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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
46/178

宝厳宮

「照日ノ君の花嫁だあ?」

アイははじめて高天原に行くというのに、首吊りのデザインのTシャツに敗れたジーンズの短パンを履いてビーチサンダルという格好だった。

「ええ。だから、今後は品行方正にね」

高天原について一通り佳鹿から説明を受けた後、哀は後ろ頭をぼりぼり書いた。鈴凛たちは東京駅のエレベーターに乗っていた。

「なんか色々面倒くさそうだなあ」

「でなんで東京駅?」

「高天原が移動してたの?」

「いつも伊勢上空にあるってわけじゃないのよ」

しばらくすると、扉が開いた。

「……」

湍津姫はあれから多重人格を発症せずに、仕事をしているのだろうかと鈴凛はふと思う。

「ひゃーすげえな」

エレベーターの扉が開いて哀が頓狂な声をあげる。

哀はヘッドホンをして、音楽を聞いているようだった。

これから人間じゃなくなるというのに、マイペースである。もし自分ならソワソワして色々考えてしまうだろうと思った。

「……」

滑車が開くと、五橋、金鵄城が見える。アイは扇町に降り立つと、雲のかかる神宮を見て衝撃を受けている。

「こんなもんが……空に」

哀もさすがにヘッドホンを外して、立ち尽くして現れた光景に見入っていた。

扇町の人々が平伏している。

「ん……?」

用意された赤い天牛の牛車の前で今度は佳鹿に勝手に華子を決められまいと、最前列に学長たちが子どもを連れて待っていた。

青蛾(せいが)が綺麗に着飾っていた。

末兎(まと)もいる。

「新姫様、お初にお目にかかります、権宮司(ごんぐうじ)末兎(まと)にございます」

「なんだこいつら、とんでもねえ格好だな」

それは哀の方だったが、人々はみじろくだけで誰も何も言わなかった。

「お宮にご案内させていただきますが、まず先に学習館の学長がお目通り願っております」

「……」

「新姫様、ご参拝前の謁見大変失礼いたします。学習館の鼠細(そさい)にございます、お宮の準備をしたく華子を先にお選びいただきたく参上いたしました」


「華子っていうのを選ぶのよ。あんたは戦姫の素質がありそう、ありあそう、ありそう、まだこない、まだこない、まだこないって、1ヶ月も経っちゃったから。いろんな連中がくるぞ、くるぞ、くるぞ……まだこないわね……で首をながああああああくして待ってたのよ」

