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永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
22/178

22話 バレンタイン

窓の外に柔らかな日差しが照っていた。

鈴凛は未来妃と生徒会室の会議テーブルに並んで座って、印刷物をホッチキスで閉じている。

鈴凛の右手全部の爪の先はすべて絆創膏がはってあった。

「バスケ部の顧問の林先生に会ったんだけど、来年度から来るでいいって言われてちょっと残念。でもわたしたち二人だけマネージャー合格って奇跡だよね。鈴凛があの日試験会場にこなかった時にはハラハラしたけど。別室で受けてたなんて」

「う、うん」

「それにしても、鈴凛よく勉強頑張ったよね! 一夜漬けにそんなに強かったとは」

「う……うん」

鈴凛は先ほど、一ページも読んでいないバスケットボールの本を未来妃に笑顔で返却したのだった。

「……ねぇ、本当に、教室は大丈夫だったの?」

鈴凛のくたびれた様子と指先を見て未来妃はまだ疑っていた。

「うん、うん大丈夫だった」

鈴凛は何度も未来妃に下手な嘘をつかなくてはいけなかった。

「……」

クマができて、ところどころアザができているボロボロの鈴凛を未来妃がじいっと見る。

未来妃はあの家出事件以来、かいがいしい保護者のように心配して、しょっちゅういじめられてないか聞いてくるのだった。

「大丈夫だよ。もう何もしてこないみたい。いじめっ子連中は、あの事件でほとんど休みだし」

あの一件があって、柊木軍団はほとんどが入院やら怪我をしたとあって、活動休止状態にあった。連中が今頃、骨折のまま、病院でうめいていると思うと、気分が少しいい。

「不発弾が学校にあるなんて建築する時のチェックはどうなってたのかしら……こわいわよね」

「い」

別の書類の束にとりかかろうと身を捩った時、脇腹に激痛が走る。

「痛!」

「え?」

「な、なんでもない……」

今度は別の問題に直面している。毎日夜中、訓練で森の中をかけずりまわって、怪我をしまくっているのだ。

「やっぱり何か隠してる。柊木勇吾は確かに休みかもだけど……あ、わかった!野奈が新しい手先でもつかってまた」

「違うよ」

「じゃ誰よ」


あなたがクールだと目をキラキラさせた仏頂面の男。その男に昨日、肝臓あたりを刺されたのだ。


「武術の練習で……筋肉痛……なの……師匠よりコーチが厳しくて……ね」

鈴凛はやっとそう言った。

「そういえば武術習い出したって言ってたわね。サラコマンダー武術だっけ?」

「そう」

「毛利先輩もかじってて、体が頑丈で風邪ひかないとか言ってわね……」

「でもさ、そんなにひどくするなんて、教育者として、指導者としてそのコーチは失格じゃない? やだ。ここも痣になってるじゃない!」

実は心配そうに鈴凛の腕を調べて、顔を歪めた。

「教え子の体調を見ながらやるのが普通でしょ?そんな最低な奴の下で、練習なんてやめたほうがいいわよ」

未来妃は怒って鈴凛を見る。

鈴凛は、『それが実は、その最低な奴は、あなたが惚れた人なんです』とも言うことができず、ため息をつくことしかできなかった。

「痛い……」

拘式神嶺の所業はここ二週間で、教育という名のいじめなのではないかと鈴凛は思ってきた。いや、むしろ死んでも大丈夫だから毎夜、鈴凛を殺そうとしているのかもしれない。

「……うう」

訓練でそこらじゅうが毎日痛い。佳鹿のメニューも尋常なものでなかった。翔嶺からは一向に逃げ切れなかったし、拘式は体術訓練で容赦なく女の子の鈴璃をボコボコにした。毎晩、筋肉が損傷し、頻繁に何本か骨が折れた。内臓に何かが刺さった。

