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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
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花宴

風呂からあがって、支度をすると上の階に案内された。

「そーそー夏の湯で、照日に会ったんだよ」

「言ってよね!周馬がすきなことがバレちゃったんだから!」

鈴凛は哀に怒っていた。

風呂場であったことを哀に話す。

「おまえが髪留め持ち歩くからだろ」

神宮に向かう途中、哀は鈴凛から話をきくとそう言った。

「それは……」

「てゆうか、やっぱりなんかおかしくねえか。学校一のモテ男の周馬と、高天原で一番のモテ男がチンチクリンのおまえのこと気にかけるなんて。原理原則に反してるだろ。あたしがモテるならまだしも……なんでおまえがモテるんだよ。気に入らねえし、胸糞わりい」

哀が目を細める。

「哀の自信過剰の方が原理原則に反するよ。女友達にそれ言う?」

「だっておかしいだろ。矢田も言ってた」

「矢田さんが言っていたのはみんな照日ノ君に惚れるって話!」

「なんで周馬がおまえのことすきなんだ? なんかカンに触るっていうか……落ち着きどころが悪いと言うか……おまえがいつか別れなきゃとかお涙頂戴劇場をした後に、あいつをフるのか?」

鈴凛はそう言われて胸が痛かった。決して結ばれはしない。

照日ノ君が言った言葉、時間が解決する。それは人間と神では時間の流れ方がきっと違うから、いつか死別することになる。

人間は歳をとる。歳をとって周馬が死んで、鈴凛はそれをいつか忘れていくしかないのだろうかと思った。照日ノ君に愛されながら—


この世界に、あの人は、もうどこにもいない


照日ノ君の腕の中で時々そう思いながら。夢で何度も周馬と邂逅しながらやっぱりもうどこにもいないそう思いながら、そして何百年も経った頃すっかり忘れてしまうのだろうか。

体から力が抜けて、たまらなく悲しくなる。

そんなふうになりたくなかった。周馬を失うことより、忘れてしまう自分が恐ろしい気がした。

「にしてもすげえ自意識過剰だよな。絶対に好きにさせるなんてよ」

哀は先ほどの自分の発言を棚にあげてそう言った。

「まあ確かに拒否る女はいなさそうだよな。あたしも何回かはやってみたいな……でも女は一回体を許すと好きになりがちだしな……」

「哀……!」

鈴凛は下品な言い回しに注意すると、哀はぽつりとこう言った。

「いやココみてたらいつもそうでよ」

「……!」

「でもおまえの前の戦姫も駆け落ちしたんだろ。まあすげー色男かもしれないけど、全員の女にゃ手がまわんねーだろうよ。こんだけ女がいるんだぜ。女は自分だけ見て欲しい幻想を捨てきれないけど、そりゃ完全なる幻想だからよ」

鈴凛は猿田彦の絵を思い出す、男女は結ばれない運命。

あの時自分を子供だと感じた感覚が蘇る。

哀の言う、恋愛の経験をたくさん積めば、大人になれば、誰かに夢中になった自分が馬鹿馬鹿しく思えるのだろうか?

「だから誰も哀は好きにならないの?」

思わず深い問いが鈴凛の口から出た気がした。

「んー」

哀は考えたような顔をする。

「わっかんねえ。本当に誰かを好きになったことがあるのかどうなのかなんて、わかんねえよ」

もっと深い答えが返ってきて鈴凛は何も言えなくなった。

「とにかく行こうぜ」

「稲姫?」

四季楼、鳳凰の間の前で、美しい生花を髪にあしらい、黄緑色の生地に銀色の刺繍がされた美しい羽織を着ている稲姫の後ろ姿あった。

「入らないの?」

「こえーのか」

稲姫でも緊張するらしかった。

「いえ……ふとこの障子の模様は素晴らしいと思いまして」

「今?!」

「模様なんてどうでもいいだろ」

「そうだ、どこに座ったらいいの?気を付けておくこととかある?」

「いえいえそんな堅苦しいものでは。お席は上座から戦姫になった順に向かい合って座っておられますが」

「なーんだ」

哀ががらっと扉を開ける。既に三人の女性が正座していた。

−−ことしのモチモチの実はよくできたとか

−−楽しみですね

声が止まる。

「……?」

鈴凛たちが入ると、空気がぴんと張って、稲姫の言う堅苦しい会ではないというのがまったく間違った情報であることを鈴凛は察知した。

「……下っ端のくせに一番先に部屋で待ってなさいよね」

影姫がぼそっとつぶやいた。

「すみません。あ、はじめまして……こんにちは……」

二人の知らない戦姫と影姫がいて鈴凛は座りながらとりあえず挨拶をした。

「……」

一人は透き通るような美しい白人の人で、薔薇の花が頭にあしらってある。カールしたブロンドが華やかで、西洋のお姫様のような雰囲気だった。ブルーの目はこちらを見ないままだった。

