初めての依頼へ
巨大な掲示板の前に立った俺は、まるで試験会場にいるかのような緊張感に包まれていた。無数の依頼書がびっしりと貼られていて、荷物運びから盗賊退治まで、種類も難易度もバラバラだ。
「うわ……どれ選べばいいんだこれ」
思わず呟くと、隣で腕を組んでいたミリアが俺の耳元に顔を近づけてきた。
「最初なんだから、いきなり討伐とか護衛は無理だよ。命の保証がない」
「だよなあ……」
俺の目は自然と「採取依頼」の欄に移った。そこにはいくつかの植物の名前が並んでいるが、その中のひとつに目が留まった。
――『月光草の採取』。依頼主:王都薬師組合。条件:指定された森の中で10株以上採取。報酬:銀貨5枚。
「月光草?」
声に出した俺に、ミリアが説明してくれる。
「夜になると葉っぱが青白く光る薬草。解熱や滋養強壮の効果があるから、薬師たちには欠かせない材料なんだよ」
「へえ……なんかロマンチックだな。光る草って」
「でも場所によっては魔物も出る。簡単そうに見えて油断できない依頼だね」
ミリアは真剣な顔をしていたが、俺の心はもう決まっていた。
「よし、これにしよう!」
「……まあ、悪くはない選択だと思う」
俺たちは依頼票を剥がして受付へ向かった。
カウンターに例の眼鏡の受付嬢が立っていて、俺たちが差し出した紙を見て小さく頷いた。
「初めての依頼が月光草採取、ですか。……無理のない選択ですね。対象区域は街の東にある“ルーメンの森”。地図をお渡しします」
そう言って差し出されたのは、簡単な手描きの地図だった。
「期限は三日以内。採取した月光草は乾燥しないように保存袋に入れて持ち帰ってください。魔物に遭遇した場合は、無理せず撤退してくださいね」
その言葉を聞いて少し緊張が走る。だが同時に、冒険らしい高揚感も湧いてきた。
「わかりました!」
勢いよく答えると、受付嬢がわずかに微笑んだように見えた。
だが背後から聞こえてきた笑い声に、俺は振り向かざるを得なかった。
「おいおい、新入りが月光草採りだってよ」
「子どものお使いか? ははっ」
数人の男たちがニヤニヤしながらこちらを見ていた。昨日、俺を睨んでいた大柄な冒険者の一団だ。
「まあせいぜい頑張れよ。森に入って泣きながら逃げ帰らねえようにな」
皮肉混じりの声に、俺の拳が自然と握られる。だがミリアが肩に手を置いて小声で囁いた。
「相手にしなくていい。ああいうのは、実力で黙らせるしかないんだ」
その言葉に俺は深呼吸し、視線を逸らした。
「……そうだな。今は初依頼に集中しよう」
依頼を正式に受理すると、ギルドカードの裏に印が押される。これで俺たちは正式に依頼を負ったことになる。
「さあ、コーダイ。行こうか」
ギルドを出ると、外の空気がやけに澄んで感じられた。昼下がりの太陽が街並みを照らし、石畳の道を歩く人々の活気に満ちている。
俺たちは東門へと向かった。道中、屋台から漂う香ばしい匂いに思わず腹が鳴るが、ミリアが呆れた顔で笑った。
「初依頼の前に腹ごしらえ? まったく緊張感がないんだから」
「いや、腹が減っては戦はできぬっていうだろ」
「それ、都合よく使いすぎ」
そんなやり取りをしながら、俺たちは東門に到着した。門番にギルドカードを見せると、すんなり通してもらえる。
街を出た瞬間、視界いっぱいに広がる草原。青空の下、風に揺れる草の匂いが心地よい。
「よし、初めての依頼だ。気合入れていくぞ!」
「張り切りすぎて転ばないでよ、コーダイ」
ミリアの苦笑を背に受けながら、俺は胸を高鳴らせて森へと歩みを進めた。
こうして俺たちの初めての冒険が幕を開けたのだった。




