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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
91/178

つきわ湖公園地

野奈は駅前まで自転車でいくと、青いネオンの店に入っていく。

「あれ……」

コンビニで大量のお菓子などを両手いっぱいに買い込むと、とあるビルに入っていく。

「ネカフェ……また掲示板で見るつもりだ……」

鈴凛は中に入って野奈を追いかける。

「あの……ちょっと!」

店員があわてて制するのを鈴凛は無視した。

「ちょっと……」

「まだやってる」

ブースをいきなり開けた鈴凛を見てぎょっとしている。

「?!なんでここに」

野奈はコンビニで買ったものをむさぼり食べていた。食べかすやゴミが散らかっている。

「……」

「なんでここにいるの。勝手にはいってこないで!」

「ちょっと勝手に入らないで……」

店員がゴニョゴニョ言っている。

「すぐ出ますから」

鈴凛はきっと店員を睨む。

「食べれるんじゃん」

「全部……あとで吐くの」

「……!」

「出て行って」

野奈は背をむけてパソコンのスイッチを入れた。

「ネットなんかみないで。逃げられるものに自分から飛び込んでいく必要ないでしょ……」

鈴凛は嫌味を込めた。わたしはあなたたちのいじめから逃げられなかった。

「はやくでてってよ」

「……」

「でて……」

「パソコンもケータイも禁止!」

鈴凛はパソコンの電源を切って携帯電話を取り上げた。

「ちょ!なにする−−」

ピアスから佳鹿から連絡がくる。

−−人が多い場所からは離すべきよ 忌になった時のことも考えて

「外の空気吸うよ」

「はあ!なにすん」

鈴凛は野奈をひっぱって立たせる。

「広い場所……広い場所……」

ネットカフェを出て、駅前を歩く。人があまりいない場所……

「……」

「離して!! いい加減にして!! 鈴凛ちゃんに関係ない!! つきまとわないで」

「……」

鈴凛は無視してひっぱって歩く。

「わたしの苦しみなんて……鈴凛ちゃんにわかるわけないよ……」

「……」

「鈴凛ちゃんは……いいよね……周馬君とつきあえて……毎日楽しくて……わたしの気持ちなんて−−」

「……黙って」

鈴凛はイライラとする。

「ほっといてよ……」

「……」

こっちだって野奈に構っている場合ではない。周馬と未来妃の心を守るために、残り少ない時間で二人をくっつけてうまくフェードアウトしないといけないのだ。

最後の夏を楽しまなくてはいけないのだ。

色々な感情を押し殺して、戦姫をして、みんなを守らなきゃいけなくて−−

「鈴凛ちゃんは恵まれているから」

「黙れ!!」

鈴凛は野奈の胸ぐらをつかんだ。

「……!?」

「わたしが恵まれてるって?? あたしはあなたのせいで学校で毎日死にたい思いで学校いってた。あの妹のせいで家にも居場所がなかった。学校にいくしかなかった。それがどれだけ大変だったかわかる?!」

「……!」

「死ぬほどつらかった、そのせいで自殺しようとしてとんでもないことになった」

「とんでもない……こ……と」

「それなのに、あなたは何なの!! 心配してくれる親がいるのに、痩せたいとかもっとみんなの人気者になりたいとかで勝手に病んで。知りもしない人にあれこれ言われたからって! そんなもの見なきゃいいでしょ!!」

「……!」

「とにかくわたしに従ってもらう。従わなくても無理やり連れていく。縛り上げて担ぎ上げてでも、連れていく」

野奈は鈴凛の気迫にぎょとしていた。

「とにかく、一緒に広ところにいかないといけないの」

目の前をちょうど観光用の広告ラッピングバスが走っていった。

「そうだ。つきわ湖公園地−−!」

「は?」

「今からつきわ湖公園地いくよ」

「はあ?!」

つきわ湖公園地。彫刻が散らばる芝生の広がる広大な敷地と、小さな遊園地と小さな動物園とが併設された宇多市の観光スポットである。昔は炭鉱だった穴を湖にした巨大な公園だった。