返事は何も返ってこない。

棘姫(とげひめ)様です」

稲姫が小さく耳打ちする。

「……!」

肌は透き通るほど白く、小さな横顔は妖精か天使のように整っている。はっきりとした目鼻立ちながらも、どこか悲しげな雰囲気をもった眼差しが美しさに拍車をかけていた。華やかな赤とピンクの着物に負けない華やかさもある。

鈴凛たちに興味なさそうに目を閉じた。

「そしてあちらが魚姫(うおひめ)様です」

「!」

反対に魚姫はじろじろと鈴凛を見ていた。少し日焼けして、栗色の髪を編んでいる。じいっとみられて鈴凛は思わず目線を下げる。

「へえ……」

その目は意地悪に笑っていた。

「この子たちがねえ」

「ご機嫌麗しゅう魚姫様」

稲姫が優しく席に案内した。

「ズル休みのくせに先輩ぶって偉そうにしてるのねえ」

鈴凛は稲姫が戦わず高天原にずっといることがどういうことか知った。

かわいそうに、意地悪されて何も言えないんだとおもって横を見ると、稲姫はにこにことしていた。

「あら?お休みですか?おやすみはいただいておりませんけど?」

稲姫は本当にわからないといった顔で首をかしげた。天然なのか鋼のメンタルなのか鈴凛はぎょっとした。

「……」

魚姫は意地悪が不発に終わったことに顔をしかめた。

稲姫は本当に全然気にしている様子が無かった。

「あー腹減ったあ」

哀も張り詰めた空気など無視してどっかりと席に座る。

「!」

棘姫が入り口を少し睨む。

「?」

障子が開くと、小さなオレンジ色のおかっぱ髪の少女と、背の高いイスラム風の顔を隠しすもので覆った姫が入ってくる。

「……」

ぴりりと空気が緊張して誰も何も話さなくなった。

三人より上座に座ったのを見て、鈴凛は偉いのだと思った。

(びょう)姫様と、(しょう)姫様です」

稲姫が囁いた。

「ひさしぶりだのう」

「ご無沙汰しておりますね」

稲姫がにこにことして言った。

「こんにちは」

「びょう……ああ、中国の佳鹿とつながってるとかいう……」

「あれが……」

マリオが息がかかっていると言っていた中国が守り国の戦姫のようだった。

「!」

鈴凛と目が会うと、猫姫はにやっと笑ってくれた。

「これが新しいかわいいひよっこどもか」

可愛い小さな少女に言われて鈴凛は面食らう。羊杏よりもまだ小さく見えた。

嫌な感じではない人もいるようでほっとする。

「ひよっこだと、おめえのほうガキじゃねえか」

哀が不機嫌そうに顔をしかめた。

「そのように見えるだけじゃ」

少女はふふふと笑いながら上座に座った。

「……」

棘姫たちは何も言わなくなった。

その後は誰も口を開かなくなって、ますます空気は緊張していた。

「……しゃべっちゃいけないの……?」

鈴凛はこっそり稲姫にきいた。

こそこそと稲姫が耳打ちする。

「いえいえ」

「西暦1000年を隔てたあたり……つまり戦姫の代数番号が50代以前の古代の戦姫様方と、1000年代以降に誕生された中世の戦姫様方……あまり話をされないと申しますか……影姫はわたくしと同じ大戦世代なので違うのですが……」

「仲が悪いってハッキリ言えよ」

それぞれが生きた時代。千年も違えば価値観も違うのだろうかと鈴凛は思う。

「じゃあたしらは何世代だ?」

「二千年世代はまだはじまったばかりですから……今は新世代とでも言いましょうかねえ」

「だせえ」

哀が気に入らない時のおなじみの悪態をついた。

「あらあら……では……パソコンの時代とか……」

稲姫がうーんと考えながらほほに指を添えている。

「ますますだせえ」

「哀、先輩はうやまいなよ」

「はらへったー」

鎮まりかえった部屋で、哀だけが大きな声で、腹がへっただの、つまらないだの言っていた。しまいにはひじをついて横になっていた。

「おくれてすまないね」

しばらくして、照日ノ君が湍津姫とやってきた。正装して帯刀した姿はため息がでるほど美しい。湍津姫も正装したように綺麗な着物を着ていた。あいかわらずどこをみているかよくわからないが、元気そうだった。

