吸収の力
体の奥に、熱のようなざわめきが広がっていた。
雑魚モンスターを倒したときに感じたあの感覚――それはただのレベルアップではなかった。
「……ステータスオープン!」
意識すると、淡い光のウィンドウが浮かび上がった。
そこには新しい項目が表示されている。
――特殊能力:吸収
倒した敵から力を取り込み、能力値を一部上昇させる。
「吸収……? つまり、敵を倒せばその力を俺のものにできるってことか」
握った小刀が妙に軽く感じる。視界も鮮明だ。
確かに狼を斬った時の俊敏さや、コウモリを落とした時の感覚が、自分の体に馴染んでいる。
試すしかない。
俺は目の前で唸る巨獣を睨みつけた。
「さっきまでの俺とは違うぞ……!」
巨獣が咆哮とともに巨腕を振り下ろす。俺は素早く横に飛び、すぐさま懐に潜り込んだ。
刃が腕を掠め、黒い血が散った。
「やれる……!」
だがすぐに巨獣の尾が薙ぎ払われ、俺の体は宙に弾き飛ばされた。
肺の中の空気が一気に押し出され、視界が白く弾ける。
「ぐっ……!」
地面に転がりながらも必死に立ち上がる。
能力は上がっている。だが、それでもまだ差は歴然だ。
巨獣の動きは速い。破壊力も桁違い。
俺が攻撃できても、その後の反撃に耐えられない。
ミリアが必死に叫ぶ。
「コーダイ! 無茶しすぎよ! 逃げよう!」
「……逃げない!」
俺は返す。
たとえ押されていても、戦わなきゃ意味がない。俺が踏ん張らなければ、ミリアを守れない。
吸収の力をもっと引き出すんだ。
雑魚だけじゃない、この巨獣からも――。
巨獣が再び迫る。
その迫力に体が震える。だが、足は止めない。
まだ勝てないかもしれない。
それでも俺は、絶対に折れない。
――ここから、逆転の一手を掴んでみせる。
巨獣の爪が地面をえぐり、土砂と石片が弾け飛ぶ。
俺は身を低くして転がりながらかわし、息を荒げた。心臓は激しく打ち、肺は燃えるように熱い。だが、不思議と足は止まらない。
「……吸収の力。こいつをどう使いこなすかだな」
倒した雑魚モンスターの動きや感覚が、少しずつ自分の体に馴染んでいる。
ならば――意識して、それを引き出せばいい。
巨獣の横合いから飛び出してきた影に気づいた。
牙を剥いた狼型の魔物。雑魚に見えても、ここでは貴重な糧だ。
「悪いが、利用させてもらう!」
小刀を振り下ろし、狼を斬り裂く。
その瞬間、全身を駆け巡るのは鋭い感覚。聴覚が研ぎ澄まされ、草の揺れる音や巨獣の息遣いすら鮮明に聞き取れる。
「……なるほど。吸収ってのは、数をこなせばこなすほど俺を強くしてくれるってことか」
巨獣が咆哮を上げ、腕を振り回してきた。
今までなら反応できなかったはずの一撃。だが今は――。
「見える!」
俺は狼から得た俊敏さを使って巨獣の間合いを外し、その反動で足元へ飛び込む。
小刀を突き立てると、巨獣の膝をかすめて黒い血が飛び散った。
「やった!」
ミリアの声が響く。
だが油断はできない。巨獣は膝を押さえながらも怒り狂い、尾を振り回してきた。
「くっそ……!」
まともに喰らえば終わる。だが、俺の頭にひとつの考えが浮かんだ。
ただ力を吸収するだけじゃない。組み合わせるんだ。
狼の俊敏さと、先ほど倒したコウモリの滑空感覚。
それらを意識して同時に引き出す。
体がふっと軽くなった。
迫りくる尾の軌道を読み、タイミングを合わせて跳ぶ。
「――っ!」
尾の上を飛び越え、巨獣の肩口に飛び乗る。
そのまま小刀を振り下ろした。
刃は深々と肉を裂き、巨獣の悲鳴が森に響き渡る。
「効いてる……! 本当に効いてるぞ!」
俺は歯を食いしばり、まだ震える足で巨獣の背中を蹴って飛び退く。
巨獣は怒り狂い、血を滴らせながら俺を睨みつけている。
確かにまだ圧倒的な力の差はある。
だが今の俺は、ただの無力な人間じゃない。
「これが……吸収の応用。雑魚相手でも積み重ねれば、必ず突破口になる」
ミリアが目を見開き、俺に叫ぶ。
「コーダイ……! 今のなら、本当に勝てるかもしれない!」
俺は頷き、再び小刀を構えた。
「まだ足りない。もっと力を吸収する。必ず倒す!」
巨獣と俺の視線がぶつかる。
次の瞬間、両者が再び地を蹴った――。