「ははーん。メイドをもらえるわけか」

哀はニヤリとする。

高天原の人々は少しだけぴりりとする。

「ふーん、あたしのメイドなあ……どれにしよっかな〜」

「……」

「この青蛾(せいが)を推薦させていただきます。この子は天下の傑物です」

学長が甲高い声で説明する。

他の子についても何人か説明した。青蛾の後ろに五人くらい同じ歳の少女たちがいて、自分が選ばれるかもしれないといった期待に満ちている。

「……」

哀は目を細めて青蛾を見た。少し日焼けした青蛾はきりっとした顔を地面に向けたまま、覚悟したように地面を見つめている。

「……」

鈴凛は哀がどんなリアクションをするか心配になる。自分のせいで振り回された彼女が選ばれて欲しい。

「青蛾ちゃんは賢くていい子だよ」

鈴凛は援護射撃のつもりでそう言ったが、アイの天邪鬼のような性格を考えるとよくなかったかもしれないと思い直してちょっと焦る。

「へえ……」

アイは品定めするように、ぐるぐる青蛾のまわりを回る。

「こいつがなあ……まー……」

妙な緊張が張り詰める。

「ま、じゃあ、こいつでいっか」

青蛾がぱっと緊張がほころんだ顔をして、鈴凛まで救われた気持ちになる。

「ありがとうございます!!」

学長の鼠細はぽっと赤くなって、少し飛び跳ねた。

「この花飾りをお授けください」

末兎が木箱の花飾りを哀に捧げている。鈴凛はそういえばそんなことがあったと思いながら、哀が髪飾りをとるのをみつめた。

「ほれよ」

哀は黒く艶やかなうねった前髪を少しだけあげてヘアピンのようにしてとめる。

「しっかり働けよ〜」

「ありがたき幸せにございます、わたくしの全てを捧げてお勤め致します」

青蛾は顔を上げないまま凛とした声でいった。その瞳にやっと苦労が報われた、掴んだ、これから全てが始まるといったような、ほとばしる何かが宿っていた。

「……」

「よしよし」

哀は腰に手をあてて、ふんぞり変えってご機嫌だった。

「うわ〜温泉の湯気か」

「でかい鳥居だな〜」

哀が大声を出すので。神宮もざわついていた。

物見遊山そのもので、哀は初めてきた観光地にきた外国人のごとく大袈裟に驚いて大袈裟にリアクションを取っていた。

「新姫様は縁血をうけるため神宮に……」

「じゃあまたあとでね」

「あたしも心配だからついてくわね」

「うん」

「おう、あとでな!」

末兎と佳鹿に連れられて哀は行ってしまった。

鈴凛は百の宮に向かう。そういえば羊杏に会うのも久しぶりだった。

「ただいまー……羊杏ちゃ」

「え……」

百の宮にくると、羊杏が白い布を被って、玄関でカチコチに固まっていた。

「お、おかえりなさいませ……」

「ど、どうしたの?」

羊杏は呆然として口を開いた。

「……思金(おもひかね)様が……一の間でお待ちでござりまする」

「!!」

鈴凛は足をすこしだけひきずりながら中に入る。思金は白衣の割烹着を着て、トランクほどの年季の入った皮のカバンを持っていた。診察台の代わりか、とうの寝そべられるような椅子が持ち込まれている。

「やあやあ! 怪我をしたってきいたから、かけつけたよ〜」

その顔は心配でかけつけたのではなく、また玩具が帰ってきたといわんばかりの顔だった。

「うわー! 足痛そうだね! はやくはやく、ここに座って」

「あの……もうけっこうよくなっているというか……治療はあまりいらな……」

「炎から身を守るために、湯津爪櫛をライオンの毛みたいにして、防御壁みたいになったんだって?」

「あの」

「いーからいーから」

思金が鈴凛の腰に手を回すと、子供のようにひょいと持ち上げられ、椅子に押さえつけられた。

「!!」

思金は華奢なのにものすごい力だった。

足の包帯を剥がすと、怪しいゴーグルをかける。

「ほうほう、傷口にいるね」

羊杏はびくびくとして頭を上げない。神々を見てはいけないを実践しているらしい。

「っつ!ああああああああ!」

痛みに体が跳ね上がって、足元を見る。

「こうするとどうなるんだろう?」

思金が瓶に引き剥がした肉片の細胞を閉じ込めていた。

「うわ……!」

「いたいです!!」

「え?」

ガラス瓶を空気のように通り越して肉片が集まっていく。

「え? え? どういうこと? 出てくる出てくる! 信じられない!」

興奮して観察している。

「黄泉能力って本当にすごいけど、湯津爪櫛は群を抜いてチート能力だね」

「うわあ……」

「おお。手首にも糸はあるね。この糸は体内に内臓されてるのか」

思金はベタベタと傷口を調べまくっている。赤い糸とまた攻防戦を繰り広げていた。

「やっぱり似たような能力なんだねー。 素戔嗚(すさのお)はぜんぜんいじらせてくれないから助かる〜」

思金は目をキラキラさせていた。

素戔嗚様も?

自分も断りたいと思いながら、鈴凛は思金にされるがままになるしかなかった。

男とも女ともよくわからない顔がわくわくに埋め尽くされている。

こんなに自由に出入りしているということは女なのだろうとぼんやり思った。

「どこいったかなあ……」

思金は整理されていないぐしゃぐしゃのトランクの中をかき回してる。

「ああ……やっぱり彼がいないと……」

「……彼?」

鈴凛は痛みに耐えながら、糸から興味をそらせたかった。

「助手に逃げられちゃったんだー……とーっても優秀な子だったんだけどさ……」

思金は悲しそうに言った。

「僕けっこうぬけてるとこあるんだよね」

いつ頃のことなのか知らないが、草庵に行った時にはもう助手はいなかったはずだ。

この人の助手はさぞかし大変だっただろうと思う。未来妃の病院の仙藤と北斗を思い出す。

仙藤もだいぶ自分勝手だが、この医者はさらにうえを行っていた。

「彼だけが僕の理解者だったのに……僕のミスをさらっと直してくれるような」

ぎょろりとした大きな目きな人形みたいな顔が歪む。珍しく悲しそうな表情だった。神々の肉体は、インカネーションされたものと佳鹿が言ったことをふと思い出す。この顔やその光り輝く肌は実体のないものなのだろうかと思う。

