トーチとフェイス
「なに……」
BBはヘルメットのようなものを被る。
「?!」
スノーモービルに乗った毛利就一郎が見えた。
ドドドドドと音がする。
「はああああああ!!」
毛利就一郎がものすごい形相でマシンガンを乱射してくる。
「誰が渡しますかああああああ!許しませんよおおおお!」
「!!?毛利先輩がなんでここに」
「殺してでもつれて帰ります!!」
「!」
「やめてーっ!!」
鈴凛は氷漬けのまま後方に向かって叫んだ。
「君が生き返れると思って……あのボーイはまったく無茶するね……」
「うたないで!未来妃がいるの!!」
毛利就一郎が攻撃を緩める気配は無かった。
「大丈夫だよ」
BBはほがらかにそう言うと、後方の部下たちに命令を出していった。
「!!」
−−百姫様は! この毛利家の! もの! わたしのものです!!!
「まずい……このままじゃ」
「大丈夫。この人たちも恐ろしく優秀だから」
BBの部下が的確に射撃して、ロケットランチャーを発射した。
「く!」
それが毛利就一郎のモービルを破壊し、燃え上がらせて煙にした。
「毛利先輩!!」
死んだかもしれない—鈴凛は不安になる。
「大佐!もう一台来ます。穢レ反応!戦姫です!」
パソコンのような機械に光がちかちかと映し出されていた。
みたことのないBBの部下たちはみたこともない装備を使っている。
「!」
すぐに別の音がして、佳鹿と哀が乗っているスノーモービルが近づいてくるのが見えた。哀が旋回する炎の渦の盾のようなものでこちらのスノーモービルの銃撃を無効化していた。
「おらおらおら!きかねえぞ!」
「帰ってこないかと思ったら、あの子氷漬けになってるじゃないの」
−−トーチ解放
−−フェイス、オープン
「!!」
後方で何かが爆発して、赤黒い光が飛び出す。
「なんだ?!」
何かの影が凄まじい勢いで追いかけてすぐに追いついたのが見えた。
毛むくじゃらのイエティのような小さな家ほどもある何かだった。
「な、忌?!」
顔はシワがより、そこに奇妙な電子的な面がついている。体は白い毛で覆われていた。筋肉が盛り上がった腕がすぐにモービルに捕まると、哀たちの乗ったモービルがブウンと唸ってひっくり返る。
「わ!」
佳鹿たちが飛び降りたと思った瞬間、巨大な猿のような雪男のようなものが、モービルを鷲掴みにして放り投げた。
こちらは進み続けているため、すぐにその姿が小さくなって吹雪の中に消えた。
「オウ。コワいねえ〜。 トーチあってよかったあ……」
BBが笑いながら言った。
ブーンとそれでも加速する音がする。
「ナイスタイミング!羽犬!」
「遅れてすみません!!」
「優秀なチームだねえ」
「でも」
鈴凛たちの乗ったモービルのすぐ後ろのトーチから雲のようなものが、雪の夜の空にたちまち出来上がる。
「!」
それは人のような形になり、雪に混じって何かを雨のように降らせた。
「あああああああ!」
鋭い注射器が降ってくる。
「な、バルーンの忌……」
佳鹿が驚いている。
「わああああああ!!」
「ココ……!?」
それはかつてみたバルーンの忌だったが、その顔には妙な面のようなものがついていた。
電子的な縦線の光を放つ、仮面が不気味に光輝いている。
それは隊列の上に従ってどこまでも追いかけてくる。
「!」
妙なことにBBの仲間には注射器が当たらない。
「クソ!!なんだこいつら」
他のトーチも次々に解放されたのか、みたことのない沢山の箱が木の根でつながったような忌、雪女のような人型の忌が追いついて一斉に哀たちに襲い掛かる。
「なん!」
彼らにも電子面がつけられていた。
雪女のように青い髪を振り乱した、人型の忌が鋭い氷柱のようなものを哀に投げ飛ばしている。哀はそれを炎の盾で受け流していた。
「こいつら!あたしらしか狙わない!!」
「知能があるのか−−」
忌たちは、BBの部下のモービルには目もくれない。
「僕が操っているんだよ」
「く!」
箱のような忌が、鞭のようなツルで拘式を遠くに叩き飛ばした。
「く!」
「三体の同時発生なんて……!」
「ココ!やめろ!」
哀は風船のような忌を見上げて叫んでいる。
「哀!違う!それはクローンなの!」
鈴凛は何もできなかった。ただ氷漬けで状況を見てわめきちらしていただけだった。
「先にわたしを炎で溶かして!哀!」
「いまそれどころじゃねえええええ!」
何もできない−−
鈴凛は体を動かそうとしたが、何の返事もなかった。赤い糸も眠ったように氷の中で止まって見えた。
「だめだ……」
「いいね、最強にでもなった気分だ。僕はさながらオーケストラのマエストロだよ」
投げ出され体は動かないし、感覚も無かった。
糸を動かしても、氷はちっとも溶けはしない。
忌たちがBBに従って動く。
このままじゃ……全滅する—数が多すぎる。
哀も佳鹿も箱から飛び出した蛸のような忌に締め上げられている。
