モーニングバイキングミーティング
「うおりゃああああああ!」
「く……」
拘式が打ち込むのを無理矢理やり返す。
「調子がいいようだな、クソ餌」
鈴凛は本格的に真面目に訓練に取り組んでいた。
「こほほ、これはどうかしら?」
佳鹿が投機でボールを連射してくる。
「おりゃあ!りゃあ!りゃあ!!ああああああ!」
鈴凛は竹刀を振り回してそれを打ち返した。
「百姫様!すごいです!さすがです!」
矢田いつ子がベランダから歓声をあげる。
「神刀訓練はこれくらいにしときましょう」
佳鹿が言った。
「次は一通り車両の運転を教えとくわ」
「は……は……運転……?」
鈴凛はあがった息を整える。
「あたりまえでしょ?車、ヘリ、船使えるにこしたことはないわ。あんたたいした戦闘能力ないんだし。とりあえず普通の軍人レベルにもってかないと」
「大丈夫かな……覚えるの苦手なんだけど」
「体が覚えるわよ」
「わかったとにかくやってみる」
鈴凛は痛い体にむちをうって車両訓練を行った。
「あれ以来、バカみたいに張り切ってますねえ……」
毛利就一郎はは大あくびをしていた。
「クラスでお友達が増えたようです」
友達ができて矢田いつ子は出番がなくなってしゅんとしている。
「単純ですねえ」
「お疲れ様です」
大型トラックを笠山の北側にある浜辺で走らせ終わった鈴凛に、矢田いつ子が目をキラキラさせてかけよって汗をふくタオルをくれた。
「ありがと」
訓練終えた鈴凛はお風呂に入って、食卓のある広間に戻っていた。
「おはようございまーす」
「ふあ〜」
朝四時にBBと羽犬もやってきた。朝に会議が催される予定だった。
「うわー今日、バイキング形式ですか?」
「モーニング、バイキング、ミーティングよ〜」
アーネストがあつあつのコーンスープを電気釜に設置している。
「たくさん人が集まるので」
アーネストは広間にビュッフェ形式のモーニングを用意していた。部屋の至る所に白いテーブルクロスをかけられたテーブルたちに、サラダコーナーや卵や肉類のコーナー、パンのコーナー、デザート、ジュースサーバー、和食のコーナーに、カレーまである。
「百姫様もたくさん食べてくださいますし、あ、オムレツのご希望があれば焼きますよ」
「僕半熟で」
「うわ……」
メンバーたちはそれぞれ好きなものをとって、テーブルやら応接セットに座る。
鈴凛は焼きたてのパンをいくつかと、フルーツ、自家製のベーコンやウインナーをとった。
デザートコーナーにはプリンやらプチケーキが見える。時計を見て、4回くらいはおかわりできそうだなと考える。
「ああ幸せ……」
アーネストが焼いたクロワッサンのバターの香りに顔を埋めると、幸せで満たされた。
かぶりつこうとした時、手首で赤い糸がふにゃふにゃと踊っているのが見えた。
「そういえば、糸ちゃんも、かなり元気になった気がするな……」
明雅顕証の儀から時間が経ったからか、赤い糸は少しだけ元気になっている気がする。
夜は元気がない。
「穢レが強いと強くなるんでしょ。逆に言えば神刀がまた小さくなる可能性があるからっ気をつけないと。はやめに教えて頂戴よ」
佳鹿が応接のソファにどっかりと座って、食べ始めてから言った。
「あなた、そこのお塩とって」
佳鹿が真顔で拘式に言う。
「貴様、何度言えば……」
「あー! 蟻音さん、おはようございますう〜!」
佳鹿は拘式に塩を頼んだことなど放り出して、すっとんで玄関に行った。
「……」
拘式はいきなり途中で放り出されて固まっている。
−−おはよう、佳鹿さん
鈴凛はくねくねしている佳鹿の後ろ姿を見た。
「残念でしたね、拘式さん」
「そりゃ僕達じゃ、蟻音さんのイケメンぶりには敵いませんよね、よかったよかった」
