表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠(TOWA)  作者: 三雲
不死ノ鬣(現代編)
102/179

浜辺

鈴凛は空中で周馬の頭を抱える。足を下にする時間は無い。

思いっきり息を吸い込んだ。

ドボンと大きな音がして、海の中に落ちた。

ごぼごぼと容赦無く水がそこら中に入ってくる。

鼻と耳が痛い。

「!」

周馬の体をしっかりと掴んだことを確認した時、自分の長く伸びた髪がばらりと水に散らばっているのに気がついてさあっと血の気がひいた。

「!」

海の深い闇にきらりと何かが落ちていく。

周馬にもらった髪留めのグラスポニーだった。

「!」

鈴凛は周馬を蹴り上げると、自分は深く潜る。

馬鹿げているこんなこと。周馬を危険に晒すーー

でも……

あと少し−−

鈴凛はひっしに潜ってそれを掴んだ。

今度は登りながら、沈みゆく周馬を捕まえてひっぱりあげながら海面をめざす。

重い。

鈴凛は髪留めをとりに行ったことを後悔しながらも必死に体にむちをうつ。

酸素がもたない−−

必死に沈んでいく周馬の胸に後ろから手を回し、海面にひっぱりあげるように泳ぐ。

沈んでいく人間の体がこんなに重いなんて—

鈴凛は全力で足をバタバタさせる。

上へ—

「……!」

頭上の光を目指して泳ぐ。

周馬の金髪の髪が海の水にゆらゆら揺れていた。

上へ−−

やっとのころで海面にでた。

「ぷはぁ!!」

荒波がたっている。

ごぼごぼとまた溺れかけて体制を立て直す。

戦姫になって体力はあるとはいえ、海中で泳げるように尾鰭がついているわけではない。

周馬は気絶しているのか、玉手匣のせいか起きなかった。

「うー!!」

鈴凛は体制を整えながら周馬を必死に担ぐ。

「なんとか……岸までいかなくちゃ!」

鈴凛は周馬の腕を片手で固定し、残った手足で必死に泳ぐ。

失敗はできない。

自分も溺れて、死んで、はっと暗くて冷たい深海で目が覚める映像が浮かぶ。

あたりを見回しても周馬がみつからない。

周馬の遺体を海の底で必死に探していた。

「だめだめだめ!」

鈴凛は必死に泳ぐ。

泳いでも泳いでも全然進んでいる気がしない。

「岸があんなに遠い」

また悪夢が忍び寄った。

とにかく、進め、進むしかない。進んで!

