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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
43/178

悪友

アイがライブハウスで力強く歌っている。タバコ臭いが、それにも慣れてきた。

相変わらずの迫力で、観客たちは狂ったように騒いでいた。

だんだんとダメと言うのもバカらしくなり、鈴凛はただアイにくっついているだけになっていた。

「一本吸ってみなよ?」

壁に一緒にもたれかかっていたユカが誘う。

「……」

こういうのもアリなのかもしれない……そんなことまで考えるようになっていた。

鈴凛はくわえてみた。ゲホゴホとむせる。

「まずい、なんでこんなもの」

鈴凛はそれをもらうことに、抵抗感が無かった自分に驚く。戦姫になった体なのからか、ユカたちと同じように何か壊れてしまったのかみんながすることにどんどん抵抗感が無くなってく。

「心が落ち着くの」

頭をゆっくりと押しつける気だるさややるせなさとともに見えない何かに蝕まれている気もしたが、鈴凛はだんだんどうでもよくなっていた。

「これ終わったらいつものファミレスいく?」

刺激的でそれでいて掴みどころが無い生活が続く。

教科書も単語帳もどこかへ行ってしまっていた。

幻覚を見ているみたいだった。昼は四人でごろごろ漫画をみたり、ゲームをしたり、バカみたいに騒いだり、夜は怪しい光の繁華街に繰り出していた。

「そうだねー、でも今確か入れない時間だ、消防のなんとかで」

ネットカフェパインの家……『広々ブース』にも慣れてきた。

たまにやってくる一週間に一度の眠りは三人の横で眠った。

コンビニやファミレスのものばかりを食べた。

眩い夏の昼間の太陽と、じっとりとしたまとわりつくような夜の闇を往復して鈴凛の夏が過ぎていった。

ある日、ライヴが終わって、パインの四人でファミレスで時間を潰していると、フェルゼゲリアのナツミが合流した。

「次のライヴきまったって江藤から連絡あったよ」

どかっと席に無理やり座ると、ナツミが無理やり四人席に割り込んできた。

「誰こいつ」

ナツミが鈴凛をじろっと見る。

「あたしのストーカー」

「また変な女ひっかけたの?」

ナツミがはいはいと言ったふうに言った。

「違います、わたしは別に哀のこと好きなんかじゃなくて宇多に連れていかないといけないだけで」

鈴凛はまずいと思って口をつぐんだ。

「宇多?」

ナツミがタバコに火をつけようとしてやめる。

しまった。

鈴凛は未来妃がライブでナツミが自分達と幼稚園の同級生だという話を思い出した。

「あんた……どっかで……」

ナツミが目を細める。

「ええ……そうですかねえ……」

鈴凛は顔をそむけた。

ナツミが身を乗り出してくる。

「ああ! おま……おまえ……どろ団子じゃねえか!!」

「は?」

ユカもアイも険しい顔をした。

「どろ団子?」

「こいつ幼稚園で病弱と泥団子ばっかつくってたんだよ!」

「はあ?知り合いなの?」

ユカが固まっていた。

「……幼稚園が同じなの……」

鈴凛は観念して言った。

「はあ?!」

ユカが驚く。

「え……おまえはあたしのストーカーとみせかけて、実はナツミのストーカーだったのか」

哀は妙なことにショックを受けていた。

「いや、それは違う」

「お、おま……おまえあの時のこと、まだ恨んで……!」

ナツミが何かを思い出してぎょっとしていた。

「恨む?」

鈴凛は何も覚えていない。

「なにしたの?」

ユカがナツミを見た。

「あれは……」

ナツミの話をまとめるとこうだった。

ナツミは当時幼稚園のボスだった。みんなを率いていつも外で遊んでいたが、それにちっとも加わらない連中がいた。

それが未来妃と鈴凛で、ひたすら根暗な泥団子作りなどをやっている。

興味もないしほうっておいたが、ある時、他の園児たちにその泥団子の完成度が高すぎることに気がついた。子供達の心を鷲掴みにしてしまう。

ふたりが妙にちやほやされていた。

それがナツミは気に入らなかった。なので全て泥団子を、目の前で踏み潰して破壊してやった。

「ナッチャンらしいわ」

「泥団子って……」

哀がそこで爆笑する。

「ガキのころからクソ地味、クソだせえ」

「……」

「そしたらこの根暗が……」

