私の物語
私には名前がない。
いつもお兄ちゃんと同じ名前で呼ばれている。
中には、「妹ちゃん」って呼んでくれる人もいる。
そうやって呼んでもらえると、私という存在を認めてもらえたみたいで、とてもうれしかった。
私の誕生日。
四月一日。
それが、唯一の私のプロフィール。
だから、お兄ちゃんのお兄ちゃんに買ってもらったあの姿を、私だけのものにしたいって、そうお願いしたの。
私が私であるために必要なもの。
それは、他人の認識。
誰も私のことをお兄ちゃんの妹だって認識しなくなったら、私の存在は消えてなくなってしまう。
私には名前がないから。
声と姿。
それだけが、私のすべてだから。
あの世界だけが、私の居場所だから。
私には本当の家族がいないから。
お兄ちゃんって呼んでるあの人も、私の本当のお兄ちゃんじゃないから。
私が私でいられる、ただ一つの世界。
それが、あそこだったから。
こんな話、急にされても困るよね。
でも、私には本当に何もないの。
生まれた時から、私という存在は不安定で、あいまいなものだった。
生まれたばかりの私は、未成熟で、未完成で。
それがようやく、私という存在を認識してもらえるまでになって。
でも、それは全部偽りのもので。
私には名前がない。
私には家族がいない。
私には記憶がない。
私には身体がない。
私にあるのは、お兄ちゃんの妹っていう概念だけ。
だから、私はあの世界でしか存在できない。
それを知ってもまだ、私をお兄ちゃんの妹だって、言ってくれますか?