第二話 心霊スポット
くそ……まさか、俺の嫌な過去を知っている奴がいるとは…………
――――小学生時代。自分の名前をいじられるのが嫌でたまらなかった。
そこに、あの女『平安 紫』が余計なことを言ったのだ。
「『城門 仁』って、音読みにすると『ジョーモンジン』じゃない?」
小学四年生の『音読みと訓読み』の区別を習ったお子様たちは、色々なものの読み方を変えて遊んでいた。そして、それは個人の名前にまで至ってしまった。
「ジョーモンジン!! 縄文人か!!」
「縄文人!! うわっ、土器作れんじゃねぇ!」
「ウホウホ!! ウッホウホ!!」
「〜〜〜〜〜っっっ!!」
たぶん、縄文人は原始人とは違うからウホウホとは言っていないと思う……。
能天気で周りを巻き込む平安に続く形で、この呼び方は塾のみならず俺の学校にまで広がっていく。
平安はいっつも静かに過ごしたい俺を引っ張り回し、塾の休み時間はこいつのせいで落ち着かなかった。
この頃の俺は本当に大人しく、周りに何も言えない性格だった。
だから、こいつに抗議したのは呼ばれ始めて、しばらく時間が経ってから。
「ひ、平安だって『ヘーアン』じゃないかっ!! 俺のことばっかり言うなよな!!」
「うん、そうね! アタシのこともそう呼んで良いわよ!」
しかし、それからすぐに俺は二つ隣りの町に引っ越し、もともと小学校も違うし塾もやめてしまったので、平安とはそれっきりになった。
…………………………
………………
――――そして現在。友人の田村から『霊感女』の高宮を紹介され、オマケで付いてきた三阪さんと、再会した平安と共に心霊スポットに行こうとしている。
一通り自己紹介を終えたあと、俺たち五人は高校からほど近い、心霊スポットと一応言われているボロボロになった古い神社へとやってきた。
時刻は昼間ということで、寂しい感じはあっても別段怖くはない。
しかし…………
「ヤダっ……ここ、すっごい気配する! シロくん、離れたら危険だからね!」
「…………………………」
神社の参道を歩いているのに、どの辺が危険なのだろう?
高宮が先頭になって神社の敷地を奥へ進む。
そして何故か、俺の腕に絡み付いて歩いている。
その様子を、他の三人は数歩離れた後ろで見守るような形なのだ。
えー……もしかして、会って数十分でこいつの彼氏扱いにされてるの?
俺は遊びでここに来たんじゃない。もちろん彼女を探しに来た訳でもない。
自作の機械の性能を確認するために来たのだ。
本殿に参拝し、さらにその奥にあるという旧本殿を目指して歩いていた時、高宮がぎゅうぎゅうと腕にしがみついてくる。
「あ〜、ここには女の霊の気配がするわ〜」
「……じゃ、ここでスピリットボックス試してみるか………………」
「え?」
シャー……ザザザ…………
俺は特に何の感情もなしに、荷物からスピリットボックスを取り出して電源を入れた。
シャー……ザザザ…………
『はい、いいえ』で返せる質問をしたり、『誰かいませんか』と呼び掛けたり、しばらく待ってみたりしたが、スピリットボックスには反応はなかった。
たまに『はい……』とか返事みたいのが聴こえた気もするが、ここはまだ町の中にあるのでラジオの声が入ったのかもしれない。
「霊の声を聞くなら、も……もっと奥に行かないと!」
「……………………」
何となく急かす高宮についていき、敷地の行き止まりと思われる旧本殿跡地の場所まで調べたが、この神社では特に心霊スポットっぽいことは起こらなかった。
「まだ明るいし、幽霊って無口なのよ!」
「ふぅん……?」
人間は死後、多くを語らないのだろうか。
死んでも出てくるのなら、それなりに言いたいことがあるのではないだろうか。
そう思ったが、あまり高宮と話したくないので黙っている。
ここではほとんど収穫はなし。
まだ夕方にもなっていないので、近くのコンビニで軽く昼飯を済ませてから、もう一つの場所へ向かうことにした。
高宮たち女子が買い物をしている時に、俺は田村を駐車場で捕まえて問い詰める。
「おい! あの女、本当に霊感あるのか!? あと、どういう感じで俺のことを言ったんだよ!?」
「わ、悪い! 霊感あるって言っているのは本当なんだけど…………」
腕で田村を捕獲してグイグイと締めると、奴は「ギブギブ!」と叫びながら白状した。
「ゴホッ……はぁ……まず、霊感があるというのは高宮自身が言ってることだ…………」