「あ、あった! これね、火鼠の針」

思金が気を取り直して言う。

思金はマッチのような、小さな火の灯る茶色い芯をとりだした。

「火鼠の皮衣は耐火性があるけど、針はぼーぼーいつも燃えてるの。すごいエネルギーをもってるんだよ」

「ほら、糸だしてみて」

「……う、それは、えと、やめ」

それで何をと思う。

「街の街灯とか、提灯のあかりもこれさ、ずっと百年ぐらい燃えてるの。すごいエネルギーなんだ−−」

思金はそれをおもいっきり傷口にあてる。

「ぐああああああああ!!」

鈴凛は悶絶する。

「ほら、湯津爪櫛を纏わないと痛いよ?やってみせて」

肉片に それを焼き付けられ、鈴凛は椅子から転げ落ちた。

「ひいいいいいい!」

羊杏は座布団を頭からかぶって、主人の悲鳴に耐えている。

「そんなにコントロールできないの?」

「う……うう……」

涙と鼻水とよだれが溢れてくる。

「さあさあ拭いて……大丈夫だから」

ハンカチでにこにことして拭いてくれる。

「もういっかいやるから、もういっかい頑張ってみて」

その笑顔がさらに恐ろしくて何も言えない。

「そんな……」

鈴凛は糸をコントロールできなかった。

これはもはや治療ではなく、患者への虐待だった。

火傷を焼き付ける医者がどこにいるのだろう……と鈴凛は涙を堪えて思った。

穢レを取り扱うことは禁忌。のはずであるが、神々の叡智である思金が興味を抑えられないようだった。

「思金」

聞いたことのある凛とした声がする。それはいつになく厳しさを持っていた。

暖かい光が中庭に差している。

「!!」

二人は固まった。光り輝く金色の人が空から降りてくる。

「照日ノ君?!」

桃と桜の花吹雪がさあっと巻き起こる。

「あれ?きてたの? あ、そっか新しい戦姫がきたからか」

思金が手を止めてへらりとする。

照日ノ君は金色の眼を思金に向けたままだった。

「今後、(もも)の所へゆく時は、わたしの許しを得てからにしてほしい」

そよ風が吹くぐらいの穏やかさで太陽神は叡智の神に言った。

「え?でも今からもうちょっと−−」

思金は仲のよい友達に話すような感じで言葉をつなげたが、急に黙る。

「……」

照日ノ君がじっと思金を見ていた。

神々は精神世界で何を会話したのか、思金がびくりとした。

「え……わ、わかった〜いってくる〜!」

思金はびくりとして荷物をガサガサ集めて、ドタドタ出て行った。

「……」

鈴凛は助かったと思った。

「尋ねてみてよかった。この間もひどいめにあったときいてね」

「あ……ありがとうございます!」

鈴凛はとうの椅子に暴れた後の格好の座ったまま、視線を向けられてどキリとした。

ふわりと体が浮いた。

「わ」

神の力なのか、鈴凛の体は浮遊して、照日ノ君の腕に収まった。

お姫様だっこされて顔が近い。

「顔が赤い。熱っぽいようだ」

照日ノ君は鈴凛を抱き止めて笑う。

「なにもされていないか」

くいっと顎を持ち上げられる。

「あ……の……」

「調べてみたいといけないかな……?」

妖艶さが浮いていた。

「あ、あの」

鈴凛は恥ずかしくて何を言っていいかわからない。

「冗談だよ」

照日ノ君がクスクス笑う。

「新姫の縁血は終わった」

「おわびをして送り届けてあげよう」

「!」

照日ノ君がぎゅっと鈴凛を抱き直したところで、気がついて声をかける。

「華子、おまえもきなさい」

「そ……その……そのような、恐れ多い……」

羊杏は誘惑に耐えかねて中の様子を見ていたらしかった。

「名はなんという」

「……羊杏に……ございまする……」

照日ノ君の不思議な衣はふたりを包み込んで舞い上がった。

「羊杏、きなさい」

ふたりを乗せて空へ舞い上がった。

「わあ……」

桜の宮が離れていく。

羊杏はぽっと頬を染めていた。

「綺麗……」

二人は神に抱かれて、空へ舞い上がる。

「高天原を……上からみたのは……はじめてでございまする」

四季楼を中心に張り出した姫宮が見えた。

心地よい風が吹いている。

「もう一度……」

「?」

なぜか鈴凛はこれをもう一度見ることになる、と強く思った。

