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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
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野奈の心

「でかい家っすねえ……この家もでかいけど」

蛙介が双眼鏡で野奈の部屋の窓を監視しながら言った。昨日から近くの空家だった立派な一軒家の二階に八咫烏のメンバーと拠点を構えている。

「このへんは宇多の中ではそこそこの高級住宅街でしょ」

「あの子があんたをいじめてた子だなんてね」

鈴凛はここ一、二週間、学校でも野奈につきまとうしかなかった。

「家からずっと動いてないね」

「鯆多丸が携帯ハッキングしてますんで、携帯持ってる限りは場所わかりますが」

野奈の穢レの強さ鈴凛が今までみた中で最も濃い。鈴凛以外には見えないのでこの危機感は誰にも伝わらないのがもどかしかった。

「本当に忌化するんでしょうか」

「来田家から避雷針の場所の確認と、仮設神器設置はできてる」

「狐窓!」

佳鹿が指で狐窓を作って、ポーズを決めている。

「やっぱりだめだわー……みえないわー……あたし半分忌になったし、いけるかもと思ったんだけどねい……」

「それ意味あるのほんと……」

「そういえばこの子、端波市場であのイケメンと冷蔵庫に入れた子よね?」

「そうだよ、三枝ちゃんが……助けようとしてた子」

「ふうん。じゃあやっぱりその頃から病んでたんじゃないの?」

「え?」

「あの時、 何か悩んでるんじゃないかとか、あんたは自分が好きな男の方の神籬を心配してたようだけど、実はあの頃から幸せじゃなかったののはこの子の方だったかもね」

「……でも……あの時野奈はデートしていて……幸せじゃないなんて」

そんなことあるのだろうかと思う。

「百姫様が裏発を確認してからもうけっこう時間たってますけど」

「それともあんたのつきまとい友情復活作戦がきいたのかしら」

プールで野奈の状況を知ってから以来鈴凛は四六時中野奈を監視していた。

一緒にいられる時間はくっついていた。

「面倒臭いですよねえ」

「コーヒー買ってきましたよ」

毛利就一郎と蟻音と矢田いつこ子が部屋に入ってくる。

「ありがとうございます」

「翔嶺君がカフェオレで−−……」

なぜまた鈴凛の近くにいる野奈なのだろう。

哀だっていくつかの修祓をこなした。でもこんな偶然があるのだろうか。

鈴凛は悶々としていた。

何かおかしい。あの毛利神社のこともうそうだった。

神器が壊されるのは毛利神社でなくていい。

なぜ鈴凛がいる宇多市にある毛利神社で—

鈴凛が色々と考えながら手にもったヘアピンをいじくりまわしていると、蟻音がそれに気がついた。

「桜の……ヘアピン?」

「野奈とむかしつけて一緒に写真をとったんです。学校に今日持っていきました。これで心情に訴えかけようかと思って−−」

「優しいね、鈴凛ちゃんは」

「そしたら、むこうはもう捨てたって」

鈴凛がぎゅっとにぎるとそれはボキりと音をたてて折れた。

「切ない……」

「天照大御神にワガママを言って、あなたはわざわざ青春しているのに、こんなことに時間を使って無駄じゃないですか。もう裏発してたなら、さっさと始末したほうがいいじゃないですか」

毛利就一郎がアイスコーヒーを飲みながら言った。

「そもそも百姫様を虐げていた女です。失踪扱いにして、バラバラにして、海にでも撒いてしまえばいいのではないでしょうか」

矢田いつ子は時々本当に怖い。

「だよねー……時間の無駄感がすごい。僕一応大学のほうもそこそこ忙しいんですけど」

毛利就一郎が過激だと言っていたが、根本的なところでこの二人は意見があっていた。

「……」

自分だって野奈のことなんかで青春最後の夏を失いたくない。

去年だって哀のせいで夏は東京に費やされて全然楽しめなかった。

もっと周馬や未来妃たちと青春最後の夏を楽しみたい。

「……」

哀は見張るの別に自分じゃなくていいだろと言って遊びに行ってしまった。

「ちょっとなんかうずくまってない?」

「パソコンみてる?」

「何みてるかわかる?」

鯆多丸が太い指を高速で動かした。

「掲示板だね」


カタバミの来田野奈


チビ 足短い ぶりっこ

そもそも全然かわいくない ただのブス 肌汚い ただの田舎もん 4ね

デブ チビ 足太い 豚 いじめっ子 クソアマ 

ざまあ 性格悪い キサラギのストーカー きもい 勘違い 死ね 死ね 死ね……

周馬くんの金魚の糞


「エゴサしちゃってるねー。これ地方掲示板のあの子のスレッドだよ」

「やんでるの原因はこれか」

鈴凛はどきっとする。

「いじめっ子って……なんでいじめのこと……」

「詳細っぽい話が上の方であがってるね」

「なになに……わたしこの子にいじめられた。教室で失禁して−−」

「これわたしのことじゃん」

一同が鈴凛をみる。

「わ、わたしこんなの書き込んでない!」

「あんたになりすまして誰か書いてるんでしょ。あんたのことを見ていた誰かとか。あんたが書かなくても正義をふりかざすヤカラがいるのよ。いじめなんて見てなきゃいけないだけでも不快なんだから」