「くそおおおおお!!」
哀が叫ぶ。
哀がやけくそで火の玉を飛ばして、鈴凛の氷が半分ほど溶けた。
しゅうしゅうと音をたてて体が解放されて行く。
「やった!今たすけ」
鈴凛の体はどさりと落ちる。
「凍傷になっているから壊死してるよ。すぐに動けるわけない」
鈴凛は生まれたての幼虫のようにもごもごと体をよじるばかりで何も出来ずにいた。
次の瞬間、別の忌に哀が叩き潰されたのがみえた。
「バイバーイ」
「それにしても……解放はやっぱり緊張する。こっちが襲われないかヒヤヒヤするね」
「スピードあげちゃって。もう敵はすぐそこだし、意外と数や装備を揃えるの早かったみたいだから」
「佳鹿―っ!哀―っ!」
鈴凛は虚しく雪の嵐に叫ぶ。
BBのスノーモービルがスピードをあげる。哀たちの姿はすぐに見えなくなった。
このままでは本当に連れていかれる−−
「!!」
急に横からもう一台のスノーモービルが飛び出した。
「拘式さ」
「あ!!」
誰かが飛び上がったのが見えると、両手に鎌を従えて乗り移ってきた。
「く!!」
あっという間に隊員たちの喉をかき切って行ったり、蹴落としたりした。
「ああ!」
後ろのモービルの敵の部隊員たちはBBがいるため銃を撃てないでいる。
「ぐあ」
BB以外、全ての敵を倒す。
二人は見つめ合っている。
「連中はおとりか、さすがだね」
「!!」
「でも、それ以上ちかづかないでYOわかるでしょ」
未来妃と鈴凛を人質にとって、BBが笑う。
「ね?」
BBは未来妃の喉元にナイフをあてて試すように言った。
雪風に拘式の白髪が靡いて、恐ろしい眼光でBBを見ていた。
その目は静かな怒りに満ちている。
BBは笑っていたがこみかみに脂汗が浮いている。
「……」
拘式はかまうものか、そう示したように鎌をもう一度静かに構え直した。
「取引しようじゃないか」
「黙れ」
拘式が冷たく言い放って足を踏み出そうとする。
「やめて拘式さん!!お願い!!未来妃が」
「こちらのほうがもっといい条件だよ?」
睨み合って静かな風が吹き抜けた時、拘式が口を開く。
「死ね」
「仕方ないね。ファウナ・オープン」
BBが低く言うと、世界が揺れた気がした。
「何?!!」
世界が揺れる。
ごごごごという音とともに、赤黒い稲妻のようなものが、低く、鈴凛たちの周りを飛んで迸る。
「なに?!」
猿の忌、バルーンの忌、箱の忌、雪女の忌が細胞のようにほぐれて、冬の嵐に巻き上げながら、鈴凛たちの上空の中心に集まっていく。
「!!」
「バイバイだよ」
揺れが続いて、拘式がモービルに必死につかまっている。
「なん−−」
巨大な細胞と肉の嵐が拘式もBBの部下たちも巻き込んでいった。
「微調整は難しんだよね」
その肉塊は、雪女の氷柱と、猿の体毛と、木の根のようにうねうねとあらゆる形質を残しながら、拡大し、集まって大きくなっていった。
「く!」
そして肉の拳が猛烈なスピードで降りてきたかと思うと、拘式が握りつぶされた。
「う……そ」
「く」
「拘式さ−−」
どうしよう。どうすればいい?
焦っても答えがでてこない。
巨大な肉と細胞の塊は人型になり、鈴凛たちの真上にそびえ立っていく。
よくみると、体のあちこちで人が埋もれて飲み込まれていく。
人間たちが悲鳴をあげていた。
佳鹿や哀も見えた。
「羽犬さ」
羽犬が足首で飲み込まれていくのが見えた。
「いや」
「やめて」
手を伸ばそうと思ってもうごかない。
「や……め」
ぎゅっと肉が飲み込む時にぶちっともぎゅっとも言えない気味の悪い潰れた音がする。
真っ白な雪に羽犬の赤が広がって行った。
「う……そ」
「羽犬……さ……」
「羽犬さ−−」
−−あああああああ!
悲鳴が上がる。鈴凛は思わず目をぎゅっと閉じた。
「なんで……」
何もできない。
ただ目を背けることしか。
「あーみちゃいられないねこれは」
腹立たしいのはBBじゃなかった。自分は何をみていたんだろう。
BBの顔を見ていると強く思った。
なんでこんな人を信じていたんだろう。
「まあしかたないんだ」
BBがヘルメットを被ったままにっこり笑う。
BBが未来妃と鈴凛を担ぎあげ銃を構える。
体が冷えすぎて鈴凛の意識は朦朧としていた。
それとは別に頭が熱い。
怒りと苦しみと憎しみでいっぱいだった。
どうしてあんな大切な仲間をこんなひどいかたちで傷つけられるの?
担がれたまま遠ざかる。
赤い糸がだらりと垂れて眠っている。
「みん……な」
本当に何もできない。
本当に何もできない。
誰か
誰か
助けて……
「あー疲れた……帰ってごはん食べよ」
誰か
誰か
どうか
「生体反応消失」
「にしても、隊長もひどいですよね」
「ぼくはチャンスは掴むタイプなの」
誰か
誰か……
BBが幸せそうに笑っている。
誰か……
肉の巨人が振り返る。
「こ」
違う
誰か
「?」
「殺してよ」
「……!」
「殺してよ、この人を−−」




