サザンパーク
未来妃はカーディガンに紺色のワンピース、アイは皮のライダースジャケットに黒いパンツをはいている。
「ポスターカラーと画用紙と、セロハンと、リボンと……OK!買い出しはこれでOKね」
隣市にあるサザンパークというショッピングモールに来ていた。
未来妃がさくさくと必要なものを買って、哀はだるそうにちんたらと後ろをついてきていた。
「あ、これかわいい。急に涼しくなってきたよね。カーディガン、これ可愛くない?」
かちっとしてワンポイントのあるカーディガンを未来妃がショップで手にとった。
「だせえ……」
アイが小さく呟いた。
「え」
「あっちんがいいだろ?」
アイがパンク風の店を指差した。
「えー……」
未来妃が目を細める。
「あの時間あるし、フタバでスムージーでも飲まない?」
「それより屋上で花火でもぶち上げようぜ」
「はな……び?」
鈴凛は未来妃ときょとんと固まってしまう。
「誰が捕まるかやろうぜ」
「お店に迷惑でしょ……てゆうか警察がくるからそれ」
「それから全速力で逃げんだよ」
「そういうこと面白半分でやって許される歳じゃないよ」
「はあ……つまんねえやつだな……」
鈴凛は頭が痛かった。
思った通り、哀の素行はぶっ飛んでいるし、未来妃と哀は気が合わない。正反対すぎる。
空気がぴりぴりしていた。
「……」
鈴凛はいたたまれない気持ちでスムージーを飲んでいた。
重苦しい空気が立ち込めた時、誰かに声をかけられる。
「ねーねー遊ぼうよ」
同じ歳くらいにも、大学生くらいにも見えるチャラチャラした五人組の男だった。
「!」
鈴凛はびっくりする、これはナンパというやつか−−?!
「知らないので結構です」
未来妃がつんとしてそっぽを向く。
「いいじゃん遊ぼうぜ」
「鈴凛ちゃんと未来妃ちゃんでしょ?」
「え……?」
「……なんで名前」
「へへ」
男たちに囲まれる。哀が目立ったのか?
「いいじゃん。いこうぜ。面白そうだ」
哀の目にやっと面白くなってきたといったようなワクワクが浮かんでいる。
「やめとこうよ」
「いーからいーから」
人気のない海辺の公園についた。
到着するとバイクに乗った男たちがさらに十人ほどいた。
「うわ……」
「おーおー」
アイが嬉しそうに声を出す。
「なんだか怖い」
未来妃は少しだけ震えていた。
「なんだなんだ〜」
男たちが近寄ると、哀がますます楽しそうになってニヤリとする。
「ねーねー負けた方が脱ぐゲームしようよ」
「は……?」
未来妃はますます怯えて体を固くしていた。
−−遊び方までくそだせえ!
反対に哀は嬉しそうに鈴凛に耳打ちした。
「なるほどな」
「やろやろ」
「じゃんけんグー」
「俺のか……」
そのまま哀はぐーパンチを顔面にお見舞いした。
男が吹っ飛ぶ。
「ひい」
男が悲鳴をがえる。
「あ、わりー!! 手がすべった」
「……!」
「きゃ……」
未来妃が盛大に飛び出た鼻血と吹っ飛んだ歯に顔面蒼白になった。
「うそ……どうしよ鈴凛、け、警察」
「女だと思って優しくしてりゃあ!」
「かかってこいやー! 田舎ヤンキー!」
「きゃあああああ」
未来妃は繰り広げられる乱闘と流血沙汰に顔面蒼白になっている。
鈴凛は止めるわけもなく、未来妃を抱きしめて一緒に震えるふりをしていることしかできない。
「警察、警察」
「わかった」
鈴凛は毛利就一郎に電話をかけた。
「事件です、やばいです」
−−やれやれ
「いーち!」
海に次々哀が放り込む。
「だめだよ!」
「にーい!」
ドボンドボンと音がした
「溺れちゃうって!」
「こいつらがどうなってもいいのか」
もう一人がナイフを取り出して未来妃に近づいた時、鈴凛はそれを思わず払い落とした。
「!」
「きゃあ……え……鈴凛、すごい……」
鈴凛は哀が手に負えないため人質として使おうと二人に近づいてくる何人かをパンチとキックで薙ぎ払った。
「サラコマンダー武術ってほんとすごいのね」
「ま……まあね……」
「警察はまだなの……これ傷害事件でしょ……って哀!」
アイは鈴凛が倒して地面でうめいている男の足を掴むと、鼻歌混じりでひきずっていく。
「やめろ……やめろって」
「楽しいなあ」
こしまで抱えてぐるぐる回しはじめる。
「ちょっと哀!」
砲丸投げのようにふんっと投げ飛ばした。
−−ああああああああ!
ドボンと音がする。
「いまいち飛ばねえな」
「ひいいいいいい!!!」
哀は男たちを次々海へ突き落とした。
「お!あーもうちょっと飛ばねえかな」
「うわ」
音たちは落ちると必死に泳いで梯子に向かっている。
「うそでしょ……人間を投げてる」
「はははは!もう泳ぐにはさみいぜ?」
哀は腹をかかえて笑っていた。
−−てめえ!!」
−−ゆるさねえ!