空も飛べるはずがないのに−−。

「いえ……」

神宮の竹林や巨大な鳥居、五橋、滑車の五十の塔、キラキラと光お堀通り、出島

おのごろ島が見えてきて海の縁が見えた。

これが神の視点なのだろうかと鈴凛はふと思った。全てを俯瞰すると色々なことが小さく思える。

空高く舞い上がると星と空が近くなる。

「夏も終わりだ。天野川も無くなってしまう」

だんだん星が大きくなってきた。

「なくなる?」

「ああ、その前に星をあげよう」

「星にございまするか……?!」

羊杏が感激した様子で震えていた。

「星……?」

雲を抜けると、キラキラとした星の川が現れた。

「え……本当に星が空に浮いてる」

星形の何かが浮いている。

「これが天野川」

「え?」

いつか佳鹿が高天原に空がふたつあると言っていた。

三日月も浮いていた。

「え……」

「月が浮いてる……」

「神々が食される高貴なものです」

星はぷにぷにしたスライムみたいで、月はシフォンケーキみたいに穴が空いていた。

「この月も星も高天原のものだからね。本物とはもちろん違う」

「まさか星と月まで……」

「食べてごらん」

「恐れ置い……星も月も……神々の食べ物なのでございまする」

「そうなんだ」

「人にもとても栄養がある」

「え?」

「この月も」

「おいしいいいいいいでございまする!!」

羊杏が感動して涙を流している。

「お月様はカステイラみたいな味で……星はひんやり冷たいシャキっとして、シャラっと崩れて……しゅわしゅわのぱちぱちでございまする」

「すばらしい感想だ」

照日ノ君がにっこり笑う。

「星は神々しか食べられないときいておりました」

「今日は特別。本当に特別。他の神が知ったら怒るだろう」

「でも天児屋命がきいておいででは」

「わたしが特別だといえばそれも聞いている」

「……なるほど」

「星は煌姫(こうひめ)にもひとつ持って帰っておあげ、縁血を受けてお腹がすいているだろうから」

「こうひめ……それが哀の新しい名前……」

姫宮に舞い降りる。照日が飛んでいても、誰も驚いた風がない。頭を下げていないところをみると、見えていないのだろうかと思う。

「……?」

「わたしは戻る」

「ありがたき幸せ、羊杏は一生忘れませぬ」

羊杏は廊下に平伏していた・

照日ノ君は空に舞い上がっていった。

「またね」

「夢のようでございました」

「羊杏は今宵、人生で一番すばらしい日を迎えました……」

「照日ノ君って優しいよね……」

「さ参りましょう。星は鮮度があるときいたことがあります」

銀杏やもみじが落ちている。

「ここは秋の廊下にございまする、豊厳宮(ほうごんぐう)と名はきいておりましたが……」

「すごいね」

「青蛾ちゃんも星を見たら驚くのでございまする!良いお土産ができました!」

羊杏は急に元気になって先輩として張り切っている。

「紅葉が綺麗……銀杏にもみじに……ポプラ?」

羊杏に連れられて姫宮の秋の廊下を歩いていた。

「ここですね」

「なによそれ」

佳鹿が出てきてびっくりしている。

鈴凛はお土産の大きな星を抱えていた。

「ホシ」

「見れば形はわかるわよ」

「佳鹿様!これはあの天野川の星なのです!!照日にいただきました!」

「天野川に羊杏ちゃんと連れて行ってもらって……」

佳鹿は話をきいて驚いていた。

「まあまあ相変わらずご贔屓だこと」

「あんたのどこにそんな魅力があるんだか」

「ちょっとわたしの花将でしょ」

「親バカにはならないようにしないと」

「すごかったのです!きっと百姫様に惚れておいでなのです!!」

羊杏が興奮して言った。

「ここにも思い込みの激しいのがいるし」

「ま、とにかく入りなさい。こっちも大盛り上がりだから」

「え?」

紅葉と銀杏が紅葉しており、池には極彩色の鯉が泳いでいる 調度品は紅葉と葡萄の細工がなされていた。

「なにこれ」

すでに宮に大量の豪華な調度品が送られている。

「え、なんかわたしの時より、豪華じゃない?」

真誌奈(ましな)様の贈り物です」

「え?」

「新姫……煌姫様は天雅家本家の血筋……、真誌奈様の姪にあたるのです」