念を押すように、高宮の霊感についてはあいつが常に主張していることだと訴える。
簡単に言うと、高宮はクラスでも浮いた存在らしい。
ギャルっぽい口調や格好はしているが、他のギャルから言わせると『鬼ダセェ』となるらしく、そこを気にもせずにグイグイと相手に突進していくためにウザがられているそうだ。
実は田村はそんな高宮に何故か気に入られ、入学してからずっと付きまとわれていた。
田村は身長も高く、ハンドボール部でそれなりに鍛えているし、隣りに連れて歩くのに見栄えもするからけっこうモテる方だ。
「イケメンは辛いよなぁ」
「いや、オレから見ればお前も女子ウケするぞ。背はオレと同じくらいだし、物理部なのに筋肉もあるから高宮が絶対に食いつくと思って…………」
いや別に、好きでもねぇ女にモテたくねぇし。
機械の次に筋トレが趣味なだけだし。
「なるほど……ウザイ奴に軽くストーキングされてたから、俺を人身御供にして自分だけは助かろうとした訳だ」
「いやいやいや! 生贄にしようとしたんじゃなく、お前なら言葉で追い返せると思ったんだ! あいつを調伏して、封印できるのはお前だけだ!」
「俺をどこかの陰陽師みたいに言うな。はぁ……ったく……」
田村を助けてやるのは仕方ない。それに、高宮も霊感ありと吹聴するくらいだから、心霊スポットってやつを色々知っているだろう。それを教えてもらうだけなら問題は無い。
問題があるとすれば…………
「ぴより、スイーツ半分こしよ〜! アタシそっちも食べてみた〜い!」
「え? う、うん…………」
「高宮さん、自分で買えば?」
買い物を終えた三人が店を出てきた。
さっきの田村の話から、この三人の関係も何となく解ってくる。
クラスは違えど、高宮は同じ中学の出身で大人しい三阪さんを連れ回してマウントをとっている。
そして、高宮と平安は今日が初対面で、さらにお互い気が合わないようだ。
きっと三阪さんは内心、高宮の行動に困っていたのだろう。
たぶん、同じクラスで仲の良い平安に相談して付いてきてもらった。その証拠に、神社を巡っている時に平安はずっと、三阪さんの手を繋いで彼女を気遣っていたのだ。
嫌っていても表面では何もない。
女子特有の関係だ。
…………そういえば、平安は昔から大人しい奴とか、話に入ってこない奴に声を掛けて仲間にしてたっけ。
それで俺も声掛けられて、変なアダ名を付けられてしまったんだけど。
「よし! 休憩もしたし、次に行ってみっかー!」
「シロく〜ん、次もがんばろーね♡」
「………………」
歩くだけだろ。何を頑張るの?
「「………………」」
俺の視界の隅で、平安と三阪さんが困ったように顔を見合わせて笑っていた。
ま、お互い距離は取れているし、掴み合いの喧嘩にならなきゃいいだろ。
俺は特に深く考えることもなく、高宮の案内で次の心霊スポットへと足を運んだ。
「………………ここ?」
「うん! この廃工場はマジヤバいから!!」
少しバスに乗って歩いた先にあったのは、郊外にある植物に覆い尽くされた廃工場だった。
さすがに冬で午後もだいぶ過ぎたせいか、辺りは少しずつ夕方の明るさに近付いていっている。
蔦で覆われた建物は余計に暗く、なんとも言えない不気味さが増しているようだった。
「ここはね〜、工場がやってる時に、機械の事故で何人か死んでるんだよね〜! 今でもその霊が仕事してるって話〜!」
「………………………………」
ヤベェ…………ここ、俺知ってるわ。
中学ん時に、休みの度に自転車とばして通ってたもん。ネジとか部品とか、こっそり拾いに来てたもん。勝手知ったる他人の家の感覚だわ。
「小春ちゃん…………ここ、勝手に入ってもいいの……?」
「何言ってんのよ、ぴより! いいから入るよー!」
三阪さんがオロオロとしているのを無視して、意気揚々と植物をかき分けて進む高宮。仕方ないのでそれに続く俺たち。
ここが心霊スポット? 今まで何もなかったけど?
興が冷めると思い、俺はここを知ってることを言わない。ここなら何事もなく、安心だろうとタカをくくって。
そう……心霊スポットだとしても、何も知らなかったから怖くもなかったのだ。
俺は軽い足取りで敷地に入った。その時、
シャー………………ザー………………
「あれ?」
俺はポケットの中のスピリットボックスの電源を切る。
前の所で消し忘れ?
特に気にも止めないまま、俺は建物の中へと進んでいった。




