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100点満点の僕の異世界生活  作者: 岐阜の小説家
8/20

保証人は家族です!


 朝の光が石畳を照らし、街はすでに賑わっていた。行商人が荷車を引き、パン屋からは香ばしい匂いが漂う。昨日の役所での疲労はまだ残っていたが、俺とミリアは再び並んで歩いていた。


「コーダイ、今日こそは絶対に身分証を手に入れよう!」

「……その意気はいいけど、どうするんだよ。保証人なんていないのに」

「ふふふ、いい方法を思いついたんだ」


 ミリアはいたずらっぽく笑う。その表情が逆に不安を煽る。


「おい、その顔なんか嫌な予感しかしないんだが」

「大丈夫大丈夫! 私に任せて!」


 全然安心できなかった。


***


 役所の中は今日も混雑していた。列に並んでいる間、俺は昨日の地獄を思い出してげんなりする。紙を何度も書き直し、窓口でダメ出しされ、再び列に並び直す。まさに修行のような時間だった。


「はぁ……帰りたい」

「帰る場所なんてもうないでしょ?」

「……そうだった」


 軽く返すミリアに苦笑しつつ、順番が回ってきた。昨日と同じ中年の係員が無表情で待ち構えている。


「仮身分証の発行ですね。必要事項を記入してください」


 差し出された用紙に名前と年齢を書き込む。問題はその次だ。居住地と保証人欄。昨日はここで詰まった。だが今日は違う。ミリアがすっと前に出た。


「はい、保証人は私です」

「……あなたが?」


 係員は怪訝そうに眉をひそめた。ミリアは胸を張り、堂々と言い放つ。


「この子は孤児なんです。だから、うちの家族として引き取ったんです!」


 俺は心臓が止まりそうになった。


「お、おいミリア!? 何勝手に――」

「しーっ!」


 口元に指を立てて黙らせるミリア。係員はじろりと俺を見て、鼻を鳴らした。


「引き取った? 書類はあるのですか?」

「えっと、それは……」


 ミリアが言葉に詰まる。俺は青ざめ、万事休すと思った。だが彼女はすぐに顔を上げ、にっこりと笑った。


「うち、田舎の村なんです。書類なんて整ってなくて。でもちゃんと家族として面倒みてます!」

「ふむ……」


 係員は顎に手を当て、しばし考える。その沈黙が長くて心臓に悪い。


「居住地は?」

「はい! 現在はこの街の南区にある宿に滞在しています!」

「宿の名前は?」

「……《緑の小道亭》です!」


 即答。俺は知らない名前に目を丸くしたが、係員は帳簿を開いて確認する。


「……確かにその宿は存在しますね。では仮住所として記入しておきましょう」

「ありがとうございます!」


 ミリアは深々と頭を下げる。俺はもう冷や汗で背中がびっしょりだった。


***


 結局、係員は渋い顔をしながらも申請を受理した。紙に判を押し、仮身分証を発行してくれる。


「身分証の有効期限は三か月。その間に正式な登録証に切り替えるように」

「はいっ! わかりました!」


 ミリアが勢いよく受け取り、外に出る。


 夕暮れに差しかかる街を歩きながら、俺はとうとう耐えきれず叫んだ。


「お前、無茶苦茶すぎるだろ!!」

「えー? でも無事に手に入ったじゃん!」

「孤児で家族とか、完全に嘘だろ! バレたらどうすんだよ!」

「バレなかったからセーフ!」


 悪びれない笑顔に、怒りよりも呆れが勝った。


「はぁ……心臓に悪い」

「でも、これで冒険者登録できるんだよ? 結果オーライでしょ!」

「……まあ、そうだけどさ」


 俺はため息をつきつつも、身分証を見つめる。名前が刻まれた小さなカード。それはこの世界で生きるための第一歩だ。


「ありがとな、ミリア」

「えへへ、どういたしまして!」


 ミリアの笑顔は眩しくて、嘘で繕った家族設定も、今は少しだけ本物に思えた。



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