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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
63/178

自動販売機前

鈴凛は手術室の横にある待合スペースで用紙を握りつぶした。

「無い……」

如月周馬も坂本飛鳥も熊野圭吾の名もリストには無い。

ホテルに宿泊していた生徒たちの半分は死んだ。

鈴凛が持っているのは死亡者リストだった。

「……」

誰かすぐわかる名前には山原泰花の名前があった。

「……」

「なんでこんなことに……」

自分がわからない。両手をみつめる。


わたしが彼らを食べた。

鈴凛は足元から全てがなくなるきがした。

この口で何千人いや何万人を殺したのだろう。

吐き気がして、鈴凛は口元を押さえた。


佳鹿と拘式のオペが行われている。

「どうか……お願い……ふたりとも助かって……」

未来妃は出血多量で別の病院に、

「……」

拘式は臓器のいくつかがやられ、佳鹿は片腕と片足が無くなり、命を繋ぎ止めても戦うことはできないとの見立てだった。

二人はつなげられるところはつなげ、生かすために大手術が行われている。

「神様……神様……」

そう言って、神は助けてはくれなかったと思う。

「佳鹿……拘式さん……」

「ねえ……わたしは……八岐大蛇を倒したんじゃなかったの?」

手首を見ると赤い糸は小さくなって縮こまっている。

「……」

「あなたが、戦姫じゃなくて八岐大蛇だったなんて、毛利家もとんだ貧乏籤をつかまされたものですよ……」

毛利就一郎がはあとため息をつきながらやってきた。間狸衣もその後ろにいる。

「強力な殺虫剤を手に入れたと思ったら、ゴキブリの方だったなんて……いや殺虫剤の中身がゴキブリだったのか……」

「黄猿様……今は……その」

間狸衣が遠慮がちに言う。

「……」

「宿泊客の多くが死にました。学園の生徒も2学年は半分が死んでしまいましたよ」

「……」

「崩落による雪崩で調整してますが、施設の責任とか、学校の管理責任とか色々訴訟を抱えるでしょうねこれは……先が思いやられます」

「……」

「BBさんも八岐大蛇を連れて行こうなんて、何をトチ狂ったか……」

毛利就一郎がガム吐き出して、新しいものを口にいれていた。

「……」

鈴凛は全く返事をする気力が湧いてこない。

毛利就一郎の独り言だけが響いていた。

「いかにも、今、絶望モードです……みたいな顔やめてもらえます?あなたのせいでしょ?八咫烏を私的利用して夏川さんなんか助けに行くからこんなことに」

「……」

毛利就一郎が鈴凛の前まできて、顎をくいっと持ち上げた。

「いつから自覚があったんです?」

「……やめてください」

鈴凛はそれだけいって、手を払う。他に何かを言い返す気力も無かった。

「あなたが食べちゃったんですから、あなたが悲しむなんて変でしょう?」

「黄猿様……!」

翔嶺がたしなめるように言った。

「まあだいたい死んだのに蘇るって、意味不明な能力、神々さえ殺せない不滅といわれる八岐大蛇の性質と似てますよね……なんでいままで誰も気が付かなかったんだか……」

「いや神々もなんで縁血したんだか……いや……なんで縁血ができたんだか……」

「……」

毛利就一郎が目を細める。

「ヤマタノオロチがテストで0点とって、イケメンを狙って、文化祭実行員を務めて、まったくお笑いですよ。 一体なんのために、こんなことしたんです? 全てを破壊しうる力があるのに、なんで、ドジでバカでいじめられっ子のゴミ女子高生になんか再現したんです? 他にもマシな候補があったでしょうに」

