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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
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転校生

鈴凛は宿題を徹夜でこなし、一睡もできなかった。

九月になってもまだ暑さが厳しかった。

「暑い……眠い……だるい……」

鈴凛は未来妃には先に行ってもらい、ぎりぎりまで宿題をして哀と待ち合わせた。

今日はアイが転校してくる。そして再テストの結果発表、そして更に、周馬とキスして、口にホースを突っ込んでから、からはじめての学校である。

「……」

鈴凛は色々なことで胃が痛い。

睡眠不足で頭が痛い。

哀のせいで足もまだ焦げついている。


♪おれはアイアン!ガキ大将〜

睡眠不足ぎみな頭に、不快な歌が聞こえてくる。

「ちょ、え?」

学校に近いコンビニで待ち合わせた鈴凛はぎょっとする。

哀は制服が違う。しかも男子制服。しかも金属バットを肩にかついでいる。

「……なんで?それどこの制服?なんで男子制服?」

鈴凛は固まっていた。

「だっせえ制服だったからよ」

「でなんで男子制服」

「動き辛いだろ。今日はいろいろとカマさないといけないからな。最初が肝心」

哀はバットをブンブンとふった。

「あ……あの……学校にいくんだよ……」

「だから最初が肝心だろ」

最初が肝心でなぜそうなったと思う。

「いいからいこうぜ」

哀はご機嫌で大きな腕を肩に回してきた。

「……」

学校中がアイと鈴凛を見て騒然とした。

教室に入ると未来妃がなんとも言えない感じで近づいてくる。

「お……おはよう、鈴凛、その子が……」

未来妃にはサラコマンダー師範の親戚で、鈴凛の合宿でできた友達ということになっている。

「おまえが一緒にかえろうの友だちか」

「一緒にかえろう、え……?」

「え?」

未来妃はびっくりしている。

「おまフェルゼゲリアのファンなんだろ?」

「おまえあたしの歌ききたい?博多のROPできいたんだろ?」

「え……? あ!フェルゼゲリアの……!!」

未来妃が思い出して目を丸くする。

「ふーん……おもったより面白くなさそうなやつだな。どこにでもいそうな……日本人の顔してら」

「あなたは、思ったより……最初から失礼ね」

未来妃も負けていない。

「おまえは日本人形な、どんぐり、クマメガネ、チャラオ、コシパン……」

アイは生徒たちを指差して次々と言った。

「え」

「ちょっとアイなんでいきなり」

「たくさんの人間なんて覚えられないから全員にあだ名つける」

「は?」

「おもしろいし」

「心の声にしてよ」

「それじゃ面白くないじゃん」

「あのねえ、勝手にあだ名なんか相手がどれだけ傷つくか……」

未来妃がさっそく持ち前の正義感で食ってかかる。

「うざ子に変更」

「わあ!何なのこの子」

未来妃がぎょっとしている。鈴凛は困惑した。せっかくバラランスを築きつつあった学校がさらにカオスになりそうな気配しかしない。

「てゆうか、なんで教室にバット?」

「この子……ただ……ソフトボールが好き……」

鈴凛が思い付いた言い訳をいいかけた時、哀がずいっと前に進み出る。

「!!」

ガンっと哀が教卓にバットを打ち付けた。

「おまえら!」

クラス中の顔がひきつっている。

「貴様ら、よく聞け! 今日からボスはわたしだ!」

哀が叫んだ。

「……」

生徒たちは固まった。

「哀〜!! 拘式先生から紹介されるの待ったほうがいいって!」

鈴凛は慌てて哀に言った。

「あたしは黒井哀だ!バカ強い!つまりおまえらは逆らえない!」

クラス中がとんでもない演説にしんとなる。

「……おはよう……って……誰……」

周馬が遅刻ギリギリに教室に来て、哀を見てびっくりしている。

「おまえは遅刻だ!」

哀が叫んだ。

「え?」

「おまえ……」

哀が目を細めた。

「金髪のイケメンか……」

アイが周馬につめよった。

「ははーん金髪、おまえか。鈴凛のカレシは」

「!」

周馬が驚いた顔をする。

教室も更に空気が固まった。

−−え、源さんと

−−如月くんが?!

