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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
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学葬

学校の体育館で合同葬儀が行われ喪服を着た人たちが溢れていた。

生徒たちのたくさんの写真と山のようにもられた花がステージに飾られていた。

−−こんなことになるなんてね

何もかもが失われた。

佳鹿は一命を取り留めて八咫烏の管理する病院に入っている。

拘式は体調がだいぶ回復したらしく大学病院の病室に移った。

だがもう戦うことはできないだろうとの見立てとのことだった。

「……」


嫌いだったハデハデしい山原泰花の顔が祭壇にある。

鈴凛は花を供える時、分厚い唇が開いたような気がした。


ねえ、なんでどうどうと、生きてるの?

あなたのせいでこんなに若くして死んじゃったんだけど?

代わりに死んでよ

この人殺し


遺影が話すはずもないのに、鈴凛には聞こえてきた。

「ごめんなさい……」

攻撃の口を緩めなかった彼女が今、死者たちの第一人者となって鈴凛を攻めている気がしてくるかのようだった。


みんなあなたのせいで死んだのよ

なんにも悪く無いのに


「ごめんなさい……」


おまえは何の権利があって、俺にこんなことしたんだ?

これはさすがにないよね

わたしたちまだ何もしてないのに

あんたにわたしたち五十人分の人生の価値があるの?


鈴凛にバレーコートでボールを投げた男子。昇降口で友達と楽しそうにしていた二人組の女の子。文化祭で鈴凛ちゃんすごいよと言ってくれたクラスメートもいた。いつも朝一番に来ていた子、バスケットボール部の男子もいた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


三枝もあんたのために死んだのね

あんたの父親も、あんたのせいで死んだのね


「!」


よくもクラスで笑ってられたわよね


誰かの死なんてどうでもいいんでしょ?


「ちがう……ちがう……ちがう……」


あんたは死なないから


「!」


「誰か教えて……」

鈴凛は耳を塞いで独り言を吐いた。


誰か教えてほしい。


わたしはどうしたらいい−−


死にたくても死ねない


わたしは死ねないの


わたしは、どうしたら 許される


「……」

山原泰花を思って野奈が泣いていた。

生徒たちは列になって体育館を出た。

−−今から授業とかそんな気分になれない

−−なんでこんなことになったんだろう

−−だいたいギャラクシアランドにしとけば

−−あそこも火災になっただろ

−−この学年呪われてるよ

「……次、拘式がいないから一年の藤村の授業になったんだっけ」

熊野がぽつりと言った。

「……鈴凛、痛そうだけど大丈夫?」

毛利就一郎が大袈裟に作ったうその腕つりに未来妃が心配そうな声をかける。

鈴凛だけ無傷なのはおかしいからという理由で作ったものだった。

「……大丈夫」

どこが?わたしそんな顔してないでしょ?

ざらりとした気持ちになる。だってこれは作り物だから。

痛そうなわけがない。

自分は平然と痛いみたいな顔してるんだろうか。

「本当に……大丈夫?」

思ったより険しい表情にでもなっていたのか、本当に包帯が大袈裟すぎたのか未来妃は重ねて聞いてくる。

「大丈夫だから」

哀はそれに何もリアクションしなかった。ただ珍しく騒ぐこともなく静かだった。

哀が騒いでいない。普通にしている。

それも大変なことになった感を助長して鈴凛はいたたまれない。

沈み込んだと思えば、突然に何もかもにイライラとしてしまう。

「……」

未来妃がこっちを見ている顔も思いっきり貧血ぎみな青白い顔も、あなたのせいで具合が悪いですって書いてあるみたいだった。

自分のせいでこうなっているのにそんなことを思う自分が鈴凛は嫌いだった。

逃げ出したい気持ちなる。

「死んだやつと俺たちと何が違うんだろう。運のよさかな」

熊野がぽつりと言った。

「非科学的だ」

「命あってのものだな」

周馬が静かに言った。

「……ちょっと……でてくる」

「え?」

周馬は頬に絆創膏を貼っているし、飛鳥も何箇所か逃げる時に怪我をしたらしく包帯をしていた。

「……!」

屋上の階段を駆け上がる。外は曇りだった。

何も知らないフリをして一緒にいることは、どんどん鈴凛を落ち着かなくさせる。

おかしくなりそうだった。

こんなんじゃだめだという焦りと、これからどうなるんだろうという不安と、何もできなかったというやるせなさと、BBたちへの怒りとなにもかもがごちゃごちゃになっていた。

「……」

鈴凛は毛利就一郎が用意した嘘の包帯を剥ぎ取った。

「……なんで……」

鈴凛は一人で屋上から外を眺めた。

「なんで……こんなことに……」

一人でフェンスにもたれかかった。

「時間が戻せるなら」

「……」

戻してどうするんだろう。

未来妃を助けなければいいのだろうか?

いやもっともどってBBを止めるところから?

