線を拡大
−−異界展開範囲を確認
なんでこうなってしまったんだろう。こうなることははじめから決まっていたのだろうか。
「ぐ!!」
巨大な足が公園地の建物を踏み潰している。
足を動かすたびに地面がどしんどしんと揺れた。
「わわわ」
「はやくなんといかしろ!!」
拘式が必死に体制を立て直しながら叫ぶ、
「なんとかって」
「心臓だ心臓!」
「どうやってあんな上まで」
全員が巨大な足に踏み潰されないように逃げ回っていた。
「しかもあの城の鎧の中だろ」
「所詮菓子だ」
「でもどこが心臓かわからないし、一度投げたらもう取りには……」
「避雷針は?」
「公園地には高い建物はない。つまり避雷針はない」
「おまえなんでこんなとこ連れてきた!」
「だって人がいないとこっていったから!」
「言い争っている場合じゃない!!おまえたちのどっちかがやるしかないんだ!」
「口だけやろう!!できるならおまえが止めてみろっつうんだ!」
哀が拘式に悪態をついていた。
「ん?!」
お菓子の城になった野奈手が地面から生えていたキャンディのステッキをもぎ取るとふりかざす。
「え……そんなの……あり?」
魔法のように茶色い球が空中にグルグルとできあがる。
「うわー!!」
それを鈴凛たちめがけて飛ばしてくる。
べっとりと何かが体につく。
「クソ強いじぇねえかよー!!何なんだ!!」
「熱い!!」
「チョコ爆弾を投げてきやがった!」
「しかもこれ熱い!!」
「わ、チョコが固まってる!!」
チョコレートは凄まじい速さで固まっていく。
「くそ!」
「動けない!!」
巨大なお菓子の城はがにまたで丘を飛び越えた。
「ああ!野奈が公園から出ていっちゃう!!」
「なんとかしろ!!」
「なんとかって……」
鈴凛は必死に頭を巡らせる。
何も思い浮かばない。
「鯆多丸!他の戦姫に応援要請かけて!!」
佳鹿が叫ぶ。
「まて」
拘式が空を見上げた。
「あれは……?」
「鳥?」
「陵王……?!」
「陵王……?あれが……」
哀も驚いて上を見上げる。
巨大化した野奈はそれを捕まえようと、手を伸ばした。
まるで幼児が蝶にたわむれるような穏やかな静寂が訪れる。
空から光がさしていた。
「助けに……来てくれたのか……」
「まさか八十神でしょう?」
「強い穢レを狙っているのよ」
「これもあいつの仕業じゃないの」
鈴凛ははっとする、あの透明人間は陵王だったのではないか−−
「あ!」
陵王はばっと六枚の翼を大きく広げると。すきをみて、飛んだまま二枚の翼で城の屋根を拭きとばす。
「!!」
野奈の巨大化した顔がでてきた。
「あ……」
それはもうクッキーの肌に、ボタンのような飴玉の目がついたお菓子の人形のような姿だった。
「野奈……」
もう人ではなくなっている。
どこかでわかっていたが、鈴凛はやるせない気持ちになる。
結局あの子たち全員を自分が殺すのだ—
だとしたら、自分といじめていたあの子たちとどっちが酷いっていうんだろう−−
陵王はそのまま野奈の首を締め上げる。
でも、鈴凛ちゃんみたいになりたかった
あの言葉が返ってくる。
「やめて……」
わたしたちは全然ちがう。
ちがう。
わたしたちは、そんなに変わらない。
かっこいい男子に憧れて、自分に自信がなくて、少しでも可愛くみせたくて、闇を止めることができなくて、弱くて、素直じゃなくて、助けてって言えなくて−−
「石……」
「あれで穢レを」
「穢レを集めているのか……」