「黄猿様!いくらなんでも!」

間狸衣が慌てふためいている。

「おーい返事してくださいよ。それともあなたはヤマタノオロチじゃないんですか?」

「わたし……」

何もわからない。それが正直なところだった。


自分が八岐大蛇なのか、八岐大蛇じゃないのか。

源鈴凛なのか、源鈴凛じゃないのか。


鈴凛はいたたまれなくなって、その場を離れた。

「あ、逃げた」

夜の病院は静かだった。窓の外には雪が降っている。

「大丈夫ですか?」

自動販売機の前まで追いかけてきて間狸衣が声をかけた。

「わたし……」

「……」

「わたし何が何だかわからなくて……」

鈴凛は自分の手をじっとみつめた。

「でも……羽犬さんもみんな死んでしまって、未来妃を食べようとして怪我をさせて、佳鹿も拘式さんも死んだらどうしよう……わたし……わたし……」

自分の手と足につけられた火緋色金が光っている。

「天雅家と黄猿様はああは言っておられますが、百姫様が八岐大蛇であると決まったわけではありませんよ」

「でも……間狸衣ちゃん……」

「……」

間狸衣がカバンからパソコンを取り出した。

「映像……ご覧になりますか?」

「……うん……」

怖い。見たく無い。そんな気分じゃ無い。心構えもできていない。

でもいつか避けては通れない。そしてそれだけが死者たちのために今できることのような気がした。

「……」

鈴凛は間狸衣がこちらに向けたパソコンのモニターを見た。

「忌がまずあのフェイスとトーチなるBBの装置によって結合します」

「……」

肉が嵐のように巻き上げられていった。

「おふたりを担ぎ上げて、その場をさろうとした瞬間」

「結合形態の忌が、崩れ落ちるように百姫様に流れ込み、一体化します」

「目があった……気がした時……」

鈴凛はその瞬間を鮮明に覚えていた。

「あの時」

間狸衣に言うべきか迷った。だが言うしか無いと思った。

「殺しって……願ったの」

「……!」

あの時鈴凛は自分でも驚きつつも強くそう願った。

そしてあれがそれに応えてしまったのだ。

「とんでもないことを願って……いや心から叫んでしまった」

鈴凛はうずくまる。

「……」

「百姫様、どれだけ強く願ったとしても、忌があなたの指示に従うはずありません」

「それは……でもわたしが八岐大蛇かもしれないから」

「……先をみましょう」

「……うん」

「百姫様と黒牛もそのまま飲み込まれてしまいます」

衝撃で生まれた雪の割れ目に未来妃が落ちていった

「そして何事もなかったように、忌がもう一度、形状化し立ち上がります……しかし」

「!」

頭部がキラキラと輝きはじめる。

そして忌は頭を抱えて苦しんでいるようなそぶりをみせた。

そして額のような場所に何かが突き出してくる。

「頭部から触手のような黒銀色の花が咲き、乗っ取っているように見えるのです」

花の花弁は触手のように一気に広がり、地響きをたててそのまま歩いていたが、しばらくすると肉の巨人は膝をつくとそのまま倒れ溶けていった。

「……!」

「そこからは、どんどん溶けて、人間のような形状を失い、沼のようになって、全方向に広がっていった。その場にいた人間を手当たり次第に……そして食べるたびに、首のようなイソギンチャク形状の頭部のようなものができはじめます」

「これが……わたし……」

以前、拘式谷で見た八岐大蛇は触手たちが集まって蛇の形を成していた、が今回のそれは鈴凛の胸像のようなものを中心部にこしらえていた。

「これが最後に切られた首……」

「そして……西端でご友人が」

間狸衣が拡大する。

未来妃を襲っている映像から鈴凛は顔を背ける。

未来妃は助かった。

でもこの時の自分を思い出したくなかった。

「あの時陵王が止めてくれなければ、未来妃を殺していた」

「……」

間狸衣はそれには同意しなかった。

続けて映像を見ると、陵王が空から舞い降り、雪を切って雪崩を起こしはじめる。

そして陵王が剣で巨大化したイソギンチャクのような首を切り落としていった。

「これ……」

そして鈴凛の巨大な首頭を見定めると、剣を引き伸ばす。

「これで切られたのか」

「これはおそらく草薙剣(くさなぎのつるぎ)です」

間狸衣が映像を止めて指差した。

「八岐大蛇を切ることができるのは、湯津爪櫛ゆつつまぐしを巨大化させた天羽々あめのはばきりか、八岐大蛇自身から取り出された体の一部……神器しかありえません」

「そしてこの黒色に光るこれは」

「三種の神器のひとつ……かつて八岐大蛇自身の尾から取り出されたと伝えられ、今は八十神の王、八雲が持っていると伝えてられたものではないかと」

「つまり八十神のもの」

「見たら死ぬって言う……でもあれは天照大御神が持っているんじゃ? 神域の草案で思金さんが破片を持ってた」

「草案で見られた破片は尾から取り出す際に欠けたものときいています。天照大御神が帯刀しているものは天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)です」

「天野叢雲ははじめから天照大御神がお持ちになっているものです」

「はじめから……」

鈴凛はその言葉に頭がふと冷静になる。はじめから? なんではじめからそんなものを神々が持っているのか? どうして? それはどこから……

そこまで考えたところで間狸衣が続きを話す。

草薙剣(くさなぎのつるぎ)は素戔嗚様が八岐大蛇討伐後、尾から取り出し天照大御神に素戔嗚様が献上しようとして、素戔嗚様が触れることができず、落とし、それを八雲が手にしたもの」

鈴凛は明雅顕証の儀の時に見た、白月の記憶を思い出す。八岐大蛇退治でできた刀を思い返していた。

市杵島姫の裏切りによって失われたものだ。

間狸衣はそれに関しては知らないようだった。

「刀はじゃあ……ふたつあるの?」

「はい……神器は、全て、ふたつずつあるんです」

「ふたつ……ずつ?」

「はい。勾玉も剣も鏡も」

「……」

「神器は2種類あるのです」

「八岐大蛇の体から生まれし闇の鋼のごとく黒く光る荒らもの、天照大御神の所有物である白昼の日のごとく白くひかる直ぐもの」

「日本の三種の神器として扱われる八尺瓊勾玉、(やさかにまがたま、)天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)八咫鏡(やたかがみ)は天照大御神が持つ白昼の直ぐものです」