バスでは二人は一言も口をきかなかった。

「全然食べれなかったし……」

「こんなところ、こども遠足か、老人の散歩でしかこないよ」

「とにかく歩くよ」

緑が溢れる公園を歩いて回る。

「暑い……」

野奈は体力もないのかフラフラとしていた。

鈴凛は公園につくと自動販売機でジュースを買って渡す。

「これでいい?」

「……こんなの飲めない。砂糖多すぎ」

「あーもう……めんどくさい……」

鈴凛はお茶に買い替えて渡す。

「なんでまだ痩せたいの。十分痩せてるじゃん。十分可愛いし。何の文句があるんだか」

「全然十分じゃない……こんなんじゃ外歩けない……」

「はあ……ネガティブ……」

そう言ってふとおかしな気分になってくる。

ネガティブの代名詞はこのわたしだったはずなのに。

鈴凛は妙な気分だった。

鈴凛は項垂れた野奈をみる。以前は教室でまったく逆の絵をしていた。

野奈がこっちを見下ろして、鈴凛は目をあわせられず下を俯いていた。

「……」

あの頃、わたしたちは全然違うと思っていた。

世界は残酷で立場はすぐに逆転してしまう……?

野奈は姿勢悪く縮こまって、下ばかり向いている。何もかもを恐れて自分を抱きしめるように腕を回してベンチに体育座りしていた。


そもそもはじめから、わたしたちはーー


鈴凛はふるふると頭を振る。

「このままじゃわたしの学校生活が全部終わっちゃう。はやく元気になってくれないとわたしが一番困りそう」

「……あっそう」

野奈は適当に返事をした。

鈴凛もそう言いながらも、じゃあどうすれば野奈の心が救われるのかわからなかった。

「鈴凛ちゃん周馬くんと付き合って、変わったよね」

それは周馬のせいではなくて、戦姫になってあまたの死線を……というか何度も死ぬほどの目にあったせいだろうと思ったが、その真実を教えるわけにもいかない。

そしてふと思いついたことが口から出た。

「野奈、周馬と付き合えたら元気なるの?」

鈴凛はストレートに聞いていた。

「……なにそれ、超ムカツク。自分が周馬君に愛されてるから取られると思ってもないくせに」

野奈は低い声で疲れたように言った。

鈴凛はやってしまったと思った。

「ほんっと、ムカつく……」

鈴凛はなつかしの無神経で野奈の感情を逆撫でしたようだった。

鈴凛ははっとして突き返されたジュースのボトルを見た。

「……」

鈴凛が渡したジュースは「洋梨微炭酸」だった。

野奈といるといつもこうなる。

鈴凛ははあとため息をついて、つきわ湖を眺めた。あいかわらずスワンボートは閑散としており、巨大な湖に一羽か二羽しかでていない。

「ごめん」

鈴凛はふと謝ってしまう。

「どうでもいい……鈴凛ちゃんと別れたって……わたしが周馬くんと付き合うなんて絶対に無理にきまってるから……」

「はあ?」

野奈はうずくまってしまった。

鈴凛は驚いた。ここまで落ち込む必要があるだろうか。今まで散々学校のアイドル面していたのに、あの自信はどこにいったのかと思った。華やかなグループの中庭劇場を見せつけて、いつも鈴凛にいいでしょ?と言いたげな笑みを浮かべていたではないか。自分を窓の手垢として扱っていたではないか。

