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07

 初デート(…)の翌日、出勤するなり私は同僚達に囲まれた。


「昨日どうだった!?」

「いじめられなかったか?」

「まさか男みたいな格好で行かなかったよな?」

「ユリウス殿はレティシアのどこが良かったんだろうな? もしかして変な趣味でもあるん…ゲハッ」


 約一名に制裁を加え、あとはノーコメントで席に座る。上着を脱いでから今日の予定を確認する。

 今日の予定は東の森でのモンスター討伐任務だ。

 私達がいる王都は、豊かな森に四方を囲まれている。森の恵みのおかげで豊かな生活ができる反面、城壁から一歩外に出ればモンスターに襲われる確率も高い。森には数多くのモンスターが住み着き、森に立ち入る人間を襲うのだ。

 だから私達第3騎士団は定期的に森を巡回し、モンスターを間引いている。完全に駆逐してしまうと生態系のバランスが崩れるので、森からあふれて王都に来ない程度に間引くのだ。


 私は装備などの準備をしながら昨日のことを考えていた。

 ユリウス様は最初から最後まで、紳士的で模範的な(ちょっと恥ずかしいセリフもあったが)婚約者だった。服装を褒め、コンサートにエスコートし、昼食の時には豊富な話題で飽きさせず、髪留めまでプレゼントしてくれた。その髪留めは散々迷った末、日常使いにすることにした。ユリウス様がそれを望んだからであって、決して他意はない。


 それにしても、ユリウス様は一体どういうつもりなのだろうか。

 だって1年間嫌味ばかり言ってきたユリウス様が、よりにもよってあのユリウス様が一度も嫌味を言わなかったのだ。嫌味を言うのは仕事中だけで、昨日のユリウス様が素なのだろうか? それに何度も私のことを可愛いと言っていた。自慢じゃないが、今まで私のことを可愛いと言うのは家族だけだった。


 女性で騎士を目指す者は少ない。当然養成学校でも女性は少なく、普通に考えれば女性が男性を選び放題の環境だと言えるのだが、私は一度も告白されたことも、デートに誘われたこともなかった。だから私は自分が可愛いとは露ほども思っていない。

 ユリウス様が私のことを可愛いと言うのは、まぁ100パーセントお世辞だと思うのだが、あれだけ何回も言われると、一週回ってある種の嫌味なのでは? とすら思える。

 私のことが好きだと言うのも嫌味の延長なのだろうか? もし私の反応を見て面白がっているだけなのなら、相当趣味が悪い。そう考えるのだが、それにしてもそれだけのために婚約までするだろうか? とも思う。ならば本当に私のことが好き? だったらどうして今まで嫌味ばっかり言ってきたのだろう?

 私の思考は同じところをグルグル回って着地点を見つけられなかった。


「レティシア、準備できたか?」

「はい。今行きます」


 一緒に討伐に行くメンバーに声をかけられ、事務所を出る。ユリウス様のことは今考えても仕方ない。どういうつもりなのかは、おいおい分かるだろう。そう考えて仕事に集中することにした。


 数日後、私は消耗品購入の申請書を手に、経理課の前に来ていた。わずかに緊張してドアをノックし、入室する。ユリウス様が私を見るなり席を立ち、入り口まで迎えに来た。

 いや来なくていい、来なくていいから! というかなんで満面の笑み!?

 私は一歩後ろに下がった。


「レティシア! 今日は申請書の提出ですか? それとも私に会いに?」

「し、申請書の提出です」


 書類を渡すとユリウス様は自席に戻ったので、私も後に付いていく。席に座るとすぐに書類を確認し始めた。

 視線を感じて周りを見回すと、経理課内で注目を浴びていた。私が婚約者になったことが周知されているのだろうか? それともいつになく上機嫌のユリウス様が珍しいとか?

 私がいつも以上に居心地の悪さを感じていると、確認を終えたユリウス様が書類を何枚か私に戻してきた。


「この4枚は不備がありますね。こちらは使用用途が記入されてなくて、こちらは団長の印がありません。こちらは購入先がいつもと違いますが、間違いないですか? あとこちらは書類作成者の名前がありません」


 私はびっくりして思わずユリウス様を見つめてしまった。

 嫌味が、一言も、ない!

 ぽかんとしていると、ユリウス様が、ん? と首を傾げた。


「何かご不明な点がありましたか?」

「い、いえ…ご指摘ありがとうございます。すぐに直して再提出します」

「はい、それではお待ちしておりますね」


 笑顔のユリウス様に見送られ、経理課を後にする。

 一体どういうつもりなのだろう? 嫌味を1つも言わないなんて。なんだか逆に気味が悪い…。

 やっぱり何か企んでいるのだろうかと思いつつ、私は第3騎士団の事務所に戻った。

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