天叢雲剣
足からひゅうっと重力がなくなって下にに吸い込まれていく。
「ひゃあああああああ!!」
終わった。
周馬や未来妃にさよならも言えなかった。
敵じゃなく、神々に殺されるなんて……
てゆうか、それどころじゃない。
「あああああああ!!落ちるううううううう!!」
ついに火口がすぐそこに迫った時、体に衝撃があった。
何かが横から衝突した。
「っつ……!
そして先ほどみた火口が凍りついている。
「え?」
体は抱き止められていた。
そして上昇していく。
「!!」
「何者じゃ!!」
上から声がする。
空気がぴんとはりつめた。
やっぱり照日ノ君が来てくれたんだ−−
力強いものが鈴凛を抱き止めている。
鈴凛は期待に顔をあげた。
「な……」
神々はその光り輝く姿をぶるぶると揺らして不快を示していた。
「……てる……」
神々は恐れ慄いていた。でもそれは天照大御神ではなかった。
深く青い瞳がこちらを見下ろす。
「……!」
鈴凛はなぜかちらりと一瞥された時、知るはずもないのに知っている気がした。
電気のようなものがびりびり走った。
怖さと愛しさとなんとも言えない感情が溢れてきそうになる。
「素戔嗚」
天児屋命がその名を言った。
神々がざわざわとした。
背が高く朝黒く日焼けして、たくましい筋肉がついている。艶やかな黒髪を編んだ男だった。
素戔嗚?
この人が−−
鈴凛の脳裏に明雅顕証の儀で白月姫と繋がった時にみた、八岐大蛇討伐の英雄が浮かぶ。
かつてこの人が八岐大蛇を倒した。
「……!」
素戔嗚は割れ目から再び高天原の地下空間に降り立った。
「ひい……入ってくるな……」
凛々しい眉毛の下に鋭い眼光が光っていた。
「お、おまえが……なぜ……ここに……」
神々がぎょっとしている。
「証人だ」
哀が空に浮いている。見れば、また妙なスニーカーに天牛の足についてる巻雲をつけていた。
「哀!!」
「証人……だと……?」
「ご先祖様を連れてきたぜ!おわ!バランス、むず」
アイは空中でよたよたした。
「!!?」
「八岐大蛇と戦ったことがあるのは素戔嗚だけだろ」
「みたか」
哀がへへんとして言った。
「おのれ……天雅の娘か……いまいましい」
「素戔嗚!!ひくがいい!」
「天津神に逆らう気か」
「……」
青い目が冷徹に神々を見ていた。
「おぬしに何ができる!」
天児屋命がうなるように言うと、素戔嗚の手が動いた気がした。
「……何が……できる……?」
腰に手をかけると何か長いものを目の前にかがげた。横になった鞘に収まった剣。鈴凛はそれをどこかでみたことがある気がした。
「……!」
「な!」
「なぜそれをおまえが!!?」
「ひいいいいい!」
りんと柄についた鈴が鳴る。
すっと親指ほど鞘から剣城をずらすと、すさまじい光のようなものが飛び出た気がした。
思わず目を閉じる。
ぐわんと思考がなぎ倒される感じがして、何もかもが頭から吹っ飛んだ。
「な……」
ごうごうと音がする。
頭の中が白く、何もない。
「何が……」
「何してたんだっけ?」
赤い視界だった。キラキラと何かが流れている。
気がつくと赤い糸が鈴凛の体を繭のように覆っていた。
「糸ちゃん……?」
それがほぐれて消えていく。
「あれ?」
鈴凛は目の前の光景に息を呑んだ。
空の上にいる。それを見ると記憶が帰ってくる。
「!」
膨大な情報の跳ね返りにどくんと心臓が飛び跳ねた。
「あ……え……?」
「ひいいいいいい!」
神々の光り輝く体がゆらめいて、びりびりと電波が途切れた映像みたいに歪む。
「……?」
彼らは必死にそれを立て直そうとしていた。
「な……なぜ……」
「もう少し開いてもかまいませんが」
「やめろ!!」
「な……なぜ……天野叢雲を……おまえが……」
神々はよろよろとして空でのたうち回って恐れ戦いている。
「やめろ……」
「やめてくれ……」
「不在時にわたしにお預けになったのです」
「ば……」
「あれはいつもは天照大御神が帯刀していたやつか」
哀がへえと言った顔をしている。
神々は恐れ慄いて隠れて姿を消した。
「八岐大蛇の力はこのようなものです」
「……ひいい!」
神々はまた姿を隠した。手力男命ですらも隠れている。
「このお方が」
低い声が響き渡る。
「……」
「八岐大蛇ならば」
「……」
しんと静まり返る。
神々はその白く黒い不思議な光をおそれていた。
「ここにいる必要もありません」
鈴凛の手枷が音もなく破れている。
「!」
緋色金を音もなく切断していた。
「しかし布刀玉の亀の甲にははっきりと出ていた!!」
神々が呆然としいた。
「……」
素戔嗚はそれに応えなかった。
「その女はいつか高天原を滅ぼす!!」
天児屋命が睨んでくる。
「……」
素戔嗚は顔色を変えていない。
「あのお方といい……おまえといい……その女を、あの女たちだと思っているのだ!」
「あの女たち?」
哀がぽかんとする。
急に女の数が複数形になる。鈴凛は混乱した、自分は誰かの生まれ変わりじゃなく、複数人の生まれ変わりなのだろうか?
「無駄口はおやめください。わたしと戦う気があるのならば相手をいたしましょう」
素戔嗚は制するようにそう言った。
「く……!」
「おーおーびびってやがる! びびってやがる」
「占いがなんだってんだ!」
哀が空中でぴょんぴょん飛び跳ねて怒っていた。
「ひひひひひひひいじいさまとやんのかオラ、やってみろ」
哀は後ろ盾を得て調子に乗っていた。
「所詮我々には……あのお方を止めることはできない」
はじめに手力男命が重苦しそう言って背を向けた。
「いきましょうこやね……」
布刀玉がほっとしたような顔をしてくるりと背を向ける。
「なんと愚かな……」
「……」
天鈿女命も美しすぎるその顔を真顔に保ったまま去っていく。
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