「大丈夫?」

大丈夫ではない。

「だ……大丈夫だよ、筋肉痛だからすぐに治る……と思う」

鈴凛は昨日みせられたグールトとコールドウェルの表を思い出しながら言った。大腿骨骨折の場合は十四週間はかかる。しかし戦姫は傷が人間の百倍の速度で塞がる。

多少の骨や内臓なら、24時間、つまり学校に行っている間に治り、翌日の訓練にはだいたい元通りになる。

日中の学校の時間は常に入院が必要なレベルの怪我を負っていることを隠しながら過ごさなければならない。

佳鹿はすぐに怪我はしなくなると言っていたが信じられなかった。

「やっぱりおかしいかも。おかしいよね。わたしに何かの恨みがあって……」

鈴凛はわなわなと怒りに震えた。思い出すと腹が立ってくる。

「あ、如月周馬」

未来妃が窓から昇降口を見て声をあげる。

「え」

鈴凛の思考はすぐに不健康な死神の顔から離れた。

「見てよ、あの如月周馬の袋!チョコレートショップができるわね」

鈴凛も窓の横に行って下を見る。

二、三十人の女子の群れの中に、如月周馬がいた。

「今日はバレンタインか」

鈴凛は思わずつぶやいた。

毎日の訓練との平行生活でいっぱいいっぱいになり、そんなことも忘れていた。

鈴凛は自分が本当に女子失格だと思った。

「うわあれ緑川先輩じゃん。先輩も好きなのかなーモテるのに。てかその友達も渡してるじゃん……ドロドロしてるわね……」

三年の先輩が競って如月周馬にべたべたしている。

「しかも見て。みんなポニーテール」

鈴凛は痛む腕を押さえながら、そういえばと見直す。

「嘘か本当か、如月周馬がポニーテールがタイプだって言ったらしい」

「あ……来田野奈が来た」

つやつやにアイロンをかけた茶色い髪をポニーテールにした野奈が現れて、他の生徒が自然と左右に道を作る。二人はどう見てもお似合いで、絵になる。

「あ……」

周馬も野奈に気がついて声をかけたようだった。

王子にみつけられたプリンセスといった風に小さく野奈が歩いていく。

「ああ……」

鈴凛は情けない声をあげた。見たく無い。でも見ないではいられない。

「みんなどうして通すのかしら」

未来妃が憎々しげに声をあげた。

野奈が可愛らしく如月周馬に小包を渡すと、如月周馬も嬉しそうに笑った。

「自分だけはチョコレート渡すのは当然みたいな風じゃない?彼女きどりどころか、あれはもう妻きどりよ」

「野奈ちゃん可愛いし……」

「鈴凛の方が可愛いわよ」

「でも付き合うかも……」

「あんな女と付き合うなら、あいつも同じようにくだらないやつよ」

未来妃は嫌悪の眼差しで下を見る。

「未来妃、野奈ちゃんのことそんなに嫌いだったの?」

「そりゃ嫌いよ。 柊木勇吾を鈴凛にけしかけたの、あの子でしょ? 鈴凛が可愛いから周馬をとられると思ってやったのよ。友達だったくせに」

未来妃は鈴凛の状況のことをよくわかっているようだった。

「……そう……だよね」

「……」

未来妃がびっくりしたような顔をする。

「いやわたしが可愛いから周馬をとるってとこじゃなくて、野中がけしかけてるってとこ。そうじゃ無い可能性もあったし」

鈴凛はあわてて言った。

「高校ではじめてできた友達だったから」

「どう考えても野奈がやらせたんでしょ。あの2人は幼馴染なんだから」

「だよね……」

野奈は嫌いだ。でも明らかにお似合いである。

「……」

未来妃は少し言いすぎた気がしたのか、鈴凛にいたずらっぽい顔を向ける。

「鈴璃は?いつあげるの?」

「え?」

夜な夜な死にかける訓練でバレンタインすら忘れていたとも言えない。


「あー……だってわたし知り合いですらないし、チョコレートショップの商品のひとつになるなんて嫌だよ」

「もうー! そんなんじゃだめよ、青春しないと。ほらわたしを見習いなさい」

「よいしょっと」

未来妃は誕生日ケーキかと思うほどの水色の立派なケーキボックスを紙袋から取り出した。

「え、未来妃、それ誰にあげるの?」

鈴凛は薄々予測はついたが思わずそう言ってしまった。

「拘式さんに放課後渡しにいくの」

鈴凛は目頭を抑えた。

「だめだよ……なんでなの……」

「なんでってそりゃ……好きだから? 今日ガーデンで待ち伏せする」

未来妃は息巻いていた。

「あの整っただけの顔しか見てないでしょ?」

鈴凛は思わず未来妃を見ながら目を細めてしまった。

「え?足も長いわよ」

「あんな血も涙もない、サディストの、ろくでなしの、異常な、若白髪の最低な男の……暴力的に……どこがいいの」

「まってまって。何かの思いが溢れすぎて、鈴凛、日本語めちゃくちゃになってるよ……もしかして拘式さんと何かあったの?」

鈴凛はどきりとした。

毎晩、骨を折られているなんて言えるわけもない。

「な、何もない。あるわけないじゃん」

鼻息が荒くなってしまう。

「ほんとに?」

未来妃が疑り深くみる。鈴凛は慌てた。

「未来妃を轢いて謝ってもいないんだよ」

「……拘式さんはクールなの」

そこがいいと言わんばかりに遠くを未来妃がみつめた。

「人間を人間と思ってないんだよ」

「大袈裟ね。ちょっと素直じゃないだけなのよ……」

未来妃は未来妃で言い訳がましいことを言って、もじもじとしていた。

「あの人は、未来妃を轢いたのに、反省もしていないんだよ。そのうえチョコレートまであげなくていいよ!」

すると未来妃は信じられないことを言った。

「でもこれは運命なの……」

未来妃は自己陶酔しきった表情でほうっと切なげにまた窓の外を眺めた。

「電流のようなものがびびっと」

「それ事故の衝撃じゃない」

「違うわよ」

「年が上すぎるし、バツイチ子持ちだよ」

「それは……悩ましい。わたしあんなにしっかりした翔嶺くんのママになれるか不安だし」

「……」

鈴凛はぎょっとした。

翔嶺のママ?