「やめて!やめて〜!アイ!」

鈴凛があわてて引っ張る。

「えっと……あのね……それは……色々なことがあって」

未来妃は状況を修復しようとアタフタしていた。

「そそそそれは」

鈴凛は目眩がした。

クラス中が注目する。

「キスしたんだろ」

哀があっけらかんと言った。

「哀やめてー!!」

鈴凛は哀にすがりついていた。

「そうかも?」

周馬が鈴凛を見て妖艶に笑う。

「夏に、キスしたし」

クラス中がどよめく。

−−キス?え……源さんと如月くんが?

野奈の顔がひきつっている。

柊木勇吾は目を見開いた。

生徒たちはどよどよと話はじめる。

「席につけ」

拘式がやってくる。教室を一瞥して生徒たちの様子など無視で唸るような声で言った。

「転校生を……」

「もう自己紹介ならしたぜ」

哀が言ったら、拘式は哀をめんどうくさそうに一瞥した。

「そうか」

拘式が冷たく言って教科書を開く。

「源」

「……はい」

拘式は何も言わずに折り畳んだ用紙を渡す。

「これは……」

鈴凛はこんな状況で留年したくないと願いながら紙を開く。

「……!」

思った通り再テストの結果が書かれていた。

「あ……」

全てに可の字が並んでいた。

「よかった……」

ぎりぎり合格したらしかった。

「おおー」

哀が覗き込んでくる。

「セーフだったのか。おまえずっと勉強してたもんな」

鈴凛の体は安堵で満たされた。

周馬も未来妃も坂本も熊野も微笑んで鈴凛をみやってくれた。

「では一限の数学をはじめる。三角関数の……」

「三角かくかく?なんだそれ?」

哀が机の上で足をあげて組んで、にやっとした。

「……」

拘式は顔を引き攣らせた。そして哀を柊木勇吾と同じようにテープでぐるぐる巻きにしていた。

その日、教師たちはとんでもない受難に見舞われることになった。

「あなたは三人称単数もわからないの?!」

英語の授業では住田がキーキー声で言っている。

「スリーガール」

哀が無視してまた黒板に同じアルファベットを書いている。

「スリーガール、ズ複数形! こんなこともわからないなんて、中学校からやり直してきなさいよ!」

「うるせえな」

「キレが悪いだろ!なんでそんなもんつけんだよ。なくても3ってわかるだろ」

「……」

「こっちのがいい! スリーガール!」

アイは無視して黒板に書いた。

「……今日からここではSつけーねーのが正解な」

そこそこの進学校である方波見学園の生徒たちはなぜ哀が編入試験に合格したのか理解できないといった顔だった。

学力がないのではなく、勉強が何かそもそもわかっていないとはこういうことかということを哀は教えてくれた。

ある意味で哀は柊木勇吾よりもやばかった。

学校にまともに行ってないせいで、中学の内容どころか、九九もあやしかった。

先生をそこそこ敬うという常識も備えていなかった。

「ああー疲れた……」

哀が七時間目の体育でぐったりしていた。

「あんまり目立つことしないで」

「おまえのせいでここにいんだぞ」

「そ……それは……」

鈴凛は薄々、なぜアイを宇多につれてきてしまったんだろうと後輩しはじめていた。

好きな時に寝て、好きな方向を向いて、好きな時に食べる。好きな時間に後ろでバットの素振りをしている。

急に歌い出したりもした。

好きな時に好きなことを言って、クラスの人々をひっかき回した。

「お!あたしの番!」

「おりゃあああああ!!」

哀は思いっきりバットをスイングする。

−−うそ……

−−外までいっちゃった

「かっ飛んだな!」

「アイ!!」



その日の放課後、鈴凛と哀は佳鹿の家にいた。

「哀!」

「目立つことしすぎ!」

「佳鹿は?」

「出かけてるー」