「わ」

鈴凛は何度も横倒しにあいながら必死に泳いだ。

「諦めちゃだめ」

とにかく体を動かした。

「諦めちゃだめ」

戦姫の体に今日ほど感謝することはなかった。

鈴凛はただ手を足を何度も何度も交互に差し出した。


どれくらいたったのか、やっと岸が近づいて浅くなってくる。

岸に戻るまで1時間近くかかってしまった。

「足、つきそう……!」

足がつくとそれからは周馬を浮かせてひっぱればよかった。

「く……ついた!!」

必死にひっぱる。周馬はちゃんと息をしているようだった。

「うう……」

くらげたちの死体の上にどっかりと倒れる。

「はあ……はあ……」

空が馬鹿みたいに静かに上にある。

「よかった……」

戦姫の体力をもってしても慣れない水中での救出は息があがり、満身創痍になっていた。

体中の筋肉が悲鳴をあげている。

「なくさずにすんだ」

グラスポニーを空にかざすと、手首から赤い糸がでてまとわりついていた。

「いるなら助けてよね……わたしが死なないとでてこないの?」

鈴凛は冗談を言って一人で笑った。

自分でもなんであんなことをしたのかわからない。髪留めのために周馬の命を危険にさらすなど……

「何やってんだか」

「それにしてもつ……つかれた……」

体中にくっついた謎の海藻をひっぺがしていく。

安心したのも束の間、声がする。

−−いました。あそこです

−−うわ汚い。海藻まみれ

−−アカモクね

八咫烏のメンバーたちがやってくる。

毛利就一郎が浜辺でもつれかける足を正しながら先頭を走ってくる。

「!」

その手には銃がみえた。

「く……動け!!」

鈴凛は残ったちからを振り絞って、砂浜で足にちからをいれる。

「!!」

毛利就一郎に飛びついて押さえつける。

「く!」

「はなしなさい!」

「この」

鈴凛は毛利就一郎を馬乗りになって殴る。

ごっという衝撃がきた。

「周馬をよくも」

言い争っていると大きな影がさす。

「やめろ」

すさまじいゲンコツが鈴凛に振り下ろされた。

「いたあ!」

毛利就一郎は気絶した。

「やりすぎだ。もう気絶している」

「拘式さん」

鈴凛ははっとする。

「くだらん」

拘式は歩いていって、周馬の様子を見に行った。

「まったく……経費つかって、ガチの喧嘩してんじゃないわよお……」

「佳鹿……」

佳鹿はあついあついといったふうに中華風の扇子で自分を仰いでいた。

「おー……すんだか?」

車から何人か降りてくる。

「え……」

見たことがある人物がいた。綺麗な足をした巨乳の—

「影姫様」

暑いのにスカートスーツを着た技蛇も後ろからついてきていた。

「ざまあないわね。思い知った?」

影姫は哀になにやら色々言っている。

「うるせーまったく格下のくせに」

哀はぼりぼりと首をかいていた。

「眠いですう……」

間狸衣もだるそうにしていた。

「え……?」

ついに鈴凛を捕まえるために影姫まで呼び出したのかと思う。

「影姫様」

「ひさしぶりね、グズ」

影姫は腕をくんで鈴凛にそう言っただけだった。

「佳鹿たちもわたしを捕まえにきたんじゃ」

「いや、おまえがこねーから、桃鉄してた。睡眠周期とかさなってねみい。さすがに2徹はやべえな」

「も……は……え?」

「鯆多丸が、クソつえんだよ。腹たつー」

「ゲームで僕に勝とうなど、百億万年早いね」

鈴凛は拍子抜けした。

「あんたは永遠にドベだったわね」

「うるせー!!」

「みんなでわたしを捕まえにきたんじゃ?」

「彼氏とイチャコラ旅行にでたやつを誰が好き好んで追いかけるかよ。ブチギレてたのは毛利だけだろ」

「生死を問わずわたしを連れて帰るって……毛利先輩の嘘だったの……」

「いたた……」

毛利就一郎が頭をさすりながら起き上がる。

「おまえがそもそもできないことを、できると言うから」

拘式がめんどうくさそうな顔をして鈴凛に言った。

「もういいじゃないの。この子たちは、まだ、やんちゃなお子ちゃまなのよ」

佳鹿が毛利就一郎に言った。

「いいえ、わたしの戦姫をだめにするものは、ここで排除します」

「もう少し待つことだってできるでしょう」

佳鹿が立ち上がろうとした毛利就一郎を止める。

「陵王だって捕まったみたいだし」

「え、陵王って捕まったの?!」

鈴凛は衝撃的な事実を今きいたのだった。

「そうよ、あんたが掟破りをしている間に、素戔嗚様がつかまえたわ」

影姫がちくりと言った。

鈴凛は全身の力が抜けた。

あの人があっさり捕まった?

