家族
あれから魔法の勉強だけではなく、剣も練習するようになった。
自分自身そこまで剣に思い入れがあったわけではないが、負けて悔しかったのかも知れない。
どうすればアレックスに一太刀浴びせれるか考えてしまい、剣を振りたくなってしまう。
そしてアレックスの休日には剣を見てもらう。
「剣の振りが見違えたね」
今日もコテンパンにやられた。
「大人になったら怖いな、今は体格差があるからズルをしている気分になってしまうよ」
「いや体格差が無くても、勝てる気がしないな...」
確かに筋力の差が大きく、剣を剣で迂闊に受けれないのはある。
しかし達人の域にいるアレックス相手には、例え前世の体格であったとしても間合いの先へ行ける気がしない。
それよりも問題なのが、アレックスは確かに剣は一級品だが教えるのが下手すぎる...。
セレナを見習って欲しい。
「父さんはどうやって剣を鍛えたの?」
「うん?父さんの父さんも騎士でね。父さんが振ってる剣をよく見てたんだ。それを見よう見真似ではじめたら父さん以外には剣では負けた事ないよ」
これだもんなあ...。
「ずっと負けたことが無かったんだけど、あの時セレナにコテンパンにされてね。セレナはほんとにすごいんだ」
これだもんなあ...。
「そ、そうなんだ。すごいね」
アレックスが、セレナはどんなに素晴らしいか熱弁していると遠くからセレナが帰ってきた。
今日はアレックスの休日なので、ご飯を奮発すると言って出かけたのだが、何故かアレックスの同行を断って一人で出かけていたのだ。
セレナはこちらに気づき手を振りながら近づいてくる。
そこでアレックスの話している内容が聞こえたのか、顔を赤くして立ち止まる。
アレックスの熱い告白を聞いて固まるセレナを、何故か気まずい気持ちになりながらも、普段見れない姿が面白いと思ってしまった。
「アーサーどうしたんだい?後ろばかり見...」
アレックスが振り返りながら聞いて来たが、質問の答えは自分で見つけたみたいだ。
「お、おかえり...」
珍しくアレックスも赤面している。
流石に本人を前にして、褒めちぎるのはアレックスも恥ずかしかったらしい。
「ただいま...」
二人が見つめあって動かない。
「母さんそろそろお腹空いたな」
この空気がたまらなく感じたので、母さんに家に入るように促した。
「うん、すぐ作るわね。ちょっと待ってて」
セレナはそそくさと家に入り、アレックスは熱くなり過ぎたなと反省していた。
セレナだけに、ご馳走を作らすのは申し訳ないと3人で作ることをアレックスと提案するが、せっかくの休日だからと拒否されてしまった。
「いつも頑張ってる父さんに、少しでも感謝の気持ちを伝えたいんだ。それに母さんだって毎日頑張ってるでしょ」
セレナは居心地悪そうな顔をして頰を染める。
「わかったわよ、アーサーは野菜の皮むきをお願いするわ」
セレナは魔法の知識が凄く、学校でも優秀だったと聞いた。
でも何故か褒められるのに弱すぎる気がする。
学生時代に性格が問題で孤立してたってアレックスが言ってたから、褒められる機会が少なかったのかもしれない。
アレックスがセレナを好きになった理由は聞いたが、セレナがどのようにしてアレックスの事を好きになったのか少し気になっていた。
(案外チョロかったのかもしれないな...)
まだ頬の赤い彼女の横顔を見ながら、そんな事を思ってしまった。
「できたわ!」
「うわあ、すごいご馳走だ」
ドヤ顔のセレナと、はしゃぐアレックス。
確かに今日のはすごいご馳走だ。
いつも美味しい料理だが、今日のは素材も量も凄かった。
「あーほんと幸せだなぁ僕は」
アレックスが少し涙目になっていた。
「おおげさねぇ」
騎士として仕事する彼に会える機会は、それほど多くない。
やはり彼にとってこの時間は、かけがえの無いものなのだろう。
「そこで急な話なんだけど」
「どうしたんだい?」
アレックスは涙を拭きながら聞き返す。
「出来ちゃったみたい...」
ご飯を食べてる最中だったので少しむせた。
アレックスの方を見ると、固まった後に更に涙を流し出した。
「二人目かい?」
「うん、私の魔法でも反応があったんだけど、専門家にも診てもらおうと思って、今日病院に行って来たの」
アレックスはセレナじゃなく俺に抱きついて来た。
「アーサー!兄弟が出来るぞ!女の子かな、男の子かな」
「う、うれしいなぁ」
アレックスが全然手加減してない潰れそうだ。
前世では兄弟はいなかった。
どんな子が産まれてくるんだろう。
そんな期待で胸が膨らんだ。