まずい。非常にまずい。未来妃がそんな具体的な未来まで考えるほど、本気だなんて鈴凛は焦った。八咫烏の鴉天狗なんかに関わってほしくない。

「これ!わたしにちょうだい!」

鈴凛がケーキを引っ張った。

「ええ!?」

「わたしのこと好きなんでしょ?好きだよね?」

「好き……だよ。なに急に」

未来妃は赤くなって動揺して鈴凛を見た。

「これもらう」

「え」

「未来妃の愛は、あいつには勿体無いからだめ!わたしがもらう!」

「鈴凛……」

未来妃は感動して嬉しそうに目をキラキラさせた。

「友達以上恋人未満、大親友っぽくなってきたわね!」

未来妃は嬉しそうにウキウキとした。

「あいつはだめだよ。あいつはあいつは……」

『ひとごろし』だよと心の中だけで言う。

「心配してくれて嬉しい。でも鈴凛に……認めてもらえないなんて、ちょっと悲しい。わたし本当に好きだから……」

未来妃は拘式神嶺が平然と毎晩、十人も八岐大蛇に人間を生贄として与えていたことなど知らない。

「あいつだけはだめ。あいつとダブルデートなんて嫌だよわたし」

「鈴凛ったら気がはやいわよ! 如月周馬と鈴凛とわたしと拘式さんでダブルデートなんて」

未来妃はきゃあと言って頬に手をあてて、くねくねと体を揺らす。

「はあ……」

鈴凛は諦めて、窓の外に目をむけると、驚いた。

「!」

如月周馬がこちらを見上げている。気がした。

声が大きすぎたか−−。

「うそ……こっち見て」

胸が高鳴った。

「ん」

窓が少し空いている。

「!」

やばい。自分の名前が聞こえてきたのだ。妄想満点すぎる好きだのダブルデートだの話が漏れていたかもしれない。それはきっと気持ち悪いこと限りない。最悪だ。

「うわ……」

如月周馬はふいと視線を女子の群れに戻した。

「あ、いけない。もう5時になる。生物のノート出すの忘れてた」

未来妃が急に声をあげて立ち上がると、ばたばたと出ていった。

「タブルデート聞かれた……」

「誰と誰がダブルデートですか?」

ふっと耳元で声がして鈴凛は飛び上がった。

「わあ!」

毛利就一郎がすぐ後ろできみの悪い綺麗な笑顔を作っていた。

「ちょなんで急に」

「八咫烏の基本、ぬき足、さし足ですよ」

「忍者みたいな訓練積んでるんですね」

「ささ今日のメニューをお持ちしましたよ」

毛利就一郎は鈴凛をみつけて妙にウキウキしている。

誰かからチョコレートを貰ったのか、もしくは鈴凛の今日の訓練メニューがすごくきついのかもしれない。

「はいこれ佳鹿さんからの夕ご飯分です」

「今日も肉まんかな」

鈴凛はその重みが嬉しかった。

「今週末の土曜日はこちらに来てくださいね」

毛利就一郎が駅前あたりの住所を書いた紙を持ってきた。

「ここから……高天原へ?」

「そうです。このビルから地下トンネルを空港までひきました」

「へえ……」

相変わらずやることがえぐい。

「はい! それと、これは僕からチョコレートです!」

高そうなラッピングがされた箱が渡される。

「ああ……今日バレンタインデーだからですか?」

「そうです! 本来、バレンタインデーは男性が、愛する女性に贈り物をするのが正しいのですよ」

高そうな赤い艶やかな箱だった。

「は、はあ……先輩わたしのこと殺そうとしましたけどね……」

「まあまあ過去のことは、水に流しましょう! さ、どうぞ食べてください!」

鈴凛が開けると宝石のようにチョコレート並んでいた。高そうである。

ひとつとって食べる。