本当にあの自信はどこにいってしまったのか。

失恋はここまで人をだめにするのか。

「無理って思ってるから、無理なんじゃない? できるって思ってみたら……」

鈴凛は小さく言って、野奈はこれもたぶんムカつくんだろうな……と思った。

「……なにそれ……やっぱり……変わってない。ほんとムカつく」

野奈は諦めたように言った。

「ごめん」

「でも鈴凛ちゃんみたいになりたかった」


「え……」

鈴凛は体から力が抜けた。

それは鈴凛がずっと野奈に思っていたことだった。


−−ねえ

−−あの子でしょ

−−ああ噂にってる子

鈴凛ははっとする。

こんななにもないところに高校生はいないと思っていたが、他校の生徒が部活か何かでランニングで使っているらしかった。

「野奈、気にしな……」

「!」

鈴凛は野奈が自分とは反対の方に、顎をむけるのをみた。まるで見えない透明の手のようなものが野奈の顎に添えられてくいっとむこうにむけられている。

野奈はぽうっとしたように目が虚になって、口を開けた。

「え……」

もう一人、誰か座っているーー。

「なに、だめ−−!」

鈴凛は本能的にそれに手を伸ばす。

野奈は何かを飲み込んだように見えた。美しく白い喉元が何かを嚥下している。

「……!」

鈴凛は立ち上がって反対側のものを捕まえようとベンチに手をかける。

それは鈴凛に見られていることに驚いてびくりとしたように、消えた。

「なにか−−……!」

「え、わ−−?!」

鈴凛が立ち上がろうとベンチの腕に体重をかけると、バランスを崩して尻餅をついた。

「いたた……こんどは何……」

何かがぐしゃりと壊れている。先ほどまで座っていたベンチだった。

「へ?!」

手がふわふわとしたものを掴んでいる。地面が柔らかい。

ぼろりとそれが掴んでとれた。鈴凛はそれを知っている。

メロンパンのクッキー生地だ。

「え……パン?」

手のひらに砂糖がついている。

見ると壊れたベンチはウエハースになっていた。

「は?」

天井を見上げると、ピンク色の雲が空を満たしていく。

「?!」

「野奈……?−−わ」

淡いオーロラのような光がさあっと野奈を中心に広がっていった。

「うわ……なに……」

野奈がのそりと立ち上がった。服が変わっている。

メイド服のような前掛けがついておりフリルのついた青いドレスに変わっていた。

そして背中に天使のような羽が生えている。

「ええ」

鈴凛が困惑していると、先ほどのオーロラのようなほとばしったその光が、世界を変えていく。世界が淡い茶色とベージュ色になり、ところどころに赤が見える。

白い泡が立ち上り、茶色のドロドロしたものが噴水から溢れだす。

「こ……これ」

茶色のものが飛び散ってほほについた。

匂いで何かわかる。

「チョコレート……?の……」

立ち上がった野奈の背中から煙があがっていた。

「おなかすいた……」

「え」

野奈の体から鱗と羽が生えていく。

「だめだめだめ!」

鈴凛は立ち上がって、必死にそれをむしる。

「野奈!!こっちを見て!!」

助けなければ。助けなければ。

表情は虚なままだった。

「まだ食べたい もう食べたくない まだ食べたい もう食べたくない……」

「野奈……!しっかり」

鈴凛を無力感が襲う。わかっていたのに。

どうして止められなかったんだろう。

「わ」

ものすごい力で野奈に首を掴まれ、放り投げられた。

「く……!」

野奈はふらりと立ち上がって、背中の羽を羽ばたかせる。

「うわああああ!」

風が巻き起こって、羽ばたいて浮かび上がった。

「野奈!」

野奈が飛び上がって桃色の雲の空に舞い上がった。

「ええ?そんなのアリ?!」

鈴凛は動物園側のほうに消えた野奈を見失った。

「ちょ、ちょっと」

−−異界展開を確認

−−未然防止は失敗に終わったようですね

「てゆうか……なに……これ……」

鈴凛は立ち上がって見渡した光景に驚く。

建物がビスケットで構築され、池のほとりにあった柵はプレッツェルになっている。そばにあった木々はケーキの上に乗った砂糖細工のようになってメルヘンな世界が広がっていた。

「お菓子になってる……」

「こ……これ……異界なの……?」

−−規制線を乙まで下げて

佳鹿の声がピアスでする。

−−そっちにいくわ

「ええ……」

鈴凛は奇妙な世界を歩いて回る。足元のタイルは透き通った飴のタイルになって、表面には砂糖の砂が散らばっている。生えている草木は触れると溶けた。

「これもチョコレートだ」

遠くのほうに綿菓子と、クリームの山が見えた。

「すごい……」

−−なんじゃこりゃあ!!

