『再会、対面』
トンネル前の襲撃から二時間。
「(……あれが超越者の能力ーーあれほどとは行かなくも、俺と同じ能力持ちがウジャウジャ居るわけか。)」
トンネルを一時間半程移動した今はヘリで移動している。
「どうした少年?不安か?」
今話しかけてきたのは、俺と七瀬さんを回収しに来た日園 椿さんだ。
「いえ、少し考え事をしていただけです。」
「ふん……これから会うのは、国の役人だ。お前とは縁の深い人物だが。」
俺と縁の深い国の役人。心当たりは全くないがーー。
「あんまり緊張することはないですよ卑代さん。日園先輩はちょっと厳しくて怖い人ですけど、いい人ですから。」
「うるさい。お前は操縦に集中しろ。」
「は、はひっ!すみません……。」
コックピットから話しかけてきた七瀬を、日園がキツイ一言で正す。
そう言えば先の戦闘のことで、この女性に「余計な戦闘は避けろと言ったはずだが……?」とガンを飛ばされていた。
「(……まぁ……口は悪いが確かに悪い人ではないのだろう。)」
「あ!見えてきましたよ!」
七瀬が元気に声を上げる。窓から地上を見下ろすと、巨大な建造物が目に映る。
「あれが超越者育成期間。通称CAアカデミーです!」
ーー
応接室に通され、しばらく待たされる。
その間、俺はこれからのことについて考えていた。
「(ここに来て……俺の人生が変わればいいが……。)」
コンコン。
「来たか……。」
ドアがノックされ、七瀬と日園が入ってくる。そしてーー。
「っ……。」
何人かのボディーガードらしき黒服を連れた男も部屋に入る。
なんだこの男ーー。
その男は、ただ俺だけを見ていた。七瀬や日園には目もくれず、変わらず側を行く黒服も眼中に無く。俺の座っていたソファやテーブルさえも、まるで元からそこに何も存在しないかのように、一切意識を逸らさない。
「……。」
その男は俺の前まで来ると、変わらず俺にだけ意識を向けてくる。
こんな人間は初めてだ。普通はあらゆる方向に意識が飛ぶ。だがこの男、まるで視界に俺以外何も無いかのように、微塵も意識を外さず、その目が俺以外を見据えることはない。
「……思ったより私に似ているな。容姿も……内面も。」
沈黙を続けていた男が口を開く。とてもこの状況では第一声として相応しくない言葉だが、不思議とこの男の口から出ると違和感が無い。
ーーいや、その違和感よりも更に明確な違和感が邪魔をしているだけか。
「似ている……とは?」
俺より少し背の高いその男を睨み、言う。
「そのままの意味だ。お前は私によく似ているよ……湊。」
「(……まさか……。)」
その虚ろな目。あらゆるものを見下し、無関心で、感情の欠落した冷たい目。
……とても似ている。俺と。
無表情で心の読めない顔面も、深くも芯をついた言い回しも。
「……あんたが俺の父親か……?」
「流石私の息子だ。自ら気付くとはな。」
……やっぱりか……。
「初めまして。我が息子よ。自己紹介しよう。私は二階堂 宗二。お前の本当の父親だ。」
ーー
「で、俺になんの用だ?」
「そう急かすな。まずはお前にもう一人会ってもらう者がいる。」
応接室を出て、通路を進む。
……この男。本当に俺の父親らしい。
さっきはほとんど直感で感じて口にしたが、こうして言葉を交わすと、いかに俺と多くの接点を持っているか分かる。
無感情無表情無関心だが、考えていることは常に先を行き、相手を自分の思うように誘導しようという野心にも似た感覚を覚える。
「(俺の人格はこの男から譲り受けたものらしい。)」
少し進むと、目の前に扉が現れる。
おそらくさっきの応接室のような部屋があるのだろう。扉の作りが酷似している。
「ここだ。悪いがここはお前だけが通れ、中の者と水入らずで話させたい。」
そう言うと、男……親父は黒服を連れて歩き出す。
「話は後でだ。まずはその扉を開けろ。湊。」
と、それだけ言い残すと、黒服と共に去ってしまった。
「じ、じゃあ私達も少し外します。湊さん。終わったらさっきの応接室に来てください。お待ちしてます。」
七瀬と日園も、その場を後にする。
「(……初めて本当の父親と会ったと思ったら……まだ顔を合わせる相手がいると来たか……。)」
取り残された俺は一人嘆息を漏らす。
が、ここでため息をついていても意味は無い。
とりあえず扉を開く。
「ん……?」
部屋にいたのは、一人の少女だった。
「(こいつが俺に会わせたい者……?)」
俺がその少女を訝しげに眺めていると、こちらに気付いた少女が口を開いた。
「……お兄ちゃん?」