羽犬が半熟オムレツにナイフを入れながら言った。
「でも羽犬さんが一番ですよ、手編みの手袋編んでるのみました……糸ちゃんの能力で」
羽犬はゲホゴホとアイスコーヒーにむせた。
「キタナイヨ! ケガレタヨ!」
BBが服に飛ばされて、なんてこったという顔をしている。
「ちょっと〜あんたわたしの可愛い恋する乙女の秘密ばらさないでよねい〜」
佳鹿は蟻音と腕を組んで部屋に入ってくる。
「他の男と腕を組んで来てよく堂々とそんなことが言えるな」
拘式がイライラとして言った。
「みなさん、おはようございます」
「神嶺……、わたしを束縛しないで。わたしは情熱的でとても一人の男に収まるような女じゃないの。でも心配しないでみんなのことは平等に愛して」
「このゴリラ女……もう許さん!」
拘式が鬼の形相でつかみかかろうとする。
「マアマア」
BBがなだめて拘式を座らせようとしている。
「鈴凛ちゃん笑ってる」
鈴凛はこのようにみんながたまに集まる五月蝿い朝が好きだった。
「にしても本当にそんなところまで見えるんですね……」
羽犬がぽつりと言う。
「穢レは黄泉に通じているといいますが、神籬……精神や記憶にも遡るというのは本当なんですね」
「あ、そうそう。こっちも穢レが絡んでいるみたいなんですよ」
羽犬がモニターを表示しながら言った。空間に映像が投影される。航空写真だった。
「ギャラクシアランド周辺の神社の神器はやはり破損していました」
「どれも穢レが原因です」
「忌なのですから、すべて、穢レが原因に決まっているのでは?」
花獺がトーストをかじる手を止めて、きょとんとした顔をして言った。
写真を見た。
「いえ、これを見てください。御神体の破損状況です」
粉々になった鏡や、燃えておれた剣などが写真に写っていた。
「……爆発してる……?」
鈴凛は見たままの感想を言った。
「はい」
「劣化による破損や破壊ではなく、自ずから破裂しているのです」
「つまり?」
「これは推測ですが……抑えるべき、そもそもの穢レが強まった、もしくは現在進行形で強まっている……のではないかと」
「オー、たくさんたくさんの穢レデスカ」
「こぼれてる、こぼれてる!」
BBは牛乳をジャグから注ぎながらこぼしていた。羽犬が慌てて拭いている。
「さ、最近の忌の発生は西に集中していますが、神器の破損自体は日本中で散発しているようです」
「じゃ日本中で穢レが強まっているの?」
「そういうことになりますね」
「もしかしたら、商店街の件も管理に問題があったわけではなく、想定以上の穢レに神器が耐えられなかったのかも」
「なるほど」
一同がじっと黙った。
「ブレインストーミング!」
佳鹿が叫ぶ。
「うわ何びっくりした。パンのかす飛んできた。汚いよ」
「可能性1、あんたのせい」
鈴凛はぎょっとした。
「あんたの穢レが強すぎる。蘇るとかわけわからないチート量力だし、何か拘式谷か……穢レの塊である湯津爪櫛を使ってそれが残ってるとか、何か共鳴してるとか、蘇るたびに死人の成分を持って帰ってきてるとか」
「え……」
「可能性2 あんたが拘式谷で八岐大蛇を復活しそこねさせたため、八十神の工作活動が活発化、むこうは焦って忌を増やす工作活動をしている」
「つまり……、あんたのせい」
「2もわたしのせいなの」
鈴凛は目を細めた。
「ギャラクシアランドの発生源は?」
拘式が今度は羽犬に聞いた。
「このアイスクリーム屋の男が忌の起点だったみたいですね」
「非正規連続のロスジェネって感じだけど」
資料に佳鹿が目を通して言った。
「あ……この人」
「覚えてる?」
「アイス買った人。確かに少し疲れてたように見えた」