間狸衣は映像を止めた。

草薙剣(くさなぎのつるぎ)荒魂(あらたま)荒鏡(あらかがみ)が闇の鋼のごとく黒く光る荒らものが八岐大蛇から取り出され、八雲が持つもの」

「いずれも完全なる消滅の力を宿すもの。いずれも、素戔嗚様すら手にできなかったほど、どちらも人の手に扱えるものではないのです」

「……でも陵王は手に持っていた。じゃああの人は人間……八十神の誰かじゃなく、神……? あれは八雲なの?」

鈴凛はぴんとこなかった。

「じゃあ八雲は日本にいるの?」

「そんなはずはないですが……」

「神器を扱えるのは、神つまり……神器に支配されないだけの強い心、強い体、強い魂を持つもの」

「八十神で神であるといわれているのは、八雲とペンダントの一席であるインペリアルトパーズくらいです」

「じゃあその人なの?」

「わかりません……でも……わたしが言いたかったのは……八十神の王八雲が持っていたはずのものが、あの雪山に持ち込まれた」

「百姫様のせいじゃないっていいたくて……」

じゃあ誰のせいなのだろう。

「これは何かの陰謀です。百姫様をおとしめようとしたのかもしれません」

BBのせい?

八十神のせい?

それとももっと誰か別の人のせい?

鈴凛はどれも違うと心が言っているのがわかる。

「なんにしたって……わたしがこんな体質で、BBが……彼らが……連れて行こうとしなければ、あんなものは使われなかった……みんなも死ななかった」

「拘式谷から陵王が持ち出した八岐大蛇の遺骸かまたはその一部を百姫様に取り込ませたのかもしれません」

間狸衣は鈴凛を信じているようだった。

「暴走は仕組まれたことだった可能性も」

「じゃあなんで陵王は……あの人は、首を切ったの? わたしを八岐大蛇にしたのに止めるなんておかしいよ」

鈴凛はイライラとした。

「それは……」

間狸衣は何も言えなくなった。

「ごめん言い方きつかった……」

自分は八岐大蛇ではない。そうであってほしい。もしそうなら、自分も被害者になれるんだろうか。鈴凛はそんなことを思う自分が嫌だった。

「あなたは……あの時わたしを助けようとして陵王を撃ったのよね」

「……はい」

「間狸衣ちゃんは、わたしが八岐大蛇じゃないと……思って……」

鈴凛は首を横に振った。

「でも」

「はい、だって−−」

「あれは」

鈴凛はそれを遮った。

「……わたしだよ」

鈴凛は映像を見て、あの時感じたものが蘇ってきた気がする。雪山で美しい赤い色に魅了され、くしゃりと潰した時に自分の信じられない力を感じ超越した者であることを思い出したような……そして何より……

「……あの時、殺すのが……楽しいって思ってた」

それは、紛れもない自分の感情だった。

「味もしないのに、食べてた。食べなきゃって」

「!」

「楽しんで、幸福を感じた……あれは」

「……」

食べて殺すことが宿命だと感じ、夢や使命感とはこういうことだとさえ思った。

長らく埋もれて隠されていた秘密を掘り当てて悦びに満ちていた気がした。

「……」

両手を見る。この手で未来妃とあやとりをした。周馬がつないでくれて浮き上がる嬉しさを感じた。羊杏が可愛らしい手でマッサージしてくれたことがあった。

そしてこの手で人を捕まえて弄んで食べた。

「この手」

知らない自分。周馬や未来妃たちと過ごした楽しさや、友達ができたときの暖かさを遥かに飛び抜けるほどの快感を知った自分—

新しい感覚をみつけた喜び。

「あの時わたしを助けようと狙撃してくれたけど」

「……」

「でもそれは……きっと……間違い……」

鈴凛は顔を覆った。

「この人は……殺しを楽しむわたしを止めてくれたんだ……」

「……!」

「敵だろうが、何だろうが、あの人が首を切らなきゃもう止められなかった」

「撃ち落としちゃいけなかったのに」

鈴凛は涙が溢れてきた。

「八岐大蛇を殺そうとしたのなら、あの人は悪い人じゃない」

「わたしを完全に殺させるべきだったのに」

「それは違います!百姫様が死んでい良いわけな」

今度は間狸衣が叫んだ。

「ここは病院ですよ」

毛利就一郎のいつもどおりの声がした。

「なんで来たんです……」

「相変わらずお花畑ですねーあなたを殺そうとしたんですよ」

毛利就一郎がやってきた。

「あー……どれにしようかな……」

自動販売機前で小さく迷う。

「これにするか……」

「離れたくて離れたのに、追いかけてこないでくださいよ!」

鈴凛は叫んで毛利就一郎を睨む。

「そういうわけにも」

「……」

「佳鹿さんが死にそうなんです」

買ったコーヒーで手を温めながら、毛利就一郎がにっこりとして言った。





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