表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
77/178

素戔嗚尊

「さっすがひひひひひひひひひじいさま!!」

哀ががははと笑う。

「助かった……」

「巻雲の持ち出しは禁じられています、煌姫様」

「哀がよんできてくれたのね」

「おうちょっと違うがな」

「動画を全世界に発信してやったのさ」

哀がニヤッとしてケータイをこちらに見せる。

「なんかBBのこと思い出してよお〜」

−−YOYOYO素戔嗚でてこいYO

−−八岐大蛇がでてきたYO

「韻を踏みたくなったのさ」

高天原で裁判中!

おまえしか会ったことねえYO

証言するべきだYO

「……うそ……」

鈴凛は肩の力が抜けた。

「そんな方法で……呼び出したの……」

素戔嗚の背中はリアクションしないまま二人を抱えている。

鈴凛はその背中に触れていると、落ち着かない。

なんとも言えない感情が渦巻いている。

あの女って誰? その人と……この人の間に昔何があったのだろう?

体の細胞がざわめいている。

それが男がかっこよすぎるからなのか、先ほど機織りを殺したと聞いたかなのかよくわからなかった。

「あのお方はもうすぐ戻られます」

「あなた方をあのお方にお返しします」

「……」

しばらく穏やかな海を飛んだ。

青い海に目の前の男の青い髪が戦いでいる。

「……」

不思議な感覚にとらわれた。

風が囁いている気がした。

こうして海の風に吹かれたこの髪を見たことがある。

鈴凛はなぜかそんな気がした。

その誰だかと……いや前世の……わたしと……

この人に、いったい何があったのだろう……?