「やめて!!」
「止めなきゃ」
「え?」
「哀、熱で溶かして!チョコレートなら熱でもう一度とける!!」
「え、でも」
「あのままにしておけ、方法がいかんにせよ止めるしかない」
拘式が制する。
「だめ!!野奈は殺させない」
「でもあの子はもう−−……」
「……!」
「はやく!!」
「左手だからあんま調整がきかねえぞ」
哀が手をかざすと
「熱い……」
「でもやって」
陵王は野奈の攻撃をよけながら、小さな石のカケラのようなものを持っているのがみえた。
「あれは……」
それはマリオンの忌を異界へ還したもだった。
「やっぱり穢レの角を咲かせるつもりね」
「溶けてる……」
皮膚がじりじりとする痛みがする。
「野奈はまだ−−」
「熱い!でももっとはやく」
「どうなってもしらねえぞ!!」
「ぬけた!」
ずぼっと足が抜ける。
「その人はまだ死んじゃだめなの!!」
鈴凛は足の痛みを抑えながら、お菓子の城を登り、首のところにいる陵王に叫んだ。
陵王は黙ったまま鈴凛を見下ろしている。
巨大な野奈も必死に手で陵王に抵抗していた。
「やめてってば!!」
陵王の翼を切ろうと刀を振り下ろすと、バチと鈴凛の神刀が音をたてて交わった。
「……」
陵王が冷たくこちらを見た気がした。
「その人を殺さないで」
太刀筋はあの雪山で鈴凛の首を切ったものと同じように感じた。
陵王が翼をたたんで、お菓子の城の野奈の肩に降り立つ。
「やめて」
陵王は面白いと言ったふうに指先で招いてみせた。
石をとれるものならとってみろ、そう意味しているのがわかる。
「な……!」
鈴凛も足元を蹴り上げて、肩に登る。
「……」
二人は見つめ合ったような気がしたと同時に走り出す。
石をとるには、陵王に怪我を負わせるしかないだろうと鈴凛はわかっていた。
「!!」
鈴凛が刀を振り下ろすとと、陵王にそれをバチで受け止められた。
「え」
鈴凛が足で蹴りをいれようとすると、それを陵王が左手で受け止めていた。
「え、両手は−−……な……持ち替えて……」
両手でもっていたバチには片手で持ち替えている。
あいたほうの手でぐわんと逆さにされると、鈴凛は持ち上げられて、投げ飛ばされた。
「く……」
「あ!」
陵王はかまわず野奈の額へ石を投げる。
「ああ!!」
それはすぐに芽をだしはじめる。
−−ぎゃあああああああ
野奈が猛烈な悲鳴をあげて二人を振り落とそうとする。
猛烈な揺れに鈴凛は必死に捕まった。
「!!」
野奈は頭を抱えるようにして暴れはじめる。
「わ」
野奈の手が鈴凛を掴んだ。
「うああああああああ!!」
口に放り込まれていた。
「!!」
どこまでも闇に落ちていく。
真っ暗な城の腹の底まで落ちていくようだった。
「く」
捕まるところはどこにもない。
できることは何もなかった。
鈴凛は永遠に落ち続けていた。
何もできなかった。
ひゅうひゅうと不快な重力が体を抜けていく。
これじゃあ、上田三枝が救われない。彼女を命をかけて守ったのに。
あの想いを無駄になんてしたくないのに。
「わたしたちは……たいして……本当は……変わらないのに」
そういうと、小さな光が底に見えた。
「底……?」
カラフルな砂ような石のようなものが見えてくる。
巨大なすり鉢状になった底は砂糖とお菓子で溢れており、ぐるぐると回転しながら中心に巻き込まれていく。
「流砂……?ここは……精神世界?」
中で現実と精神世界が繋がっていたのか?