「いきなり馬乗りになって、口の中にぶっ壊れた団子をあたしの口に全部つっこみはじめて」

「え……」

ユカとアイはぎょっとして鈴凛を見た。

「こんなゴボウみたいなのに、ものすごい力でよ」

「え……」

驚いたのは鈴凛も同じだった。

「そんなことしてない」

鈴凛はあまり幼い頃の記憶がない。

とりあえず否定する。

自分がそんな大胆なことをするとは思えなかった。

「あ、こいつ、キレたらやばいタイプ?」

「あーいるよな……そういうやつ」

「口の中の砂がしばらくじゃりじゃりして……」

ナツミは紫の口紅がのった口をもごもごさせた。

「帰るわ……」

ナツミはそこまで話して、怖くなったのか席たつ。

「え……あおい、次のライブの話」

ナツミはそのまま出て行った。

「ナッチャンがあんなびびってるとこはじめてみた」

「……え」

「おまえあたしとまともにやりあったもんな」

哀が考えるようにぽつりと言った。

それは今はもう戦姫になったからだ。

幼稚園の頃からそんな乱暴だったなんて。

「しかし泥団子とか」

「どんだけ地味なんだよ」

「クソだせえな」

「幼稚園児なら泥遊びくらいするでしょ」

「だいたい今も」

「なに」

「格好がクソだせえ。ライヴハウスにはもっときめてこいよな」

「服買えよ」

「お金なくなっちゃったもん」

「化粧もしてねえし」

「おまえ男いたことねえだろ」

「……」

「やったことなければキスもしたこと」

「キスはしたことあるよ」

鈴凛はムキになってすぐ言い返す。

「へえ誰と?」

「……え」

「ガキの頃とかじゃねえの」

「つい、先々週だよ!」

「じゃあどんな奴なんだ?言ってみろよ」

アイがどうせ強がりだろといった風にせせら笑う。

「バスケットがすごくうまくて、サラサラの金髪で、目はしゅっとしてて、唇は薄くて……とにかく、とってもかっこいい人。世界で一番かっこいい人!」

「え、マジで居た」

ユカが驚いて言った。

「え、おまえ彼氏いたのか……どこの物好きだよ」

アイが愕然としている。

「か、彼氏かどうかは……まだわからないけど……キスはむこうからされたというか……」

鈴凛はもごもご言いながら少し見栄を張った。

「へえ〜むこうから?」

ユカが身を乗り出して鈴凛の表情をジロジロみてくる。

「ほお〜」

アイも面白そうな顔をして、二人で顔を見合わせた。

「こりゃもっと掘り下げないとな。コーラとってくるわ」

鈴凛はしまったと思いながらも、なんだか自分の恋バナをするみたいで少しワクワクしてきた。

「……ココ遅い……」

ユカが言った。

ユカを追いかけてトイレに入ると、妙な息遣いがする。

「やば!!』

ユカが叫ぶ。

「開けて!!」

「まかせて」

鈴凛はトイレの上か登って、中を覗き込む。

「う、うそでしょ」

ユカは軽々と、トイレのドアの上の空間に掴んで超えていった鈴凛に驚く。

トイレが真っ赤になっている。

「……ひ……ひ……」

「ココ!」

手にはカミソリを持っていた。ココが手首を切っていた。

「!」

鈴凛が刀を取り上げて、ティーシャツを脱いでを押さえつけた。

圧迫するが、どんどん血が溢れてくる。

慌ててロックを解除するとユカが入ってきた。

「なんで死のうなんて」

「止まらない……」

「もっと押さえつけて」

「これで結んで」

「病院いこう」

「行かないよ」

「……」

「ココ!」

「やりすぎんなって言っただろ」

アイが焦ってやってくる。

「だからライヴ来るなっていったのに」

「他の女と一緒のとこ見たんだろ」

「ごめん……」

「ドラムの男、ココと一時期、付き合ってたんだ」

ユカはそれを見て不機嫌そうな顔になる。

「あいつは最低だからやめとけって言っただろ」

「……」

「圧迫して」


     *


パインに戻った後、ココの服をユカと洗う。アイが自分がココをなだめるからと言い、ユカと鈴凛はシャワールームで汚れた物を洗っている。

「あの……いつからこんなこと」

「最近は深く切りすぎてる。何回か救急車よんだこともあるよ」

ユカがタオルを洗いながら言った。

「救急車を呼ばれるのを嫌がって最近はますます隠れてやってる」

「ユカちゃんも……」

鈴凛はユカの少し日焼けした濡れた手首を見た。ところどころにタバコの根性焼きもある。

遠慮がちに鈴凛は言った。

「……」

「あの……ごめん……出会ったばっかりで……そんなこと話したくないよね」