「……」

戦姫たちが頭をたれたので、鈴凛も慌てて真似をする。

「みな、よく集まってくれた」

照日ノ君が口を開く。

「……」

「今宵は互いの戦果を……」

「あーはいはい」

哀が突然に遮った。

「もう校長先生のはじめの挨拶はいいから。あたしは腹が減った。とにかく先に食おうぜ。料理料理」

「?!」

「……」

女たちがぎろりと哀を見た。

「それも……そうだね」

照日ノ君はにっこりと笑う。

「どういうおつもり?」

刺姫が美しい目を細める。

とりまきの影姫と魚姫がうんうんと頷いた。

「照日ノ君のお言葉を遮るなんてあなた何か勘違いしてない?」

「ああ?」

「天雅の出か、焔の能力で調子に乗っていらっしゃるのか知らないけれど、伝統ある作法はまもるべきですし、無礼にもほどがありますわ」

刺姫が穢らわしいといった目でみた。

「あんだと?あたしは腹が減ってイライラしてんだよ」

アイは裾をたくしあげていた。

「あ……じゃなくて煌姫!やめときなよ……!」

「そうよ。あんたの腹のことなんて知らないわよ。少しくらい我慢なさいよね」

「あーうるさいババアどもだなあ……」

「バ?!」

さっそくやったと鈴凛は思ったが内心小さく笑う。

「け……ば、ば……」

「刺姫様になんてことを!!」

「わたくしのどこが−−」

「おまえら本当はババアだ……」

−−ドーン!!

