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100点満点の僕の異世界生活  作者: 岐阜の小説家
9/20

冒険者ギルドへの再挑戦

 役所を出た瞬間、俺は大きく伸びをした。胸の奥にたまっていた重苦しい空気が、ようやく抜けていくような気がする。

「ふぅ……生きた心地がしなかったぜ……」


 横を見ると、ミリアはけろりとした顔をして歩いている。まるで何事もなかったかのように。

「なによ、大したことなかったでしょ?」

「大したことなかっただと!? お前な、今のは完全に綱渡りだったんだぞ! 孤児で家族になったって設定、あんなにあっさり通るもんなのか!?」

「通ったんだから問題ないでしょ。細かいこと気にしてたら、この世界じゃ生き残れないわよ」

 堂々と胸を張るミリア。俺は思わず額に手を当てた。

「……俺の胃が死にそうなんだが」

「気にしすぎ。ほら、仮登録証だってちゃんともらえたんだし!」

 そう言ってミリアは、俺の懐にしまわれた一枚の羊皮紙を指差した。見慣れぬ文字でぎっしりと書き込まれているそれが、俺の「身分証」らしい。


 ともあれ、これで第一関門は突破。次はいよいよ冒険者ギルドだ。

「……よし、行くか」

「うん、ついてきて。ギルドはこの街の中心にあるから」


 俺たちは石畳の道を並んで歩き始めた。



 通りを抜けると、市場の広場が目に入った。色鮮やかな布を張った屋台が立ち並び、果物や野菜、香辛料の匂いが風に乗って流れてくる。耳をすませば、商人の呼び込みの声や、子どもの笑い声が混ざり合っていた。


「わぁ……結構賑やかなんだな」

「この街は交易の拠点だからね。人も物も集まってくるの」


 ミリアが軽く説明してくれる。俺は思わず足を止め、見入ってしまった。鮮やかな赤や緑の果実、鉄を打ち延ばすカンカンという音、香ばしい焼き肉の匂い。まさに異世界らしい雑多な活気だ。


 ふと横を通り過ぎたのは、背に大剣を負った男や、杖を抱えたローブ姿の女。明らかに冒険者っぽい人間たちが当たり前のように歩いている。

「……ああいう連中と、俺も肩を並べることになるのか」

「なるわよ。楽しみでしょ?」

「いや、正直胃が痛い」

「また胃? あんたほんと心配性だね」

 ミリアが呆れ顔で肩をすくめる。俺は苦笑するしかなかった。



 広場を抜け、大通りをまっすぐ進む。視線の先に見えてきたのは、ひときわ大きな石造りの建物だった。三階建てほどの高さで、入り口には重厚な木の扉。屋根には剣と盾を交差させた大きな紋章が掲げられている。


「あれが……冒険者ギルドか」

「そう。街の中心にあって、みんなの目に入るように作られてるの」


 建物の前には人だかりができていた。依頼を終えたらしい冒険者が報告を終えて出てくる者、これから依頼を探そうと中へ入っていく者。大声で談笑するグループや、酔っぱらって騒いでいる奴までいて、まるで居酒屋と役所を足して二で割ったような空気だ。


 俺は思わずごくりと唾を飲み込む。

「……正直、めちゃくちゃ場違い感あるんだが」

「大丈夫よ。誰だって最初は新人なんだから」

 ミリアが背中を軽く押す。


 扉をくぐると、さらに賑やかな空気が俺を包み込んだ。



 中は広々としたホールになっていた。正面には大きな掲示板があり、羊皮紙がびっしり貼られている。依頼書だろう。あちこちに木製のテーブルと椅子が並び、冒険者たちが酒をあおりながら談笑している。金属鎧がこすれる音や、酔客の笑い声が混じり合い、空気は濃厚でむせ返りそうだ。


「うわぁ……漫画やゲームで見た冒険者ギルドそのまんまって感じだな」

「でしょ? でも、ああ見えて意外と規律はしっかりしてるのよ。依頼の報告や報酬の管理があるからね」


 ミリアは慣れた足取りでカウンターへと向かう。俺も後を追った。


 カウンターには数人の受付嬢が並んでいた。どの人も制服のような服装で、てきぱきと応対している。

 俺たちの番になると、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の女性が顔を上げた。


「ご用件は?」

「彼を冒険者として登録したいんです。仮登録証もあります」


 ミリアが俺の背中を押し、俺は慌てて羊皮紙を差し出した。受付嬢はそれを受け取って目を通し、こくりと頷く。

「確かに役所の印がありますね。では本登録の手続きに移ります」


 ホッと胸をなで下ろす俺。しかしその直後、受付嬢が口にした言葉で、再び心臓が跳ね上がった。

「ただし……いくつか追加の確認事項があります」



 机の上に新しい書類が広げられる。項目は膨大で、名前や年齢だけでなく、出身地や職歴、戦闘経験に至るまで細かく書き込む欄が並んでいる。


「うっ……またかよ」

「必要なことですから。安心してください、こちらで記入を手伝いますので」


 受付嬢は淡々としている。だが俺には、再び役所の地獄が蘇ってくるような気がした。


 とはいえ逃げるわけにはいかない。ミリアも横でにやにやしながら「がんばれ」と小声で囁いてくる。俺は渋々、ペンを握った。


 ――こうして俺の冒険者ギルドでの再挑戦が始まったのだった。




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