病室
気がつけば知らない天井が、鈴凛を見下ろしていた。蛍光灯の明かりが目をちかりと焼く。そこは、真っ白な部屋だった。
ベッドの鉄パイプが見える。
鈴凛はゆっくりと体をもたげようとしたが体が動かない。
拘束されている。
「……」
見た顔が覗き込んでいた。
「蟻音さん……?」
「間狸衣ちゃ……翔嶺くん……」
気まずそうな顔とほっと安堵した顔がある。
「毛利……先輩……」
毛利就一郎が包帯を頭にして、腕を吊ってあった。
「起きたようですね」
「わたし……」
鈴凛ははっとする。
「未来妃は?佳鹿は?拘式さんは?哀は?」
「……大丈夫だよ」
「哀ちゃんは高天原で治療中」
「未来妃ちゃんは別の病院に」
「ジンくんと佳鹿さんは……まだ集中治療室なんだけど」
皆が気まずそうな顔をしている。
「羽犬さんは?」
「羽犬さんは死にました」
毛利就一郎がさらりと言った。
「う……」
「あれから二日経ったんだ」
蟻音は小さくいった。
蛍光灯の光が妙に眼に刺さる。
「……?」
知らない人が二人いた。そして鈴凛は日緋色金で拘束されていた。
記憶が戻ってくる。雪山。未来妃。肉の巨人。陵王。間狸衣の狙撃。
「わたし……わたし……」
この手の中に人があった。
「やあ起きたみたいだね〜」
見たことのある男とスーツの数人の男が入ってくる。
「天雅さん……」
「天雅家の人たちだ」
そしてみたことのある存在がひとつ。
「わたし……」
天雅家の人々はどこかよそよそしく、恐れていた。それは今まで浴びた尊敬の恐れではなく、恐怖の恐れであることがわかる。
「何が起こったの?」
「みせてあげて」
天雅真澄が衛星写真のようなものをみせる。
雪山にイソギンチャクのようなものが写っていた。それはスキー場を飲み込んであたり一体まで不気味な赤黒い触手の海を広げている。
「ヤマタノオロチ……」
鈴凛は両手を見た。
「はい」
「そして、これは……あなたです」
天雅真澄が言った。
他の誰もが何も言わなくなる。
「八岐大蛇は……」
鈴凛の言葉が迷う。
重苦しい表情がみんなにあった。
「八岐大蛇は全てを食べると聞き及びます……それは肉体だけでなく情報をも」
「あなたは、再現された……存在なのかもしれません」
「それって……」
部屋がしんとなる。
「じゃあわたしは源鈴凛じゃなくて」
鈴凛は目眩がした。この感情も全てが偽物−−?
あの谷で何千人と生贄を食べてきてた魔物。
「……わたしは……」
「八岐大蛇……だったの……?」
病室に静かな鈴凛の声が響き渡った。