「お」

「あ!猿田彦の浮舟だ」

哀が水平線を指差した。

水飛沫をあげて船が出てくる。

「素戔嗚……百姫、煌姫」

「おまえたちも火山に行ってたのかよ」

「ここには海溝があるんだ」

「帰りすがら何があったかは、浮上中に聞いていたよ」

「……」

中には月読姫がいたが、眠っていた。

「すまない……月読は少々疲れているのだ」

「すまない、辛い目にあわせて」

「地底は浮舟以外、何者も不通なんだよ〜」

思金がにこにことして言った。

「陵王が何者かわかっておらず、草薙剣もみつけられていないのに……このような騒ぎをおこすとは……」

照日ノ君が頭がいたいといったふうに目を閉じた。

「でもこやねも思い切ったねえ〜勇気あるなあ……」

「君の部下だろう」

「え、そうだっけ? 僕と司ってること全然違うからな〜 関わりあんまりなくて〜」

思金はにこにことすっとぼけていた。

「それにしてもコヤネはそなたを絶対に高天原に頑なに入れないと言っていたが、わたしの不在時に勝手にあのような行動に出るとは」

「……」

ちらりと素戔嗚に目を向ける。

「おまえはそれで踵を返して戻ったのだな」

照日ノ君は笑いを堪えた。

「わたしの命を保留にして」

「……」

素戔嗚は表情を変えないままだった。

「仕事に戻ります」

素戔嗚は、剣を返す。ひざまづきもしないで、鞘に収まった物騒な神器を照日ノ君に突き出した。

この二人は兄弟というようには見えないと思った。全く似ていない。

「……!」

素戔嗚はやはり他の神とは違うのか、それとも照日ノ君が優しすぎてなめられすぎているのか。鈴凛はやりとりのその様子にも違和感を覚える。

「忙しいのにすまないね……」

照日ノ君が何かを促すように言ったので、素戔嗚はぴくりとした。

「ご心配なさらずとも、予定通りローズクオーツならば−−。ガーネットの場所もわかるのも時間の問題です」

鈴凛たちがいるからか素戔嗚は一部を濁して言ったが、照日ノ君が笑う。

「さすがだな。美周郎は死んだか」

照日ノ君が小さく言った。

「!!」

「神器あってのことです」

「いやおまえの能力だ」

「……!」

鈴凛は体が硬直した。

これは戦争よ、佳鹿がいつか言っていた。

退治でもヒーローごっこでもない。

「リガードリングが消えればこの世界は随分と良くなる」

「ひゃー!すげー!!あのリガードリングをやったのかよ!!?」

「おまえこの騒動の前にそんな大仕事してたのかよ」

「いまからガーネットのところにも行ってもらうよ」

「片手間にそんな……そんなに強いのかよ……リガードリングあたしもいつかぶっ倒したいなあ〜番付で一番になって、宝石飾るとこ作ってよー……」

哀は嬉々として尊敬のまなざしで素戔嗚を見ている。

「もう戻ります」

「素戔嗚は恐ろしく優秀なんだ」

照日ノ君が美しく笑う。

「……」

「かっけー!! あんたはやっぱり規格外なんだな! 人間でもその領域に行けるにはどうしたらいいんだ?」

「……鍛錬することです」

「なあなあ、どっか行くまえに秘密を教えてくれよ! ちょっとだけ! なあちょっと、ちょっとだけ!」

哀は素戔嗚の服の裾をひっぱっている。

「こらこら、あまり素戔嗚を困らせないよ、煌姫」

鈴凛は全然笑えなかった。

冷たいと思った理由がわかった気がした。

この人は人を殺している合間に鈴凛を助けに来た。

そしてその冷たさをはじめから自分は知っていた気がする。

なぜだろう。

この人は完璧すぎる。中途半端を許さない。この人は何千と生きた宿敵のリガードリングを殺して表情ひとつ変えずに、鈴凛を助けにきた。神々を神器で脅した。

平然とまた返り血を浴びるために戻っていく。

「……」

その落ちつた表情やたたずまいには隙が一切ない感じだった。

悲しみも喜びも浮かんでいない。

何かを間違うようには思えない。

厩戸の女を事故死させてしまったということが思い出されて鈴凛はぞっとした。うっかり馬を投げ込んでたまたま女が死んだとは思えない。あの凍てついた目は確実に殺そうと思ってやったのだ……だから照日も怒ったのだ……鈴凛はなぜかそう確信した。

急に自分がその機織りの生まれ変わりである気がしてきた。

「じゃあその武器触らせてくれ」

「持ったら死んじゃうよ」

「手袋あれば大丈夫なんだろ」

「これは素戔嗚だからだよ」

白月と過去に繋がったことも思い出される。

櫛灘を赤い剣に変えた時、その声には微塵もゆらぎが無かった。

誓を

誓を結べ

あの言葉の音は命令の響きさえあった。

「……」

素戔嗚と櫛名田は本来、夫婦であったはずだ。

自分は……櫛名田の生まれ変わりなのか……?

鈴凛はひとつの疑問が浮かんだ。

「……」

誰にかに似ていると思って思い当たる。妻を愛していないところ、表情がとぼしいところ、冷たい感じがするところ、口数が少ないところ。どこか拘式に似ていると思った。

「……」

鈴凛は深く青い目をじっとみてしまう。

でも拘式は一枚剥げれば、どこか子供っぽく、ムキにところもある。クールぶっているところがある。

でもこの人には隙がひとつもない。瞳に光をたたえているが、それさえも偽物に思えてくる。何もかも経験してしまっていて感情が死んで完璧になってしまった−−。凍てついて凍りついて固まったような。

冷たい大人。

必死に人間らしく振る舞うことさえ忘れたような−−

それはまさに心が死んでいる。鈴凛はそういったふうに感じた。

「おまえは本当に優秀すぎるからな」

照日ノ君が素戔嗚にむかっていたずらっぽい顔をしている。

「……!」

この人は敵を倒してすぐ鈴凛を助けに帰ってきた。そしてまた誰かをすぐに殺しに行く。

青い背中が水の上を滑るように去っていく。

「水のうえに浮いてるじゃん!! どうなってんだ!!」

哀が頓狂な声をあげる。

「おーい! そのやり方、教えてけー!!」

「あの人を……信頼していらっしゃるんですね……」

鈴凛は照日ノ君の横顔を見て思わず口にでてしまう。

「昔は、いろいろあったけどね」

照日ノ君は鈴凛のほうに顔を向けずにつぶやいた。

「……」

「弟というよりは……今風に言うと……一番優秀で信頼できる部下……かな?」

照日ノ君はくすくすと笑う。

「いつもは」

「田心姫とともに八十神と最前線で戦ってくれている」

「あーいっちまった……」

「にしても素戔嗚が本当に踵を返してやってくるとはな……」

照日ノ君がつぶやいた。

「だねえ」

思金も腕を頭の後ろにあてて言った。

「……わたしは……」

「……」

誰か……その機織りの生まれ変わりなんですか?

だから特別扱いしてくれたんですか?

でも照日ノ君からその話をされたことは無かった。

きてみたい。


わたしは、あなたが愛していた人の生まれ変わりですか?


「いやいや……」

そう聞く自分を想像して、鈴凛にだってそれがどれだけ図々しいかわかる。

それに照日ノ君は生まれ変わりを頑なに否定していると天児屋命が言っていたことも気になっていた。

鈴凛は聞きたい気持ちをぐっと堪える。

「わたしは……わたしは……八岐大蛇じゃ……ないんですか?」

「あれはこんなに愛らしくはない」

鈴凛は今まで悩んでいたり、処刑されたりしそうになったことは何だったのかと思った。

今まで悶々と悩んでいたことは何だったのか、すこしだけむっとする。

「素戔嗚もわかっていたから助けにきたのだ」

もっと早く高天原に呼んで、そう言ってほしかった。

「でも……天児屋命は……布刀玉命の占いは」

「他の神は……恐れているのだ。八岐大蛇は正確には神々である我々にも……何なのか把握されていない。だから誰も八岐大蛇じゃない証明など正確にはできないのだ」

「でも」

「素戔嗚の言った通り、八岐大蛇ならわたしの側にはこうして座っていない」

「……?」

「残念ながら、あれには強い意志がある」

「……?」

「わたしを見ればすぐに殺そうとするだろう。全身全霊で」

照日ノ君はそっと鈴凛の頬を撫でた。

「……?」

それはなぜ?鈴凛は考えを巡らせて、神器を見る。

神器は八岐大蛇から取り出された。力を奪われたから?

