七夕の決起大会
「えーとRNAが……」
蝉がうるさくないていて、照りつける太陽に肌がヒリヒリとなる。夕方なのにまだ太陽がギラギラ輝いている。
鈴凛は教科書を開いて駅前を歩いていた。夏中、鈴凛は筋トレをさぼってひたすら勉強していた。
欠点続きで、驚くべきことに、全科目再テストになったのだ。
さすがに一緒に三年生になれないのはまずい。そんなことで、恋と友情が終わるなんて馬鹿げていた。
夜中は訓練がある。高天原にもたまに呼ばれる。
時間が無い。
刻々とその馬鹿げたことが現実になりそうだった。
絶対に再テストに合格しなければまずい。本当にまずい。
「うわ……ええ……ここのこたえBなの?なんで……」
生物の問題集を抱えながら鈴凛は歩く。
「暑くて集中できないや……」
未来妃と福岡に家出した高速バスが駅前に停まっていた。
懐かしい。そう思うほど時間が経った気がした。
「そろそろ時間か………場所、どこだっけ」
7月になって、ギャラクシアランドの重要なことが判明したとのことで、作戦会議が開催されることになった。なぜか佳鹿が今回は毛利邸でもサラコマンダー協会でもない場所を指定してきた。
なぜだろうと思いながら、鈴凛は指定された駅前ちかくの場所に来ていた。到着した場所は新しそうなマンションだった。
「ここの……8018」
部屋番号を押して呼出ボタンを押す。
ピンポーンという音がした。
「なんだ」
聞いたことのある不機嫌な声がする。
死神の声だった。
「!」
鈴凛は驚く。
「家まで何用だ」
玄関ホールに拘式が降りてくる。
拘式はTシャツにお馴染みの黒っぽいジャージを履いていた。
「今日はここで作戦会議で……17時に……」
「18時だろ」
「いえ17時です。作戦会議は今日は、特別な場所で、佳鹿が決起大会するって……」
「で、なんで迎えにきた?」
「はい?」
鈴凛が不思議そうな顔をすると、余計にイライラが浮かんでいた。
「なんで迎えに来たかきいてるんだ」
「いや、会場がここで」
拘式が固まる。
「何……?」
−−決起大会張り切るわよお!
−−いいマンションだなあ
がやがやと騒々しい声がする。
登山家と思うほどの荷物を抱えた佳鹿が現れる。
「ヤッホー」
「貴様……なんだ、その荷物は?というかここが会場だとか」
佳鹿は調理道具に、タッパーに入れた肉種をこれでもかというほど抱えて、背中にビニールに入れた真っ白い薄力粉を背負っている。セイロは頭に乗せていた。
拘式はイライラとして言った。
「特性のホカホカ肉まん食べたいでしょう?」
「にく……いや、なぜ俺の家−−」
「細かいことはいいじゃない?」
「生地から作らないといけないから、さっそくキッチンかりるわよ〜八階よね」
「待て!!」
ガラガラゴロゴロと、また音がして、羽犬が機材を大量に台車に積んでいるのが見えた。
「あー大変だ」
「おまえまで、何の荷物だこれは」
「作戦会議用の機材に決まっているでしょう」
「……」
「あ、でもおおきなスクリーンも持ってきましたよ。後で映画鑑賞もいいですね!音響もいいの持ってきましたよ!」
羽犬もたくさんの機材を台車に乗せて運んできた。その様子は仕事というより明らかに宴会を期待した様子だった。
「はあ……あの馬鹿ども追い返す」
拘式が身を翻そうと身をよじるとまた音がする。
「こんにちは!」
今度は毛利就一郎だった。紙袋を両手に抱えている。
「いやー、遅れて申し訳ない」
「貴様は何を持ってきた」
「ドンキに行ったんですよ。パーティーといえばドンキでしょう?」
「パーティーだと?」
拘式は怒りが溢れすぎて若干声が裏返りそうになる。
毛利就一郎はパーティーグッズを買い込んでいた。
「飲み会なんて面倒臭いし断ろうと思っていたのですが、拘式さんのプライベート空間にお邪魔できるときいて、参加を決意しました。今日だけは羽目をはずすために僕も張り切りましたよ! みてください! アフロに、クラッカーに、パイ投げに、スライムに、花吹雪に、花火に爆竹……」