哀はうってかわって佳鹿の家でダラダラしていた。

「え……てゆうか……なんでこんなにダラダラしてるの」

「つかれたからよ」

アイはお菓子にゲームに漫画本の山に埋もれていた。

すっかり東京時代と同じような生活に戻っている。

「疲れるほど、変なことしないでよ」

鈴凛の圧がすごかったのか、アイはのけぞった。

「あと絶対!佳鹿に周馬のことは言わないでね!」

「はあ?」

「周馬のこと!教室であんな風に暴露して!」

「ああなんだそんなことか。さっさと付き合ってやっちまえ!」

「そういう問題じゃない!これは複雑で繊細で重要な問題で」

未来妃みたいに言葉がたくさん出てきた。そして先延ばしにしたことを飛鳥に不快と言われたことを思い出す。

「はあ?」

「ああ……なんてこと……矢田さんもみてた……佳鹿にバレるかも」

「花獺か?花獺ならキッチンに」

「ひいいいいいいい!矢田さん!」

「こいつにパシらせたんだよお菓子」

「ええ?」

「なんだよ?八咫烏って、こいつらあたしらのシモベなんだろ?」

「アイ!」

「八咫烏ってもっと怖いものなんだよ。戦姫の手足とはいいつつも、あらゆる方法で実態はこっちを管理してくるんだよ!毛利先輩の恐ろしさときたら」

「でもポテチ買ってきたぞ、こいつ」

「そうじゃなくて」

「まてよ?確かにな。こいつはコンソメ味ばかり買ってきてる……あたしを塩派からコンソメ党にしようと闇で画策して」

「違います」

「違うって」

それ以上矢田いつ子は何も言わなかった。

「掟のこと聞いたでしょ。わたしたちは照日ノ君の花嫁なの……」

「言ったでしょ。戦姫は照日ノ君の花嫁なの。恋愛は御法度」

「でも、おまえは、あの金髪と付き合って、色々したいわけだろ」

「い、いろ……いろいろ……いろって……!?」

鈴凛は急にびくりとして、頭にかっと熱が上った。

哀がニヤニヤとする。

「それは……」

「おまえ悪だな。照日ノ君がありながら」

「い……戦姫になる前から好きだったの!」

恥ずかしくもそう言った。

「とにかく佳鹿には絶対に言わないで。ばれたら面倒なことになる……毛利先輩とつきあってることにされるって話もあったし」

「……」

矢田いつ子が同情するような表情を浮かべた。

「じゃ、毛利ともつきあえばいいじゃん」

哀はあっけらかんとして言った。

「は?」

「え?」

二人は固まる。

「毛利先輩のことだから、付き合っていることを学校中に知らしめると思います」

「そしたら周馬とつきあえなくな……」

「だから二股しろって言ってんの。実際、高天原にも照日ノ君がいるから三股だな。三股は忙しいぞ〜」

「そうか……! じゃなくて!」

「宇多にいる今のうちにどっちが、田舎もんの男と多く寝たか競争しようぜ。あたしはな、最大、五股はしたことあんだ」

アイが嬉しそうに言う。

「か……価値観が違いすぎる……」

未来妃のことを硬すぎると思ったことはある。

だが哀は果てしなくその反対に振り切れている。

「おまえより二十年分くらい先いってんだよ、考え方が」

「そんなことして……間違って妊娠したりしたらどうするの?それにわたしたちは……明を感染させるかもだし……」

「戦姫って人間の男とやったら妊娠するのか?」

「わ、わからないけど」

「……おそらく試した方はいらっしゃらないので不明ですが……」

矢田いつ子がぽつりと言った。

「おう、下僕が発言した」

「哀!!」

「……申し訳ありません」

「いいの、続けて……何か知ってる?」

「百姫様のひとつ前の戦姫……、第九十九代戦姫、望姫(もちひめ)様が人間の男と駆け落ちの疑義にかけられ、花牢に入られたことは存じております……それが原因なのか、その後すぐに亡くなったことも」

