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 次のデートの遠乗りでは、北の森を抜けた先の平原でユリウス様と2人で馬を走らせた。

 ユリウス様は私の乗馬服姿を見て、やはり褒めた。


「令嬢らしい姿も良いですが、うん、やはりレティシアは男装が様になっていますね。普段から騎士服で慣れているからでしょうか。違和感が全然ありません」


 褒めているんだよ…ね? それ、褒めてるんだよね?

 私は一瞬半目になりかけたが、ユリウス様が嫌味のない笑顔でニコニコしていたので、何も言わなかった。


 久しぶりの遠乗りは、とても気持ちが良かった。楽しすぎてユリウス様の存在を忘れかけていたのは内緒だ。

 自然と笑みがこぼれ、小川の近くで休憩がてら昼食を食べる際も笑顔のままだったらしい。


「今日のレティシアの笑顔は特別可愛いですね。楽しんでもらえて何よりです」

「あ…ありがとうございます…」


 私と同じく笑顔のユリウス様を見て、お母様に言われたことを思い出す。どうやらこれは嫌味の延長ではなく、本心で言っているらしい。そう思うと、なぜだか急に恥ずかしくなってきた。

 そして同時にユリウス様が非常に整った容姿をしていることに思い至った。


 ハッ…私今、ご令嬢方が憧れるイケメンに可愛いと言われている…!?


 一度そう思ってしまうと、意識するなという方が無理だった。むしろ今まで何故このイケメンに好きだの可愛いだのと言われて平気だったのだろうか。


「ユ、ユリウス様は私なんかのどこが良いんですか? 自分で言うのもあれですけど、私、鉄の女とか言われてて愛想もないし、可愛くないと思うんですけど」


 私は若干早口でまくし立てるように言った。

 

「全部です、と言いたいところですが、仕事を頑張っているところなんかは特に好ましく思っています。きっかけは…一目惚れと言っても良いかもしれません」


 少し恥ずかしそうに頬をかく姿まで様になっていて、そんなユリウス様に一目惚れと言われれば、私だって悪い気はしない。

 …っていや待って、一目惚れ?


「レティシアが初めて私のところに申請書を持ってきた時のことを覚えていますか? 私に色目を使うどころか、不備を指摘されてムッとした顔までして…それまでそんな態度を取る女性はいませんでしたから、すごく新鮮だったんです」


 暗に自分がモテる男だと言っているのだろうか。まぁこの容姿にこの家柄ならさぞかしおモテになるんでしょうね。しかもそれが自意識過剰でもなく、正しく自分のモテ具合を把握していそうだ。

 それにしても、全くなびかない私が好ましく見えてしまったのなら、モテすぎるのも大変なんだな…ただ単に仕事で上手くいかなくてムカついてる女に一目惚れしてしまうとは、ちょっとかわいそうな気さえしてきた。


「嫌そうな顔をするレティシアが可愛くて、いつもつい意地悪してしまいました。小さな子供みたいですよね、恥ずかしい」


 …え、ちょっと待って、じゃあ今までの嫌味は全部好意の裏返しだったわけ!?

 まさか、そんなわけ…でも確かに嫌味ばっかりで苦手な人だったけど、悪意を感じたことは一度もなかった…ような気もしないでもない。

 そつなく何でもこなし、デートもスマートにエスコートできるイケメンが、好きな女の子に意地悪するって…どんな絵面? 子供か! いや本人も認めてるけど!


 私は急に今までユリウス様が何を企んでいるのだろうかと考えていたことがばかばかしくなって、脱力して大きなため息をついた。

 その様子にユリウス様は何を思ったのか、焦った様子で話し出した。


「す、すみません、レティシアが嫌がっているのは分かっていたのにどうしてもやめられなくて。でも嫌そうな顔をしているレティシアが可愛くて、それに」

「ユリウス様、もういいです。私は怒ってません。ただちょっと…いやものすごく呆れているだけです」

「あ、呆れ…」


 ユリウス様は私の言葉にあからさまにしょんぼりしている。その様子がおかしくて、思わず笑いがこぼれた。


「レティシア?」

「はーおかしい…だって私、ずっと警戒してたんですよ。何を企んでるんだろう、これも嫌味の延長なのかって。それが嫌味を言われてムカついている姿に惚れただの、好きな子をいじめちゃってただけとか、警戒してたのがバカみたい」

「私のこと、嫌いになりましたか…?」

「いえ、そもそもそんなに好きじゃなかったですし」


 ユリウス様は落ち込んだ様子でそうですよね、と俯いた。私に嫌われている自覚はあったらしい。だったら早く嫌味を言うのを止めれば良かったのに。


「でもあなたの言葉を信じても良いかな、とは思っています」

「え…?」

「さあ、お昼を食べてもう少し走りましょう! 私、まだまだ走り足りないです」


 ユリウス様の表情が徐々に明るくなっていく。

 私の言葉で一喜一憂するのがなんだかおかしくて、私はちょっと良い気分でランチを広げた。

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