「貴様、全力で汚そうと考えて」
「いえ全然。まさか。まったく。そんなつもりは」
毛利就一郎がわざとらしく目を細めた。
「うわー 楽しみですね。伝説の殺し屋の自宅。007みたいに変装道具とか、毒物とか、銃器とかあるのかなあ」
「ゴミを持ち込むな!」
すると、今度はざあざあと音がする。鈴凛も驚いてマンションの通路を見た。
「え」
「今度はなんだ……?」
拘式も身を乗り出した。
BBが大きな緑をしょっている。
「なんだそれは」
「笹だよ」
「笹だと?!」
BBは答えた後きょとんとしている。
「今日は七夕だよー、日本人の文化でしょ?」
「貴様……それを玄関ホールから……」
笹の葉がそこら中に落ちていた。
「バックオフ! 葉っぱが落ちるから、エレベーターに慎重に入れるYO」
「やめろ!入れるな!」
BBは大量の大きな笹の木をずりずりとエレベーターに捩じ込んだ。
「諦めてわたしたちも行きましょう」
拘式と鈴凛は次のエレベーターで上に上がって部屋に戻る。
「うわー生活感ない、このパック何ですか?こっちはインシュリンか」
「女がいないのが伝わってくるわねえ……」
佳鹿の声がした。
「やめろ! 翔嶺、なぜ入れた!」
拘式が慌てて部屋に戻る。
メンバーたちは勝手に入り次々と色々なものを物色していた。
「意外と銃がずらーみたいなのないんだね」
「勝手に開けるな!」
「わ!服全部黒か白か灰色」
拘式の家はモデルルームみたいな生活感のない部屋だった。ここで翔嶺と暮らしているが、ほぼ毛利邸や蟻音のガーデンにいたりするのか、住んでいる感じがない。
「百姫様、いらっしゃいませ」
翔嶺が頭を下げる。キッチンで何かを作っているようだった。
「どうも……」
他のメンバーが一通り騒ぎきって満足した後、羽犬の機材の周りにあつまった。
「で、なんの決起大会なんですか」
「東京出張よ〜!!!」
「と、東京?!」
鈴凛は教科書を落としてしまった。
「フェルゼゲリアのあの子、東京にいるから」
鈴凛は手が震えた。
「ええ……東京っって……泊まり……てかそれどれくらい……?というか、あの子が原因なの?なんで?」
「可能性は二つ考えられるけど……まあ、先入観を持たずにそのへんも事実確認をしましょう」
「夏休みは東京でサラコマンダーの大会と合宿ってことにするわよ!!」
「いつから、いつまで? わたしちょっと勉強したくて、あとバスケの合宿もあるし」
鈴凛は今、限りなく時間を捻出する必要があった。
「なに急に、あんた勉強なんかしてなかったじゃない」
「留年の危機なんですよ」
毛利就一郎がにこにこして言った。
「わたしの成績みたんですか」
「学年で最下位でした」
「あらあら勉強しなかったツケが回ってきたのね」
「で、どれくらい行くの?」
「準備と下調べもあるから八月のあたまから……問題解決までってとこかしら……」
「問題解決?それってほぼ全部ってことじゃん……」
「問題解決って何?」
「その子の正体を突き止める」
いかにも時間がかかりそうだった。
「天雅家も騒ぎだしているんだから早くしないといけないのよ〜帰りも簡単にいくかどうかわからないし」
「この件が十二宮に提示された時の本家の動揺もすさまじいものがあったとか。面倒ごとは下々に任せるのが常なのですが、今回ばかりは危うく主導権をとられそうになりました」
羽犬が言った。
「やっぱりねえ」
佳鹿がニヤリとした。
「あちらとこちらでこの件に関して主導権争いになりましたよ」
「やっぱり可能性2が濃厚ね」
含みを持たせた言い方が嫌だった。
「何?何がやっぱりなの。言ってよ?」
鈴凛は不安になった。
「あんたにお友達ができる」
「え……」
鈴凛はぞわりとした。
「どういう」
「もともと黄泉が強い女の子、そういう子は、何にされるんだったかしら〜?」
その意味を瞬時に理解する。
「……戦姫……に?」
「ちょ……ちょっと待って。あの子に戦姫の素質があるってこと?」
鈴凛は突然のことに飲み込めない。
あのフェルゼゲリアのボーカル子が戦姫に……?