「?!!」

「それって佳鹿と羊杏ちゃんが仕えていた前の戦姫?」

「そうです」

「高天原の人もあまり話たがってなかった」

「五年ほど前ですが、衝撃が走っていました。戦姫になって十年たらずの死。しかも人間の男となど……」

「……」

「ありえないことだからです」

「そ……そっか……」

鈴凛は居た堪れなかった。

「……これは、百姫様を咎めているわけではないのです。あるはずもないことだったからです。神々は人間には及びもしない魅力を纏っているとききます。天照大御神はその最上神。……人間と駆け落ちなど。きっと何か情報が錯綜しているのです。神を越える魅力を持つものなど存在するはずがありません」

「原理原則を覆しすぎています……」

矢田いつ子は考えるように言った。

「やっぱこれヤバい宗教だったか」

アイがさもありなんといった顔でつぶやいた。

「アイ……!」

確かにそれがあたりまえだといったふうに疑っていない矢田いつ子は少々狂気じみていた。

いくら魅力があるからって、いきなり神だけを好きになるなんて無理がある。

鈴凛は周馬のことが胸に浮かんだ。望姫もきっと……いくら戦姫になったとはいえ、照日ノ君がかっこいいからと言って、最初に好きになった人への気持ちをそんなに簡単に断ち切れるわけがない。

「守り国はイギリスでした。十年ほど戦姫はされていたので、天照大御神の前では人間の男など石ころ同然だと気がついていいはずです」

矢田いつ子は物理原則に反するといったくらいの顔をしていた。

「なぜそんな悲劇が起こったのか……佳鹿様は降格され、その華子は幇助の罪で奴婢になったのです。何かがきっとあったのです。人間と駆け落ちなど常軌を逸しています」

「常軌を逸しているのはおまえらの頭だよ」

哀がぼりぼりと頭をかいた。

「煌姫様はきっとまだ日が浅いがらわからないのです」

「矢田、目ぇ覚せ。神が絶対とか馬鹿げた考えはやめろ。こいつだってあの金髪が好きなんだ。現実をみろ」

「それは……」

「こいつだっていつあの金髪と駆け落ちするかわかんねえぜ?」

「そ……そんなつもりじゃないけど……」

鈴凛は周馬とどうなるかななんて先のことなど考えていなかったし、想像もできなかった。

二人で駆け落ちする−−。それがどれほど恐ろしい結果になるかはなんとなく想像がつく。

きっと追われる身になるのだろうと思った。

「百姫様……人間などすぐに老いて、死にます。あの男はたしかにこの辺にはいないような美男子です。しかし所詮は人間です。どうかお気を確かに……」

「お気を確かにね……まあ……とにかく、佳鹿に心配かけたくないし……アイもお願いだから黙ってて。わたしが周馬のことを……照日ノ君の魅力にやられて忘れてくるまで……」

鈴凛はそんなことがあるのだろうかと思いながら言った。

「てゆうか、あの金髪がおまえを好な前提で話すすんでっけど、男なんてあてにならないぞ。あいつらは乳とやることしか考えてねえ。あいつあんなに顔いいしな……。おまえが好きなんておかしくねえか?」

哀は真面目に考えるような仕草をした。

「わたしにだっていいところはある……たぶん……たぶんね……周馬はきっとそれに気がついてくれた……と思いたい」

「はっ。相変わらずお花畑だな。どんなとこだよ?」

鈴凛は少し考えて、思いついた。

「……意地悪じゃないとこ」

「なんだよ、じゃないって。そんなのいくらでも作れるだろ。バカでじゃない。デブじゃない。足が臭すぎるわけじゃない」

「やめてよ」

「イケメンは女と遊びたい放題なんだぜ。顔のいい男で調子乗ってないやつは見たことがねえ」

「まあ……周馬は自由なところは……少しは……あると思うよ」

「おまえなんかにかまうのがおかしいつってんの」

「え」

「イケメンはいい女と金のある女以外に用はねえ」

「……」

「原理原則を覆しすぎてるだろ」

アイが大真面目にそう言った。


       *


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