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100点満点の僕の異世界生活  作者: 岐阜の小説家
7/20

冒険者登録は一筋縄じゃいかない

 朝の街は既に活気に満ちていた。石畳を馬車が走り抜け、露店では焼きたてのパンや干し肉が並べられている。行き交う人々の声が混ざり合い、昨日の散策で見慣れた景色も、朝の光に照らされるとまた違って見えた。


「よし、今日は冒険者ギルドに行って登録だな」

「はい! 勇者様が冒険者になれば、どんな依頼だって受けられると思います!」


 ミリアは張り切って俺の隣を歩いている。昨日の疲れなんてどこ吹く風、という勢いだ。対して俺は、まだ少し体が重い。だがこれを避けては前に進めない。異世界生活を始めるにあたって、冒険者になるのは王道にして必須のルートだろう。


 ギルドは街の中央区にあった。二階建ての大きな石造りの建物で、正面には大きな紋章が掲げられている。重い扉を押して中に入ると、木の香りと酒の匂いが混ざった独特の空気に包まれた。正面の掲示板には依頼の紙が貼られ、多くの冒険者が群がっている。武装した男たち、ローブの女、背中に大剣を担いだ若者……いかにも冒険者、という面々ばかりだ。


「すげー……まんまゲームで見たやつだな」

「ふふ、そうですね。じゃあ早速登録しましょう!」


 俺はミリアに背中を押され、受付カウンターへ向かった。そこには眼鏡をかけた女性職員が座っていて、冷静な口調で問いかけてきた。


「冒険者登録をご希望ですか?」

「はい、お願いします」

「ではこちらの用紙にご記入ください」


 分厚い紙が差し出された。そこには名前、年齢、出身地、職業経験、魔力適性……とにかく細かい記入欄がぎっしり並んでいる。俺はペンを手にしながら顔をしかめた。


「なんだこれ、履歴書かよ……」

「分からないところは空欄でも構いません。ただし、保証人欄が未記入の場合、登録はできません」

「……保証人?」

「はい。冒険者は武器を持ち歩き、場合によっては街に害を及ぼすこともあります。ですので、最低限の身元を保証する者が必要です」


 俺は思わず声を上げた。


「いやいやいや、俺異世界から来たんだぞ!? 保証人なんかいるわけないだろ!」


 周囲の冒険者たちがちらりと俺を見て、クスクスと笑う。受付嬢は慣れた調子で眼鏡を押し上げた。


「その場合は役所に行って仮身分証を発行してください。それを持参すれば登録可能です」


 まるで事務処理の一環のように言い放たれ、俺はがっくりと肩を落とした。


***


 役所は広場の近くにあった。石造りの巨大な建物の前には、既に長蛇の列ができている。人々は紙束を抱え、係員に文句を言ったりため息をついたり。


「なんだこの光景……」

「えへへ……ここ、いつも混んでるんですよ」


 列に並んだ俺たちは、ひたすら待たされ続けた。前の人が係員に小言をぶつけ、窓口が詰まってはまた進む。その繰り返しだ。


「やっぱり役所はどの世界でも役所なんだな……」

「勇者様、顔が怖いです」

「……なあ、ミリア。一つ頼みがある」

「え? なんでしょうか?」

「その“勇者様”って呼び方やめてくれ。あと敬語も別にいらん」

「えっ、でも……勇者様は神様に選ばれた人で、私は……」

「俺は吉良航大、ただの高校生だ。勇者とか言われても実感ねぇし、敬語で話されると疲れるんだよ」

「……そ、そうなんですか」

「だからコーダイでいい。呼び捨てで構わん」

「……コーダイ……分かりました。じゃあ、これからはそう呼びます」

「おう、その方が助かる」

「よーし! じゃあ改めてよろしく、コーダイ!」


 ミリアがぱっと表情を明るくして笑うと、少し肩の荷が下りた気がした。


***


 窓口にたどり着いたのは昼を過ぎたころだ。無表情な中年係員が、仮身分証の用紙を差し出してきた。


「必要事項を記入してください」


 書類には名前、年齢、特徴、滞在理由、居住地、紹介者の欄。俺は再び絶句した。


「居住地も紹介者もねぇんだよ……」

「その場合は、宿屋の主人かギルドの職員の署名が必要です。不備があれば再度並んでいただくことになります」


 俺は頭を抱え、膝から崩れ落ちそうになった。


***


「うーん……やっぱり簡単にはいかないんだね」

「大変どころじゃねぇよ……冒険者になるまでに心折れるぞ」


 ギルドの前に戻ったころには、もう夕暮れだった。心身ともにすり減り、俺は完全にぐったりしていた。だがミリアは、前を向いていた。


「でもさ、保証人がいないなら、私がなるよ! 私もう冒険者だから、ちゃんと証明できると思う!」

「……そんなことできるのか?」

「やってみなきゃ分かんないけど! 大丈夫、私が一緒にいるから!」


 その無邪気な笑顔に、俺の疲れが少しだけ薄らいだ。


「……分かった。明日もう一度挑戦してみるか」

「うん! 今度は絶対うまくいくよ!」


 茜色に染まる空を見上げ、俺は深く息を吐いた。冒険者になる道は険しいが、隣で笑っている奴がいるなら、もう少し頑張れそうだ。


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