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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
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週末、鈴凛は百の宮に来ていた。夏なのに桜が咲いた庭を眺めながら、哀が縁側に座って浴衣一枚で氷菓子を食べながら、足をぶらぶらさせている。

「この夏にあのクソガキも死んじまうなんてことはないよな」

池の水を蹴り上げながら言う。

「……神のみぞ知るよ」

佳鹿は首を横に振る。

「随分まえからかなり悪いとか」

間狸衣が遠慮がちに言った。

「……」

「誰か怪我をしたので?」

羊杏が冷やした麦茶を持ってきて首をかしげた。

「病気なんだよ、八咫烏の男の子なんだけどね」

「びようき?」

羊杏が妙なイントネーションでそう言った。

「そういえば高天原の女たちは病気をどうやって治してるの?最新医療設備とかがあるようには思えないけど」

「びようき?けがのことでございまするか?」

羊杏が目を丸くする。

「え……」

「高天原の七不思議みたいなものよ。ここには病なんて概念がないのよ」

「は……?病気がないってことか?」

哀も驚いていた。

「え……?」

「神の国に病はない……、あの噂は本当だったんですね……メルヘン……」

間狸衣も少し驚いて言った。

「なんで?どういうこと?」

「風邪とか、歳とったらがんとか……」

「がん?」

「体調悪くなったりしないの?だるいとか、痛いとか」

「たまにございますよ、でもお大丈夫なのでございまする。医務所で燕の子安貝をもらえばよいのでございまする。すぐ治りまするよ」

「燕の子安貝?」

「なんだよそれ」

鈴凛はどこかで聞いたことがあるようなと思ったが思い出せない。

「すぐ治るって……」

「もしかしてそれって万能薬ってこと?」

鈴凛も哀も衝撃を受けた。

「じゃあ……それがあれば、閃くんも治るんじゃ……?」

怪しい雲行きに佳鹿が水をさす。

「ちょっとみょうなことは……」

「よし!盗もう!」

哀が立ち上がる。

「お願いしてだめならとかじゃなくて、なんで盗むスタートなの」

「どっちだってだめよ。言ったでしょ高天原のものは持ち出しできない」

「でも……」

「悪意の声は聴かれる」

「ダッシュ、ダッシュ。捕まる前に宇多に戻りゃあいいだろ」

哀がへらへらと笑う。

「ほんとうに神を舐めくさってるわね……あんたは……」

鈴凛は少し考えてから、いままでの蓬莱の話や、上空から見た景色を思い出した。

「貝っていうくらいだから、それって高天原の……どこかで採れるんじゃ?」

鈴凛は半信半疑で言った。

「お花畑!冴えてるな! 落ちるものをとる前ならだれのものでもないよな。よし貝をほるぞ!海だ海!」


       *


扇町の西側には美しい浜辺があった。

夕暮れのせいか誰もいない・

高天原の海が静かに波打っている。水平線が妙に近い不思議な海だった。

「……静かねえ」

松がところどころに生えて、青色を含んだ色のような不思議な岩が顔をのぞかせている。

「で、どこだその貝は。羊杏」

「……どんなの?」

「巻き貝みたいな感じの……これくらいで……」

「この浜……そもそも貝なんて落ちてる?」

鈴凛たちが波打ち際にあるいてくるまで、きめの細かい砂ばかりで貝殻は見ていない。

「んー……」

「とにかく手分けしてさがそう」

「ほんとうにやるんですか?」

アイの発案で嫌々面々は貝を探す。

「どうせないでしょ。そのへんの浜にそんなものが転がってるわけないでしょ……こうなっちゃったわたしが言うのもなんだけど、人間死ぬ時は死ぬべきなのよ。病人全員にその貝を配るつもり?不公平でしょ」

