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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
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竜宮城

スピードが出ない。

「定員オーバーでさあ」

「申し訳ありませんねえ」

一番大きな佳鹿が亀にまたがり、鈴凛たちは佳鹿のいろいろなところにつかまって海に潜る。

「ん……? 羊杏ちゃん静かだね」

「魚がいっぱいなのでございまする。美味しそうなのでございまする」

羊杏はぽうっと海をよだれをながして見つめていた。

「手下まで食い意地がはっておる……」

玄武がくれた玉は水を空気のように感じさせてくれた。話も普通にできる。

これがあればこないだの毛利神社の水没であんなに焦らなかったのにと思う。

高天原では下界では信じられないものがあたりまえのように存在している。

「あの……はっきりさせておきたいんですけど、あなた様は四神である玄武様じゃないんですか?それとも浦島太郎にでてくる、ただの亀なんですか?」

佳鹿が目を細めた。

「ちがいます」

「そうだ」

蛇と亀は同時に答えた。

「まとまってねえな」

「ただの亀じゃないでしょ。どう見ても。蛇がでてるし。それに高天原……つまり空から降り立ってことは空を飛んだってことでしょ?」

鈴凛は亀の穴に自由に出入りする蛇を見た。

「はいまあ」

「ん……まてよ。じゃあ水陸両用ってだけじゃなくて、おまえは飛行機にもなるってことか! 欲しい! おまえあたしの車になれ!」

哀がばしばし亀の甲羅をたたく。

「……りいすさまがいいのであればあっしはそれで」

「やなこった!」

また蛇と亀は反対のことを言っていた。

一同は顔を見合わせる。

「空飛ぶ牛だの、複製する木だの、妙なものが多いが、口がきける動物はおまえがはじめてだ。おまえは何なんだ。亀のくせに神だなんて言ったり、首がふたつもあってまとまってねえし」

「ああ……えーと……それは話が長くなるので……」

「おいそれは絶対ダメだ。それだけは言うな」

玄武はその話題にはあまり触れたがらなかった。

「もう随分潜りました。帰って来れるのでしょうか……」

羊杏はどこか不安げだった。海の中だからだろうか。

「帰りも送迎しろよ、ヘビ亀」

「玄武様!」

海の中は青く透き通っており、色とりどりの珊瑚や海藻が見えた。小さな魚が風に舞う木の葉のように無数に泳いでいた。それは光をあびて腹をキラキラと光らせている。

「きれい……」

扇町の岸壁が離れるにつれ、透明度が上がっていく。

「思ったより深いんだね……」

しばらく巨大な昆布の森のようなところを泳いだ後、開けた空間にでた。

「あ……」

海の底がぼんやりと赤く輝いている。朱色の城が小さく見えてきた。廊下がいくつかと建物も複数みえて、あたりには空気を蓄えていそうな巨大な泡がいくつも見えた。

「あれが竜宮城か」

「泡?」

それは竜宮城の上に風船のようにいくつも浮かび上がっている。

近づくと泡のドームの中には色とりどりの植物がみえた。なにか動く動物だか魚だかの影も見えた。

植物を見た間狸衣が目を丸くする。

「もしかしてこれが? 浦島太郎が乙姫様と宴をして楽しんだという四季の庭ですか? もうちょっとよく見たいです」

間狸衣がよく見ようと身を乗り出す。

「オイ、観光にきたんじゃないんだぞ。あたしらは貝を盗みにきたんだ」

哀が強盗よろしく悪い顔になって、間狸衣を睨む。

「だから燕の卵ですって……まあいいか……。この泡は生簀みたいなもんでさあ。四季の庭、あれは乙姫様が亡き後、上……姫宮に移されたはずでしょう?」

亀が思い出すように言った。

「あの庭って竜宮城のやつだったんですか」

間狸衣が衝撃に満ちた顔をした。

「乙姫って……姫ってことはあいつも戦姫だったのか」

「そうでさあ」

「そういえば浦島太郎に玉手匣を渡した後、乙姫様はどうなったんです?」

間狸衣は考えるように言った。

「乙姫様は……」

「浦島様が……忘れられなかったのでございます。すべてはあっしの責任です。退屈をもてあました乙姫様に言われるがままに、葦原の下界から人間の男などお連れしたのが、間違だったのでさあ」

