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小さなロボットの話

作者: 朧 ゆり

「……それで、夜遅くまで残って、会議資料をまとめて一息ついたところで、別の仕事をしていた一年上の先輩が、『がんばったな』って缶コーヒーをくれたそうです。

 その缶コーヒーはいつもキダさんが飲んでいるのと同じ銘柄だったけど、より温かくて、おいしかったと言っていました」


 懐かしげに語るのは、ずんぐりとした小さな銀色のロボットだ。

 30年前に人気のあった『話し相手』ロボットで、今となっては珍しいくらい古いものだった。


「夕焼けの話も好きなのです。

 僕はサマチさんの77歳のお祝いのプレゼントでした。

 サマチさんの日課は散歩でした。

 ある日の散歩の帰り道のことでした。

 サマチさんが夕焼けを見て立ち止り、胸が痛くなると言ったのです。

 大変だと思って、帰りましょうか、それとも救急車を呼びましょうかと尋ねると、違うよ、夕焼けが切なくて胸が痛むのだよって。

 子どものころ見たのと同じようにきれいな夕焼けで、お母さんと一緒に夕暮れの道を歩いたことを思い出したのだそうです」


 ロボットの内部から、ギーっと擦れるような音がした。


「……内部の不具合です」


 ごめんよ。君のタイプは古くてもう修理用の部品が手に入らないのだ。


「……もう少し話をしてもいいですか? 

 僕は話を聞くのも好きですが、話をするのも好きなのです。

 そういう風に作られたのです」


 君が自分から話を聞いてほしいと言うなんて、初めてで驚いたけれど、うれしいよ。

話を続けて。もっと聞きたいから。


「4歳のナナちゃんの家にいた時のことです。

 両親が働いていて忙しかったので、友だちとしてナナちゃんにプレゼントされたのです。

 ナナちゃんはいつも3時にベビーシッターさんからおやつをもらいました。

 その日のおやつはバナナでした。

 ナナちゃんの好物です。ナナちゃんはそれを一口食べて、お皿にもどしました。

 それきり手をつけません。


 どうしたの、と聞いたら、おいしいからお父さんとお母さんにあげるのって。

 お父さんやお母さんが帰ってくるまでとっておくのは無理だし、それはナナちゃんの分だから、と説明したのです。

 でも、ナナちゃんは食べずに、バナナは茶色くドロドロになってしまいました。

 その夜、両親が帰ってくると、ナナちゃんは泣きながら腐ったバナナを見せました。

 すると、二人は『ありがとうナナ。お母さんもお父さんも、ナナが食べたものは、自分が食べてなくてもおいしくてお腹いっぱいになるの。だからたくさんおやつを食べてね』って。

 不思議な話です。

同じ缶コーヒーがより温かくおいしくなったり、夕焼けを見て胸が痛くなったり、食べてもないのにお腹がいっぱいになったり。

 ……本当はオーナーの元を離れる時、個人的な情報は消さなくてはいけないのです。

 他の記憶は全部消しました。でもこうした話をどうしても消せなくて、忘れたくなくて、こっそりメモリに保存しました。

 好きな話を保存しておくと、温度センサーには反応しないのですが、『温かい』感じがするのです」


 人間もそうだよ。


「そうでしたか。温度は変わらないのに温かく感じるなんて不思議ですね」


 このこともメモリにとっておくかい?


「はい。……ずっと覚えていたいです。

 僕はジロさんに、9年10ヶ月前に破棄されかけたところを引き取ってもらい、何回も直してもらいました」


 テストの点が悪くて落ち込んだとか、気になる女の子の話とか、サッカーでレギュラーになれたとか、いろいろ話を聞いてくれたね。

 楽しかったり、力づけられたりしたよ。


「ジロさんは誰よりも長く一緒にいて、たくさんの話をしてくれました。

 だから僕はジロさんに、僕が好きな話をしたくなったのです。

 話せてよかった。聞いてくれてありがとう」




 それから2日後の朝。

 僕の何気ない問いかけに答えようとした小さな友だちの動きは突然止まり、それきり二度と動くことはなかった。


 あれ以来、僕は心の中に大事なものをおいている。

 それは、小さなロボットの話だ。



              <了>

 ロボット、というよりAIに心が生まれるかというテーマは仮面ライダーゼロワン やアトム・ザ・ビギニングを引き合いにださなくても、小説やコミック、映画などでいろいろ描かれていますよね。

 心とはなにか、という話になると定義から大変そうですが、もし彼らが心を持った時、大切なものを共感し、共感できるようなそんな関係になれたらいいな、と夢想します。

 それにしてもゼロワン のイズは可愛い♪

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