「色々調べたけど、非正規雇用の渡り歩きで、社会自体を憎んでたって感じかしらね……別に左翼とか、天皇廃止論者っわけじゃなかったのよね? まわりの連中の社会への恨みを煽って、忌が大量発生したみたいだけど」
「では武仁へのテロじゃなかったんだな」
拘式が言った。
「僕のせいって気にしてたからよかった……誰かそうにかして伝えてあげてね」
「これは……」
拘式は目を細める。
鈴凛はそばに映り込んでいたTシャツの男に目にやった。それに見覚えがあった。
「これフェルゼゲリアのグッズだよ。あのドームでやっていた音楽イベントってフェルゼゲリアだったの?!」
「え?」
「ああ……はい、いますね。出演リストにあります」
羽犬がリストをチェックした。
「あのライブハウスの時と同じだ」
未来妃と家でしたあのライブハウスを思い出す。逃げ惑った人たちが何人か着ていたし、グッズ販売のところにも置かれていたTシャツだった。
「しかし……ダークなバンドですね……」
検索しながら羽犬が言った。
「薬物とか、売春とか、吐くとか、タバコとか……社会に反抗するとか憎しみのような歌詞が多い」
「何か匂うわね。ドームにわんさか忌が集まってたし、武仁様を狙ったテロって思ってたけど違うのかも。本当にただの偶然だったのかも」
「それと、別に」
羽犬が真剣な顔をした。
「気になることがあって」
モニターで拡大された画像を確認する。
「青い髪?」
他のメンバーはぎょっとしていた。
「え?」
「まさか」
「ただの青髪か……」
一同が手を止める。
「閃光色」
「青く染めた髪に光が当たっているだけじゃないのいか」
「ありえないですよね」
羽犬がすぐに言った。
「ありえないことが起きているかもしれないでしょう?」
鈴凛はひとりだけ置いてけぼりみたいになっていた。
「日本は御神体になる要石が多く、穢レがほとんど使えない」
「鬼にとっては処刑場に自ら行くようなものだ」
「鬼……」
「八十神」
「八十神って……向こう側の人間……男の半神ってことだよね」
「もし……そうだとすると」
「青い閃光色は」
「ハーフムーンのタンザナイト、クォードリリオンのターコイズ」
佳鹿が言った。
「まさか。クォードリリオンは新興部隊です。こんな危険地帯に送り込まれないでしょう」
「だとすると」
「タンザナイト」
「一千年以上前か確認されているタンザナイトのクラリティーはVVS」
「VVS……ですか……」
花獺の顔が信じられないと言った顔をした。
「敬愛の指輪ほどではないけど、同じくらい強い。出会したら部隊は全滅する」
「そのベリーベリーなんとかって何?」
「クラリティー。連中が強さを表すために使っている」
「VVSは五段階評価の真ん中よ」
「じゃあそれって、平均くらいなんじゃ」
「F、IF、VVS、VS、S」
「スライトリークラスでは一番上よ。フローレスクラスはそもそも人間じゃない」
田心姫が群れて工作活動を行うと言っていたことを思い出す。
「日本に八十神が……ハーフムーンが潜伏しているなんてことになったら」
「天雅もIUも大騒ぎでしょうね」
鈴凛はじっとそれを見て思い出す。
鈴凛は見覚えのあるピアスが見えた。
「この人はただのテキ屋のファンキーなお兄さんだよ」
「!」
全員が鈴凛を見た。
「射的の店員。関西弁の。話をしたから間違いない。まあそのままで鬼がどうどうとこんな感じで店員してたらわからないけど」
「それはないでしょうね、戦闘時と同じだと正体がばれやすくなってしまいます」
「考えすぎか……」
「ただのヤンキーにびくつくなんてわたしたち馬鹿ね……」
全員がふうっとため息をついた。
「そろそろ時間です」
「僕はもう少しフェルぜげリアの線を調べてみておきますね」