亀は泳ぎながら悲しげに言った。

「戦姫は高天原から離れて生きることはできねえのに……」

鈴凛は不幸なひびきにぎょっとした。

「で、乙姫は浦島が帰った後どうなったの?」

「素戔嗚様の逆鱗に触れたのでさあ」

蛇が細い瞳孔をよく見えるように目を開くと、不気味な声で言った。

「素戔嗚様が……乙姫様を?」

鈴凛はどきりとした。

「……殺したのですか?」

羊杏がびくびくしている。

「……ひいひいひいじいさん、思ったよりキレやすいんだな」

哀はあっけらかんとしてそう言った。

「……逆鱗……」

鈴凛は落ち着かなかった。

「素戔嗚様は当然のことをしたまででございまする。乙姫様は不埒な不届き者なのでございまする! 下界のどこの馬の骨とも知れぬ男を、この清浄な高天原に連れ込むなど」

羊杏は怒った顔をしている。

「みなの羨望である太陽の神の花嫁でありながら、戦のお勤めもせず、自らの不埒な欲望のため、汚れた下界から男を連れ込むなど、死んで当然でございまする」

「し……しんで……そうかな……」

間狸衣があまりに過激な羊杏にびっくりしている。

羊杏の可愛らしい顔が厳しい顔になる。

「……」

羊杏は奴婢になっていたにもかかわらず、この世界に何の疑問も感じていなかった。

羊杏にとっては高天原が、この照日ノ君を中心とした世界が全てなのだと思った。

「……」

鈴凛が下界で普通の男と付き合っているなどと知ったらどうなるのだろうかと思った。

「そ……そう……だ……ね」

鈴凛はひきつりながら合わせることしかできなかった。

羊杏には絶対にばれないようにしようと鈴凛は心に誓う。

そこまで考えてはっとする。

「じゃあこいつは死んで−−」

哀の口をあわててふさぐ。

「んー!!」

「照日ノ君以外となんて……ほんと、ありえないよね、あはは」

「んー!!」

鈴凛は首をふるふると振って哀に言わないでと伝える。

「でも素戔嗚様がどうしてそんなに怒るの?自分の花嫁でもないでしょ?」

「素戔嗚様は天照大御神の右腕。全ての秩序を維持する役目をお引き受けでさあ」

「規則の管理者は規則を守らないやつを野放しにはできない」

蛇と亀が言った。

鈴凛は背筋がぞくっとした。

自分がもし周馬と付き合っていることが、素戔嗚にばれたら?

