さあ、異世界へ出発だ!
「うわあ……ホントについてねえ……」
俺はため息交じりに呟いた。
何故なら目の前に広がる光景は真っ暗で何も見えないからだ。
しかも体は宙に浮かんでいるようで自由がきかない。
まるで深海にいるような気分だった。
(まさかこんなことになるとはねぇ……)
先ほどまでのことを思い出す。
女神様の話によると俺はどうやら死んだらしい。
そして生き返るために別の世界へと送られることになったのだが、どういう訳か俺は海の中へ放り出されてしまったのだ。
(このままだとマジで死んじまうんじゃないのか?)
いくら女神様でも流石にそこまで面倒見てくれるとは思えない。
仮に助けてくれたとしてもその後はどうなる?
(多分だけど放置されるんじゃないか?)
なんとなくではあるが、そんな予感がした。
(さて、困ったぞ……)
俺は腕を組みながら考える。とりあえず状況を整理してみることにした。
(まず俺が死んだ原因はトラックに轢かれたことだ。これは間違いないだろうな。次に女神様から聞いた話によれば、俺の魂は元々は地球という世界の日本という国に住んでいた人間のものらしく、それをこの世界に転移させるという話だったはず。だからここはおそらく別世界ということになるんだろうな。最後に俺はこれから海の中で生活する羽目になる。以上、状況確認終わり。さてこれからどうしようかね……)
俺はこれからのことを考える。まずはこの状態から抜け出さないといけないが、さっきからずっと泳いでいるが一向に陸地が見当たらない。
それに段々意識も薄れてきた。まずいな、これはいよいよヤバいかもしれない……そう思った時だった。「ぷはっ!?」
水面から顔を出すことができた。どうやら海面に出たことで呼吸ができるようになり助かったみたいだ。
俺は必死になって空気を求めて大きく深呼吸をする。すると酸素を取り込むことができ徐々に頭がはっきりしてきた。
「ふぅ……やっと陸に上がれそうだな」
そう思い、辺りを見回す。するとそこには信じられないようなものが存在していた。
「……嘘だろ?」
思わずそう呟いてしまった。なぜならそこにあったのは大きな島であり、その形はなんとなく見覚えがあった。
「これってまさか……アレなのか?」
それは紛れもなく日本のシンボルである富士山であった。
「マジかよ……」
俺は呆然と立ち尽くしていた。するとその時、背後から大きな音が聞こえてくる。
振り返るとそこにいたのは巨大なドラゴンだった。
その姿を見て俺は確信する。
「ああ、俺の人生終わったな……」
俺は迫り来るドラゴンを見てそう思うのだった。
「……ん?」
気が付くとそこはベッドの上だった。
「夢……だったのか?」
体を起こしてみると全身が汗でびしょ濡れになっていた。
「嫌な夢だったなぁ……」
俺は頭を掻きながらため息をつく。あんなリアルな夢を見るなんて初めてのことだった。
「とにかく着替えるか……」
俺は服を着替えようと立ち上がる。だがすぐに足を止めてしまう。
「んん? なんだコレは……」
自分の体をよく見てみる。するとなぜか裸だった。
「はあ? どうして服を脱いでるんだ? 寝ている間に脱いだのか?……いや違うな」
よく見ると着ていたはずのパジャマも下着も全てなくなっていた。
「これは一体……」困惑していると不意に声がした。
「あら? 目が覚めたようね」
「誰だ!?」
驚いて振り向くとそこには見知らぬ美少女がいた。
年齢は10代後半といったところだろうか? スタイル抜群で胸は大きく腰はくびれており、尻は大きい。まさにボンキュッボンという言葉がぴったりの女性だった。
「うわあ、すげえ美人……」思わず感嘆の声を上げてしまう。だが次の瞬間、ハッと我に返った。
(ちょっと待てよ? 確か昨日は一人で酒を飲んでたはずだよな? という事はまさか酔っぱらって知らない女を連れ込んだって事なのか? いやまてよ?そもそもコイツはどこから来たんだよ? 窓は閉まってたしドアの鍵はかかっていたよな? ということはまさか……)
俺の背中を冷たいものが走る。
「お前……不法侵入だぞ」
「えっ? 何言ってんのよ。私、女神様だよ」
「はい?」……今なんて言ったんだ? 聞き間違いじゃなければ女神様とか言わなかったか?
「ねえ聞いてんの? おーい」
目の前の女は俺の顔の前で手を振る。
「いやいやいや、ありえないだろ」
「ありえるんですけどー」
「じゃあ証拠見せてくれよ」
俺の言葉を聞いて彼女は少し考えこむ。
「うーん、じゃあこれでいいかしら?」
そう言うと突然、彼女の体が光り輝いた。そして光が収まるとその容姿が大きく変わっていた。金髪だった髪の色は黒くなり長さも肩くらいまで短くなっていた。そして服装も白を基調としたシンプルなものに変わっている。
「おお! 凄いな!」
目の前で起こったことに驚く。すると彼女は得意気に語り始めた。
「どう? これが女神の姿なんだけど、分かったでしょ」
「まあ、とりあえず信じないことには話が進まないようだな。それで? 女神様が何の用ですか?」
「うむ、実はキミにお願いがあってきたのよね」
「お願い? それってどんな内容なんだ?」
「あのね、この世界には魔王がいるのよ。そいつを倒して欲しいの」
「魔王退治ねぇ……って、はいぃいいいいい!?」
あまりにも唐突な話に俺は驚きを隠しきれない。
「いやいや無理だろ普通に!!」
「即答かい!!」
女神様は突っ込みを入れる。
「当たり前だろ。いきなりそんなこと言われても困るぜ。大体、俺は普通の人間だし剣だって握ったことも無いんだぞ?」
「大丈夫、そんなことは分かってるから安心して。あなたに与える力はちゃんと用意してあるから心配しないで。それに勇者召喚された人間は皆、超人的な力を持ってるものなのよ」
「そんな無茶苦茶な……」
俺は頭を抱える。正直、話についていけない。
「頼む!! このままだと私の世界の人達が大変なことになるの。だから助けてあげて!」
「う~ん……でもなぁ……」
俺は腕を組んで考える。
「それに魔王を倒したら願い事を一つ叶えてあげるからさ」
「マジで?」
「うん、マジで」
「よし、引き受けよう」
「決断早っ!?」
「だってさ、異世界転生っていったらやっぱりチート能力で無双するしかないじゃん?」
「あんた、本当に単純ね……」呆れたように呟く。
「という訳だから早速行ってくれないか?」
「えっ、もう行くの?」
「ああ、善は急げっていうだろ?」
「なんか違う気がするけど、まあ頑張ってね!」
そうして謎の光が出てきて俺は気がついたら草原の上に立っていた。
「どこだ……ここ?」