窓ガラスが割れる。

大きな爆発音がして、建物が揺れた。

そばで湯柱があがるのがみえた。

「!!」

影姫と魚姫が身構える。

「まさか我らが会する時を狙って?」

「八十神か!」

「……」

猫姫はお茶を飲んでおり、囁姫も瞬いただけだった。

照日ノ君もさほど驚いたふうがない。

何が起きたのだろう。鈴凛は不安でそわそわしたがどうしていいのかもよくわからない。

「……!」

誰かが階段を駆け上がる音がする。

「申し上げます」

末兎が頭をさげたまま襖を開けた。

「敵襲か!」

影姫が血相を変えている。

「いえ……申し訳ございません……」

「末兎……?」

「四季楼の源泉が爆発したようにございます……」

「爆発……?いったいなぜ……」

「今、清掃部匠所の牛満に調べさせていまして」

「!」

もう一人大柄の女が階段を登ってきた。

「失礼します。匠頭、牛満と申します」

「原因は何なのです!このような騒ぎを起こすなど」

「こ……このようなものが、排水口から入ったらしく、詰まっておりまして……」

牛満さんが後からやってきて頭をさげる。

水玉のようなハンカチを手にもっている・

「?!」

戦姫たちが目を見開く。

鈴凛は思わず二度見してしまう。

「ん?!!」

それは先ほど、温泉でカゴに入れた鈴凛の水玉のパンツだった。水が滴って、鉢で水を受けながら牛満が箸でそれをワカメのように釣り上げている。

「え……」

「パンツだな」

「なんでわたしのパンツが……」

「あらあら……」

「は!!」

「このグズ!! ふざけたまねを!!」

「し……しししし、知りませんわたしのせいじゃないです! わたしはパンツを排水溝になんて」

「あ、あたしだわ」

アイは思い出したように言った。

「?!」

「ほらさっき工事中の冬の風呂溜めようとしたとき、水が漏れてるなーとおもって、排水溝に適当なもん詰めたんだよ。あのカゴの荷物おまえのだったのか」

哀がにこっりして言った。

「……なんで人のパンツを使うの……」

しんとして、一同は立ち上がった二人を見つめた。

共犯みたいな変な空気になる。

「ちょうどよかったんだよな。わりいわりい」

「ははははは!」

猫姫が大きな声で笑う。

「そんな汚らわしいものさっさと持って出て行って」

影姫が吐き捨てるように言った。

「面白いのう。花宴の日に、四季楼をパンツで爆破するとは恐れ入った世代じゃ」

「下品で乱暴で無知な世代の間違いでしょう?大切な花宴が台無しじゃないですか」

「あの……」

末兎は絶望した表情で、何かを言おうとしていた。

「まだ何かあるの?」

「爆発で調理場もやられまして……その……お食事が全て……」

「?!」

「無いの……?」

「月見団子は?」

「申し訳ありません……」

「お団子が……」

「団子ぐらいなんだよ」

「すすみませーん!!」

鈴凛はどけ座した。

「ほら哀も謝りなよ!」

「こんなことになるとはなあ……」

哀は小さく言った。

「わりーな」

「ちょっとあんた……そんなことで許されると思ってるの」

「謝ってんじゃんかよ」

哀のはしゃぎがここでも想像以上の騒ぎを起こしそうだった。

棘姫たちが冷たい目でみていた。こそこそと何かを話している。

「うっとうしいババアどもだな。言いたいことあるなら、言えよ、あ?」

−−最低

−−なんでこんな子が

「きこえねえなあ? しゃがれたババアどもの声は」

哀が影姫にメンチを切っている。

「それともよぼよぼのご老体で足しびれてんのか?」

「もう許せないです!!」

影姫が哀に掴みかかった。

「わ!」

「だ……」

鈴凛が哀を止めることは不可能だった。

大乱闘がはじまった。愛の炎が燃え上がり、影姫は影にもぐたりでたりして攻撃をしている。

皿が飛び、椅子が先ほどの温泉爆発で開いた窓から飛んで下に落ちていった。

「す、すごいことに……」

鈴凛はあたふたとしているだけだった。

「照日ノ君!この娘は戦姫にふさわしくありません!」

照日ノ君は気にせずにこにこ笑っている。

「なに、楽しい会じゃないか」

「……まったく」

棘姫は小さくため息をついた。

「これだから最近の子は嫌なんですわ」

「すみません……」

「……扇町から急いで別のものをとりよせます」

末兎たちは出ていった。

「パンがなければケーキを食べれば良いじゃろうが?」

猫姫が挑発するように言うと、棘姫がぴくりとした。

「いやですねえ……すっかりもうお忘れかと思いましたのに……意外にしつこく覚えてらっしゃるんですね」

「誰かとは違って日々討伐していると頭の回転も速いのでな」

「ご自分だって早馬でライチを取り寄せさせたのでしょう?」

空気がバチバチとなる。

「……」

棘姫は勢いづいて優雅に笑ってみせた。

「中国では忌が虫のように湧いているとか。変種も多くて大変ですね。先週の環境型の修祓を拝読いたしました」

一見ほめているように聞こえて貶しているのだろうと鈴凛は思った。

「ロシアとの境の雪山で発生したやつじゃな」

戦姫たちは互いの仕事ぶりを知っているらしかった。

「修祓帳?」

鈴凛はこそこそと稲姫に聞く。

「修祓された忌の特徴が記録されたものですわ。今は電子化されたデータベースもIUにあるとか」

稲姫が言った。

「ぬしが倒した塔の忌もそれじゃな。一体を街にしていたとか。次元から中の環境や気候まで異界内部で自在に操る厄介な忌だ」

商店街で発生した塔の忌のことを言っているらしかった。

「……」

囁姫だけは一瞥しただけで何も言わなかった。彼女だけは最初から何もしゃべっていない。

「百姫……元気……?」

湍津姫がちょこちょこ歩いて、ちょこんと鈴凛の隣に座ってくる。

「は、はいありがとうございます」

「あいかわらず……いいにおいだね」

鈴凛はまた別じんかくになるのではとぎょっとする。

「あぶない」

飛んできた皿を湍津姫が目にもとまらぬはやさで叩き落とす。

「まったく……」

「これではお月様を集中してみることはできませんがこれはこれで一興ですね」

稲姫がにこにこして言った。

「ああ」

−−ち……なんて馬鹿力!!

−−おらおらおら!

アイと影姫は相変わらず格闘していた。

「お月見のお茶会で……戦姫どうしの乱闘が発生したのははじめてですわ」

「四季楼の温泉が爆発したのも、お月見団子が無いのも前代未聞です!」

魚姫が迷惑だといった顔をした。

「……下品ですわ」

刺姫は鈴凛を睨んでぷいっとそっぽを向いた。

哀とまとめられてしまって鈴凛はなんだかいたたまれなかった。

「賑やかになったね」

照日ノ君は優しく微笑んでいた。


       *



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