「それに我々の間者によれば、陵王が持ち帰った八岐大蛇の遺骸は八雲が管理する連中の本陣営、ニッドノアールの地下に秘密裏に運び込まれ、棺は最地下に安置されたと聞いている」

「ぬるすぎる。間者ってスパイだよな? 開けて中を確認したわけじゃないってことだろ」

哀が思わずつっこんだ。

「確かに……」

「八岐大蛇があの箱の中にいなくて、たとえどこかにいても、活動は停止している。それにそれは君じゃ無いよ。君には不思議が多いから、みんな恐れるがそれは違う」

「まあな……。ま、こんなお花畑が、あいつらがビビりまくってる、八岐大蛇なわきゃないが……」

「花牢で八岐大蛇ガッツを見せろとか言ってわたしのこと殴ってなかった」

「おうそんなこともあったかよ」

アイは全然悪びれて無かった。

「はあ……」

「でもよお、確かに、ちょー大変だったんだぞ。照日、おまえがいない時を狙ってだなんてまたあるかもしれねえだろ。おまえがボス神なら、あのザコ神どもを黙らせろ。こいつは薬中になったあげく、廃人にされて、わけのわからんどこぞの火山にぶち込まれそうになって、あたしは素戔嗚を探し出すために、動画を制作する羽目になってだな……間狸衣に徹夜で編集させて……」

哀が考えながら話す。

「そうだね、すまない」

「あとグレースたちが勝手に高天原のものを持って帰って、地上でいじくりまわしてんぞ。便利だけどよ。てめえは、ぬるすぎる」

アイがまたずばっと言った。

「ちょっと哀……」

「……そうかもね」

照日ノ君が苦笑いする。

「でも……わたしは人間の向上心は好きだよ。ちょっとずるくて悪いところも」

優しい声がそう言うと鈴凛はふしぎと安らいだ。

「はあ? 何キモいこと言ってんだよ。あいつらただのマッドサイエンティストだぞ。あたしのダチの遺伝子はコピーされて同じような忌作ってるし、こいつの花将は幽霊まみれにされて……んでもって他にもいろいろ妙な装備も……」

「でも」

「人間たちから知識をとりあげて、力で押さえつけて」

「より賢い神々が圧倒的な知識と力で世界を正しく完璧に管理できる……そういう考え方はわたしは違うと思う」

「……?」

「それこそ八雲の考え方だよ」

照日ノ君の顔にどこか影がさした気がした。

「八雲の……?」

「自分ならば世界を正しく支配できる……笑い種もいいところだ」

照日ノ君が冷たく言った。

怒りとも軽蔑とも言えぬ深い憎しみが滲んでいた。

「……」

「人間たちは尊い」

「何かを変えられるんじゃ無いか……もっとよくできるんじゃないか、と探して頑張る姿、……願いにひたむきな眼差しが、わたしは好きだ」

「ああ……!もう! てめえも、お花畑かよ!!」

哀はげんなりして頭をわしゃわしゃとかいた。

「君が青春したいそう言った眼差しだよ」

照日ノ君が鈴凛をみて目を見開いた。

「!」

鈴凛はどきりとした。

「戦姫は修羅の道」

「だから君はその願いを手放してしまうのか?」

「……手放しません……」

「……」

「でも……でも青春って……少し思っていたものと違うのかも……」

鈴凛が迷いながら言うと

照日ノ君は何かに気がついたように、優しくほほえんだ。

「それは……よかった」

「いやあ本当に戻って来れてよかったなあ!」

哀ががははと笑っていた。

鈴凛は腹に重たい石のようなものが生まれた気がした。

海が終わり陸地がが見えてくる。

戦姫と青春の日々が帰ってくるのだ。

いまだにわたしと哀があそこに住む日本の人々の命の責任を負っている。そうは思えない。

でも、高天原もこの姫としての生活も闇の中のほんの一部なのだと思った。

修祓は小さな末端の事象。

神々は人々が死滅することを恐れ、素戔嗚は敵の中核となる人物を容赦なく殺している。

それこそが世界を表している気がした。

このきらびやかな船から踏み外せば、暗い海の底まですぐに沈む。

この青春は、人生の夏休みにしかすぎない。

わたしたちは、本当は、なにかとてつもなくひどい戦いの只中にいる。

目かくしをされているだけだ。

もしくは目を逸らしている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