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01

 私は憤慨していた。

 人気の少ない廊下をイライラしながら歩き、所属する第3騎士団の事務所へと戻る。

 何が「この書類では申請を通せません、何度同じミスをするんですか?」だ! あの男!

 私はたった今、第3騎士団で使う消耗品などの購入申請書を騎士団の経理課に提出してきたところだった。


 この国の騎士団は大きく3つに分かれている。王族や王宮の警護を担う第1騎士団、王都や主要な町の警備を担う第2騎士団、そしてモンスター退治を担う第3騎士団だ。あとは総務課や経理課などの表に出ない部署がいくつかある。

 私は第3騎士団の団長補佐官という役職についており、簡単に言うと団長の身の回りのことや細々した書類の作成などを行う雑用係のようなものだ。

 

 そりゃあ確かに毎回不備があるこっちにも非があるけど! だからって何もあんな嫌味ったらしい言い方しなくても良いじゃない!

 私はプリプリ怒りながら廊下をずんずん進んでいく。


 団員が書く書類をまとめ、各部署に提出に行くのも私の役割だ。その書類のうち、消耗品や備品などの購入を申請する書類は経理課に提出し、許可が下りてから購入するのだが、何故か毎回経理課主任のサルティア様がわざわざ申請書を確認し、不備があるといちいちご丁寧にミスを指摘して、差し戻してくるのだ。

 「ここ、間違ってますよ。書き直して再提出してください」くらいで済むところを、あの男は毎回「前回も同じ書き間違いがありましたが、もしかしてわざとでしょうか? え? 違う? でしたらもう少し丁寧に書くとか、書いた後にちゃんと見直しをした方が良いですよ」くらい言ってくるのだ。

 そもそも書類を書いたのは私以外の団員で、私はそれをまとめて提出しているだけなのだ。なのに何故私がそこまで言われなければならないのか。彼だってそれは分かっているはずなのに、毎回毎回上から目線でいつか爆発してしまいそうだった。


 ユリウス・サルティア様。サルティア侯爵家の次男にして騎士団経理課の主任。29歳。

 対して私はトーンバル伯爵家の第3子で第3騎士団の団長補佐官。20歳。

 家柄も、役職も(補佐官は雑用係で全く偉くない)、年齢も、キャリアも、全てが私の方が下のため、口答えすることもできない。できることと言ったらせいぜい嫌味を言われている時に睨みつけるくらいだ。

 私だって一応書類は提出する前に確認しているのだ。だが脳筋の多い第3騎士団の連中は書類作成が苦手で、いつも提出期限ぎりぎりに出してくるため、隅々までチェックすることができない。かくいう私自身も書類作成はあまり得意ではなかった。補佐官に任命されて、必要に迫られてなんとかできるようにはなったけれども。


 でも、と私は第3騎士団の事務所の扉の前で立ち止まる。今回のは確かに酷い不備だった。なんと金額の桁が1つ多かったのだ。おかげで「第3には短剣を投げて回収しないしきたりでも出来たんですか?」と言われてしまった。ちなみにその申請書は団長が書いたものである。私が事務所を出る寸前に渡してきたので、よく確認しなかったのだ。


 よし、絶対に団長に文句を言う。

 そう決意して事務所の扉を開く。中に入って団長の席を見るが、そこには誰もいなかった。というか事務所内には副団長しかいなかった。


「副団長、皆は?」

「訓練に行ったよ」


 私は行き場のない怒りをどうするべきかとしばらく唸り、やがて大きなため息をついて自席に座った。訓練に混ざって怒りをぶつけたいところだが、差し戻された書類を修正し、今日中に提出し直さなければならない。

 仕方なくペンを取り出して、手元の書類と戦うことにした。


「また再提出?」

「はい。特に団長の申請書が…金額の桁が間違ってて。経理課の主任にまた嫌味を言われました」

「ああ…」


 副団長は一瞬遠い目をしてから、憐みの目を私に向けた。

 私が補佐官になって1年。それからずっとサルティア様(様付けするのも忌々しい)に嫌味を言われ続けている。前の補佐官はもしかしてこれに耐えられなくて私と交代したのだろうかと思って聞いてみたことがあるのだが、私が補佐官になる前の経理書類は主任のサルティア様ではなく、手の空いている経理課員が確認していたという。ではなぜわざわざ主任が確認するようになったのかと問えば、「ウチの書類に不備が多すぎるからじゃね? ハハハ」などとのたまったので、思わず殴り掛かりそうになった。先輩なのでなんとか耐えたが。


 私はもう一度ため息をつくと、書類を修正し始めた。修正しなければならない書類は購入申請書だけではない。設備の使用申請書やモンスター討伐の報告書など、他の書類にもたくさん不備があったのだ。急いでやらなければ残業待ったなしだ。

 明日は休みで実家の父から呼び出されている。私は騎士団の寮で暮らしているが、今日は実家で夕食を共にしようと言われていた。残業なんてしようものなら母から「だから騎士になんてならずに令嬢としてウチにいれば良かったのよ」などと言われるのが目に見えている。

 私は一心不乱に書類の修正を続けた。

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