相応しい女性に
15歳。
私の誕生日は新学期が始まる直前にあるので、他の子達よりはひと足早く歳を取る。そして今日から中等部の最高学年になるのだ。
私は少しセンチメンタルな気分になりながら学園の門をくぐり抜ける。
「あら、リーファ様!」
「‥‥ご機嫌よう、ルミア。」
「ご機嫌よう、リーファ様。今年こそ殿下と同じクラスなら良いですわね。」
「えぇ、その通りね。ローラ。」
二人の人物が私の隣に立って話しかける。それは、表面上私と殿下の仲を応援してくれている取り巻きたちなのだけど、実際には違うだろう。だってただの一度も私の誕生日パーティに来たことがないし‥。
所詮はそんなものかと思える仲なのだから。
「‥‥‥‥そうだったら良かったのですけど。」
私は。
「リーファ様?どうしましたの?‥‥あら?また今年も違うクラスですのね、リーファ様。」
「殿下の婚約者なのに、可愛そうですわ‥。」
私は学園が嫌いだ。
学年が上がりクラスが変わると必ずといっていいほど自己紹介をしなくてはいけない。
「今年はどんな挨拶すんのかな、リーファ様。」
「魔法陣を机中に書き巡らせるんじゃないの?」
「えぇー、怖っ。」
「バカ‥聞こえるでしょ?」
聞こえてんのよバカ。
本人に聞こえる程の声量で話すのはもはや陰口などではない。
でも確かに私に否定はできなかった。
なぜなら、私の自己紹介は毎時と言っていいほど奇天烈なものだったからだ。
『私、とても動物に好かれているの。』
猫を外から50匹ほどおびき寄せ、クラス中に放ったこともあったし、
『あらやだ、制服じゃなく純白のドレスで来てしまったわ。』
汚してもいいけど、その時は‥なんて脅しをしたこともあったけ。
そしてその度に毎年ざわつきは起こったし、近寄りづらいと思う人も結構いたはずだ。だけど、こんな自己紹介なのに何人かは気にせず私に近づいてくる人物がいた。クラスは離れてしまったが、あの取り巻きたちもそうだし、今だって噂を気にしながらもチラチラこちらを見ている視線だってある。
どうせ私に何かしら期待して近づいてきてるんでしょうけど。
「ご機嫌よう。皆様。これから1年間宜しくお願いしますね。」
クラスメイト達はどうせ今年も私がとんでもないことをするんじゃないかという不安と淡い期待を抱いていたんだろう。しかし、何をするでもなくシンプルに挨拶だけをした私が席に座りなおすとクラスメイト達は、普通だ何だと騒ぎたてた。
(普通で悪かったわね。私はもう悪目立ちする気はないの。)
先生はざわつく生徒たちにコホンと咳払いをし、次の生徒の名を呼んだ。それ以降は淡々と自己紹介が続き、私の方に向いていた視線も徐々に気にならない程度に減っていった。
こんなものかと私は少し安心する。
今年は殿下も取り巻き達もいないしない、あくまで悪目立ちさえしなけもれば悪役令嬢なんて呼ばれることはずだ。
未来がどれほど先の未来かは判らないが、少なくともあの日送られてきたメッセージを否定できるようになるまでは私の悪い癖は封印しようと思う。
「では本格的な授業の開始は午後からだ。それまでは解散。」
長々しい自己紹介も終わり、ようやく休憩になったので、私は教室から出たのだが、どうしようかと悩んでいた。
というのも、例年であれば殿下のいる教室に真っ先に向かっている私だが、その行動について今は少し考えるところがあったからだ。
もし、ここでいつものように殿下のもとに赴いたとしよう。
『‥‥‥リーファ。新学期早々クラスに馴染んでもいないのに私のところに訪れる必要はないんだが。』
そう言われるかもしれない。
いや、これは去年実際に言われたことだった。これは果たして殿下に相応しいと言えるだろうか?
殿下にも鬱陶しがられているのもわかっていたし、それが多くの人の目につくことで迷惑がられ、悪役令嬢ルートに一歩足を進めるのだとしたら溜まったものではない。
「私は心を入れ替え殿下に相応しい女性になると決めたでしょう?」
殿下のいるクラスとは真逆の方向へ向かう私。会いに行きたい気持ちを理性で抑えられた私は一歩前進しているに違いない。そう、思っておくことにしよう。