「おいしいです」

アーモンドの香りが広がる。閃が海外からいつも取り寄せるようにどこか他の国からやってきたものなのかもしれない。

「でしょう? 昔のことにこだわりすぎるのはよくないですよ。今を見なくては。過去のことは水に流しましょう!」

「はあ……」

そんなに昔ではない、と思った。つい2ヶ月ほど前のことである。

鈴凛は罪のない美しいチョコレートを眺め、次に赤い光沢のある一粒を、もう一粒とりあげ口に放り込んだ。

「本日から、僕たちはお付き合いすることになりましたから」

鈴凛はチョコレートを噛まずに飲み込んでしまった。

「おえ」

げほげほとむせる。

「うぷ、は?」

毛利就一郎はにこにこ笑っている。

「え?」

「はい?今なんて」

「僕たちは付き合うことになりました」

「僕たち?え、誰と誰がですか?」

「わたしと百姫様です……いえ、正確には学校での源鈴凛と毛利就一郎ですね」

「今ここで愛の告白をして、本日の15時に合意に至りお付き合いすることになります」

「それは、なんで?」

鈴凛は顔をしかめた。

「なぜ? おやおや。夜の訓練がハードすぎて、ついに……あなたはクリスマスの夜、美東橋から自殺を図りそのせいで拘式谷へ」

「経緯は、覚えてます!! どうしてわたしと毛利先輩が付き合ってることにしなきゃいけないかってことです!」

「ああ」

けろりとして毛利就一郎が笑う。

「!」

「そのほうがいいと佳鹿様のご判断です」

なんで急にそんな話になったのか理解できなかった。

それでは如月周馬に告白して付き合うという大事な……いや最重要難関課題、至上命題の障害になる。

他の男と付き合ってるのに、別の人に告白なんて聞いたこともない。

「先輩は、わたしを殺そうとしたんですよ」

「語弊がありますね。殺そうとなどしていませんよ。正確には自殺幇助です」

「同じでしょう……なんでそんなことに……」

「それに」

「それに?」

「それに先輩は今後もわたしを自己都合で殺しかねません」

「僕のこと、よくわかってますねえ。率直な愛を感じます。まさにパートナーに相応しいじゃないですか」

「……」

鈴凛はため息をついた。まともに話し合っても疲れるだけであったことを思い出す。

「真面目な話、建前上のことですよ」

「……そうですか」

「照日ノ君が青春がよいとおっしゃられたとはいえ、あなたは太陽の花嫁なのですからね」

「今この学校には、わたしを筆頭に、色々なイケてるメンズが幾人かいるようですから、若気の至りで、万が一、万が一にも、何か間違いがあってはいけません」

毛利就一郎が不敵に微笑んだ。

「そんな万が一を起こしてしまった男は、どうなるかおわかりでしょう?」

「!」

先ほどの話をきかれていたのではとぞっとする。

「あなたは特別に精錬潔白な処女でなければなりませんから」

「しょ……」

「あなたは天照大御神の花嫁なんですよ。他の男が汚してなどいいわけがありませんよ」

鈴凛はぎくりとした。

「佳鹿様は何かあってはいけないと心配されています」

「だからわたくしが監視しやすいようにとの計らいです」

「そ……そうなんですか……でも……それはやりすぎな気がするけど。だって付き合ってる風な態度もとらないといけないじゃない?そのほうが問題じゃ」

「僕はうまく振る舞えます」

「……」

鈴凛は毛利就一郎と付き合うことも、如月周馬が八咫烏に目をつけられることもまずいと思った。

一生懸命考える。

「おやおやおや?」