鈴凛が深刻な顔をした時、ぷうんと妙な匂いが漂った。
「……何の匂い……?なんかくさい……」
「キムチ鍋です。火にかけておいたので」
翔嶺がキッチンのほうに顔をむけた。
「キムチ鍋だと?!」
拘式が部屋中にただよう匂いに顔をしかめていた。
「いいキムチ使ったわね。匂い強めだわ」
「強めですね」
「いやいやいや……なんで……夏に鍋……」
「宅飲みといえばキムチ鍋だと、羽犬さんと黄猿様がおっしゃられて……」
「貴様……」
拘式が黄猿を睨んでいる。
「最後はチーズいれてリゾットにしましょう。さらに匂い強めかと」
「いや、しめは中華麺に−−」
「そんなことは、今はどうでもいいです!」
鈴凛は叫んだ。
「火止めてきますね」
「穢レが強いのも納得よ、一人が天雅の末裔で、もうひとりが八岐大蛇を封印するほどの能力なんですもの。そんな戦姫がふたりも誕生してるんだもの、日本が大変なことになるわよ」
「日本の穢レ容量オーバー、納得YO」
「いやー二人になるなんて心強いですね」
「こいつは無能だからな」
鈴凛は頭が真っ白になった。
この学校生活が危機的状況の中、大きすぎる問題が打ち上げ花火のごとくぶち上げられた気がした。
「次の……戦姫……」
「したからなのか、だから誕生したのかはわからないけど、だから穢レが強かったんでしょうよ」
「も……もうひとり……戦姫が?」
鈴凛はうまく消化できなかった。
何十年後か何百年後にはあるだろうと思っていた。
それが、半年で?しかも、今?
「その子を戦姫にするの、もう半年後じゃだめなの?」
「アルバイトじゃないんだからね!」
「素質がある子は、本来縁血うけてないと、穢レが強すぎて危険なのよ」
「またギャラクシアランドや商店街や新幹線みたいなことになったらどうするの」
「……で……いや……わかった……」
「それで、あの子が戦姫になったら、日本の守護戦姫に?」
しかも、あの子が……
「たぶんそうなるでしょうね」
どけよ、チビ
鈴凛はライブハウスで乱暴に突き飛ばされたことを思い出す。
「あの子が戦姫に?今後、一緒に……?」
「たぶんね」
「むりむりむりむり」
「何が無理なのよ」
「わたし仲良くなれない」
「大丈夫よ。てか仲良くなってもらわなきゃ困る。青春もとりあげよ」
「ええ……」
「でも新姫の同年誕生なんて聞いたことないわよねい……これはいらぬ小競り合いのもとになる。日本の中で競合を作ってしまうか、全てを丸く収めるか今にかかっているわねえ……」
「ですね、絶対にうちのチームに入ってもらわなければ困ります」
「絶対にうちの子にしなければ」
佳鹿がいつになく真剣な顔になっていた。
「こいうのはファーストコンタクトが大事なのよ」
佳鹿が鈴凛を気持ちの整理がつくまで自由にしてくれていたのを思い出す。
「あんたが仲良くないと問題外よ」
「臍曲げて、別グループができちゃかなわない」
「それは……わたしは仲良くしたいけど……」
鈴凛はもごもごと言った。
「IUから新しい花将が選ばれる。早く根回しもしとかなきゃねい……」
「で、肝心の奴には誰がはじめに接触する」
拘式が言った。
「もちろん、あなたがいい」
佳鹿が鈴凛を指差していた。
「え?わたし?」
「名付けて! 戦姫って超楽しいよ!ジョイナス!作戦よ」
「戦姫って大変だよ?でも仕方ないの間違いでしょ」
「歳も近いから、ノリでわかりあえるでしょ。この仕事の魅力をばっちり伝えなさい」
正確には出会っているのだが、相手は覚えていないだろうと予想はついた。
「魅力って……だいたい、わたし好きでやってるわけでもないし、そもそも戦姫になるならないに選択肢があるわけでもないし……」
「とにかくうまく説得してちょうだい」
「丸投げ……」
やあこんにちは!戦姫になろう!