「わ……!」
鈴凛はどさりと落ちた。ゆっくりと砂はそこに吸い込まれていく。
鈴凛は上を見上げる。
小さな星のような光がみえた。
「あれが口?」
必死に吸い込まれないように、うもれる足を動かした。
「どこかに捕まって登らないと……」
「……」
鈴凛は何かに後ろ髪をひかれるようにして振り返った。
飴玉の流砂の中心に何かいる。
「野奈……!」
「きちゃ……だめ……」
野奈は弱々しくいった。
鈴凛は駆け降りると、必死に砂糖の渦をほった。
「今掘り出すから!!」
野奈の体は腰からしたが埋もれている。
「だめだ……」
ほってもほっても徐々に吸い込まれていった。
「もういいの。楽になったから……」
「なんで」
そこにはただ肉体から解放されて幸せそうな表情の野奈がいた。
「もういいの……」
素直さが旅立ちをより強調した。
「だめだめだめ!!ちがうちがう!!」
鈴凛は叫んだ。
野奈は肩ほどに埋まっていた。
「野奈!!手をだして!手をつかんで!!」
野奈は手をとらない。流砂の中に沈んでいく。
「わたしなんか助けなくていいのに」
「……」
「わたしたちはほんと全然ちがう」
野奈がつぶやいた。
「野奈……」
「憎くて勇吾に言ったの……美術室にあった勇吾の彫刻……壊したのは鈴凛ちゃんだって本当は自分が嫌いなのに……もう勇吾を止められなくて……」
「!」
「それからいじめは毎日どんどんエスカレートして」
鈴凛は信じられないことを知った。
「周馬くんに嫌われて当然だよね」
「わたしが……柊木勇吾の彫刻を……?」
鈴凛は思考停止する頭を奮い立たせる。
それがいじめの原因?
いやだとしてもそんなことであれほどのいじめを−−
「ああああ、今どうでもいい。それどころじゃない!!」
野奈のあごのところまで砂がきていた。
鈴凛も気がつけば腰まで埋まっている。
「誰か助けて!!」
そう思った時、赤い糸が上にむかってぴんと伸びた。
「やった!これをロープにして……わ」
すながぼこっと落ちて、足場が一気になくなった。
流砂のそこにふたりは飲み込まれていた。
「く……」
糸でふたりが何もない空間に宙吊りになる。
お菓子の砂がパラパラともっと深い闇に落ちていく。
「野奈……しっかり掴んで……」
鈴凛は左手で糸を掴み、右手で野奈を掴んでいた。
「……!」
砂のそこは抜けて、果てしない闇が広がっていた。
あの先は隠世—死の世界。戻れない。
鈴凛にもそれがわかった。
「もう疲れたの」
「本当はね」
「ずっとわかってたんだ……」
「野奈!!しっかりつかんで!!しんじゃだめ!!」
鈴凛は叫んでいた。
「周馬くん鈴凛ちゃんをみてた」
あの商店街で忌に引き寄せられた時にどうして気が付かなかったんだろう。野奈も疲れていたのだ。あの時から心が弱っていた、不安で押しつぶされそうになっていたのだ。
「ずっとずっと前から」
「野奈……」
異界への門が開いていた。底なしの闇が見えた。
死者の世界が野奈を連れて行こうとしている。
野奈の体がどんどん重くなる。
「心が透明で透き通っているみたいな鈴凛ちゃんをみてた」
「……」
「ずっとわかってた。いやでも大好きだから気がついちゃう」
「わたしに生きている価値なんてないの」
「!」
「違う! 野奈は可愛いよ! 生きてる価値あるから!」
違う。言いたいことはこんなことじゃない。これじゃおうむ返しで、こんなことで引き止められるわけがない。
何て言えばいいんだろう。
どうしたら帰ってきて−−
「死んだら許して……」
「バカ言わないで!! 死んだら許さないから!!」