「……」

多かれ少なかれ同じことがある。惹かれ合う男女は結ばれない。

鈴凛はそのような話がまただ、と思った。

「うわみろよ!でかい蟹がいる!」

「蟹くいてえ」

竜宮城の屋根に大きな蟹がいた。

「あれタカアシガニじゃない?」

佳鹿が目を細める。

「下界と同じ魚介類がいるのはなんでなんですか?」

間狸衣が考えるように言った。

「高天原の腹底を海につけて海の水を吸い上げることがあるのです」

「へえ……海の水を」

「素戔嗚様は自由に水を操れるのです。でも海水が一番操りやすいのだとかで、この海を維持するのにお使いです」

「はあ……この海をねえ」

「あ、入り口っぽいのがみえてきましたよ」

「お、あれが水天門か」

白いまるまるとした足に、赤い立派な反り返った門が見えてくる。

「なんて大きい……」

「え……?」

入り口で鋭い眼光をたたえた大柄の青髪の男が見えた。

もう五十メートルほどしかなかった。

「おいおいおい……」

「誰だよ……、家主が留守だって言ったやつ」

「誰ですか……、あの話の流れで城主が素戔嗚様だと気づかなかったのは」

「もうそのキレやすい神の玄関の門から子安貝を、勝手にとろうとしてる声は聞かれているのでは?」

間狸衣が引き攣り気味に言った。

素戔嗚は上にいる鈴凛をじっとみあげた。

「ひいいいい!睨んでる睨んでる」

「ちょちょちょちょ!!ちょっと!ブレーキ、ブレーキ!」

「ぶれ?え?」

「もどってもどって!」

「はい?」

「海流が……おそらく素戔嗚様が手伝ってくだすっています」

「わたしたち……殺されるんですか……」

「到着しましたでさあ!」

「つい……ちゃった……」

鈴凛たちが降り立っても素戔嗚は仁王立ちのまま表情を変えなかった。怒っているようにも何も感じていないようにも見える。でも明らかに好意的な表情ではない。

「し……親戚でしょ! あんた、いきなさいよ!」

佳鹿が哀を押し出す。

「え……いやー」

「……」

哀も迫力に威圧されたのか、妙にいつもみたいに威勢がよくない。

「いや、ほらおまえいけよ、お花畑! 一回殺されたことあるなら二回も三回も同じだろ!」

「ええー!!」

鈴凛はずいっと前に出される。一同は鈴凛の後ろに隠れた。

「……」

「何用でしょうか」

素戔嗚はいつもの落ち着いた感じで言った。

「あの……その……」

そう言いながら、あれ?心を読まれていない、と思う。

「りいすさまは子安貝をご所望とのことで」

「この大食い、薬物にまでついに手をだしたか」

玄武はあまり素戔嗚にへりくだった様子はなかった。

「……」

素戔嗚は玄武を見て少し考えるような表情をした。

鈴凛とりいすを間違えていることを悟ったらしい。

そして、低い声で言った。

「……閃様にですね」

「お見通しだ!」

「いや、心を読んだのか」

「子安貝はお渡ししても、高天原から持ち出すことはできません」

男は静かに言った。

「……」

「いっこくらいくれよ。走って逃げる」

「無理です」

素戔嗚ははっきり言った。

「それに季節がら、今燕の巣は、ないのです」

「えー………なんだよ……ここまできたのに……」

「……じゃあわたしたちもう帰……」

「せっかくですから、どうぞ」

素戔嗚はそう言うと背をむけた。

「ど……どうぞって言ってるけど」

「こわい……帰りたいです……」

「帰ろ……」

水流が鈴凛たちの背中に現れて、鈴凛たちを押した。

「わ……」

水流はぐるぐると取り巻いて鈴凛たちを連れていく。

「こいってことか……」

「強制……みたいね……」

「わたしたちどうなるんですか……?」

水底の廊下を素戔嗚の後ろをついて歩く。

竜宮城の中は朱色の屋根にと金細工の装飾で飾られそれが光にぼうっと照らされていた。建物と建物の間には珊瑚や海藻の庭になっており、見たことがある魚も、見たことのない魚も混じって泳いでいる。

また竜宮城内にもたくさんの気泡があって、不思議な生物が入れられていた。

「水槽みたいだな」

どれも眠っているのか大人しくしている。

「動物園と水族館かけあわせたみてえな作りだな」

「あ……」

一際大きな気泡の中で、黄緑色の花火のようなものがバチバチと爆発している。

「なんだありゃ?」

光の閃光が気泡の折の中を出ようと暴れ回っている。

「あれなんだ……」

次々と、壁にぶつかって爆発して、蒸発して煙が生まれている。

「あの煙の色……」

鈴凛はそれに見覚えがあった。その気泡は蒸留装置のような管に繋がれている。煙はそこを通って奥に流れていた。

「はい。あれは玉手匣の原料になる煙々(えんえんら)という生き物です」

素戔嗚が振り返らずに言った。

光が鈴凛をじっと見ている気がした。

「煙々羅って……四季楼の、あたしら専用のふかふかの布団の材料だったよな?」

哀が考える。

「……なんだか……」

鈴凛には他の動物はともかく、それが檻から出たがっているように見えた。

色とりどりの植物や動物が溢れる美しい場所であり、閉じ込められている悲しい場所にも思えた。

少しいくと、その煙の蒸留装置の本体のようなものがあり、頭巾にマスクをした者たちがベルトコンベヤーの上の何かをチェックしている。

「あれ玉手匣じゃん」

「人がいる」

「あれ……」

その頭巾の女たちを、半魚人のような者たちが見張っているようだった。

「罪人たちです」

「!」

「殺人や放火など高天原では管理できぬ重罪人はここで働かせているのです」

「きいたことがありまする……重い罪を犯したものは、海に沈められて二度と戻れぬと……」

「おいおい……竜宮城って刑務所だったのかよ……」

「玉手匣が高天原の罪人たちによって作られていたとは……」

「恐ろしいところにございまする……」

これから自分達はどうなってしまうのだろう。

鈴凛は素戔嗚の背中からは何も読み取れなかった。

「どうぞこちらです」

一際立派な観音開きの扉の前までくる。

「え……」




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