あなたはすごい素質を持っているの。
訓練は鬼だし、猛烈に忙しいけど、やりがいに溢れていて……
馬鹿馬鹿しいセリフしか出てこない。
しかもその子の能力はきっと死んでも生まれ変われるわけじゃない。
戦姫になったら毎日危険に晒されるのだ。
まったくやる気がでなかったし、説得できるとも思えなかった。
「袋詰めにしてもってこい」
拘式はいたって真面目に言った。
「あなたに任せるわ。袋詰めで捕まえてくるか、説得の上連れてくるか」
「とにかく東京いくわよおおおおおお!」
ガチャリと音がして、蟻音と閃とアーネストが入ってくる。
「遅れて申し訳ない」
「蟻音さんの美味しいおつまみ到着〜」
「閃くんも手伝ってくれたんだよね」
「はい」
「じゃ仕事はこれくらいにして」
「東京出張の決起大会はじめるわよ!」
蟻音が持参してきた美味しいおつまみを魚に大人たちは酒を飲み始めた。
「カンパーイ!」
「あ、あたしは肉まんつくるんだった」
酒瓶ごと豪快に煽る。紹興酒の瓶を片手に佳鹿は肉をボールにぶちこんでいた。
鼻歌混じりで肉を捏ね始める。
「……」
鈴凛は宴会を楽しみだした大人の片隅で呆然としていた。
このままでは本当に勉強する時間がなくなり、留年してしまう。
ぐいっと注がれたオレンジジュースを飲んだ。
拘式も唯一鈴凛と同じく、プライベート空間にやってきた騒がしい連中のせいで、具合が悪そうだった。日本酒が全く進んでいない。羽犬はビールを飲んでいた。翔嶺が鈴凛にオレンジジュースを差し出す。
「もう一杯飲みますか」
「蟻音さんのおつまみ、うまい!これなに、くるくる巻かれているやつおいしい」
「この肝をクラッカーにつけるやつも最高です」
「僕も飲んでみたい」
閃がチューハイに手を出した。
「未成年だろ」
拘式が睨む。
「僕、いつまで生きられるかわからないので飲んでおかないと」
「……」
拘式が不快な顔をしたが、閃は平然と見返した。
それでも缶を拘式は渡さなかった。
「僕が死ぬまでにお酒が飲めなかったら責任とってくれるんですか」
「ルールはルールだ」
「大人が勝手に決めたルールでしょ」
「おまえもいつかその勝手な大人になるんだ」
「ならないよ」
閃はいじけてぱっとベランダに向かった。
「ああ……閃くん」
鈴凛はなんとなく追いかける。
*
「あの人僕が大人になれないことわかってなさすぎ」
ベランダの隙間から白い足を投げ出す少年が鈴凛は可哀想に思えてくる。
「拘式さん部屋を荒らされていつにもまして不機嫌なんだよ」
夜空を眺める。
風にさらさらと音がした。
BBが作った笹林がベランダの一角にできており、音をたてている。カゴに短冊とペンが置いてあった。
「短冊まで持ってきたのか」
「……」
「せっかくだし……願い事、かく?」
鈴凛は何を話していいかわからず、思いついたままを言った。
「願い事なんて意味ないよ」
閃はまた投げやりになって言いかけた。
「僕は病気で何もかもできないんだから……」
佳鹿が入ってきた。
夏の夜、涼しい風が入ってくる。
「さあ蒸し上がるまで、願いごと書いとこうかしら〜」
「あら。一番若い二人が、しけた顔してるわねい」
「みんないつも佳鹿さんみたいに元気じゃないんですよ」
閃が小さく嫌味を言う。
「あんた元気でしょ」
「いいえ。僕たぶん近いうちに死ぬので、書いても意味ないんで」
大人が困るであろうことを承知で閃は言った。
「じゃ、長生きできますようにって書きなさいよ」
佳鹿があっけらかんとして言う。
「ちょっと佳鹿」
「絶対に叶わないことを書くほど虚しいことないよ。みんなには病気の辛さも死の恐怖もわからないんだ」
「この部屋の連中は、明日、誰が死んでもおかしくないわよ」
「!」
「来年このメンバーでここにいる確率の方が低いわよ」
鈴凛の方がどきりとする。
それは間違いではなかった。
「早死にするから願い事が叶わないわけでも、願っちゃいけないわけでもないでしょう?」
「むしろ早死にするのでって書き添えてたら案外きいてもらえるかも」
「……」
佳鹿はさらさらと書いて中に戻っていってしまった。
「……」
閃は少し反省したのか、ペンをとった。
−−ワタシウタイマス
中ではBBがはしゃいでいた。
−−ナライマシタネ ササノハ サラサラ〜!
