表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100点満点の僕の異世界生活  作者: 岐阜の小説家
3/20

草原の出発

「……マジで、異世界だな」


俺は草原の真ん中に立ち尽くしていた。

足元に広がるのは、柔らかな緑のじゅうたん。どこまでも続く地平線。雲ひとつない青空に、太陽がジリジリと照りつけてくる。

日本の風景とも似てるんだけど、違う。空気が澄みすぎてるし、草の匂いが強すぎる。まるで濃縮還元された“自然”の中にいる気分だ。


「で、問題はここからだよな……」

腹が減った。喉も渇いた。そもそも俺は、街の場所もわからない状態でここに放り込まれている。女神様、説明不足すぎだろ。


「まあ……歩くしかないか」

太陽の位置を頼りに適当に方向を決める。RPGならまずは“街”だ。装備を整えて情報収集、これが基本。……いやまあ、現実でできるかどうかは別だけど。


そう思った、その瞬間だった。


「きゃあああああああ!!!」


草原に響き渡る悲鳴。反射的に振り返ると、遠くの草むらから何かがものすごい勢いで突っ込んでくる。


「え、なにあれ、イノシシ? モンスター? ……いや、人間!?」


ドンッ!!


「ぐふっ!!!」

俺の胸に思いっきり飛び込んできたのは、一人の少女だった。衝撃で肺の空気が抜けて、呼吸ができねえ。


少女は肩までの茶髪を二つ結びにして、冒険者っぽいマントを羽織っている。……が、泥だらけでボロボロだ。大きな瞳が涙で潤み、必死に俺の服を掴んでいる。


「た、助けてぇぇ!!!」


「ちょ、待て! まず誰!? なんでいきなり胸にダイブ!? ……てか近い!」

俺が混乱していると、背後からブンブンという羽音が迫ってきた。振り返った瞬間、息を呑む。


「おい嘘だろ……」


そこにいたのは、俺の体と同じくらいのサイズの巨大な蜂だった。全身が黒と黄色に光り、針は槍みたいに鋭く尖っている。


「チュートリアルで出す敵のレベルじゃねえぞコレ!?」


蜂は躊躇なく突進してきた。

俺は少女の手を引き、反射的に走り出す。


「きゃあああ! 速い! お兄さんすごい速い!」

「褒めるな! 今は逃げるしかねえんだよ!!」


必死に草をかき分け、丘を駆け下りる。背後から羽音が追いかけてくるたびに心臓がバクバクする。俺は運動神経は人並みのはずなのに、なぜか体が軽い。足が勝手に前に出ていく。……これがチート能力ってやつか!?


「うわっ、転ぶ転ぶ転ぶー!!!」

「転ぶな! 死ぬぞ!」


少女の悲鳴に引っ張られながら、必死に逃げ続ける。どれくらい走っただろうか。やがて蜂の羽音が遠ざかっていき、ついに聞こえなくなった。


俺と少女は同時に地面に倒れ込み、息を切らす。


「……はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」

「ほんと……ありがと……助かったぁ……」


少女は汗だくになりながらも、俺に向かってニコッと笑った。

その顔を見て、思わず心臓がドキッと跳ねる。


(いやいやいや、可愛い顔してもお前、さっき俺を盾にして突っ込んできただろ!)


「……あ、私ミリアっていいます! 見習い冒険者です!」

「お、おう……俺は吉良航大。一応……勇者?ってことになってる」

「勇者!? すごいじゃないですか!」

「いや、まだなんもしてねえけどな」


ミリアと名乗った少女は、目を輝かせて俺を見てくる。その笑顔が妙に無邪気で、なんだか犬っぽい。


「で……あの蜂に襲われてた理由は?」

「えっと……初心者向けの依頼で“草原にいる弱い魔物を倒せ”って書いてあったんです!」

「どこが弱いんだよアレ!!」

「……あはは、ですよね」


完全に詐欺依頼だろこれ。


「……で、ミリア。これからどうするつもりだ?」

「本当は、この草原を抜けた先に街があるって聞いてたんですけど……」

「けど?」

「私、方向音痴なんです」


「…………」

「だから、一緒に探してほしいなぁって……ダメですか?」


にこーっと笑いながら言ってくる。おいおい、そんな顔されたら断れねえだろ。

(くそ……やっぱ俺チョロいな……)


「分かったよ。一緒に行こう。どうせ俺も街を探してたとこだしな」

「ほんと!? やったー! 勇者様ばんざーい!」

「……いや、まだ勇者っぽいこと一つもしてねえんだけど」


ミリアは子犬みたいに跳ね回って喜んでいる。その無邪気さに、俺は思わず苦笑するしかなかった。


(ま、異世界生活の最初の仲間ができたってことでいいか……ただし、ポンコツ属性付きだけどな)


俺のため息が、草原にこだまするのだった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