不良たちは岩壁まで泳ぐと、梯子にむらがった。
「ほら!あたしのパンツみながら登ってこい!」
はしごから登ってくる男を哀は一人づつ足蹴りにして海にまた蹴落として笑っていた。
「くそこの女……!」
「哀……」
「すごい怒ってる……これじゃ報復されちゃうよ」
未来妃は相変わらず青ざめていた。
「うるせえな。助けてもらっといてなんだよ。感謝されても文句言われる筋合いはねえ」
「で……でも」
そうこうしているうちに黒い車とバンが何台かやってきた。
「え?」
「毛利せんぱ……」
「やあこんにちは」
毛利就一郎が革手袋をはめて、未来妃に玉手匣をしゅっとかけて気を失った未来妃を受け止める。
「はい」
鈴凛に未来妃の体をひょいと預ける。
「ちょ」
「あーあー派手にやりましたねえ」
毛利就一郎が海を一瞥する、
「大きいやつもってきて」
消化器のようなものを海に巻く。げほごほと男たちは海でむせていた。大きな玉手匣のようだった。
「あなたたちは急に海で泳ぎたくなったんです」
「……」
男たちはぼうっとそれを聞いていた。
「へえ便利だな」
「力は使っちゃだめだって言ったでしょう」
「使ってねえよ」
「え」
「この哀様には、田舎っぺダサヤンキーなんて、お茶の子さいさいなの」
哀はえっへんと腰に手をあててなぜか満足気だった。
「あなたたちには呆れて物も言えませんね……」
「……この人たちは……なんでわたしたちに?……名前を知ってた」
「わからないんですか? まったくおめでたいですねあなたは。柊木君の差金ですよ」
「!」
「彼はあなたが戦姫になったことも、戦姫なんてものが存在していることも彼は知らないのです」
「……」
「なのに最近のあなたはどうですか?」
「え」
「急に友達もできて学校で一番の人気者とイチャイチャしている。彼のいままでのあなたをいじめるというライフワークが台無し。元の木阿弥。……ドブネズミはドブに沈めておかないと、そりゃあ我慢ならないでしょう」
毛利就一郎が真顔で言った。
「あの、それ、毛利先輩の本心じゃないですよね……」
「……いいえ……、まったく」
毛利就一郎は爽やかな笑顔で返す。
「ああ〜……」
哀はうつむいて、感極まった声を出した。
「ね、哀わかったでしょ? 柊木勇吾は最低なやつなの。アイも目立たないようにしとかないとこんなことがまたいつ」
「いつ……次は……いつきくれるかな……? 百人くらい、連れてきてくんねえかな?」
哀がばっと顔をあげると、目をキラキラさせて天を見上げた。
「は?」
「暇だったんだよ。暇。ヒマヒマヒマ。このクソ田舎でのクソつまんねえ生活を、クソ盛り上げてくれそーじゃん。おまえといたら、あいつらいっぱい喧嘩しかけてくんだろ?おい、あたしのぞばから離れんなよ!」
「哀……」
鈴凛は頭が痛かった。
「まったく玉手匣や証拠隠滅の労力を何だと思っているんですか」
「あ、そうだ!それやってみたかったんだ。タマに箱。それかせよ。こいつすぐ怒るかならな。こいつにシュッとやって、あたしを神のごとく崇めるようにしとこう」
未来妃を指差してアイが言った。
「玉手匣ですね」
哀が毛利就一郎から奪う。そして未来妃に向けた。
「やめて!!何言ってるの!」
鈴凛は本気で怒った。
「できません」
「ロックが僕の指紋に反応するようになっています」
「これには非常に高度な知識と経験がいるんです」
「え?」
「選ばれた者しかその玉手匣の習礼……講習会みたいなものをを受けることはできません」
「どうして?それって……霧姫様の幻想霧をしゅっとするだけでしょう?あれ……でもお亡くなりに……
「違います」
「霧姫様は霧を操る力があっただけですよ」
「これは高天原の竜宮城でしか取れない煙……と神々のありがたい何か……が含まれているんです」
「……竜宮城って本当にあったんだ」
湍津姫が言った。
「神々の何かって何だよ、もったいぶんな」
「我々にも明かされていません」
「?」
「おそらく日緋色金に含まれている……記憶や心……脳神経の保持された大切な電気信号まで変えてしまう何かですよ」
「世界の宗教を見ればわかるでしょう?神は本当にその人の考えや人生を変える」
毛利就一郎が冗談なのかクスクス笑った。
「怖いですよね」
「……!」
「そういう意味ではかなり無理のある設定は、脳への定着に無理があります。混乱をきたし精神分裂などの精神病のきっかけになります」
「心が清い人にしか許されない免許制なのです」
心の清いうんぬん部分には訂正を加えたいところだったが黙っておいた。
「適切な範囲でただしく使用しないと大変なことになります」
「ちなみに八咫烏のお勤めを怠ったり、私的に利用した者も濃い玉手匣処理されるんです」
鈴凛はぞっとした。
「八咫烏として勤めた大部分の記憶が消されると、別人のようになるとか」
「ほとんどの記憶を失ったその人は、はたして前のその人なんでしょうか……?」
毛利就一郎が囁くように言うのが不気味だった。
「そんなもの……未来妃につかうなんて……もう絶対使わないで」
「問題を起こさなければ使いませんよ」
「せめて未来妃がいるときはやめて!アイ、次やったら本気で怒るからね!!」
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