「え?!哀って、あの人の、姪っ子なの……?!」

「アイちゃーーーん!!!」

どたどたと足音がした。

「やめろー!!」

真誌奈が飛び出して哀に抱きつく。

香水のような強い匂いがする。

「もー!! な、なんだなんだ!このババア!」

哀もびっくりしている。

宮中の廊下を哀は逃げ回り、真誌奈は追いかけまわしていた。

「これからはわたしを家族……いえ、ママだと思っていいのよ!」

「はあ?!」

「思ってた通り可愛くて、スタイルがよくて、わたしにそっくりでなんて美しいの……」

「だれだこの気色の悪いババアは」

「これも似合いそうだし」

「あこっちのほうがいいかしら」

「あなたこそ世界の宝だわ。整った顔、美しい体つき、(ほむら)の能力」

「ほむら?」

「かつても炎を使う戦姫は何人かいたけど、とても強かったのよ」

佳鹿が目で二人を追いながら言った。

「佳鹿、なぜ哀がこの貧相な女と一緒に下界で学校になど行かねばならんのだ!」

真誌奈が鈴凛を見て、今度はこっちにやってくる。

「本人の希望でもあるわよ」

真誌奈が鈴凛にずいっと影を作る。

「おまえ、どこぞのただの死に損ないとは違うのだ。気安く友達になどなれるなど思うな思うな」

真誌奈が鈴凛をうっとうしそうに見る。

「えーっとそれは……」

「一応私も一夏一緒に過ごしまして……」

「もう我慢なりません!!」

羊杏が叫んだ。

「もうこの羊杏が許しませんよ!! この!年増の!ゴクドウサレ! おふたりのめでたい門出を!! 百姫様をこれ以上、愚弄したら、箒で叩いて」

「まあまあ……羊杏ちゃん」

「な……」

確かに鈴凛は命をかけて、足を失ってまでアイを助けたのに、真誌奈のその言い分はないだろうと思った。とはいえ真誌奈の性格は知っていたので驚きもしなかった。

「うちの姪に何かしたら許さないからな!」

「あらまあ……親バカがここにいたわよ」

佳鹿は頬にてをあてて、肩をすくめてみせた。

「おいババア!こいつは死にかけたあたしを助けたんだ!悪く言うな!」

「はああ……怒った顔も……美しいわね……」

真誌奈はうっとりとアイを見つめて言った。

「うえ〜……」

「だめだわね、こりゃ……」

「百姫様、申し訳ありません」

青蛾が恐縮して鈴凛に代わりに謝る。

「それに、ありがとうございました」

「いえいえ」

「来んな!キモババア!」

「キモい!」

それにしても凄まじい人格の変わりようだった。

「ほらほら、これを着てみましょうよ、こっちも似合うわ。これも」

「え……」

「まあ美しい。これも着てごらんなさい」

おせっかいの母親のように、哀に次々着せようとしている。

「それにしても……あんな真誌奈様ははじめてみました」

青蛾も圧倒されていた。

「うっとうしい!どれでもいい!」

哀は突然の親族の歓迎にまんざらでもない様子だった。

あの魔女のような女にこんな一面があったとは鈴凛は驚いた。

顔を緩ませて、哀を猫可愛がわりしている。

常に自分が一番だと思っていた女に急に姪っ子ができて人格が変わっていた。

「実はツンデレだったんですかね……」

「姪っ子ってそんなに可愛いのか」

「亡くなられたという妹さんが、可愛がっておいでだったのかもしれませんね」

青蛾が言った。

「家出?」

「煌姫様のおばあさまにあたります。天雅家を家出した真里奈(まりな)様です……その子である姉妹が真誌奈(ましな)様と真奈美(まなみ)様」

「哀のお母さんは真奈美(まなみ)っていうのか……」

そういえば親はいないと言って哀からそれ以上の話はきいていなかった。

「あの性悪女がねえ……どういう経緯でこんなことになったのか調べる必要はありそうよねえ……」

「こんど一緒に天雅家に行きましょうねえ!!」

「あ」

佳鹿が思い出して、何かを差し出す。

「そういえば、天雅真澄が送ってきたわよ」

「?」

「忘れ物。はいこれ、明日再テストでしょ」

渡されたのは教科書だった。

「つ、あああああああ!!!」





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