「三人みたいにまだ仲がいいわけじゃないけど……」

「過ごした時間は関係ない」

ユカが急に小さく言った。

「……?」

「あたしたちどう見える? ココとアイのほうが長く友達に見えてない」

「え?」

「あの子がここにきたの一年前くらい。あたしは中学の時から哀をしっているけど」

「……」

ユカは自分が言っていることを止めたいように、首を横に振った。

「あたしはもリスカむかしやってた。もうやめたけど。リスカはココが一番ひどい」

「あの子無駄にかわいいから悪い男にばかりひっかかって……何度失敗しても学ばないのよ」

「そっか……」

「あたし男に振り回される女って……嫌い……」

ユカの目が死んだようになった。

「……?」

「あたしの母親もそうだった。男とうまくいかないイライラをあたしにぶつけて殴ってた」

ユカは洗面器の薄まったココの血を見つめたまま言う。

「でもアイはココが大事だから……ココを心配して……」

ユカの声が沈んでいく。

「ユカちゃん……?」

自分がそう言いながら何か気持ちかが抑えきれなくなった顔をしていた。

「……!」

ユカの不機嫌の理由を鈴凛は急に悟った。ユカはアイが好きなのだ。そしてアイがココばかり気にかけることが気に食わないのだ。

「大丈夫! わたしにはアイスっていう強い味方があるから」

「アイス……?」

その言葉を反芻する。

「覚醒剤のこと」

話をしながらタオルを洗うユカが薬をしているなんて思えなかった。話していると全く普通に思える。

鈴凛は薬をやる人は、ベロベロに酔った酔っ払いみたいなった分別の何もつかない人をイメージしていた。

普通に話していたら、学校にいる子と何も変わらない気がした。

「覚醒剤……アイもやってるのかな……」

鈴凛はどんどん闇が深くなっていくのを感じて気が滅入る。出口のない迷宮のさらに奥深くにきてしまった気分だった。

「アイは客から求められても、絶対にやらないんだ」

「……!」

「サツがきても自分だけは逃げたいから。苛ついたらすぐにぶん殴りたいからって」

「アイらしいね……」

「でも本当は歌えなくなるからだと思う」

「!」

「うまく歌えなくなるから」

「哀はいつかフェルゼゲリアで売れてあたしたちをこんな生活から抜け出させてくれるって言ってくれた」

「!」

鈴凛は闇の生活を支える一筋の光を見たきがした。

「武道館でフェルゼゲリアはいつかライブをするんだ。あたしたちは最前列で、アイに手を振るの。それで港区のでっかいタワーマンションの最上階に三人で住むの」

ユカがわくわくして言った。急に幼くなったように無邪気に笑っている。

「……」

鈴凛は急に不機嫌の抜けたユカを可愛いと思えた。

そして少しだけ痛々しい気持ちにもなる。

それはどれだけ角度の高い話なのだろう。アイの生活からアイがデビューに近づいているとは思えなかった。

「……」

アイの夢。アイの歌。それがわずかな彼女たちのたったひとつの希望。

「アイの夢……」

『夢』

鈴凛はここでもその言葉が好きに慣れなかった。

それは何か大切なことを麻痺させる毒にも思える。

「……」

自分は今まで何をやっていたのだろう。

何もかもがバカらしく思えてくる。

鈴凛は教科書を追いやられていた。

全員は救えない。毛利就一郎の言う通りだった。

うまく回しているつもりだった。

日本を守り、青春もちゃんと楽しんでいる。

それがどれだけ馬鹿らしいことだったがこの闇が伝えていた。

幾度の死線や、忌を倒しても、社会の影はそこら中で生き残るのだ。

人はそこら中で死んでいる。

夜四人でぎゅうぎゅうになって、『広々スペース』の小部屋で寝ころがった。相変わらず少しだけ空調の音がうるさい。冷たいクーラーが降りてくる。

「みんなよく寝てる……」

少女たちはこの小さな箱のような部屋で同じ夢を見るのだろうか。

鈴凛はこの醜く愛しいと部屋をもう好きになってしまっていた。


          *


解決の糸口がないまま、二週間ほど経った時、ネットカフェの入り口で鈴凛はうずくまって外にでていた。

どうしたらいいんだろう。何やってるんだろう。

夏休みが終わってしまう。何も解決しないまま。

「アイだけをつれていけない」

−−……

「戦姫になってもアイは東京に残ればいいよ」

−−それであの三人が一緒に暮らせるとでも?

