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 父に手を引かれ、バージンロードをゆっくりと歩く。ドレスを踏まないように気を付けながら、顔を上げてユリウス様を見つめる。新郎の真っ白なタキシード姿が思っていたよりもまばゆくて、私はヴェールの下で目を細めた。

 格好良い。ユリウス様は普段から見目麗しいが、今日は5割増しで格好良いような気がする。

 多少性格に難ありだが、こんな格好良い人が私の夫になるだなんて。


 ユリウス様の元に辿り着くと、すっと手を差し出される。父親から手を離し、彼の手を取って横に並ぶ。

 神父を目の前にして、私は急に緊張が高まるのを感じた。失敗してはいけないと、頭の中で式の手順をもう一度おさらいする。


「はい、誓います」


 はっと気付けばユリウス様が誓いの言葉を言っていた。

 次は私の番だ。神父が話し始めるが、緊張で喉がカラカラだった。


「…誓いますか?」

「は、はい。誓います」


 声が震えた。

 次は、次は何だっけ?


「では、指輪の交換を」


 ユリウス様が指輪を手に取り、私の左手薬指に嵌めてくれる。私の手が震えているのを見て、ユリウス様がそっと両手で左手を包み込み、握ってくれた。

 緊張で冷えていた手に血が通うような気がする。まるで大丈夫、と言われているようで、私は少し落ち着くことが出来た。

 私も指輪を手に取り、ユリウス様の左手薬指に嵌める。

 前を向くと、署名用紙が用意されていた。ユリウス様が先に名前を書き、私も続けて名前を書く。

 レティシア・トーンバル。この名前を書くのは今日で最後だ。この瞬間から、私はレティシア・サルティアになる。


「誓いのキスを」


 ユリウス様と向かい合うと、そっとヴェールを上げられる。視界を遮るものがなくなり、ユリウス様の顔がはっきり見えた。

 うん、今日もイケメンだ。


「レティシア、愛しています」


 囁くように言われ、私が返事をする前に顔が近づいてくる。慌てて目を瞑ると同時に唇が触れ合った。

 拍手の音が鳴り響く。後は退場するだけとなり、私はようやく周りの様子に気を配る余裕が出てきた。

 ちらりと新婦側の席を見ると、お母様がハンカチで目元を拭いていた。お父様とイアンお兄様は泣いてはいないが、目が赤い気がする。アディお兄様は…号泣していた。いや、泣きすぎでしょ。私は心の中で苦笑した。


 ユリウス様に促され、腕を組む。拍手の中、ゆっくりと退場していく。

 教会の扉から出ると、中に入れなかった人たちが集まっていた。おめでとう、という言葉と共に大きな拍手で迎えられる。

 レティシア、と呼ばれて見上げると、ユリウス様の手が頬に添えられた。そのままキスをすると、拍手がより大きくなる。

 ああ、好きだなぁと唐突にそう思った。

 ユリウス様の顔が離れていく。私は少し背伸びをしてユリウス様の耳元に口を寄せ、そっと囁いた。


「私も好きですよ、ユリウス様のこと」


 私がはっきりと気持ちを伝えるのは初めてのことだ。ユリウス様は大きく目を見開いたあと、頬を染め、蕩けるような笑顔になった。


「ありがとうございます」


 私が微笑むと、もう一度キスが降ってくる。少し長いそれを、私は目を瞑って受け入れた。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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