このままだなんて。許せない。
鈴凛は必死に掴みながら、ライブハウスで未来妃が自分を必死に掴んでいたことを思い出した。
「わたしだってあの市場で野奈を冷蔵庫に入れて助けたくなかった! わたしだってずるいの! 野奈を利用して周馬を窓からずっとみてた! 柊木優吾がいじめてたから周馬がわたしを助けてくれて友達になれたの!」
「みんな醜いながらも、がんばってるの!!」
「周馬が好きなら、咲みたいに本気で取り返しに来ればいいでしょ!!」
鈴凛は叫んで泣いていた。
「あんたは可愛いんでしょ! 学校のアイドルなんでしょ! 三枝ちゃんはあんたは特別だって! あんたのために死んだんだよ!それほどあんたは可愛いんでしょ!!」
「あんただってわたしと変わらないくらい弱虫のくせに!!」
鈴凛は叫んではっとした。
「三枝ちゃんだってまだ来てほしくないにきまってる!!」
「三枝……?」
鈴凛の中にある記憶が野奈に流れ込んだのがわかった。
三枝が野奈の髪をといている。
「野奈は特別だから」
上田三枝の懐かしい声がした。
「!!」
野奈の髪を解いていた櫛がどこからともなく現れる。
あの子は特別だから
下から声がする。
「死者の声……」
それは鈴凛がかつて商店街の事件の時に見た映像だった。鈴凛の中を一緒に野奈が見ていた—
綺麗な野奈の髪を三枝がといていた。
三枝は本当に編むのが上手だね いつも可愛く結んでくれる
野奈が特別にかわいいからでしょ
違うよ
三枝が、器用だし、野奈に似合うもの選んでくれるから
ねえいつか二人でテレビの世界へいこうよ
三枝ならみんなを可愛くできるよ
いつか三枝に野奈もコーディネートしてほらってステージに立ちたい
それすごく楽しそう
テレビの世界にいこうよ
ね、約束!
「三枝……」
「野奈……?」
野奈がぶらんとなっていた反対の手で鈴凛の服をがっと掴む。
「!!」
「まだ……」
「……!」
野奈は顔をきっとあげる。涙で真っ赤になった目、かんだ唇。
汚れた顔。それでもその眼差しは意志に溢れ凛としている。
鈴凛が今までにみた一番美しい野奈の表情がそこにあった。
「わたし……まだ……」
「……下からの風……?」
野奈の目は何かを捉えたように、生命力に溢れている。
「いかなきゃ」
「!」
ココの時と同じ。
異界から優しい風が噴き上げる。
掴んで
死んだ上田三枝の小さな声がする。
鈴凛が上をみあげると、上の砂のなかにキラキラとした何かがちらりとみえる。
「!?」
上田三枝の声がする。
掴んで欲しい
野奈が鈴凛の足に足をかける。
「わ!!?」
野奈は必死に体制を整えながら、鈴凛にしがみつく。
「生きたい」
「……!」
生きている楽しさを
「もう一度……」
そう、もう一度
わたしたちの夢を
野奈は鈴凛の体をよじのぼろうとしていた。
それでもうまくいかない。
鈴凛はふっと笑いがこみあげてきた。
「ほんとなんなの……」
「ごめん」
「いくよ!!せーの!!」
鈴凛は必死に力を腕にいれた。野奈の足をふんっと持ち上げる。
腕の筋肉に、腰に全ての力を入れる。
「登って!!」
野奈が砂底に頭を突っ込む。
「もうちょっと!!」
「ぐえ」
野奈の革靴が鈴凛の顔面を踏みつける。
「んもうーーーー!!」
野奈が登ろうとじたじたしている。
「あなたたちなんか、だいだいだいだいだ大っ嫌い!!」
鈴凛は必死に野奈の尻を押し上げた。
野奈がキラキラとするものを上で掴んだのがみえた。
上田三枝の小さな櫛だった。
*
ひゅうひゅうと風が吹いている。
鈴凛は目を覚ました。
−−グア!ガア!