「……」

−−あんたの家はあんたに無関心だからいいけど、あの子たちは違う

「じゃ……どうしたら」

宇多に帰りたい。忌も発生していない今、佳鹿たちに全て任せて帰りたい。

でもみんなを置いていくこともできない。

あの時感じた吐き気をする現実をこのままここに置いていけない。

それでも自分ができることは本当に何も無いのだと思い知らされる。

−−目隠し者の件は発生が一時的に沈静化したわ

「え?」

−−理由はわからないけど、とにかくもう少し調べてみるから

「わかった……」

中にずっといると気分がさらに滅入る。教科書は放り出されていた。

「……どうしたらいいの……」

鈴凛に哀を説得なんてでいるわけがない。

そんなことは愚かだとわかっていた。

ココとユカを置いて、宇多に来るように言えるわけもなかった。

二人を親のもとにも戻せない。だからといって施設に行っても解決しないことはわかっていた。

社会の構造を変えることはできない。

「……」

夜の10時ごろ、アイが建物から出てくる。

「どこ……いくの?」

「仕事」

アイが伸びをする。

「ついてくんのか」

「ついていく……」

「じゃあばれないようについてきて、見えないところから隠れて見てろ」

「?」

アイは海辺の工場地帯へ行って、倉庫のような場所に入って行った。

そっと追いかけて、コンテナの上に身を隠す。

「……?」

明かりを持った誰かが荷物をもってやってくる。

鈴凛は目をこらした。袋に白い何かが見えた。

「……?」

アザラシくらいのもので……

男たちはアイに金を渡すと車で行ってしまった。

鈴凛は倉庫の屋根から降りて、アイの横に立つ。

「……!」

開かれが目がカッと開いたままの男。

袋の中で人が死んでいる。

「な……なにこれ……!」

アイが手を触れると燃え上がる。皮膚が燃え、中の肉が見えてくる。妙な匂いが広がって。鈴凛は顔を背けた。

「これは……あの人たちは……誰なの?」

アイは灯りを見つめた。

「あいつらとは対等な関係なんだ。まあ結局はどこかの島には属さないとめんどうなのさ」

「あたしは骨まで焼き切って、大きな金をもらうだけ」

「あたしらの協力者みたいなもんだ」

「……」

人が燃えていく。鈴凛はそばにたちつくしていた。

パチパチと音をたてて肉が焼ける匂いがした。

「……」

薬も酒もタバコも売春もしていないのに、自分も感覚がおかしくなっている気がした。

「おまえ……平気なんだな、本当にどこからきた」

アイは火を調節しながら人を焼いて行った。

「……力はつかっちゃいけないのに……」

鈴凛はぼうぜんと言った。

「完全に燃やさないと」

「こんな生活いつまで……」

「あたしが歌で売れたら終わる」

炎がぱちりと音をたてて、鈴凛はすこしはっとした。

「協力者って……そのお金はどうなってるの?』

「預かってもらってるんだ。デビューの軍資金。持ち歩くわけにはいかねーし」

「それ……」

「これを燃やすように言った人と、アイをデビューさせてくれる人って同じ人なの?」

「ああ。ああいう世界はこういう世界につながってんだよ」

「でもそれって……アイを利用してるんじゃ……?本当はデビューさせる気なんかなくて……アイの夢を利用して……」

鈴凛がそこまで言うとアイは顔を真っ赤にして怒っていた。

「そんなにうまくねえってか」

「ち……ちがう! そうじゃないけど」

「……!」

「なあ、この前みたいに金くれよ」

「金だよ、金」

「……!」

アイの美しい顔が仄暗い闇の中で、鋭さを持っていた。

「金があれば全て解決するぜ。おまえこの前みたいに金持ってこいよ」




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