初めての街で宿探し
夕日を背に、俺とミリアはようやく街の門へとたどり着いた。
城壁は思った以上に大きくて、石造りの壁にはツタが絡み、歴史を感じさせる。門番の兵士が槍を構えて立っていた。
「止まれ! ここはルディア王国、ランベールの街だ。何者だ?」
「えっと……俺は吉良航大、で、こっちはミリア」
「……怪しい名前だな」
兵士がじろりと俺を睨む。やばい、いきなり門前払いか?
と、その時ミリアが前に出た。
「わ、私は冒険者です! ギルドカードもあります!」
そう言って小さな木札を差し出す。兵士はそれを確認すると、少し柔らかい表情になった。
「ふむ、確かに冒険者の証だな。お前は見習いか」
「はいっ!」
「では通ってよし。ただし彼は……」
兵士の視線が再び俺に突き刺さる。
「……同行者ってことで通してやってくれませんか? 彼は、えっと……勇者様です!」
「はぁ!?」
思わず声が裏返った。
兵士は怪訝な顔をしたが、長い沈黙の後、肩をすくめた。
「……まあいい。街の治安を乱すなよ」
そう言って通してくれた。
「おいミリア! なんで勇者とか言っちゃうんだよ!」
「だって本当のことじゃないですか! さっき光の魔法出してましたし!」
「……それはそうだけどさぁ」
俺は頭をかきながら街の中に足を踏み入れた。
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街の中は賑やかだった。石畳の道を馬車が走り、道端には屋台が並んでいる。焼きたてのパンの香り、果物を売る商人の声、子供たちの笑い声。まさに“異世界の街”って感じだ。
「うわぁ……! すごい、すごいです勇者様!」
ミリアはきょろきょろと辺りを見回し、子供みたいに目を輝かせていた。
「俺も初めて見るけどな。……とりあえず宿を探さないと」
日はすでに暮れかけている。野宿なんて勘弁だ。
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通りを歩くと「宿屋」の看板がいくつも目に入った。
一軒目――「白銀の羽根亭」。
中に入ると、愛想のいい女将さんが迎えてくれたが、料金を聞いて絶句した。
「一泊銀貨三枚です」
「たっか!? 無理無理無理!」
すぐに外へ飛び出す。
「……勇者様って意外とケチなんですね」
「いや、ケチじゃなくて金がねえんだよ!」
手元には女神からもらった謎のポーチしかない。開けてみると――銅貨が数枚。どう見ても底辺スタートだ。
二軒目――「眠れる森亭」。
ここは安い。銅貨五枚。だが部屋を見せてもらった瞬間、引いた。
「……藁の布団ってレベルじゃねえな。これ、ただの草の山だろ」
「窓も割れてますし……雨降ったら大変そうですね」
結局ここも却下。
三軒目――「月影の宿」。
雰囲気は落ち着いていて、料金も手頃。俺たちはそこで泊まることに決めた。
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「ようこそ、『月影の宿』へ。お二人で一泊ですね」
受付の青年がにこやかに微笑む。
「はい、お願いします!」とミリアが元気よく答える。
「お部屋は……申し訳ありません、今日は混んでおりまして、二人部屋しか空いておりませんが」
「二人部屋……?」
俺とミリアは顔を見合わせた。
「い、いやいや! 男女一緒とか普通にマズいだろ!」
「で、でも他に空きがないなら……」
ミリアは頬を赤く染めて俯いた。
結局、背に腹は代えられない。俺たちは二人部屋に泊まることになった。
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部屋に入ると、木のベッドが一つだけ。
「……どうすんだよこれ」
「ゆ、勇者様が使ってください! 私は床で寝ますから!」
「いやいや、お前女の子だろ! 俺が床で寝るって!」
「そんなのダメです! 勇者様は体力を回復しなきゃ!」
譲り合いの口論が続いた末、結局「ベッドを真ん中で分けて寝る」という折衷案に落ち着いた。
ミリアが布団を広げると、膝上のスカートがひらりと揺れる。俺は慌てて視線を逸らした。
(お、落ち着け俺……これはただの宿泊だ……!)
ランプの灯りが揺れる中、俺たちは同じ部屋で初めての夜を迎えることになった。