−−ワタシガカイタ オホシサマ キラキラ〜
太い男の声が力強く歌う。妙にこぶしがきいていた。
鈴凛は佳鹿の短冊をみる。
七夕の札に太いペンで巨大な字がかかれていた
百姫が番付で一番になりますように、
BY 伝説の花将 佳鹿
「佳鹿さん……自分の願いじゃないじゃん」
閃が肩をすくめた。
鈴凛は佳鹿の重すぎる思いを知ったのだった。
「しかも一番って番付の一番ってことよね? 鈴凛ちゃんが?田心姫様を超えて?ナイナイ」
「だよね……」
「でも……佳鹿さん……新しい戦姫がきるってわかってても、やっぱり鈴凛ちゃんに期待しているんだね」
佳鹿には申し訳ないが、筋トレをサボっていた。再テストまでは、やむを得ない。
自分にのしかかるものが多すぎて頭が痛くなる。
自分で自分が何をやっているかわからないが、色々なことを求められて処理不能になっている。佳鹿がそんな壮大な夢を持っていても、鈴凛は今再テストのことでとにかくいっぱいいっぱいである。
飛鳥の人間はひとつのことしかできないという言葉が返ってきた。
「こんなの夢のまた夢だし……今はそれどころじゃないし……ああ時間が……欲しい……」
「このままじゃ……」
「できる!できるYO」
BBが入れ替わりで入ってくる。
「願い事かこうよ〜」
「……」
「確かに来年にはみんな死んでるかもしれないんですよね」
「とんでもないこという子だYO」
「BBさんはなんでこんな危険な仕事するの」
閃がきいた。
「お金のためだYO」
BBがにっかりして、すぐ答える。
「娘たちにでっかい家買ってあげるためだよお、……あとは少しだけ正義のため?本当に少しだけ」
「なるほど……」
「この仕事すっごいお金もらえるよ。生きても死んでもね」
「……お金ですか」
閃はがっかりしたように言った。
「てゆうか、娘さんいたんですね……でも娘さんに家って……」
「そう。家のために、BBさんが、お父さんが死んだら意味なくないですか?」
鈴凛も言った。
「だね。でもしょうがないのさ。僕の夢なんだよ。マイドリーム。マイドリーム。大きな芝生に、犬がたーくさんいて、ブランコが吊るせるほどのでかい木があって、子どもたちもたーくさん。僕が死んでも、子どもたちが一生お金に困らないように」
BBがにっこりした。
「それがマイドリームさ」
「……」
「マイドリームのためなら命もかけるさ」
「……」
自分は何をやっているんだろう……
鈴凛はオレンジジュースをすすった。
自分は戦姫をそんなに真面目にやっていない。
青春に全力投入してもずっと青春ができるわけではない。
「……」
佳鹿が百姫に栄光を掴ませること
周馬がNBAでMVPになること
坂本飛鳥が遺伝の研究者になること
みんなの夢、想い、願い、思い描く未来
彼らにある芯みたいなもの……
わたしの芯ってなに?
わたしって……何?
わたしってどこに向かってるの?
なんで今こんなに勉強しているんだろう?
新しい戦姫がやってくる。
それは何かをきっと変えてしまう。
変わりたくないと願っても、時間は止まらない。
鈴凛がオロオロしている間に、過ぎ去っていく。
すこしずつ何かが変わっていくのを感じた。
この決起大会も、いつか懐かしい過去になる。
何かが少しずつ変わると、時間が流れているのを感じて、未来がやってくる気がした。
いつか、みんなの願いがある未来の時間に到達してしまう。
その時自分は何をして、何を考えているのだろう?
鈴凛には全然わからなかった。
鈴凛は震える手で、ただ今目の前に突きつけられたものの願いを書くしかなかった。
再試験合格できますように……
明らかな違和感を感じながらそう書いた。