「素戔嗚様が昨夜つかまえたんです」

間狸衣がこそっと説明した。

「それより、佳鹿さん。それは花将の権限で言っているのですか」

毛利就一郎が無視してぎらりと佳鹿を見た。

空気がぴりりと張り詰める。

「そうねえ……それもあるけど」

佳鹿も真顔で凄んでみせた。

「子どもから好きなものを取り上げても、もっと躍起になるだけよお。ゲームしている子からゲームをとりあげて、勉強しなさい!っていってすると思う?」

「佳鹿、あなたは学んでないの?」

影姫が冷たく言った。

「戦姫に自由な恋愛などさせると、ロクなことにはならないのは知っているでしょう」

しばらく重苦しい空気になる。

「……」

佳鹿は少し悲しげな顔になったが、にこっと笑った。

「それでも、よ。わたしはこの子たちのママでもあるもの」

「……佳鹿……」

「ここはわたしの領地です、領主に権限があります。あなた方がどうなさろうと、わたしはわたしの権限でこの男を殺します。今日じゃなくても明日でも明後日でも」

「黄猿様……」

矢田いつ子が呆れている。

「絶対止めてみせる!!どこで誰が死のうとどこにもいかない!!周馬を守ってみせる!!もしくは先輩をぼこぼこにしてやる!!」

鈴凛も怒り狂っていた。

「はあ……困りましたねえ……」

「ねえ……でも……それいより、さっきの陵王の話。陵王って誰だったの?捕まえたってことは正体がわかったんだよね?」

正直なところ、毛利就一郎などどうでもよかった。

鈴凛は心配と興味といろいろな感情が混じりあっていた。捕らえられたということは殺されてはいないのだろう。照日ノ君で作られ真誌奈から生まれた者。

悲しみを背負って……世界を憎んだ者……

鈴凛とあの拘式谷で出会い−−

「ジョイフルでチーズハンバーグを食べてたところを捕まったとか」

……はい?