「……野奈……わたしに何も言ってこなかった……」

次々に文字が生まれてくる。

ただの画面に並んだ文字なのに、鈴凛も気持ちが悪くなる、

それは止むことのない言葉の矢の雨のようだった。

「あの子だってあんたじゃないこと気がついてるんじゃないの? 友達だったならあんたがそこそこの貧乏だってこと知ってるんでしょ? あんたってそもそもパソコン持ってないし。だいたい掲示板に何度も書き込めるほどパケットの枠も、度胸もないでしょ」

「そうだけど……」

ネットにはそこらじゅうで野奈に対する悪意を書き込む誰かがいる。

今この瞬間も−−

「野奈ってこんな有名人だったの?」

「餌があればみなそこに一斉に食いつくのだろう」

拘式が冷たく言った。

「知らない子なのに……?なんで?」

「ストレス発散んでしょ」

「人間は……醜いですね」

翔嶺がぽつりと言った。

「……ストレス発散?」

鈴凛には理解できなかった。ストレス発散で全く知らない人に死ねという。

目の前の嫌いな人ではなく?

誰でもいいから攻撃の矢を放つ。誰にあたってもかまわないみたいな、無差別殺人みたいなこと?

みんなそんな思考停止するほど、この国の人たちは、心を病んでいるのだろうか?

「……」

鈴凛は姿が見えない人間たちの悪意が恐ろしく思えた。

この人たちは—何者なんだろう−−

「あ、部屋に誰かきたヨ」

「あ、親がきて、パソコン切った」

「いいママじゃない」

「喧嘩になってますね……」

蛙介が双眼鏡をみて言った。

「パンやらお菓子やら投げまくってます。親は困り果ててますね」

「でもこんなこと日本のそこらじゅうでおこってるでしょ?」

「なんで来田野奈?」

「それはわたしも思った」

「やっぱり百姫様の穢レが強すぎるのでは?」

「……わからない……」

わからないことをわからないままにしてきた。

鈴凛のせいで日本全体の穢レが強くなったのではという疑惑があった。だがあれはまだ縁血を受けていない哀が原因で、哀が戦姫になったことで、問題は解決したと思われていた。

「やっぱりわたしのせいなの……?」

処理しきれない量の問題やら謎やらを鈴凛は抱えたままここまできてしまっていた。

だとしたら、やはり野奈を助けなくてはと思う。

上田三枝も山原泰花も学校の生徒の多くも死んでしまった。

助けられる可能性がる野奈は助けたい気がする。

誰かを殺したり、なせたりする運命なんか嫌だ。

「十分可愛いんだから、他人の悪口なんて無視すればいいのに」

鈴凛はそれは簡単ではないと頭でわかりつつ、つぶやいた。

野奈は学校のアイドルだった。一年前、鈴凛はそれがどれほど羨ましかったことか、と思う。野奈は鈴凛が欲しいものを全部持っていた。心配してくれる家族、立派な家、天使みたいな美貌。周馬と付き合えなくても、咲ほど芸能人ほどの美貌が無くても、それくらい他の人から見れば、なんてことはない。なんでもかんでも人生は思うようにはできていない。

「お……脱ぐ……」

鯆多丸が小さくつぶやいて息を飲んだ。

「バカ見るな!」

蛙介が鯆多丸を殴る。

「中途半端に可愛いからそうなるんでしょ。 完璧だったら自分に何の不満も湧いてこないわよお〜」

佳鹿が高笑いしてこほほと笑う。

「半分忌になっても果てしないメンタルっすね……」

蛙介が言った。

「惚れた? 好きになってもいいわよ」

佳鹿が真顔できりっとなる。

「いや……それは……ちょっと」

「全人類これくらいポジティブだといいけど」

「こいつは異常だ」

拘式が吐いて捨てるように言った。

「ん、いない」

「あ」

「脱いだってことは着替えてどこかに」

「やば出かけてる!!」

鈴凛も家を飛び出して、野奈の後をつけた。

自転車に乗った野奈を全族力で走って追いかける。


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