白と黒と黄色の顔をした鳥が鈴凛をつついている。
池の真ん中の浮島で鈴凛は白鳥たちに囲まれていた。
「どうなったの……」
「……陵王は……どうなった……」
「!!」
鈴凛は素っ裸の野奈を掴んでいた。
「野奈?!」
「!!」
生まれたままの姿の野奈がすうすうと寝息をたてている。
「……戻ってる……」
鈴凛は野奈の頬にそっと触れた。もうお菓子でできていない。
柔らかくて暖かい。
「……息……してる……」
「……」
静寂が聞こえた。
「野奈……人間に戻ってる……」
−−おーい
「救えた……でもなんでふたりとも裸……」
−−おーい!!
スワンボートが近づいてくる。
「鈴凛」
「ええ?!」
「来田野奈が人に戻ってる!!」
「まじで?!」
メンバーは衝撃に満ちた顔をしていた。
佳鹿が服を投げる。
「なんで服きてないのよ、あんたまで」
「てゆうか」
「うそだろ。怪花したら、戻れないんじゃ……」
「なんで裸……」
「来田野奈も蘇った……?」
野奈は大事そうに何かを包んでいる。
「あ……」
「これ三枝ちゃんの櫛なの……」
「青雉の?? なんで青雉の櫛が今ここに?」
毛利就一郎がわけがわからないといったふうな顔をした。
「わからない、異界でみただけで、現物をみたのははじめてだけど……」
「これを掴んだから、野奈が死の世界から戻れた気がした」
「インカネーション−−……」
拘式が小さく言った。
「インカネーション……? そうか……何もないところから肉体を生み出す。まるでそうですね」
間狸衣も小さくつぶやいた。
「ん、じゃあこの子の新しい肉体もこの櫛も、あんたが作ったってこと?」
「なるほど」
「不死というのは……何度も生まれてくるということだったのかもしれませんね……」
翔嶺が小さく言った。
「これってすごいことなんじゃ」
「忌は……人に戻れる」
「……?!」
「え……まじかよ……」
「これはすごいことですよ!! いままで殺す必要があった人間たちが救えるとわかったら」
「素晴らしいことですよ!」
「最悪なことになります」
間狸衣と毛利就一郎が同時に言った。
「え?」
「どうするんです、これじゃあ殺していい時とダメな時の線引きが必要になるじゃないですか。まったく実務が煩雑になりそうで」
毛利就一郎は不満そうに言った。
へっくしゅんと野奈がくしゃみをする。
「よかった……でも……まだ少し心配」
「そうだね……たぶんこのままじゃだめだ」
蟻音が言った。
「え?」
「今はよくても」
「摂食障害は決意じゃ治らない」
「どうすれば」
「まずは体から治さないと」
「病院に連れて行こう」
「病院?」
*
鈴凛は野奈の家に行った。
「あなたはどこの子?」
「お願いです。野奈を病院へ入れてください」
「!」
「もう限界だから」
それで助かるかわからない。でもやるしかない。
「病気じゃないわ。どこも悪くないってお医者様は……」
母親は濁すように言った。
「心だって病気になるんです!! 自分じゃもういっぱいいっぱいなんです! 誰かが助けてあげないと、自分じゃ病院に行けない」
「精神病院なんて」
「それは悪いことじゃないし、恥ずかしいことでもない。今やらなければ娘さんは死んでしまいますよ!」
「……あなた……誰なの」
「わたし野奈ちゃんと同じ学校の……恋のライバルで……野奈ちゃんにいじめられてて……いろいろ……」
「……!」
母親は驚いた顔をした。
「でも心がどれだけ悲鳴をあげているかは、今は……わかるんです」
「野奈ちゃん……大嫌いだけど」
「……」
「お金が無いならわたしが出します」
鈴凛は自分でも驚くことを言っていた。
「あなたがやらないならわたしがやります」
「ありがとう。そうね……そのほうがいいのかも。……ありがとうあなたは友達なのね」
「友達……いや友達じゃないです」
「!」
「ただの同じ男の人を取り合った……ライバル……です」
鈴凛は走ってその場を去った。