鈴凛はしばらく固まっていた。

「え?」

入店時のポップなチャイムの音が脳内に響きわたった。

「ジョイフルってあのジョイフル?ファミレスのジョイフル?」

「はい」

ガラガラとイメージが崩れていく。

「あのままの格好で席に座ってたらしいです」

「それ絶対違うよ。絶対に違う」

鈴凛は砂浜につっぷしていた。

いや、絶対に違っていてほしい。

「素戔嗚様が思金様に引き渡したとか」

「いや……それか、陵王ってやっぱりあのかき氷の関西人だったの−−」

鈴凛は絶望につつまれていた。

「今取り調べているようですが……」

「でもだから別にこの街をさらなくてもよくなったぜ」

哀がにやっとした。

「じゃあ……」

鈴凛はほっとする。

「いいえ、どちらにせよこの男は、百姫様の仕事に差し支える。今ここで殺します」

鈴凛は毛利就一郎を睨む。

「……」

「本当にいい男っすねえ」

蛙介もしゃがんで顔をじっくりと観察する。

眠った周馬を思い出したように八咫烏のメンバーが観察する。

「どんなに美しかろうが、男に興味はないね」

鯆多丸は興味なさそうに吐き捨てた。

「この人、本当に日本人なんですか?なんだか……」

間狸衣が首をかしげる。

「あんた……この男と付き合ってるの?」

影姫が避難がましい目で鈴凛を見た。

「照日ノ君にあんなに大切にされておきながら?」

冷たい視線が突き刺さる。

「……それは……でも照日ノ君もわかってくれてて……」

「呆れた」

「佳鹿、おまえは何も学ばないのか?」

「陵王は捕まった。まただ時間はある」

佳鹿が言い返した。

「あんたは望姫のことをもう忘れたの?」

影姫が怒りを押しつぶすように言った。

「望姫……?」

鈴凛はその名を思い出す。鈴凛のひとつ前の戦姫だ。

佳鹿は何も言わなかった。

「望姫って、佳鹿の……前の戦姫?」

「あの子は神器を持ち出した。それは人間の」男と自由になるためだった」

「!」

「そして素戔嗚様に殺された」

鈴凛は心臓がびくりとした。

「え……?」

「神器は八雲と天照大御神が奪い合うほどのもの。逆を言えば、それさえあれば、何物も手出しはできない。何も恐れるものはない。神さえも追うことはできない」

「……!……それがあれば……それがあれば……」

鈴凛は体がどくんと脈打った。

「……じゃあ」

哀が珍しく考えるように言った。

「それを盗んじまえば、あたしが世界最強。この哀様が世界征服でもできるってことか!」

「あんたねえ……」

影姫が呆れる。

哀は全く別の欲望に想像を膨らませて目を輝かせていた。

鈴凛は佳鹿の悲しそうな顔を見ると申し訳ない気持ちになる。

「戦姫たちに神器はささやく」

技蛇が口を開く。

「それを手にして、戦いなどやめて、逃げてしまえと」

「……!」

「大好きな男と安住の地を探せよと」

「……」

「でも結果はご存じの通り、二人で逃げようとして、成功したものはいない。誰も生きてはては帰れない」

「……」

「わたしはこの男のことなんてどうでもいい」

「……」

「でも人間との男との恋なんて、馬鹿なまねはやめなさい」

影姫が真顔になって言った。

「おまえそんなことを言うためにわざわざきたのかよ」

「ち、ちがうけど。大変なことになる前に言っておかなきゃならないのよ」

「あなたは如月君のためにもそうしようと決めたでしょう?」

毛利就一郎が重ねて説得してくる。

「夏川さんとくっつけて身をひこうとしたでしょう?」

毛利就一郎が言う。

毛利就一郎がとどめの一言を言った。

「彼からバスケとボールの夢も人生も取り上げるのはあなたですよ」

毛利就一郎が周馬の携帯電話の待ち受けをみせた。バスケットボール選手が飛び上がってダンクを決めている。

「−−!」

八咫烏の誰もが何も言えなくなった。

「限りある一度きりの人間の人生の夢と生き様を奪うんですか?」

「……わかってます……」

鈴凛は泣いた。

「金輪際口をきかないでください」

「……!」

「それが僕が彼を殺さない条件です」

「……」

「領主となった今、ぼくは誰でも動かせる。自分じゃなくても誰にでも如月君を狙わせることができるんですよ」

「……わかりました」

「約束です。……玉手匣を」

毛利就一郎が言った。

「!」

「最後に今回の記憶を消す必要があるでしょう?」

毛利就一郎が言った。

鈴凛はわかっていたことだが、びくりとする。

今回の二人の時間は特別だった。

「二日も経ってるからターボでしょう。浜辺で玉手匣なんて、浦島太郎みたいにボケちゃっつたりして。いや、浜辺で好きな男を助けるなんて人魚姫ですかね?」

毛利就一郎が明るい声で言うと、誰も何も言わなかった。

「かして……」

鈴凛は全然笑えなかった。

「わたしが……やる……」

「二人に……してあげましょう……」

佳鹿が言って気をつかってくれた。

「なんだか仰々しいね。たかだか一般ピープルの記憶を消すだけでしょ」

鯆多丸が小さく言った。

「まだ若いからそれが全てに思えるのかもしれないですね」

「……」

違う周馬は特別なのだ。自分と周馬は特別。

鈴凛は叫びたかった。

この記憶を消すことは、今までと全然意味が違うことが鈴凛にもわかっていた。

鈴凛は砂浜に寝転がった周馬の頭を膝にのせた。

「……周馬……」

その愛しい白い額に指をそわせる。

「……黄猿はああは言ってるけど、あんたは全然わかってない」

影姫だけがやってくる。

全然わかってない?

全然わかってないのはみんなのほうだ。

みんなは純粋な気持ちで、運命の人と、特別な恋をしたことがないのだ。

「人間の男を信じるなんて馬鹿よ」

「……」

「きいてるの?」

「ふたりに……してください」

みんなは何もわかってない。これは誰もが経験するただの恋愛じゃない。特別なものだ。

未来妃が言った本物だ。

だからみんなに辛さなんてわかるわけがない。

二人で自転車にのって、一緒にわけあってうどんを食べて、お互いの服を買って、本当の弱い部分も教え合う。繋がったって思えるあの感覚をみんなは知らないのだ。

「でもこれは周馬のためだから」

戦姫である限り、一番大切な人の夢を奪う。危険に晒してしまう。

それはだめだから−−

「……これで最後にするね……」

鈴凛が手を開くと、グラスポニーが夕ににキラキラと輝いた。

「大切なもの、たくさんくれたね」

もう口をきけない。無視することは周馬を傷つけるだろう。

「ごめん……」

静かになった浜辺に太陽が落ちていく。目頭が勝手に震えてしまう。

鈴凛は必死に深呼吸して玉手匣を手に持った。

「ありがとう……」

鈴凛はゴムが切れてしまったグラスポニーを両手に抱きしめる。

「ほんとうに……ほんとうに……」

人生で一番大切な夏を今から消すのだと思った。

「これで−−」

周馬が目を閉じて、美しい顔で眠っていた。

鈴凛は玉手匣のスイッチを最大にする。

自分達の思い出が消されてしまう。

二人がはじめて、ちゃんと恋人たちになった夏が、なかったことにされてしまう。

それでもこれは、周馬を守ること−−

「ごめんね……もうこれで、玉手匣、最後にするから……」

周馬の中に生まれた本当の自分が消える。

「ごめん……」

鈴凛はスイッチを押した。

「さようなら、大好きだよ」

鈴凛は額にキスをした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