「佳鹿!うるせえぞ、金がほしいならやれ」

「わかったわよ!」

「ないですね……」

「不公平もへったくれもあるか、世の中不公平だろうが」

アイがぶつぶつと言っている。

「……」

哀はなんだかんだ言いながら閃を助けるために行動している。

一緒に過ごした時間でいえば鈴凛の方が長い。

「まったくぶっきらぼうなくせに、妙に義理人情に厚い子なんだから……」

佳鹿が巨体を折り曲げて貝を探しながら言うと、鈴凛は哀と佳鹿は一緒に住んでいることを思い出した。

「……そうだね」

佳鹿も哀の行動力のあるそういうろころが好きなのだろうと感じる。

鈴凛は自分がつくづくつまらない人間だと思い知らされる。

鈴凛はしばらくさがしたもののばからしくなって砂浜に腰掛けた。

「はあ……」

波の音がする。

「確かに不公平……だよね」

いつか自殺しようとしていた自分が不死身になり、あんなに生きたい閃が死ぬ運命など、世の中はつくづく不公平にできていると思った。

「……」

さわさわと砂がずれる音が後ろでして振り返る。

「ん……?」

おおきな海亀が海に向かっていた。よくみるとただの海亀ではない。ところどころから蛇のようなものがうねうね飛び出ている。

「?!」

亀と蛇はぎょっとした目で鈴凛を見ており、それと目が合うと、あちらはまずい、といったふうにだらだらと汗を流してはじめた。

「か……め?」

亀が汗?ぶるぶると震えている。

「ばか!早く歩け!」

蛇が亀に悪態をついている。

「ひいいいいいい!お許しを……!!りいす様、あっしは無視したわけではございませんこの蛇が……あっしは悪くありません……どうかお助け……食べるならこの蛇を」

「りいすに俺を売る気か!」

「スープにするなら、あっしではなく、この蛇を!!」

「りいす−−」

鈴凛はびくりとした。

「リースを知っているの?」

「あっしは……あっしは……」

「なにしてんだ。亀をいじめてんのか」

哀たちがやってくる。

「いじめてないよ、なんか勝手にびびってる」

「どうかおたすけください」

「わたしをリースだと思ってる」

「てゆうか月読姫のとこにいかなくても、このへんな亀がりいすを知ってるなんて」

「あ」

間狸衣が閃いた顔をした。

「鶴は千年、亀は万年生きるって本当だったんですね」

「でもこれただの亀じゃなくない?」

「蛇でてるし……」

「佳鹿?」

「玄武様……?」

佳鹿が顔面蒼白になっている。

「玄武?」

「どうみても……玄武様は中国の神聖な神よ。なんでこんなところに……高天原になんで……いや……それにしても本当に存在していたなんて……どういうことなの」

ショックを受けていた。

「なんで我らの神が……我らの神は……高天原に住むただの亀だったってことなの?!」

「たわけもの!俺は神だ!」

蛇頭のほうが叫ぶ。

「おい、おまえ、このへんの砂浜の亀なら知ってるだろ、燕の子安貝はどこだ」

哀は無視していまだ亀として目の前の存在を扱っていた。

「今神って仰られたでしょー!!」

佳鹿が怒っている。

「フン、んなこと、おまえに教えるわけーー」

「……」

鈴凛と目が合うと亀の方はぎょっとした。

「!!」

「燕の子安貝は貝ではなく、竜宮城の水天門に燕が巣を作り産む特別な卵のでございます!!わたくしに全く敵意はございません、リース様」

「おいコラなに勝手に……」

「竜宮城の門……?」

いつか湍津姫が行こうとしていた、高天原の海の底である。

「何かってにしゃべってんだー!!」

蛇ががしがしと亀の頭に噛み付いている。

「こいつら見た目も感情も全然まとまってねえな……」

哀が呆れて言った。

「失礼でしょ!中国の神に失礼よ!」

佳鹿は自国のことになると妙に暑苦しい。

「なんだか浜でいじめられてた亀が竜宮城どうこうって……浦島太郎みたいですね」

間狸衣が亀をまじまじ見た。

「はいもちろん。浦島を連れて行ったのもあっしでさあ」

「え?!」

「おまえがあの亀なのか」

「はいあっしがその亀でさあ」

「余計なことしゃべるなー!!」

蛇がまた怒っていた。

「……」

「あれって本当だったの」

「じゃああなたは乙姫様の使いなの?」

「乙姫様はもう死んじまいましたなあ。魚姫様が似たような能力をお持ちですが、色々乙姫様には及びませんで……なかなか苦労しておられますよ」

「じゃあ今あの城は魚姫のものなの?」

「竜宮は海の神の城です」

「海の神……?」

「それって……」

「そうか海の底だもんな」

「それって……」

「素戔嗚様の城ってこと?」

鈴凛は嫌な予感がした。

「はい」

「やっぱりやめたほうがいいきがしてきた」

「おい! この亀を逃したらもう行けるチャンスは二度とねえかもしれねえんだぞ!」

「亀よばわりしない!! 玄武様!!」

佳鹿が怒っている。

「でも……」

鈴凛はまた不幸の歯車の音がしたきがした。

「それにひひひひひひひひじいさまの城か!なら話ははやいぜ!なんせあたしは子孫だからな!さっさと燕の巣をひっくり返そうぜ」

「はやくないでしょ、担当医がそれをあげてないってことは、やっぱりそれだめなんでしょ。素戔嗚様に何を思われるか……」

「……りいすさま?」

亀はなんだか鈴凛の様子がりいすと違うと気がつきはじめたようだった。

「おい!この亀に別人物だと気づかせるなよ!その亀を食おうとしたやつのフリしとけ!」

哀がコソコソと鈴凛を掴んで言う。

「おいリースがてめえを海亀のスープにするまえに、あたしらを竜宮城につれていけ」

「ははー! かしこまりました」

「こいつは本当にリースか?」

蛇が目を細める。

「おい蛇、この物欲しそうな顔をみろ。こいつはいつも腹をすかせてる。蛇も蒲焼にして食っちまうかもしれねえぞ。貧乏で食い意地はってんだからよ」

「やっぱり……りいす様だ……」

蛇と亀はぎょっとしている。

「判断基準はそこなの……」

「どうやら何でもかんでも食べるやつだったみたいだな」

「リース様、息ができる玉でございます」

青と銀の刺繍の入った巾着を亀は甲羅の隙間から取り出した。白いピンポン玉くらいの乳白色の玉が入っている。

「海で息ができる玉です」

「おお!」

海の中は透き通っていた。

「あ……あれはマグロ?」

「ありゃなんだ?」

見たこともない魚もいる。まんぼうに無数の毛が生えたような魚だった。

「この海はどうなってんだ……」



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