心配そうに鈴凛をみた未来妃の顔が浮かんできて首をひとりでよこに降った。

すぐに後ろで音がした。哀が不機嫌そうな顔で立っている。

「おい」

「なんで……こんなことになっちゃったんだろ……」

「おまえのせいじゃねえだろ」

「……わたしのせいだよ」

「ちがう」

「ちがわない」

「ちがうつってんだろ」

「戦姫になったばっかりの哀に何がわかるの」

鈴凛は自分でも思っていないほどの嫌な言葉が出てきた。

「わかんねーけど、見てるだけでイライラすっから、やめろ」

「……」

「うじうじすんなよ、よけいに未来妃が詮索する」

「うじうじしてない! イライラしてるの!」

鈴凛が叫んだ。

「やめろつってんだよ!!」

哀がドスのきいた声でそれ以上に叫んだ。

「どっちでもいいけど、とにかくやめろ!!」

哀の身開かれた目が気迫を持って圧をかける。

「……ごめん……」

「……」

「哀だってココを見て辛かったのに……怪我までさせちゃって、ごめん」

「……」

哀は真顔で屋上から遠くの山を見た。

「あれはココじゃねえよ」

「え……?」

「おまえがクローンだって言っただろ」

「……まあ……クローンだから……」

鈴凛はそう言いながらも、哀がそんなにはっきり割り切るなんて意外だった。

哀はそう言ったが、鈴凛は頭ではそんなふうに思えない。

クローンだとしても、同じ体で、同じ過去を見て、同じ悪夢を経験してしまっている。

それはここじゃ無いなんて否定できるだろうか。

それをココじゃ無いなんて言い切れるなんて意外だった。

哀は何かを考えるようにまだ遠くの山を見ていた。

「……なんでそう思えるの?」

「わかんねえが……おまえに言われてはっとした。確かに、なんか違った」

「……」

鈴凛はちょっとだけ楽な気持ちになってしまった。あれはココじゃなかった。

それならばまだ—

だから何?

知らないひとならいいの?

「……」

それでいいわけないのに—

また嫌な気持ちになる。

がちゃりと後ろでまた扉の音がする。

「失礼します」

矢田いつ子がやってきた。

「なんだよ矢田、いま忙しんだこいつを説教してるとこだ」

「修祓です。大阪のほうで」

「……こんな時に……」

鈴凛は重い腰をあげた。

「煌姫様だけです。……百姫様は行けません」

「え?」

「八岐大蛇の嫌疑がかかり、修祓も高天原への入国も禁止されました」

「……!」

「そっか……そりゃそうだよね」

「おまえは休んでろ」

「うん……」

どこも怪我してない自分が休むなんて皮肉だった。

「気をつけてね」

「ああ」

「じゃあいってくる」

「失礼します」

「……」

鈴凛は見送って半開きになった手を握りしめた。

鈴凛は力が抜けて立ち尽くしていた。

予想を全くしてなかったわけじゃない。

でも想像していた最悪の方に事が進んでいるのだと判った。

胸の真ん中あたりが苦しくて、息が浅くなって鈴凛はうずくまる。

「くう……」

体に力が入らない。それなのに臓のあたりから体が吸い込まれていくような痛みともいえない力がかかっている。

「っつ……」

いじめられていた時に身体中に穴が開いて大切なものが染み出していくと思った。今は真ん中に大きな穴が開いていて、どんどんそれが広がって体がなくなっていくのではないかと思うほどの不安だった。

「……こわい……」

鈴凛はつぶやいた。何もかもが変わってしまう予感がした。

わたしは、戦姫じゃなくなったらどうなるのだろう—

辛くて、死んでお詫びしたくても、もう死ぬことさえできないのに−−。

「あ……あ……」

鈴凛は肩を抱いてうずくまった。

何を考えているんだろう。

学校のみんなをたくさん殺したのに。またみんなを殺してしまうかもしれないことを恐れるべきなのに。


戦姫じゃなくなることが怖い。


こんな考え方をするなんて、本当に最低だ。

猛烈な吐き気がして、心臓の音が聞こえる。

呼吸が速くなる。

「……はあ……はあ……」

佳鹿−−

誰か

誰か

「!」

誰か

お願い

わたしを

「……!」

また無意識に誰かに願う自分にきがつく。

そしてあれがそれに答えてしまった瞬間を思い出す。

「だめ……だめなのに……」

涙が出てこなかった。

胸のあたりがますます凹んだように痛い。

「なにこ……」

その時、ぱりりと卵が割れて孵るような音が服のなかからしたような気がした。

ひりりとした痛みとも痒みとも言えない何かが胸元の皮膚に感じられた。

「なに……」

鈴凛は制服から自分の胸元を覗く。貧相な胸が収まった白いブラジャーの間をみて息が止まった気がした。

「!」

奇妙なものをみつけた。

君悪い魚の鱗のようなものがびっしりと生えている。

「なにこれ」

鈴凛はへたりこむ。それを見ると、急にまた心拍数が一段階上がった気がした。

「……!」

震える手で携帯を制服の胸ポケットから取り出すと、電話をかける。

三、四コールなったところでがちゃりと音がした。

「あ……蟻音さん」

−−鈴凛ちゃん?

「……わたし……わたし……」

−−鈴凛ちゃん、大丈夫?


      *



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