聞いたことがある声がして、誰かが世界に飛び込んでくる。

−−うおおおお!

−−まってくださ〜い

それが近づいてきた。

「哀!!間狸衣!」

「おい」

「こりゃ」

「そう、大変なことに−−、野奈が急に何か透明なものに……」

「最高じゃねえか」

哀の目がキラキラしている。

「は……?」

「見ろ! これはメロンソーダのじゃねえか……!?」

哀がつきわ湖に飛び込んだ。

「ひゃっほーい!あったりい!」

「……」

「あ、スワンボートはシュークリームの白鳥になってます! あ、あっちはアイスクリームの島ですか!!?」

間狸衣も驚いて目を輝かせている。

「あっちはチョコレートの木」

「あっちはケーキの塔ですね」

「みろ!でかい苺にでかいサクランボウ!!」

「ああ羊杏ちゃんがみたら喜んだ気がしますねえ……」

間狸衣はクリームを指で舐めとるとて感嘆の声をあげた。

「ひゃっほ―い!みろ!およでいる魚は、グミだぜ!!」

哀はビタビタと飛び跳ねるグミでできた鯉を捕まえて、持ち上げていた。

「さいっこうだな!!」

哀は池からあがると、傍の彫刻に寝そべった。

「ん……ふにふに!この彫刻はマシュマロです!」

間狸衣が巨大な彫像に抱きついていた。

「ほんとだね……」

鈴凛がつんつんとそれを押すと柔らかそうだった。

哀が炎を手から能力でぼっとだした。

「わあ」

焦げができて砂糖がカラメルになる匂いが立ち込める。

「見ろ!あたしの力で焼きマシュマロに!!」

「わー!素敵!」

間狸衣がぱちぱちと拍手していた。

「ちょっと!!じゃなくて!!」

鈴凛は叫ぶ。

「はやく野奈を探さなきゃ」

鈴凛は一通り楽しんだであろう二人に言った。

「こんなことしている場合じゃないよ」

「あいつはそのままにしとこう」

哀が真顔で言った。

「だってまだ食べたいから」

「はあ……?」

鈴凛は肩の力が抜ける。

アイははっとして顔をあげる。

「おい、ポテトチップはどこだ……探すぞ……」

哀はこうしてはいられないという顔になって、走り出す。

鈴凛はそれをとっ捕まえてねじ伏せた。

「砂糖で頭がおかしくなった?」

「離せー!!」

「楽しんでいる場合じゃないよ!!これが広がったらどうするの!!」

「でもどこかにポテトチップが−−」

「このままじゃ!!宇多市全体がお菓子になる!中にいた人たちもどうなったか」

「これを、ワクテカ食ってるだろ」

哀はまた真顔で言った。

−−見た目はメルヘンでも忌が作る異界よそんな甘っちょろいもんじゃないわよ

−−そこどこよ、あちこちへんになってわからないわ

佳鹿が無線で文句を言っている。

「ほら、食べている場合じゃない!!はやく野奈を」

「でもうまいぞ、これ……この味は……この地面は、ゴマ団子!」

アイは地面に捩じ伏せられたまま、地面にかじりついていた。

「バカ言ってないで……」

「ひゃああ!」

間狸衣が叫び声をあげる。

「煌姫様!そそそそそれ……!」

間狸衣が哀の足元を指差した。

「ほら!!」

鈴凛も哀の妙なスニーカーを指差した。

「うおおおお!」

哀のコレクションのひとつである妙な靴がゼリーになっていた。

「見てよ!! 自分達までお菓子になりかけてる!!」

「まじか」

アイはあぐらをかいて、自分のスニーカーを脱がそうとした。それがどろっと壊れた。

「いちご味だな!」

手に残った残骸をがぶりと食べてと満面の笑みを浮かべていた。

「何やってるのよ……もう……」

佳鹿たちがやってきた。