毛利就一郎が邪悪に笑う。俯いた顔を覗き込んできた。

「何か問題になりそうなことがあるのですか?」

鋭い。

毛利就一郎が薄気味悪く微笑む。

「いえ……」

この男に如月周馬への気持ちを悟られるのはまずそうだと思った。いっそ素直に打ち明けて仲間にしておくべきか……賄賂でも渡すか……

「……」

邪悪な笑みをみるととてもそんな気分になれない。

また貸しが増えていったら何を言い出すかわからない。

「?」

もしかしてもう知られているかも。未来妃が何かしゃべったのか?

鈴凛は考えを巡らせる。

もし毛利就一郎が知っていたら?

いや知っているのなら、何かもっととんでもない対価要求してくるだろう。

「照日ノ君より完璧な男性なんて、存在するんですか?」

鈴凛は、ひたすらに、しらばっくれることにした。それしか何も思いつかなかった。

「……」

毛利就一郎はハーフの不思議な色を秘めた目でじっと見つめてくる。

「!」

この言葉に嘘はなかった。天照大御神は大好きだ。

「わたしを餌に決めた、あなたとってことが嫌なだけです。あなたのせいで死にかけたんですよ?たとえフリでも腹が立ちます。 他の八咫烏の男子生徒はいないんですか?」

鈴凛は演技に徹した。

「ふむ……ごもっともな言い分ですね」

「でしょ?」

「でもだめです。そんな面白そうで利権的にも美味しそうな役、渡したくも無くしたくもありません」

毛利就一郎は試すような目で鈴凛を見ている。

「毛利先輩! わたしに懺悔するんじゃなかったんです? それに、戦姫の言うことは絶対なんですよね?」

「そうです。じゃあわたしを殺しますか?」

「またそれですか」

「言うことをきかない、このわたしを!」

そうできないとわかって、両手を広げて毛利就一郎は不敵に笑っている。

「……」

鈴凛は呆れてもう何も言えなかった。

「あなたはきっとわたしのことは殺せないでしょう、つまりわたしを止められません」

「どれだけ性格がねじまがって」

「それに懺悔するには近くが一番ですよ」

毛利就一郎はおおげさに鈴凛の手を両手で握りしめてウインクした。

「あなたって人は本当に……」

足音がする。

「ん、未来妃が戻って」

「生徒会長、次の原稿チェックしてもらっていいですか」

どこかで見たことのある男子生徒だった。生徒会で何度か見たことがある。メガネをかけて背の高く、顔もマネキンみたいに鼻筋が通って整っていた。毛利就一郎を呼びに来たらしかった。

「すみません……取り込み中でしたか……」

生徒は少し状況に驚いた。

鈴凛はよく見ると、この生徒はそういえば如月周馬と一緒にいるところも何度か見たことがあると思った。

「……!」

鈴凛ははっとする。まずい。

「ああ、坂本君!今は、とてもとても愛の取込中だったが、すぐいこう!」

毛利就一郎がわざとらしく言ってぱっと手を離すと立ち上がった。

「……

坂本と呼ばれたその男子生徒は鈴凛に興味を持ち、すこし覗き込んだ。

「申し訳ありません」

「ちがいます! 何も取り込んでません!取り込み中じゃありません!」

鈴凛は食い下がった。

「坂本君は口が硬いから大丈夫だよ」

毛利就一郎が気味悪く笑っている。

「仕事だ。愛しの鈴凛よ。楽しい時間は終わりだ。名残惜しいが! ジュテーム! アイラービュ! アイシテール!」

毛利就一郎は投げキッスをして出ていった。



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