「佳鹿、この能力は最高だ、あいつを修祓するのはやめとこう」

「煌姫様……」

翔嶺は呆れ返っている。

「たださえバカな頭を砂糖にやられたか」

拘式がつらりとして言った。

「んー確かにうまいっすねえ」

蛙介はどかでもぎとったであろう巨大なぺろぺろキャンディをくわえていた。

「これが異界だとすると強い穢レだ」

「一瞬でこれほどの世界改変を行うなんて」

「はやく忌をみつけないと」

「ほら」

手分けして野奈を探す。

「どこにいった」

遊園地のほうもどこもかしこもお菓子に変わっていた。

「見ればみるほど楽しいな……」

哀は名残惜しそうに言っている。

「あ、あんな上に!!」

間狸衣が観覧車の上を指差す。

アリスのような可愛らしい水色の服を着た野奈が見えた。

ただ野奈は人形のような顔になって、人間味がなくなっている。

「やっぱり野奈がこれを……」

「あれが野奈……?」

「なんであいつだけ飛べたりするんだよ」

「あの子の精神世界をベースにしているからじゃないの」

「なんとか登れないですか?」

哀が観覧車に飛び上がって掴もうとしたが、支柱もお菓子でできておりそれがおれた。

「うわー!!」

観覧車がぐしゃりと壊れる。

野奈の忌は鏡の館のほうの城に飛んで行った。

「だめだ、ポッキーじゃ、体重を支えきれない」

「ん?!」

人々がゾンビのように自我を失って、歩き出す。

「ちょっと、待て!!」

人々はうつろな顔になって、その鏡の館に集まっていった。

「中にはいるなっつってんだろ!!」

アイが館に近づいて、止めようとして館の扉付近で、人々を投げ飛ばす。

「うお!?」

ぽんっと音がして哀の手が茶色くなったように見えた。

「あああああああ!!」

アイが叫びながら逃げ帰ってくる。

「なに?!」

「これみろ!」

「あれみてください!」

人々は館に近づくと体が平坦になり、だんだんと体の詳細がデフォルメされていく。

茶色くなって、つるりとした丸い頭の……

「クッキーだ。クッキーになってやがる!!」

アイが顔面蒼白になって右手をみせた。

「ど、どうすんだよこれ、これじゃあ刀もてねえぞ!! 戦えないじゃねえか」

急に哀が焦って走り回っていた。

「だからゆっくりしている場合じゃないって言ったのに!!」

「みてください!!人々がジンジャーブレッドマンに!!」

間狸衣が叫んでいる。

人々が次々とぽんっと音をたてて、魔法のようにクッキーの人型になって、館に吸い込まれていく。

「うそでしょ……これ現実?」

「うわ!親指がもげた!」

哀がショックで満ち溢れている。

「よくみろ、砂糖の風のようなものが、あの館から噴き出している、あれに触れるとそうなるのだろう」

「う……」

間狸衣がこける、

「わたしの足も……」

「俺の背中もなりはじめて」

蛙介が言った。

「……え?」

館の中でぼりぼりと貪る音がする。

「?!」

「今の……音……」

「クッキーの」

「クッキーを食べているんじゃ……!」

「いって!」

哀が頭を抑える。

「今度は何だ」

「いた!!」

頭にごつごつ何かがあたる。

「何かふってくる」

「キャンディ?」

包みが紙につつまれた可愛らしいお菓子たちが降ってきていた。

「お菓子が」

「あの雲から降ってきてる」

ピンク色の雲から降って生きているのはわかったが、見上げるのも一苦労だった。

「屋根のしたに入らないと」

佳鹿たちが走ってくる。

「どんどんおかしなことになってきてるわよお!!」

「……」

「間狸衣!ナガンであの館を吹き飛ばせ」

「大砲じゃないんですよ、ナガンは狙撃用なんです」

「それにしてもなんであんな小娘がなんでこんな強い異界を一瞬で……」

「あ……」

間狸衣が砂糖の風を踏んでぽんっとクッキーになる。

「間狸衣さん」

間狸衣を助けようとして、翔嶺もそれにあたる。

「間狸衣!!翔嶺!!」

哀が駆け寄って抱き上げて、はっとする。

「二人ともクッキーになっちまった」

「みろ……翔嶺は頭にてんてんが。ハゲ頭がちゃんと再現されてる。間狸衣は金髪に」

「アイシングっすね〜」

蛙介が覗き込んだ。

「そんなこといってる場合!? これもとにもどるの?!」

「こいつらを壊れないように移動するぞ!」

拘式がクッキーになってしまった佳鹿と翔嶺を、重ねて運んでいった。


その時、鈴凛のポケットでピロンと間の抜けた音がする。


やっほー

夏休みだけど、閃くんが……


未来妃からのほほんとしたメールが届いた。

「もう、こんな時に」

「電波……つながってるのか」

「異界では通信が途切れることもあったのに」

鈴凛ははっとする。

「やむことのない……」

「たくさんの悪意……」

鈴凛は降ってくるお菓子を拾い上げる。

「心の闇は人を忌にする……」

「もしかしてまだ野奈は外からの悪意をまだ受け取り続けているんじゃ……」

「悪意って掲示板の悪口のこと?」

「この雨だよ!じゃなくて、飴」

鈴凛はキャンディをひらって包み紙を開く。

「うわ」


シネ ブス シネ ブス シネ ブス……


悪意の文字が包みの内側にポップに印字されている。

「こわ」

「なんだこれ」

「これだよ……」

鈴凛は本能的につぶやいた。

「これが野奈の心を」

「これ掲示板の書き込みですよね? でもこれがなんで……」

「鯆多丸!とにかく携帯の基地局止めちゃいなさい!!」

佳鹿が叫ぶと、「了」と耳のピアスから鯆多丸の声が聞こえた。

「忌って地面からでてる穢レからエネルギーとってんじゃねえのかよ!」

哀がフードカートの中で雨を凌ぎながら叫んだ。

「蛙介さん笑ってる?」

「こんなこと聞いたことがありませんよ。この公園地の穢レが強いか、あの子の闇が深かったならともかく……こりゃとんでもないことっすね。 地面から生じる穢レだけでなく、現実の人間から生じる悪意を遠隔地から穢レとして受け取って力に変えることができるとしたら、便利っすね」

「……便利って何が」

「似てないっすか?」

「え?」

「トーチとフェイスっすよ、あのプレゼントボックスにも」

「!」

「トーチとフェイスもクローンにその人物とおなじ記憶の悪夢を見せて同じ忌を作り出していた。なんか似てないっすか。まるで意図的に誰かが便利になるように忌をこねくりまわしてるみたいな」

「じゃあこれは誰かが意図的に……」

鈴凛はあの透明な野奈の隣に座っていた何者かを思い出す。

「これはじゃあまたアメリアサイド、加鷲のしわざなの?」

佳鹿が叫ぶ。

「違います!!」

間狸衣は恐れた顔をして叫んだ。

「マリオ様はこんなことしませんよ!勝手に忌を作り出すなんて」

「あいつが偶然の産物か、意図的な造物かは今はどうでもいい! とにかく早く仕留めろ!」

拘式が叫ぶ。

「?!」

「なんだ……歌……なにかきこえる」

かがみの館から声が響いてくる。

「……中か……」





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